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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
  なのはStrikerS ~それでも守りたいものがあったんだ~


フェイト・T・ハラオウンは現在の状況をおかしい、と感じていた。

おそらくは隣のヴェロッサ・アコース査察官とシスターシャッハも同じ心境だろう。




と、言うのも、アジトの入口である洞窟に入ってから、一切の攻撃がないのだ。




確かに、入口での戦闘は激しかった。
しかし、この場のAMFはガジェットの発するものだけで、ゆりかごほど強いものではない。
故に、そこでの戦闘はフェイトが到着してから二分とかからず終了した。

そのときは次のガジェットが来る前に内部に侵入することが第一だったため、気にはならなかったが、思えばその時から相手からの攻撃がない。





「どういうことでしょうか・・・」

「順当に考えるなら、誘ってるんだろうね・・・・・・で、その招待客が」


ヴェロッサがそこまで言ってフェイトを見る。


スカリエッティはフェイトを「プロジェクトF.A.T.Eの残滓」だと言っていた。
人格の継承の失敗という不完全な形ながらも、その一応の成功例であるフェイトの身体は、スカリエッティにとって素晴らしい研究材料なのだろうから、招き入れるのはまだわかる。

しかし、捕らえるとなると、こちらの体力を削らなければならない。
まさか自分の目の前に来るまで待ち、そこで戦おうなんてことは言うまい。


「多分・・・・・・なにかあります」

「なにか?」

「わかりませんが・・・・・あの男がこのまま先に進ませることはありえません」





そこまで言ってしばらく進み、三人の足が止まる。







巨大な扉があった。
おそらく、巨体化したフリードも余裕で羽ばたきながら入れるサイズ。

もはや鉄の塊だ。
しかもその扉には古代の闘技場のような紋様があしらわれていて、おおよそスカリエッティの研究所らしくない。


そこで一人の新たな声がした。


「いかんの。この先にかなりまずいものがおる」


人型の玄武が、扉を撫でながら現れた。
突然現れた玄武にヴェロッサとシャッハは驚くが、出元がフェイトの懐で、彼女も真摯に耳を傾けていたため、次第に気にしなくなる。



「玄武、どういうこと?」

「なにがあるかわからぬ・・・・しかしじゃ、この先はやばいぞ。正直回り道をしていきたい気分にさせられる」

冷や汗を流して扉を睨みつける玄武。
しかし、ここまでの道は一本だったし、壁を崩して回り道をいくのは危険だ。
洞窟ごと崩れるかもしれない。


玄武の流す冷や汗に、フェイトが恐る恐る聞いた。

「まさか・・・・・「奴」の?」

「かもしれん。否、そうとしか考えられん。しかもこれは・・・・・貧乏くじを引いたかもしれんな」





ガゴッ!!ギゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・






そこでその扉が重々しい音を上げ、ゆっくりと開かれていった。
その先にあるのは深い闇。

しかし、音の反響から察するに、かなり広い空間になっているようだ。



その空間をしばらく見つめる四人。


しかし、このままここにいても仕方がない。



思い切って玄武が一歩踏み出し、その後に三人も続いて行った。




「暗い・・・・・」

「でも、かなり広い空間のようですね」

「気をつけろ・・・・一体何が出て来るか分かったものじゃないからの」





なにも見えずとも、周囲を見渡しながら歩を進めていく四人。




そうして何歩進んだだろうか。

バタン!!!という音を立て、開いたときの重々しさはどこへ行ったのか、素早い動きで扉が閉められる。
それと同時にこの空間のライトが一斉につき、周囲が明るく照らされた。



「ここは・・・・・なんじゃ?」

「フェイトさん!この地面のプラグは・・・・・」

「まさか、ここにガジェットを?」



その場所は円形のドームだった。
しかし、なんにしろ広い。

今フェイト達がいるのは入り口から十メートルぐらい。
入口から反対側の出口までざっと二百メートルはあろうか、同じ大きさである巨門がそびえ立っている。


得広い円形の地面に、フェイト達が立っている細い一本の通路が一段だけ高く真っ直ぐに伸びている。
そして一段下のその面積の大多数を占める床には、多くのプラグがあった。

