提督はBarにいる。
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明けちゃったけど正月の騒ぎ・その6
前書き
今回から通常に戻ると言ったな?……あれは嘘だ。
1月5日-b 元帥の歩み
「ジジィが引退、ねぇ……。いいんじゃねぇの?もういい歳こいたジジィなんだし」
提督は興味ない、とでも言いたげに茶を啜る。提督とて伊達に四半世紀近くを提督業にやつして来た訳ではない。その道中で何人もの提督が志半ばで脱落していくのを見てきたのだ。殉職する者、恐れを成して逃げ出す者、心を病んで廃人と化した者……様々いたが、目の前の老提督程長年務め上げて自ら退く選択をしたという者は聞いた事がない。寧ろ挙げてきた成果を考えれば勇退、といって差し支え無いだけの事をしてきているのだから。
「そう、か。儂としては自分の代でこの戦争にケリを着けたいとは思ってはいたが……」
「高望みし過ぎだっての。人間同士の戦争でさえ終わらせるのは手間なんだぞ?ましてや相手は得体の知れない化け物……よくやった方だと俺は思うがね」
とかく戦争という物は始めるのは容易いが、終わらせるのはとてつもない労力を必要とする。始めるのは喧嘩同様吹っ掛ければ始まるが、終わらせるには双方を交渉の席に座らせるか、虫の息まで痛め付けて降伏させるか、完全に滅ぼすしかない。とは言え交渉の余地があるのはあくまでも『人間同士』の場合に限る。今の戦争の相手は深海棲艦……交渉の余地があるのかも知れないが、今の所それは見つけられていない。
「『大坂鎮守府』には提督に協力する個体もいると聞くが?」
「それは俺も知ってる。だがそりゃあ提督個人と結ばれた同盟……ってか友好条約みてぇなモンだろう?」
中にはそんな特殊な個体もいるが、基本的には敵対関係は未だ継続中なのである。
「本音を言えば、儂の後釜はお前さんに任せたかったがのぅ?」
「誰がやるか。元帥なんて肩が凝るポジション……第一手塩に掛けて育ててきたこいつらを手離せ、なんて命令は承服しかねるね」
元帥からしてみれば提督は『愛弟子』に近い存在。後任を任せられれば言うこと無しだったのだろうが、そこは金城提督……出来る限り面倒な事はしたくない、というのが基本スタンスの男である。それに今回の『騒動』から、自分の軍内の立ち位置がうっすらとだが見えて来たのだ。
「俺を昼行灯にしとくか、この鎮守府から切り離したいと考えてる連中がいるらしいな」
金城提督は更迭、艦娘は全員鎮守府内に待機というちぐはぐな命令からもそれが窺える。通常、提督が不祥事を起こして取り潰しとなった鎮守府の艦娘は、団結しての反攻を防ぐ目的も兼ねて部隊を解散、所属も任地もバラバラにして分散させるのが常だ。しかし今回の陰謀の絵図面を引いた奴(若しくは奴等)はそっくりそのまま鎮守府の戦力を簒奪するつもりだったらしい。要するに国の為を思って付けてきた『力』を、疎み、妬み、羨んだ挙げ句に奪おうとした訳だ。
「そうらしいのぅ。お前さんならそんな事はさせんと思うがの」
「当たり前だ。俺は個人主義者である前に家族思いなんだぜ?」
提督は既にこの鎮守府に所属する者を『家族』だと捉えているし、骨をこの地に埋める覚悟もしているのだ。面倒事は嫌いだが、家族の平穏を乱す者はその全力を以て叩き潰す。それが提督なりの艦娘達への誠意だった。
「それよりジジィ、軍を辞めて行く宛があんのか?なんならブルネイに世話するぜ?」
なんと言ってもブルネイは南国のリゾート地だった国である。深海棲艦の脅威はあれど、過ごしやすい環境であるのは間違いない。
「南の島でのんびり……というのも悪くは無いがのぅ。孫娘夫婦の近くで余生を過ごすわい」
お前さんと気軽に将棋が指せなくなるのはつまらんがの、と言いながら元帥はカラカラと笑ってみせた。然り気無く爆弾発言が飛び出したというのに。
「なに、孫?だってジジィ……お前の嫁さんは」
提督、金剛、加賀の視線が元帥の隣に腰掛けて椿餅を頬張っていた三笠に注がれる。現役時代の無理が祟ってもう海には出られない身体とはいえ、三笠は艦娘。艦娘に子供を作る能力は無い、というのは新米ですら知っている常識である。幾ら生身の人間がベースとなっている第一世代型の艦娘とはいっても三笠の年齢は良いところ20代。不老となる処置が施されている身体だとしても、かなり若い内に出産して身体を鍛え直さないと難しい話だ。
「ん?……あぁ、元帥の孫娘は実在するよ。ちゃんと血も繋がっている」
一瞬頭を過った養子の可能性は三笠が真っ向から否定した。ならばどういう事なのか。
「三笠は儂にとっては後添い……要するに後妻じゃよ。娘は前妻との間の子じゃ。言うておらんかったか?」
