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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第二十五話 ホテルアグスタ 5

フォワード達が奮闘している裏で、暗躍している者がいた。

彼らが気づかぬうちに、事件は起こっていた。





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





outside

地下駐車場。

物音に気づいた警備員が、その方向へ歩いて行く。

「……誰かいるんですか?」

緊張した面もちで懐中電灯で周囲を照らす。

「ここは危険ですよ」

その時、懐中電灯の光がある物を捕らえた。

それを見た警備員が叫び声を上げる。

「な、何だ、これは!」

そこには、尋常ではない力で破壊され中身が空になったコンテナがあった。





ガリューからの報告を受け、ルーテシアはウンと頷いた。

「ガリュー、ミッションクリア。いい子だよ。じゃあ、そのままドクターに届けて」

ルーテシアは念話を終えると、地面の魔法陣を消した。

「品物は何だったんだ?」

それまで見守っていたゼストが、ルーテシアにコートを渡す。

「分かんない。オークションに出す品物じゃなくって、密輸品みたいだけど」

特に興味もないのか、ルーテシアはガリューが確保した品物を確認する事はなかった。

「そうか」

ゼストも、それ以上聞く気はないようだ。

遠くで爆発音がして、二人はそちらに目をやる。

「戦いも、もう終わりだ。前線の騎士達が中々よい戦いをした」

ゼストの言葉を聞いてないのか、ルーテシアは表情を変える事なくコートを着込む。

そして、ゼストの服を掴んだ。

「さて、お前の探し物に戻るとしよう」

「うん」





はやてside

フォワードが踏ん張ってくれたおかげで、少し遅れたけどオークションが始まったようや。

「お待たせいたしました。間もなくオークション開催です」

扉の向こうから、アナウンスと拍手が聞こえてくる。

中には、なのはちゃんとフェイトちゃんがいるから大概の事は大丈夫やろ。

今はそれよりも、シャーリーの報告を聞いとかな。

「前衛のおかげでガジェットはほぼ撃墜したのですが、すみません。召喚師は追えませんでした」

シャーリーが申し訳なさそうに言う。

まあ、それはしょうがないな。

召喚師が向こう側にいる情報なんて無かったし、あまりにも敵側のデータが少なすぎる。

これで責めるのは酷やろ。

「うん、任務自体は順調。アスカ君は脱臼か。すぐにシャマルに診てもらってな?」

「はい、それは勿論」

そこで画面が切り替わり、ルキノが映される。

「近隣の観測隊に通達を出しましたから、移動ルートくらいは掴めると思います」

「うん、お疲れさん」

とりあえずはこんなもんか。

私はモニターを閉じて一息入れる。

「アスカ君、大事なければいいんやけどな」

ヴィータからは、ただの脱臼でその場ですぐに入れたから後でシャマルに看てもらえば大丈夫言うてたけど……

まあ、今日はもうお休みあげないといかんなぁ…

……アスカ君か。

悪い子やないのは確かや。

でも、なんやろ?得体の知れない感じがする。

魔力回路の加速、対AMF……地球でのシグナムの報告……

そんな事を考えていた時やった。

「そこのお嬢さん、オークションんはもう始まってるよ。いいのかい?中に入らなくって」

緑色の髪をした青年が私に声を掛けてきた。

来てたんかいな。

私はわざとらしくニコッと笑った。

「ふふ、ご親切にどうも。そやけど、これでも一応お仕事中ですんで」

こっちの意志が分かったのか、彼も笑う。

「そうかい?」

「どこかのお気楽査察官とちごうて、忙しい身なんです」

「ほほう」

あ、苦笑いしてる。まったく、しょうのない人や。

「えい!」

私はその男にパンチをする。もちろん本気やない。

もっとも、本気で殴っても避けられてしまうやろな。

「ふふ」

「あはは」

お互いに笑い合った。でも、結構久々に会ったかな?