おそらくはここにガジェットを保存し、メンテナンスなどをしていたのだろう。
それらは今、すべてゆりかごに詰め込まれ、あの空で使用されている。




そして真ん中には一本の剣がポツンと突き刺さっていた。






『ようこそ諸君!!君たちが来るのを待っていたよ!!!』

「「「!!!」」」」

「スカリエッティ!!!」


と、突如として空中に大きくモニターが現れ、スカリエッティが映し出された。
その顔は、今からサーカスの出し物を見る子供のように楽しそうで、それでいてそれにはない歪みを持ち合わせたモノになっている。



『四人だけとは少し残念だが・・・・・まあ仕方がないね。私も、自分かゆりかごを比べてどっちかと言われれば、あっちの方が魅力的に見えるからね』

「魅力的・・・・?あんな古代の兵器を持ち出し、世界を滅茶苦茶にして、更に何人もの人間を自分の好きなようにしてきたおまえは、まだあんなものが魅力的だと言うのか!!」

『魅力的さ!!!私はもうあのシステムを知っているからいいがね、もし知らなければ喜んでゆりかごに突貫して内部を調べ上げたくなるだろうよ!!ま、あれもまだ、私の目的を達成するための「手段」に過ぎないのだがね』

「これ以上何をするつもりなんだ・・・・・」



『おっと・・・・話がそれそうになったね。それで、どうだい?Fの残滓、否、フェイト・T・ハラオウン』

「・・・・なにがだ」

『私の方へと来てくれないかね?私としてもここで君を失うのは惜しい。こっち側へと「断る!!」・・・だろうね』

「おまえは犯罪者だ。私は執務官だ。私はお前を捕まえるため、ここに来たんだ!!」


『犯罪者だって?はははははは!!!!そんな肩書き、非常に下らん!!!それを言うなら、君の母上だって立派な犯罪者じゃないか!!!』

「ッッ!!!!」




モニターのスカリエッティが嗤う。


君を生み出した親も、ナンバーズを生み出した私も犯罪者。

そこになんの相違がある?
どちらも同じじゃないか。

そんなもの君の勝手なエゴだ。
一個人の感情論で、勝手に人を裁くなよ。と





『それに君たちの所属する時空管理局のトップたちだって、必ずしも「正義」とは言い難いねぇ・・・・・身体を捨てて醜い脳味噌にまでなって生きながらえ、私という犯罪者を生み出し、あまつさえそれの行為を黙認してきたんだよ?地上の英雄、レジアス・ゲイズだってそうさ!!私の一番のスポンサー様でね、多大な協力をしてもらったよ!!』

「やはりか・・・・」

「そんな・・・・」



その事実にヴェロッサが苦い顔をし、シャッハが信じられないという顔をする。
そんな彼らを置いて、スカリエッティが話を進めていった。



『小を切り捨て、大を救う。確かに、合理的だねぇ。だが、それが果たして正義だと言えるのかい?』

「それは・・・・」

『ゆりかごを止めるために、その発動キーである少女を、殺す事が管理局の正義なのかい!?』

「ッ!!!!」




『ばかばかしい!!!そもそも、全部を救うなんてそんなことができるはずもないじゃないか!!!私たちは等しく人間さ!!!救えるモノなんてたかが知れてる。おだからね、思い上がったこの世界に、私が正しい認識を与えてやろうというのだよ!!!』

