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提督はBarにいる。

作者:ごません
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明けちゃったけど正月の騒ぎ・その3

1月3日   嫁艦全員と初詣



 寒中稽古を行った翌日、毎年恒例の行事をこなすために元旦に着たのと同様に紋付き袴に着替える。足下は白足袋と雪駄。姿見で見た時に自分でもヤクザの親分のようだと思ったのは内緒だ。

「はぁ……」

 いつまでも悩んでても仕方がない、と溜め息を1つ吐き、2階の部屋を出て1階の玄関ホールへ向かう。近付くに連れてザワザワという喧騒が大きくなってくる。

「あ!darling遅いネー!」

「んだよ、俺が最後か」

 俺を出迎えたのは金剛の喧しい声。他にも、俺とケッコンしている……所謂嫁艦が全員揃っている。毎年恒例の行事というのは、嫁艦全員を引き連れての初詣と新年のご祈祷を賜るという物だ。全員晴れ着で着飾って、メイクもバッチリ決まっている。

「さて、んじゃあ行くか」

 はーい、という間延びした返事を聞きながら、俺達一行は鎮守府を後にした。移動は徒歩。この大人数だから、車で移動しようとすると最低でもマイクロバスが要る。流石に正月三が日の神社に乗り付けるのは憚られたので、ゾロゾロと歩いていく事にしたのだ。逆に目立ちそうな気がしないでも無いが。




 流石に正月も3日目となると、手持ち無沙汰になるのか外に出歩いている人が多い。そんな人達から見ても俺達一行は異質らしく、注目を集めていた。

『あらやだ、なに?あの大名行列』

『先頭歩いてるのって鎮守府の提督さんよ、アレ』

『じゃあ、後ろ歩いてるのが艦娘さんなの?』

『美人引き連れていいご身分ねぇ』

 と、噂好きのおばちゃん達が聞こえるか聞こえないかの絶妙なボリュームでヒソヒソ話をしているかと思えば、

『あれ全員あのオッサンの嫁らしいぞ?』

『マジかよ、一人位分けて貰いたいもんだぜ』

『ってか、あの歳でスケベ親父過ぎだろ』

『〇ね』

 と、若い兄ちゃん達がこれ見よがしに陰口を叩いてくる。その度に突き刺さってくる視線の痛いこと。

『来年は幾らかかってもバスをチャーターしよう』

 密かにそう決意した。

「そういえば、昨日の朝はお楽しみだったみたいですね、司令?」

 俺の居たたまれない気持ちを察したのか、話題を変えようと話し掛けてきた霧島。しかしその台詞回しはアカン。別の事に聞こえる。

「あ?あ~、寒中稽古な。ちぃとばかし昔を思い出してはしゃぎ過ぎた」

 ガキの頃から地元の武道館で柔道漬けだった俺は、毎年のように新年の寒中稽古は行っていたのだ。

「中学・高校になると俺に勝てるのは館長……俺の師匠くらいでなぁ。先輩や後輩達をぶん投げて遊んでたっけなぁ」

 しみじみと懐かしむ様に思い出を語る俺に対して、

「やっぱりその当時からドSだったんだね……」

「今の提督は少年時代からの積み重ねの結果、ですか」 

「野獣っぽい?」

 等と、さんざんな言われよう。お前らなぁ、もう少し亭主を丁寧に扱っても良いと思うんだが?