「またお仕事ほったらかして遊んでいるとちゃいますか?アコース捜査官」

「ひどいな、こっちも仕事中だよ、はやて」

私を妹のようにかわいがってくれる、聖王教会のカリムの義弟、ヴェロッサ・アコース。

ロッサは私の頭を撫でて、優しい笑顔を見せてくれた。





フェイトside

「ではここで、品物の鑑定と解説を行ってくださいます、若き考古学者をご紹介したいと思います」

壇上では、司会がオークションを進めていた。

その会場の隅で、私はなのはに外の状況を報告している。

「アスカ君が怪我を?」

心配そうになのはが聞いてくる。他人事じゃないからね。

「うん、ティアナの誤射のフォローをしたらしいんだけど…」

私も詳しい事を聞いてないから、ヴィータに言われた事を話すしかない。

でも、なんだかヴィータ、凄い不機嫌だったな。

「酷い怪我なの?」

「ヴィータは大した事ないって言ってたよ」

「そうか、よかった」

なのはがホッとしたように言う。でも心配しているのは分かるよ。

できれば今すぐにでも確認したいんだろうけど、オークションが終わるまでは持ち場を離れられないからね。

「ミッドチルダ考古学士会の学士であり、かの無限図書庫の司書長、ユーノ・スクライア先生です!」

「「え?」」

聞き覚えのある名前が飛び出てきて、私となのはは壇上に目をやった。

「あ、どうも。こんにちは」

あ!

「ユーノ君!」

そこには、幼なじみの顔があった。





outside

「おし、全機撃墜!」

ヴィータはガラクタと化したガジェットを見回して一息ついた。

「こっちもだ。召喚師は追いきれなかったがな」

右翼側を抑えていたシグナムが、ザフィーラと共に現れる。

「だが、いると分かれば対策も練れる」

「だな」

ザフィーラの言葉に、ヴィータが頷く。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

少し離れた場所で、アスカは息を整えていた。呼吸する度に、鈍痛が右肩を走る。

そのアスカにヴィータが近づいた。

「よく頑張ったな。大丈夫か?」

ヴィータの心配に、アスカは強がって答える。が、

「なーに、屁でもないッス……グッ!」

コーン、とグラーフアイゼンの柄でアスカの右肩を軽く叩くヴィータ。

突然の事に、アスカは顔を歪める。

「無理してんのは見て分かんだよ、バカ!」

あきれ顔でヴィータはグラーフアイゼンを地面に突き立てた。

「色々あの二人には言わなくちゃいけねぇ事があるけど、その前にアスカ。おめぇにも言う事がある」

ただでさえ鋭い目つきでアスカを睨む。

「……はい」

ここは大人しく聞いた方がいいと本能で感じるアスカ。

「スバルを守る為とは言え、お前のやった事は危険行為だ。確か昇格試験の時に、なのは隊長から言われた筈だろ。人を守って自分が怪我しちゃ意味ねぇって」

「はい……言われました」

アスカは素直に認める。

(こりゃ、なんかしらのオシオキがありそうね…)

もっとも、それぐらいは覚悟はしていた。

「そこでアスカ。お前にも罰を与える。いいな?」

「はい!」

アスカは背筋を伸ばしてヴィータに答えた。

追加訓練だろうが、始末書だろうが、懲罰房だろうが何でも来い、とアスカは覚悟する。

だが、ヴィータの言う罰は、アスカの予想を上回る物だった。

「アスカ。お前への罰は、スバルとティアナを庇わない事だ」

「!」

驚くアスカ。ヴィータは続ける。

「誤魔化せるとでも思ったか?戦闘中にジャケットを解除したのは、肩を入れる為じゃねぇ。アタシの気をティアナから逸らす為にやった事だ。違うか?」

「……」

「お前はチームのミスだから連帯責任と言うだろうが、今回に限っちゃそうじゃねぇ。ティアナのスタンドプレーがフォワードを危険にさらした。スバルだけじゃねぇ。エリオもキャロも怪我…いや、最悪の場合だってあり得たんだ」

