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対岸の火事のはずが……
休日であったため、おれには時間的な余裕があった。
起こったことを正確に、来たメールや、問い合わせた内容の下書きや、日付や時間を確認しながら、真実だけを書き綴る。
そして、一稿目、投稿。
もちろん、まだ反応は判らない。
すぐに2稿目に取りかかる。
ただひたすらに、順を追って書き続ける。
運営から来た矛盾だらけのメールに、一つ一つ答えて行く。
だんだん腹が立って来る。
理不尽な登録抹消と、運営の下手な言い逃れ、そして、自分こそが被害者であるような、その対応。
シンは加害者だから、アカウントを停止したのだ。
バッドノベルスは、シンに流出事故を暴露された被害者なのだ。
そんな支離滅裂な考えが押し寄せて来るような時間だった。
そして、次の日――。
アクセス数と、ユニーク……その数字に茫然とした。
たしかに、興味をそそるような題名だったかも知れない。
休日ということもあり、たくさんの方が見てくださったのだろう。
想像以上の反響に、戸惑いもあり、驚きもあり――。それでも、多くの方に関心を持っていただけたことが嬉しかった。
さっそくその日も続きを書き、朝から流出事故後の運営の対応を書き続けた。
おれの登録を抹消した運営は、日付が変わってから、アカウント停止のメールを送って来た。
本当に、対応が何もかも後手後手である。
加えて、そこに書かれていた内容ときたら……。
「メール流出の詳細を話されては困るから、アカウントを停止した」
支離滅裂な理由である。
順番もおかしければ、書いてあることも辻褄が合わない。
シンの行動や周りの反応を見てから手を打っているため、いつも対応が間違っている。
とにかく、おれの口封じのためにやったことは、このメールで認めている。
だが、解せないのは、それはシンが悪いから――間違ったことをしたからだ、と、運営が自分の行為を正当化していることだ。
間違っているのは、アドレス流出に対応しなかった運営ではなく、流出を被害者に呼びかけたシンなのだ、と――。
おれはますます腹が立った。
はらわたが煮えくりかえる思いだった。
こんなことを書かれても、バッドノベルスでは一言も発言できない。
他のユーザーに、何一つ本当のことを伝えられない。
バッドノベルスのユーザーは、きっとシンが悪意あるユーザーだから消されたのだ、と思っているだろう。
何の対応もせず、正しいことを訴えて来たシンを消したのは、シンの発言を奪った運営だというのに……。
悔しさにPCを打つ指はどんどん進んだ。
何も小細工は必要ない。
ありのままを書けば、それがどれほどショッキングで、自分勝手な口封じであったかが伝わるだろう。
だが、急がなくてはならない。
こうも反響があり過ぎると、削除される可能性が、かなり高い。
対岸の火事は興味深いものだが、わが身に火の粉が降りかかり、迷惑な煙が立ち込め始めれば、人々はそれをけむたがるものだ。
必ず、火を消すために、運営に通報されてしまう。
最初は他人事で楽しんで見ていても、火が大きくなり、自分たちのエリアへと広がって来たら、誰もが消すことを考える。
それが正しい反応なのだ。
その前に全てを伝えなくては……。
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