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世界に一つだけの花

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第二章

 その中でもだ、若山は島民達に言っていた。
「大丈夫だ、君達は心配しなくていい」
「亜米利加が来てもですか」
「それでもですか」
「そうだ、我々がいる」
 若山は彼等に強い声で言った。
「だから君達は何の心配もいらない」
「そうですか」
「皇軍がいるからですか」
「だからこそですか」
「何の心配もいらない」
 約束、それが出ている言葉だった。
「まずな、それでだが」
「それで?」
「それでといいますと」
「私から君達に贈りものがある」
 こう言ってだ、彼は。
 島民達にあるものを差し出した、それは一つの赤い花だった。
 その黄色い花、鉢にあるその花を差し出してだ、こう言ったのだった。
「これを受け取ってくれるか」
「花、日本の花ですか」
「確か中尉いえ今は大尉の故郷のお花ですね」
「蒲公英でしたね」
「そうだ、故郷から送ってもらった」
 若山は島民達にその蒲公英を差し出しつつ微笑んで話した。
「愛媛から、これを受け取って欲しいが」
「はい、喜んで」
「大尉にはいつもよくしてもらってますし」
「是非です」
「受け取らせて頂きます」
「この花は種が空を飛んであちこちで咲く様になる」
 蒲公英のことをだ、若山はさらに話した。
「だからやがてこの島でも蒲公英が咲くかも知れない」
「この島のあちこちで、ですね」
「そうなるかも知れないんですね」
「そうだ、ひょっとしたらな」
「あの、大尉」
 島民の中で十五歳程の少年がいた、黒い肌にあどけなさが残る目が印象的だ。名前を成瀬協一という。この島が日本統治になり両親が苗字を変えてもらって息子に日本式の名前を付けさせたのである。
「このお花を育ててですね」
「そうしれくれたら嬉しい」
「そうですか」
「君達がそうしてくれたら」
「わかりました」
 協一は若山に答えた。
「僕そうさせてもらいます」
「頼んだぞ、成瀬君」
 若山は協一にも笑顔で言った。
「この花が広まったら大事にしてくれ」
「そうさせてもらいます」
「今この花は一つだが」
「やがてはですね」
「この島全体に広まるかも知れない」
「大尉が下さったこのお花が」
「その時は皆この花を大事にしてくれ」
 若山はまたこう言った。
「頼んだぞ」
「はい、そうさせてもらいます」
 協一が最初に応えた、そしてだった。
 他の島民達も若山に口々に応えた、そのうえで彼がくれた蒲公英を育て方を聞いてから大事に育てた、だが。
 遂にこの島にもアメリカ軍が迫ってきていた、このことは島民達の耳にも入っていた。それで彼等はまずは彼等の間で言い合った。
「我々も帝国臣民だ」
「そうだ、それならだ」
「日本の為に戦おう」
「帝国臣民として恥じない戦いをしよう」
「玉砕になるのなら一緒だ」
「軍の人達にも言おう」
「武器は何でもいい」 
 家にあるそうなりそうなものなら何でもというのだ。 
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