「は、はい…」

「仲間を庇いたい気持ちは分かるつもりだ。だが、今回は一切口を挟むな。それがお前への罰だ」

完全に見抜かれ、諭されるアスカ。何の反論も出来なかった。

「………厳しい罰ですね」

そう返すのがやっとだった。

「だから罰なんだよ」

ヴィータは苦笑する。そして、エリオとキャロを呼んだ。

「エリオ、キャロ!このバカをシャマルの所まで連れて行け!」

「「はい!」」

二人はすぐにアスカに駆け寄った。

戦闘が終わってから、すぐにでも駆けつけたいと思っていたが、ヴィータと話し始めてしまった為、近づけなかったのだ。

「ところで、ティアナはどこ行った?」

ヴィータがエリオに聞く。

「はい、裏手の警備に行きました」

「スバルさんも一緒です」

「そうか…分かった。アスカを頼む」

ヴィータはエリオとキャロをアスカに付かせ、シャマルの元へと向かわせた。

「あー、めんどくせぇ…」

ヴィータはグラーフアイゼンを肩に担ぎ、吐き捨てるように呟いた。





スバルとティアナは、ホテルの裏手にいた。

スバルが表側が静かになったのに気づき、ティアナに声をかける。

「ティア……向こう、終わったみたいだよ」

遠慮するように、スバルが言う。

「アタシはここを警備している…アンタはあっち行きなさいよ」

落ち込んだ声でティアナが答える。背中を向けたままだ。

「あ、あのね、ティア」

「いいから行って」

声を掛けるスバルを突き放すように言うティアナ。

「ティア、全然悪くないよ!私がもっとちゃんと…」

ティアナに近づこうとしたスバルだが、ティアナはそれを拒絶した。

「行けっつってんでしょ!」

ティアナの怒声に、スバルは怯えるように足を止めた。

「ご、ごめんね…また、後でね…ティア…」

声を震わせ、それでもティアナを気遣うスバル。

だが、今はそばにいても何も出来ないと悟り、ティアナに背を向けて走り去った。

一人残るティアナ。

「うっ……」

その場に崩れ落ちる。

「アタシは…アタシは…!」

後悔がティアナを襲う。

双眸から涙を溢れさせるティアナ。

(違う!スバルが悪いんじゃない!アタシが…悪いのに!なのにスバルに八つ当たりして…)

「う…うぅ…!」

嗚咽が漏れる。

(アスカにも怪我をさせて、スバルに八つ当たりして…何やってんのよ…)

ヴィータに呼び出されるまで、ティアナは両手を地面について泣き続けた。





アスカside

エリオとキャロに連れられて、オレはホテル屋上にいるシャマル先生の所まで行った。

オレが来ると、シャマル先生は心配した顔で駆け寄ってきて、すぐに治療をしてくれる。

上半身裸になり、イスに座らされて治癒魔法を掛けてもらう。

「軽い炎症を起こしているわね。ヒーリングを掛けるけど、今日いっぱいは無理しちゃダメよ?傷そのものは治せても、ダメージは休養しないと完全には抜けないんだから」

そう言いながら、シャマル先生が右肩に手を置く。

「お手数おかけします」

いつもなら興奮するんだろうが、今は正直そんな気持ちになれない。

「「?」」

たぶん、気の抜けたような声を出していたんだと思う。

エリオとキャロが、どうしたんだろ、と首を傾げている。

「何かあったの?」

先生がオレにそう聞いてきた時だった。

「ふざけるな!コンビネーションとかじゃねぇんだよ!現に負傷者が出てんだぞ!分かってんのか!」

まあ、ヴィータ副隊長のどでかい声がホテルの下から響いてきた。

あのちっちゃい身体でよくあんだけの声が出るもんだ。

その声に、ビクッと身体を震わせるエリオとキャロ。

「…だよなぁ…だからエリオとキャロをオレにつけたのか」

みんなと一緒にいたら、きっと萎縮しちまっただろうな。

今回エリオとキャロに不手際は無かったから、とばっちりを受けないようにとヴィータ副隊長が気を利かせてくれたんだ。

シャマル先生も事情が飲み込めたみたいで、それ以上は聞いてこなかった。

治療を受けながら、オレはヴィータ副隊長に言われた事を思い出す。

「お前への罰は、スバルとティアナを庇わない事だ」

「スバルだけじゃねぇ。エリオもキャロも怪我…いや、最悪の場合だってあり得たんだ」

庇うな、か。確かに今回はしっかり反省してもらった方がいいけど…

ティアナを止められなかったか。まったく、我ながら情けねぇ…

ヴィータ副隊長の言ってる事はもっともだ。

でも、ティアナとちゃんと話せばきっと…

「失礼する」

ぼんやりと考えていたら、急に聞き慣れない女の人の声がした。

「は、はい、なんでしょうか?」

シャマル先生が一旦治療の手を止めて、立ち上がった。

見ると、そこにはサングラスにオールバック、管理局のジャンパーを来た女性が敬礼していた。

「シャマル先生、お疲れさまです。六課のおかげで、こちらは被害無しだ。感謝します」

この人、陸士271部隊の部隊長か。名前は確か…ロザリー・ゲーニッツだったか?年齢は…二十代半ばって所か。うん、カッコイイお姉さんだ。

「いえ、こちらこそ。271部隊の協力がなかったら、防衛しきれてなかったでしょう。ご協力、感謝します」

敬礼を返すシャマル先生。エリオとキャロも敬礼している。

っとマズイな。

大慌てで立ち上がって、上着を羽織って敬礼する。

「君、怪我をしているのだろう?無理はするな」

凛とした声でゲーニッツ部隊長が言ってくれた。この人も下の者を大事にするタイプなのかな?