 30分程歩いただろうか、目的地である神社が見えてきた。鳥居の下では神主と巫女さんが待ち構えていた。

「どうも、新年明けましておめでとうございます」

「これはご丁寧に。ささ、ご祈祷を行いますので中へお進み下さい」

 神主の先導で神社の奥へと進む一行。社殿の中へと通され、用意されていた椅子に着席する。……っと、その前にお供え用のお神酒を巫女さんに渡してからだな。

「些少ですが」

「ありがとうございます。供えさせて頂きますね」

「え~それでは、鎮守府の方々のご祈祷を始めさせて頂きます」

 そう言って神主がこちらに一度頭を下げ、祝詞を読み上げ始めた。なんでも、神様へとお願いしたい事によって微妙に内容が変化する……らしい。俺が予めお願いしてあったのは、鎮守府の家内安全・海運の安全・無病息災。商売繁盛だと戦争が激化しろ、と受け取られかねないので遠慮した。嫁艦達の方を見ると皆神妙な面持ちで祝詞を聞いている。日本の艦艇だけかもしれんが、艦内には神棚が設置されて神社の分社が置かれていた事もあってか、艦娘は意外と信心深い連中が多い。俺は無神論者というか、神頼みしないで自力で何とかする、という精神の持ち主なのであまり信心深いとは言い難い。だが、これで精神的な意味で少しでも艦娘に良い影響があるならそれでよし。使える物は何でも使うのが俺のポリシーだからな。


 ご祈祷が終わったら、それぞれ破魔矢や御守りを買ったり、絵馬を書いたりしている。俺は一人も欠ける事が無いように、と絵馬に書いて奉納させてもらった。他の連中の大多数の願いが何というかその……ピンク色過ぎたので紹介は止めておく。

「あら提督、貴方も御神籤引かない?」

 声をかけてきたのは陸奥。それと扶桑と山城も傍らにいる。こう言っちゃあ失礼だが、何故この3人で固まっているんだ。

「毎年買ってるんですが、殆ど凶ばかりで……」

 とは扶桑の談。マジかよ、逆にスゲェな……。まぁ、今年最初の運試しだ、引いてみるか。

「えぇと、47番」

 御神籤を引いて出てきた番号を巫女さんに告げると、紙を手渡された。

「お、大吉」

「あら、羨ましい」

 今年もいい一年になりそうだな、とぼんやり考えていると、いきなり突風が吹いた。

「おっと」

 咄嗟に飛ばされない様に御神籤を強く握る俺。しかし、

「「「ああっ、御神籤が!」」」


 どうやら3人の御神籤が風に巻き上げられてしまったらしい。

「「「待ってぇ!」」」

 ふらふらと飛んでいく御神籤を追いかける陸奥、扶桑、山城。そのまま飛んでいってしまうかに見えたが、ジャンプ一番、3人同時にキャッチした。

「え?きゃあっ!」

 しかし、ツイてない奴はとことんツイてないらしい。ブチッ、という音と共に陸奥の草履の鼻緒が切れて転けた。その衝撃で再び御神籤を手放してしまった。御神籤はそのまま綺麗な放物線を描きーーーー

「あっ……」

 という皆の声を聞きながら、賽銭箱にチップイン。見事なホールインワンである。

「やったわ、末吉よ姉様!」

「本当ね、今年一年良いことがありそうだわ」

 陸奥を尻目に御神籤を開けて喜ぶ扶桑と山城。一方陸奥は起き上がる気配がない。

「お……おい陸奥、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないわよ……はぁ、お正月からツイてないわ。きっと中身は凶だったのね、御神籤」

 そう言って立ち上がりながら、晴れ着の埃を払い落とす陸奥。草履の鼻緒は応急修理も出来そうにない。

「仕方ねぇなぁ……ほら、おぶされよ」

「え、ちょっと、提督?」

 俺が屈んだのを見て、目を白黒させている陸奥。流石に白足袋履いてるとはいえ、裸足で帰らせる訳にはいかんたろ。

「何だ?それともお姫さまだっこの方がいいか?」

「それは流石に恥ずかしいから止めとくわ……じゃ、じゃあ乗るわよ?…えいっ」

 ためらいがちに俺に背負われる陸奥。

「大丈夫?重くない?」

「ナメるなよ?女の一人や二人、担いでへばるようなヤワな鍛え方してねぇぞ俺ぁ。……うーっし、帰るぞ」

 ゆっくりと歩き出した一行。俺に背負われた陸奥は、何だか幸せそうだったという。

『絶対陸奥の御神籤は大吉だったネー……』

『そうじゃなきゃあんなラッキー起きませんよ…』

『は、榛名もおんぶして貰いたいです』

『あれは許されません』

『ちょ、ちょっと加賀さん!?破魔矢は射る為の物じゃないから!投げようとしないで!』


 等々、陸奥が他の嫁艦達からヘイトを集めていたのも同時に報告しておこう。やれやれ、今年も一年騒がしい年になりそうだ。 
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