「そんなことは!!!」

『じゃあ今の世界で君はいいのかい?こんなどうしようもない世界で、君は果たして君の正義を貫けるのかい!?』




スカリエッティが高らかに言う。

世界に正義なんてない。
救えぬ者は救えない。そんなことなどできないと。





フェイトだって子どもじゃない。そんなことわかっている。

今までだって、救えなかった人がいた。
救った人より、嘆いた人の方が多かったことだってある。


それはヴェロッサやシャッハとて同じだ。




世界は、どこまでも残酷である。


全員が救われる世界など、どこにも存在しないのだ。





「黙れよお主」




しかし




その言葉に反論する者が一人いた。



「なにも救えないじゃと?それは力の無い、弱い者だからじゃろうが。そのとき、力が足りないから救えなかった。だったら簡単だの。強くなればいい」



玄武である。


そう


彼の主が、いつも心に決めている事。



「救えるモノは根こそぎ救う」

主はそれを成すために、どこまでも強くなっていき、その信念を砕かれぬために、「世界最強」などと豪語している。




「結局、重要なのは「力」だ。強い者が生き残る。そしてその者は、誰かを守ってやればいい。倒すことより、守ることの方がはるかに力のいる作業じゃからの。だったら、強い道を選ぶ。単純に潰すなど、弱者のやる事。殺しなど、その最たる例じゃ」

静かに言う。
ただただ、湖面のように静かに、玄武がそれだけ言い放った。



しかし、その言葉の奥底には力強さがあった。
この場の皆を、奮い立たせるほどに。



「そうだ・・・・私たちは、弱い。助けられない事もある!!でも・・・・だったら、次は助けられるように、もっともっと強くなるだけだ!!!いつかは世界をすべて救えるほどに・・・・・そうしてきた人を、私は一人知っている!!!!」

『ほう・・・・残念だよ。君があの愚か者たちと同じ側に行ってしまうなんて』

「嗤うな、スカリエッティ」


管理局のトップだった者たち――最高評議会やレジアス達――を、「愚か者」と笑うスカリエッティに、フェイトが鋭い言葉でやめさせる。
その言葉に思わずスカリエッティの口が止まった。



「おまえには無いだろう・・・・・たとえ身体を失っても、その身が罪でまみれようとも、己の世界を捨ててでも、禁じられた研究に手を伸ばしてでも、守りたかった大切な物が!!!おまえには無いだろう!!!みんなみんな必死だったんだ!世界の平和を!地上の安息を!自分の世界を!愛する者を!!守りたかっただけなんだ!!!そのために別のモノを失おうとも、それでも何かを守りたいという、強すぎる想いが、おまえにはあるのか!!!そのジレンマに苦しむだけの覚悟があるのか!!!辛かったんだ!!涙したんだ!!それでも守りたかったんだ!!!その想いが、おまえにわかるか!!!!・・・・おまえに彼らを嗤う資格なんてない、スカリエッティ。一人安全圏で、そんなところにいるお前に、すべてを投げうった彼らを嗤うことなんて許されない!!!!」




フェイトの言葉が木霊する。

そうだ、誰だってこんなことは望んでいなかった。




でも、それでも、守りたかったものがあったんだ。




そこまでに強い思いを持つものは、そのために苦しんだ。




その言葉を聞き、スカリエッティはというと


『・・・・・そうかい・・・・では・・・・・お別れだ』




フェイトの言葉を聞いて、スカリエッティがなんともあっけなく通信を切る。
瞬間、玄武が血相を変え、声を荒げた。



「まずい!!!三人とも、急いで反対の扉へ走ってゆきなされ!!」

「玄武?」

「あれが動き出すぞ!!!フェイト嬢達は急いであの野郎の元へ向かえ!!!!おおおおおおおおおおおッ!!!!」






ゴドォン!!!!!





玄武が必死の形相で叫ぶや否や、獣神体へと姿を変えて、その巨体で真ん中に刺さっていた剣を押しつぶした。

それを見て、フェイトが気付く。


「まさか・・・・あれはッッ!!!二人とも!!急いでください!!!」

唖然としている二人を押し出し、フェイトが反対側の扉へと飛びだして行く。



途中で玄武の足元を通り、そうして扉まであと少し





と、いうところで






ドゴンッ!!!!