「ハッ!ありがとうございます!」

実際、まだ肩も痛いのでお言葉に甘えさせてもらう事にして、オレは手を下ろす。

なんか、戦争物の映画に出てきそうな女上官って感じだな。カッコイイと言うか。

雰囲気はシグナム副隊長に似てるな。

そのカッコイイ、ゲーニッツ部隊長がオレに話しかけてきた。

「ところで、君に聞きたい事があるのだが、いいかな?」

なんだろ?心当たりは全く無い。

「自分で答えられる範囲であれば、何なりとどうぞ」

まあ、向こうもいきなり機密事項を喋れとは言ってこないだろう。

特に断る理由もない。

「君が使用していた、AMF対策。あれは局報に今朝掲載されていたヤツだな?なぜ君が使える?」

探るように、と言うような感じじゃなかった。

まるで、昨日の晩飯は何だ?というくらい気軽な感じできいてくるゲーニッツ部隊長。

えーと、どうしよう?これ、答えていいのか?

困ったオレは、シャマル先生を見る。

すると、シャマル先生は笑って頷いた。言ってもいいみたい。

「あれは自分が考えて形にした物です。-イオンのAMFに魔力で加速させた+イオンをぶつけると、AMFは消えます」

サラッと説明すると、なんだか毒気を抜かれたようにこっちを見てるよ。なんで?

