初詣
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第三章
「食べてもいいけれど」
「じゃあ串焼きのお店も行こう」
「牛肉のね」
「少し高いけれど」
「そっちも行こう」
こうしたことを話しながらだ、三人は次はいか焼きの店に向かった。そして三人がいか焼きの店に入るとだ。
三人と入れ替わりにだ、三人の親娘連れがその店の前を後にした。父の太と母の麻美子は自分達が囲んでいる娘の玲、この日の為にわざわざ買った振袖を着ている愛娘に尋ねた。
「どうだ玲、いか焼き美味しいか?」
「さっきの焼き鳥とどっちがいいの?」
「うん、どっちも美味しい」
パックの皿の上のいか焼きを箸で食べつつだ、玲は両親に明るい笑顔で答えた。
「ママが作ってくれたのと同じ位」
「そうでしょ、こうした場所で食べるものもね」
「美味しいの?」
「そうなのよ」
麻美子は娘ににこりと笑って話した、娘は振袖だが彼女は普通の服だ。夫と同じく暖かくしていてマフラーと手袋に頭にはニット帽だ。
「だからね、お祭りの時はね」
「こうしたのを食べるのがいいの」
「そうよ、玲ちゃんもね」
「いか焼き食べていいのね」
「そうしたらいいのよ」
「出店のものを食べるのもな」
太も笑って言うのだった。
「いいからな」
「パパも食べてるしね」
「ああ、パパは昔から大好きなんだ」
見れば太もいか焼きを食べている、それもかなり美味そうに。
「いか焼きがな」
「さっきたこ焼きも食べてたし」
「たこ焼きも大好きなんだ」
「いかさんもたこさんもなのね」
「どっちもなんだ」
娘に笑って話す。
「だから今もこうしてな」
「食べるの」
「そうなんだ」
「だから玲ちゃんも食べるのよ」
娘から優しい目を離さずにだ、麻美子は言った。
「今日はお腹一杯ね」
「うん、三人でね」
「ママもなのね」
「だってママいつも皆平等にって言ってるじゃない」
だからとだ、玲は母に顔を向けて言った。
「だからね」
「ママもなのね」
「いか焼き食べてないけれど」
それでもというのだ。
「皆でお腹一杯食べようね」
「そうね、今日はね」
「さあ、次は何処に行こうか」
太はいか焼きを食べ続けながら妻と娘に尋ねた。
「甘いものがいか」
「そうね、じゃあ次はね」
「たい焼きかクレープか」
「そうしたものにしましょう」
家族三人で仲良く話していた、そして丁度擦れ違った二人の少女がクレープを食べるのを三人で見た。そうして。
その二人の少女、小雪と桐子はクレープを食べながら話をしていた。小雪は生クリームの、桐子はチョコレートのものを食べている。
そのチョコレートのクレープを食べつつだ、桐子は小雪に言った。二人共ズボンとコートにマフラーとかなりの重装備だ。
「由貴さん相変わらずか」
「そう、私を送る時寝るって言ってたわ」
「またなんだな」
「そう、毎年そうしてるし」
小雪は自分のクレープを食べつつ苦笑いで話した。
「今年もよ」
「あの人寝正月なんだな」
「全く、お母さんはね」
小雪は桐子にやれやれといった顔でこうも話した。行き交う他の初詣客や出店をちらちらと見て服装や店の状況をチェックしつつ。
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