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Three Roses

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第二十六話 叔父として王としてその七

「私は違いますので」
「マリー様とは」
「だからですか」
「そうです」
 それ故にというのだ。
「あの娘と会うと気が張ります」
「それならばです」
 司教はそのマイラにこう述べた。
「さらに会われることです」
「そうせよというのですか」
「そして場に慣れて」
 そのうえでというのだ。
「マリー様をお知りになられることです」
「彼女を」
「そうです」
 まさにというのだ。
「そうされる方がいいです」
「私はあの娘のことをよく知らない」
「お気に障られましたか」
「いえ」
 そうではないことはすぐに返して保証した。
「その通りと思いました」
「そうなのですか」
「生まれを気にし」
 自分の側室の子としての、そしてマリーの正室の子としてのだ。その生まれをどうしても気にしていたというのだ。
「あの娘を避けていました」
「そして、ですか」
「あの娘のことをよく知りませんでした」
「それでは」
「これからも会っていきます」
 マイラは決心と共にオズワルド公に答えた。
「そうしていきます」
「そうされますか」
「私は争いを望んでいません」
 マイラは自分の考えも述べた。
「戦いは常に勝つとは限りませんね」
「はい」
 二人の側近はマイラのその考えに即座に賛同の意を示した。
「どうしましても」
「敗れる時があります」
「戦いの守護天使程気まぐれなものはありません」
「それ故に」
「東方の、こちらの言葉に訳した書を読みましても」
 読書、即ち学問を好むマイラはこちらからも話をした。
「百戦百勝は最善にあらず」
「むしろ悪い」
「そうだと書いてあったのですね」
「はい、最善は戦わずして勝つ」 
 まさにというのだ。
「特に、これはその書には書いていませんでしたが」
「では王女のお考えですか」
「そういったものですか」
「そうです、内で争えばです」
 即ち国の中でだ。
「これ程無益なものはありません」
「自分達で国の田畑や町を壊し」
「そして民を巻き込む」
「悪戯に国を衰えさせる」
「そうしたものだからですね」
「かつての我が国でもありました」
 今のエヴァンズ家が王家になる前の王位継承権闘いの戦いだ、三十年に渡りそして多くのものを失った。
「あの時我が国も多くのものを失いました」
「それが為に」
「何があってもですね」
「内で争ってはならない」
「絶対にですね」
「ですからあの娘ともです」
 マリーともというのだ、新教徒の盟主となっている彼女と。
「争ってはなりません」
「だからですか」
「マリー様のことを」
「よく知らないのならです」
 そう自覚したならばというのだ。 
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