「そ、そうか……随分アッサリしているな。君の手柄なのだろう?奴らに盗られたか?」

「さあ?本局技術部が何を考えてるかなんて興味ないんで。そんなツマンナイ事に拘るより、実戦配備してくれた方が、現場としてはいいじゃないですか」

アッケラカンと言うオレに、なんかゲーニッツ部隊長は唖然としている感じがした。

「君はおもしろい男だな。もう一つ聞いてもいいか?」

「どうぞ」

「実は、君と私は以前に会った事があるのだが、覚えているかい?」

「え?」

思いも寄らない事を言われて、オレはゲーニッツ部隊長をジッと見てしまった。

それに気づいたゲーニッツ部隊長がサングラスを取る。

切れ長の目は確かに鋭い印象だけど、どこか愛嬌がある感じだ。

それほど怖いイメージはない。

「………申し訳ありません。ちょっと覚えがなくて」

099部隊の時に会っていれば、絶対に覚えている筈。

と思ったけど、全然見覚えがない。

ゲーニッツ部隊長もかなりの美人さんだ。だったら余計に覚えている筈なんだけどなぁ…

「だろうな。私と君が出会ったのは、3年前の戦場でだ」

3年前って…

「オルセアで?」

「もっとも、あの時の私は君にとって、要求助者の一人でしかなかっただうがな」

その言葉を聞いて、オレは覚えていない事に納得いった。

「ゲーニッツ部隊長。そりゃ覚えていろって方が無理ですよ。あの時オレは、前線で防御していただけで、救助者の顔なんて見てないんですから」

そう、あの時はとにかくバリアを張りまくり、走り回り、またバリアを張りまくるという事を繰り返していた。

救助者を回収していたのは、オレ以外の隊員達だったからだ。

「はっはっはっ!そりゃそうだな!」

豪快に笑うゲーニッツ部隊長。なんだか、話しやすいな、この人。

「たとえ覚えていなくても、一言礼が言いたかった。あの時、助けてくれてありがとう。前衛の守護者よ」

……その通り名、まだあったんだ。ちょっと恥ずかしいじゃない。

「それは099の連中に言ってください。実際に助けたのはオレじゃなくてヤツらですから」

ちょっと恥ずかしくなったオレは、視線を外しながら言った。

「ふふ。あまり謙虚すぎるのも可愛くないぞ。礼をちゃんと受け止めるのも男だ」

ゲーニッツ部隊長の言葉に、オレは思わず笑ってしまった。

オヤジにも同じ事言われたっけ。

「参りました。確かにその感謝、受け止めました」

「うん。ではこれで失礼する。今度、落ち着いた時にでも話をしよう」

ゲーニッツ部隊長はそう言って敬礼し、帰っていった。

サバサバとした感じで、いい人だなぁ。

って考えていたら…

「アスカさん、昔っから凄かったんですね!」

なぜかエリオがキラキラした目でオレを見てきた。キャロも同じ目でこっち見てるし。

「そんなんじゃないって!オレはただ、全力で仕事していただけだよ!」

そう言ったけど、なぜか聞いてくれないし。

その後、シャマル先生を含めた3人に質問責めをされたよ。





outside

状況が落ち着き、フォワード一同はホテル前に集められていた。

なのは、フェイト両隊長に報告する為だ。

管理局の制服に着替えたなのはとフェイトが、それぞれから話を聞く。

「えっと、報告は以上かな?現場検証は調査班がやってくれるけど、みんなも協力してあげてね。しばらく待機して何も無いようなら撤退だから」

「「「「はい!」」」」「……」

ティアナ以外の全員が返事をする。俯いているティアナが気にかかるのか、スバルが彼女に目を向けた。

「アスカ君は、もういいのかな?」

なのはが怪我をしたアスカに聞く。

シャマルからは大丈夫とは聞いているが、やはり気になるらしい。

「シャマル先生に治してもらいましたから大丈夫です。一晩寝れば、ダメージも抜けるだろうって言ってました」

「そう…で、ティアナは…」

ビクッ

自分の名前が出て、ティアナは小さく身体を震わせた。

「…ちょっと、私とお散歩しようか」

「はい…」

なのはがティアナを連れて、森の小道に入って行く。

「ティア…」

当事者の一人であるのに残されたスバルが、心配そうにその背中を見ている。

「今回はしっかり怒られた方がティアナの為だ。仕事するぞ」

気にはするが、割り切ろうとするアスカ。

そのアスカに、スバルがもの凄い勢いで詰め寄ってきた。

「ティアは悪くないんだよ!私がちゃんとポジションをとっていれば…ムグッ!」

アスカは左手でスバルの口を塞ぎ、最後まで言わせなかった。

「今回はティアナが悪い。センターガードが上がって攻撃って、そんなコンビネーションは練習してなかった筈だろ」

「プハッ!そんな事ないよ!前の部隊じゃ私とコンビネーションちゃんとやれてたもん!」

アスカの手を払い、なおもスバルは噛みつく。

「エリオとキャロもいるんだ。組んでいる奴の事も考えないとダメだろ。前の部隊と六課じゃ、訓練も任務も違う」

落ち着いた口調でアスカは言うが、スバルは納得しない。

「同じだよ!どんな状況だって、私とティアは上手くやってきたんだよ!」

「……お前、それ本気で言ってるのか?」

口調こそ静かであったが、アスカは明らかに怒っていた。

「当たり前だよ!そうやって人を助ける仕事をしてきたんだ!」

「………」

額を押さえるアスカ。少しでも落ち着こうとしているようだ。

「あー、言いたくねぇ…言いたくねぇなぁ…」