『ごアアアアアアアアアアアッッ!!!』



玄武の巨体が叩きつけられて、ガラガラという轟音と共に扉がひしゃげながら埋もれてしまった。
その状況にフェイトが唇を噛み、玄武が起き上がって悪態をつく。



『クソッタレ・・・申し訳ない。進路を断ってしまった』

「う、ううん・・・気にしないで・・・・でも・・・・あれって・・・・・」

『そう・・・・たしかフェイト嬢にとっては十年も昔の話ですからな。覚えてはいないかの?』

「・・・・・・覚えてるよ・・・忘れるわけがないよ・・・・・」




フェイトの視線のその先に、玄武を投げとばした張本人が、ドームの真ん中に仁王立ちしていた。




全身から黒い煙を噴き出して、逞しい漆黒の体躯に、三つの首、二振りの尻尾。
三対もあるその目は赤く光っており、その眼光はそれだけで射殺すかのような怒気を持っている。



その脚の爪は死霊ですらをも切り裂けるかのように湾曲し
その牙は魂ですらをも噛み砕くかのように鋭い





魔導八天が最凶の一振りにして、最強の使役獣




地獄の番犬、ケルベロス



条件によっては蒔風と一対一で交戦できるほどの化け物が、目の前に現れていた。





「な、なんですかあれは!?」

『スカリエッティが雇った用心棒というところですな。お気を付けください。あれは・・・・・最悪ですぞ』

驚く二人に玄武が説明している間、フェイトは昔の事を思い出していた。




自分があれを見たのは十年前、はやてを迎えに行った時だ。
その時襲撃してきたのがこいつ、ケルベロスだった。

あのとき、自分は戦っていた蒔風を助けに行きたかった。
しかし、この十年でいくつもの死線を潜り抜けてきたからこそわかる。



なぜ自分はあの時、助けに行こうなんて考えたのだろうか。



それほどまでに、こいつはヤバい。
魔力も何もないはずなのに、この恐ろしさはなんなのか。否、そんなものでは計り知れない禍々しさが、こいつにはある。

十年前に感じる事の出来なかった恐怖を、今、携えて




フェイトの前に、最強最悪の怪物が迫った来た。






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一方ゆりかご内部


ガジェット射出口からなんとか侵入した蒔風たちがたどり着いたのは、高さにしてゆりかごの下方、ちょうど前後の中間部分である。


ここからはヴィータは別行動になる。
と、言うのも止める対象は二つあるからだ。


一つはゆりかごのキーとなっているヴィヴィオ。
もう一つはゆりかごの動力炉だ。


どちらかを壊せば止まるかもしれないが、両方壊さなければならなかったとき、それではまずい。


だからここで二手に分かれ、それぞれを撃破する、というのが方針だ。




「ここからは前部のヴィヴィオと、後部の動力炉に別れるわけだが・・・・・ヴィータ、大丈夫だな?」

「任せとけって!!こいつもいるしな!!」

「・・・・よろしくお願いします」



そういうのはヴィータの横に立つ青龍。
ここにくるまでに何とかヴィータの押しつけたのだ。

と、言うのもこっちは大丈夫だからとか言って最初、ヴィータは一人で動力炉に行くと言い張っていた。


そこで蒔風のお説教タイムである。
移動しながらなので、青龍を顕現させてその背中でここにつくまでずっとヴィータに言い聞かせていたようだ。



「ったく・・・・やっと聞き入れやがったんだから・・・・おまえの身体だって、昔ほど丈夫じゃねぇ。無茶すんなよ」

「まあ・・・丈夫じゃなくなんのは人間に近づいてるからだって思ってんだけどな・・・・」

「だったらなおのこと、用心しとけ。なんかお前って、前に進んでばっかで後ろからグサリとやられそうだからな~~~~」

「こえー事言うなよ!!!ほら!!おまえらも早く行けよ!!」



そんな会話をし、ガッ、を拳をぶつけ合ってから四人が飛び出す。


決意を一つに。

この船を止める。











ゆりかご衛星軌道上到達まで、あと三時間









to be continued
 
 

 
後書き

アリス
「で、今回の内容ですが」

フェイトの敵決定ですね。
SFT『スーパーフェイトさんタイム』です。

アリス
「説教来ました!テテーン、テーン!」

説教BGMとか流れてきますね。




アリス
「次回、いろいろなところでの戦いだよ!!!」

ではまた次回












いいじゃんか。
怪我したらなかなかなおらねぇのもやり直しがきかねぇのもなんか普通の人間みてぇでさ。 
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