「初耳だよバカ野郎!……しかし、ジジィがバツイチ子持ちだったとはな」
「失礼な事を言うでないわっ!前妻とは死別しとるんじゃ」
真っ赤になって反論してくる元帥。そんな様子をおかしそうにクスクス笑いながら眺めている三笠。
「前の奥方の事は私もよく存じているよ。寧ろ元帥よりも世話になった」
「ほぅ?気になるなぁ」
「なら、茶請け代わりにでも軽く話してやるとするかの。あれはそう、艦娘が出てきたばかりの頃じゃったか……」
昔を懐かしむ様な語り口で、元帥はぽつぽつと語り出した。
物語のように語るのは得意でないのでな。簡単に語らせて貰おう。深海棲艦共が現れてその被害が報告され始めた頃、儂は海上自衛官から発足されたばかりの海軍へとその籍を移した。その頃には妻の早雪(さゆき)……前妻との間に子供を3人設けておった。早雪は科学者での……艦娘についての研究開発に明け暮れておったのよ。
ある時、艦娘へと人間を改造するシステムにエラーが起きた。そして生まれたのがこの『三笠』じゃ。それまで確認されておった艦娘は太平洋戦争に従事しておった者ばかりだった為に、それより古い時代の艦の生まれ変わりであろう三笠は、出撃させる事なく実験台とされようとしていた。そこに手を差し伸べたのが早雪じゃった。
建造当初から艦娘の艤装を受け付けなかった三笠用に、履くだけで推力を得られるようにする機関システムを開発したり、砲の代わりに刀を持たせたのも早雪のアイディアじゃ。早雪の奴もはりきっておってな、三笠にしか扱えん仕様にした代わりに、普通の戦艦の出力を上回るだけのエネルギーを生み出せる装備を構築してしまった。
そして三笠は海へと出た。その力は圧倒的。現れた深海棲艦を斬り伏せていった。しかしその性格は歪んでおった……指揮官を持たず、勝手気ままに出撃し、気紛れに帰投しては補給をする。傍若無人という言葉がぴったりの跳ねっ返りだったのよ。
「お、おい。そんな昔の話は止めろ……!」
真っ赤になった三笠が元帥の袖を引っ張って引き留めようとしている。
「なんじゃい、事実は事実じゃろう?それとも何か?若気の至りという奴が恥ずかしくなったか」
そんな滅多に見られない様子の三笠を見て、楽しそうにケラケラと笑う元帥。そんな姿を見て、金剛と加賀、それに大淀は『ホントに提督に似てるなぁ……』と半ば呆れたような感想を持ったのはまた別の話。
……さて、話を戻そう。そんな跳ねっ返りの三笠じゃったが、早雪にだけは懐いておってな。まぁ、自分を戦えるようにしてくれた恩人というのもあったんじゃろうて。しかし、早雪は死んでしもうた。研究に没頭しすぎた過労からな。儂は一時死を考える程に落ち込んだが、それを支えてくれたのは三笠じゃ。
『早雪は私に希望をくれた。今度はそれを貴方に返す番だ』
あの時の言葉はまだ覚えておるよ。そして儂等はケッコンをして、法が出来てすぐに結婚もした。娘夫婦には娘……つまりは儂の孫に当たる子も出来てな。皆に祝福されたよ。孫娘はよう出来た子でな、儂に憧れておったのか自ら志願して艦娘になりおった。今も現役で働いておるからな、そこで世話になろうと思う。
「……成る程ねぇ」
感動的な話を聞いた後だと言うのに、提督はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。
「なんじゃ?気持ち悪い笑みを浮かべおって」
「ジジィ、お前の孫ってのぁ……あの『祥高』とかいう娘だろ?」
途端に狼狽えて啜っていた茶に噎せかえる元帥。
「なっ!?ななな、何を根拠にそんな……」
「根拠だぁ?んなモンおめぇの行動から察していけば読めるっての。国内とはいえ僻地の鎮守府にワンオフカスタムの第一世代型の艦娘!米軍との協力関係に渡りを付けたのもおめぇだろ?妙にあそこの夫婦に肩入れするとは思ってたが……孫娘可愛さに依怙贔屓してたとはねぇ?」
「ぬ、ぬぬぅ……」
完全に図星を突かれて言いくるめられてしまっているのか、赤くなった顔でプルプルし始める元帥。そんな様子を見れば答えは明らかなのだが、助け船を出したのは三笠だった。
「そのくらいにしてやってくれ、金城。こいつも歳のせいか高血圧気味でな」
「にゃ、にゃにおぅ!?」
「……そうだな、血圧上がりすぎて頭の血管切れられても困らぁ。からかうのはこの位にしとくか。さて、折角来たんだし飯でも食ってけよ。送別会代わりによ」
提督はそう言って立ち上がると、煙草をくわえた。
後書き
なんか作者の妄想が暴走気味ですw次回こそはいつもの飯テロ回!……のはずwww
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