苦しげに呟いて、アスカはスバルの目をまっすぐに見た。

「お前、エリオやキャロがオレと同じ目にあってたとしても同じ事言えるか?」

「!!」

「そうなった時、ハラオウン隊長になんて言い訳するつもりだ?お前が今、そう言えるのは、オレの怪我が大した事ないから言えるんじゃないか?」

「そ、それは…」

「オレ達は同じ方を見て、同じ目標に向かって進んでいる。それがチームだろ?一人でも別の方を見ていたら、チームじゃなくなる。今、オレ達が六課でしている事はなんだ?」

「………」

「本当ならスバルが止めるべきだったんだ。ティアナと二人で反省しろ」

何も答えられなくなったスバルに背を向けるアスカ。

「…こんなつまんねぇ事、言わせるな……」

スバルから離れて、アスカはエリオとキャロの方に向かって歩き出した。

何の反論もできず、立ちすくむスバル。

「アスカの…バカ……」

スバルはただ一言、そう言った。





ティアナside

なのはさんの背中を追って、アタシは歩いている。

ミスをしたのは事実だ。同僚に怪我もさせた。

どんな叱責を受けても当然の事をした。

でも…

「失敗しちゃったっみたいだね」

なのはさんが立ち止まって振り返った。

怒っている感じはしないけど…今は優しくされた方が苦しく感じる。

「すみません…一発、逸れちゃって…」

アスカに怪我をさせた…それが言えなくて俯いてしまう。

「私は現場にいなかったし、ヴィータ副隊長に叱られて、もうちゃんと反省していると思うから改めて叱ったりはしないけど、ティアナは時々、少し一生懸命すぎるんだよね」

優しく諭すようになのはさんは言ってくる。

「それで、ちょっとヤンチャしちゃうんだ。でもね、」

なのはさんが、俯いて聞いてるアタシの肩に手を重ねた。

「あ…」

「ティアナは一人で戦っている訳じゃないんだよ」

真剣な目でなのはさんがアタシを見る。

「集団戦での、私やティアナのポジションは、前後左右、全部が味方なんだから」

「…!」

一人では戦えない。

そう言う事なんだ。

結局、アタシ一人じゃ何もできない…そう思われているだ…

魔力が足りないから、力が足りないから…支えてくれる人も、特殊な能力も無いから…

才能に溢れている人達の中で、孤独感だけがのしかかってくる。

「その意味と今回のミスの理由、ちゃんと考えて、同じ事を二度と繰り返さないって、約束できる?」

力がないから…アタシには何もないから……

「はい…」

そう答えるしかなかった。

「うん、なら私からはそれだけ」

なのはさんが離れる。

「約束したからね?」

「はい」

何もない…なら、また一つ一つ積み上げて行くしかない。

認めてもらう為に、いや、認めさせる為に!





outside

現場検証の手伝いをしているアスカは、何回かスバルの方を見た。

いつも元気な筈のスバルだが、今は塞ぎ込んでいるように俯いている。

しかも、アスカが見ている事に気づくと、あからさまにソッポを向く。

「怒ってるよなぁ…」

先ほど強く言い過ぎたのか、スバルはアスカと目を合わせようとはしない。

「やり辛いなぁ…」

ふう、とため息をつくアスカ。

お互いに冷却が必要なのは分かっているが、さてこれからどうしようかと悩む。

そこに、ティアナが帰ってきた。

「ティア!」

いち早くそれに気づいたスバルは、嬉しそうにティアナに駆け寄る。

なぜか、アスカにはスバルに犬耳とシッポが生えた幻影が見えた。

その幻影のシッポをちぎれんばかりに振っているスバル。

「……疲れているのかな、オレ」

そう呟いたアスカは、また黙々と作業に戻った。

さっきまで不機嫌そうにしていたスバルは、ティアナが戻ってきた事でご機嫌になっている。

「スバル…色々、ゴメン」

ティアナは伏し目がちに謝る。

「ううん、全然!…なのはさんに怒られた?」

気になったのか、スバルが尋ねる。

「少し、ね」

「そう…ティア!向こうで一休みしていていいよ。検証の手伝いは、私がやるから」

落ち込んでいるティアナを気遣うスバル。

今は、そんなスバルの優しさを嬉しく感じるティアナだった。

「大ミスしておいて、サボリまでしたくないわよ。一緒にやろう」

微笑みかけるティアナ。

「うん!」

嬉しそうに、スバルも笑う。いつもの明るい笑顔に、ティアナも少し心が晴れた。

「ところで、アスカは?」

作業を始める前に、アスカには謝っておかなくてはと、ティアナが聞く。

アスカの名前が出た途端、スバルの表情が曇った。

「スバル?」

普段、あまり顔を曇らすような事は無いスバルが、珍しく不機嫌そうな顔になったのを見て首を傾げるティアナ。

「あ、なんでもないよ!アスカなら…ほら、あそこ!」

スバルが指をさす。アスカはエリオと一緒に現場検証をしていた。

キャロはそこから少し離れた場所で、フリードと一緒にガジェットの残骸を調べている。

「ちょっと待ってて」

ティアナはスバルにそう言い、アスカの元に歩み寄った。

「ん?」

ティアナが近づいてくる事に気づいたアスカが、そちらの方に向き直る。

「アスカ、その…ゴメン。アタシがミスったばっかりに…アスカに怪我をさせちゃって…」

そう言って、ティアナが頭を下げる。

その向こうで、スバルが怖い目でアスカを睨んでいる。

下手な事を言ったらぶっ飛ばすぞ、とでも言いたげな目だ。

(なんのつもりだよ、スバルの奴…)

冷や汗をかきつつ、アスカをティアナに声を掛ける。

「色々言いたいけど、隊長に叱られたんだろ?だったら、もういいよ」

「うん…本当にゴメン。あと、スバルを守ってくれて、ありがとう」

「防御専門の面目躍如って所だ、気にすんな」

ちゃんと反省している事を感じたアスカは、それ以上は特に何も言わなかった。

上手く和解が出来た、とアスカは思っていた。勿論、ティアナも。

だが、アスカはまだ気づいていない。

ティアナが、思い違いをしている事を。

今の時点で、それに気づける者は、皆無だった。





ガジェットを調べていたキャロが、向こうから歩いてくるフェイトに気づいた。

隣には、深緑色のスーツを身につけた、金髪の男性がいる。親しげに話をしている。

『えーと、シャーリーさん?』

キャロはロングアーチに念話を飛ばす。

『はいなー!』

シャーリーの元気な声が返ってきた。

『フェイトさんと一緒にいらっしゃる方、考古学者のユーノ先生って伺ったんですが』

『そう、ユーノ・スクライア先生。時空管理局のデータベース、無限書庫の司書長にして、古代遺跡の発掘や研究で業績を上げてる考古学者。局員待遇の民間学者さんって言うのが、一番シックリくるかな?』

シャーリーは説明を続ける。

『なのはさん、フェイトさんの幼なじみなんだって』

『はぁ』

凄い学者さんと知り合いなんだな、とキャロは思った。

そんなキャロに見られていると知らずに、フェイトとユーノは話を続けている。

「そう、ジュエル・シードが」

前回の出動で、3型から出てきたジュエル・シードの事を聞き、ユーノが表情を曇らせる。

「うん、局の保管庫から地方の施設に貸し出されてて、そこで盗まれちゃったみたい」

「そうか…」

「まあ、引き続き追跡調査はしているし、私がこのまま六課で事件を追っておけば、きっとたどり着く筈だから」

「フェイトが追っている、スカリエッティ?」

話をしながら、ユーノはフェイトに危うい物を感じた。

ジュエル・シードはなのは、フェイト、ユーノにとって、ただのロストロギアではない。

すべての始まりになった奇跡の石。

ジュエル・シードがあった為、フェイトは深く傷ついた過去がある。

昔のように、我が身を省みなくなるのでは、と心配する。

「うん…でも、ジュエル・シードを見て、懐かしい気持ちも出てきたんだ。寂しいさよならもあったけど、私にとっては、いろんな事の始まりの切っ掛けでもあったから」

その言葉を聞いて、ユーノは自分の心配は杞憂だと確信できた。

フェイトはしっかりと過去の事は消化している。

「そうだね」

ユーノは安心して微笑んだ。

「ユーノくーん、フェイトちゃーん!」

二人を呼ぶ、聞き慣れた声がした。

見ると、なのはが走ってこちらに向かって来ている。

「なのは、ちょうど良かった」

フェイトとユーノがなのはの方に向き直る。

「アコース査察官が戻られるまで、ユーノ先生の護衛を頼まれてるんだ。交代、お願いできる?」

「うん、了解!」

はにかんだ笑みを見せて、なのはは敬礼する。

頷いて、それを確認したフェイトがライトニングメンバーを呼ぶ。

「エリオ、キャロ、アスカ!現場見聞手伝ってくれるかな?」

「はい!」「いま行きます!」「了解ッス!」

フェイトがなのは達から離れようとした時だった。

「あ、フェイト、ちょっといいかな?彼に話があるんだけど」

ユーノがフェイトを呼び止めて、アスカを指した。

「え?いいけど…アスカ、ユーノ先生がお話があるって」

フェイトに言われ、アスカはギョッとした。

「オ、オレにですか?」

心当たりの無いアスカは、首を捻りながらユーノの前に立つ。

なのはも、不思議そうに見ていた。

「自分に何か御用でしょうか?」

敬礼してアスカが尋ねる。

「そんなに堅苦しくしなくていいよ。5年ぶりくらいかな?元気だったかい、アスカ」

穏やかな笑みを浮かべるユーノ。

「え?あ、あの、オレの事、覚えて?」

「覚えているよ。君の【魔力回路の加速】理論は画期的な物だったからね」

慌てるアスカに、ユーノは笑いかける。

「え?二人とも、知り合いだったの?」

ユーノがアスカを知っている事に驚くなのは。

「知り合いって程じゃないですよ。オレが5年前に一度だけ無限書庫を利用した時に、親切に教えてくれたのがユーノ先生だったんです。でも、まさか覚えていてくれてたとは思いませんでした」

「そうかい?また来てくれるかと思ったんだけど、それきりだったね」

「え…も、申し訳ありません!あ、あの、また行こうと思ったんですけど、その、事務の女の子が退職してしまって、手続きが出来なくなって…誰も無限書庫の利用申請の仕方を知らなかったものでして…」

色々言い訳をしたアスカが頭を下げる。

「謝らなくていいよ。確かに無限書庫を個人利用する時は、複雑な書類を沢山提出しなくちゃいけないからね」

苦笑しながら、ユーノはポケットから1枚のカードを取り出した。

「これを渡しておくよ」

そのカードをアスカに手渡す。

「えーと、これは?」

カードを受け取ったアスカは、それをマジマジと見た。

「簡単に言えば、無限書庫の会員証かな。これがあれば、いつでも無限書庫を個人利用できるから」

ユーノの説明をきいて、アスカは驚く。

本来であれば、部隊長クラスでなければ手に入らない物だからだ。

「い、いいんですか?オレみたいのがこんな凄いの持ってて?」

「いいよ。対AMFの考案もアスカが考えたんだってね。そういう発想をできる人が、書庫を有効利用出来るように、僕たちは頑張っているから」

「は、はい!ありがとうございます!大事に使わせてもらいます!」

アスカは大事そうにカードをしまう。

(なくさないように、後でラピのストレージにしまっとこう)

アスカは、思わぬプレゼントにテンションが上がる。

「渡せてよかったよ。今度、無限書庫においで」

「はい!必ず!」

アスカは敬礼して、スキップでもしそうな軽やかな足取りでその場から離れていった。





「ユーノ君とアスカ君が知り合いだったなんて、世の中は狭いね」

それまでのやりとりを見ていたなのはが言う。

「そう…だね」

どこか心配そうに呟くユーノ。

「どうかしたの?」

「うん…僕と初めて会った時のアスカって、なんか人を寄せ付けない雰囲気があってね」

え?となのはがユーノを見る。

「5年前って言うと、アスカ君が11歳の時だね」

「そうだね。あの頃のアスカは、どこか戸惑っているというか、人付き合いが苦手な感じがしたよ」

意外だ、となのはが驚く。

今のアスカは愛想が良く、誰とでも仲良くやっていけそうな感じだからだ。

「5年前って、099部隊で大事故があった年でもあるんだよね」

「え?」

「山岳訓練中に起きた山崩れ。それに沢山の隊員が巻き込まれたんだって」

初めて聞く事ばかりだった。

ユーノの言葉に戸惑いすらみせるなのは。

「なのは。アスカはどこか危うい感じがするんだ。初めて会った時は、出会ったばかりの頃のフェイトみたいな感じだったし、今は…子供の頃のはやてみたいに感じたよ」

「まさか!」

その意味に気づいたなのはが思わず声を出す。

「どちらも、自分を二の次にする。度が過ぎると、それは悪い事になるよ。教官として、一人ばかりを気にかける事はできないと思うけど、留意しておいて」

ユーノの言葉に、なのはは何も言えなくなってしまった。 
 

 
後書き
また長文やらかしてしまいました。申し訳ありません。
しかも、まだアグスタ編が終わらないときてます。文章下手、まとめ下手でスミマセン…

今回は、ヴィータさんがいい感じで大人な副体長をやってる感じがします。出番少ないけど。

んで、オリキャラのロザリー・ゲーニッツですが、ぶっちゃけモブです。
アスカの過去の実績を証明できる人として出しました。あと1回、登場すればいい方でしょう。
この小説でアスカ以外のオリキャラは基本モブです。
オリキャラを主に置いてしまうと、色々面倒なんで。
そして、ユーノ君初登場です。まあ、それなりに存在感はあったと思います。
まだ、別の形でユーノ君のは登場してもらうと思いますので、それまでお待ちを。

しかし、うちの主人公は地味だね。防御優先で攻撃にパラメーター振り分けなかったのがダメだったかな?
今回はそこそこ活躍できたような気がするけど、まだまだ全然ですね。
もっと頑張れ、アスカ。

次回でようやくアグスタ編が終了する予定です。
ここから更にティアナのネガティブキャンペーンが加速します…鬱だ。 
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