提督はBarにいる。
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実りある宴・1
メドブーハの杯を煽ると、濃厚な蜂蜜の甘味とコクがガツンとやってくる。その後で酒精のツンとした感覚が鼻に抜け、どことなく甘酒のような素朴さを感じさせる。
「甘くて飲みやすいですねぇこれ!」
「私も初めて飲みましたが、蜂蜜の酒ってこんなに美味しいんですね」
霧島夫婦も美味そうに楽しんでいる。さて、この酒に合うような肴を考えなくてはな。取り敢えずはお通しのつもりでナッツとチーズ、それにからすみを出しておくか。これだけ甘口の蜂蜜酒だからな、塩辛いからすみはマッチするはずだ。
「取り急ぎサラダを作るから、これを摘まんで待っててくれ」
「あぁ、申し訳無いです。あまり急がなくても大丈夫ですよ」
橘君はかなり控え目な性格らしいな。霧島への熱烈なアピールがあったと聞いていたのだが。
「ではでは、お料理を待つ間にお二人の馴れ初めなんかを!」
「それは私も是非聞きたいネー?」
金剛と青葉に挟まれて、苦笑いするしかない霧島夫婦。……さてと、俺はシーザーサラダでも作るとするかな。
《ドレッシングも作ってみよう!温玉シーザーサラダ》
※分量4人前
・ロメインレタス:6枚(120g)
・ベーコン:2枚(40g)
・トマト:1個
・玉ねぎ:1/2個
・クルトン:適量
・温泉卵:1個
『シーザードレッシング』
・マヨネーズ:大さじ8
・すりおろしにんにく:少々
・粉チーズ:大さじ1
・塩:小さじ1/2
・黒胡椒:少々
・レモン汁:小さじ1
・酢:小さじ2
・水:小さじ1
さて、まずは手間のかかる温泉卵から。最近は温泉卵専用の調理器等もあるが、今回は1個だけなので手軽に電子レンジで作るとしよう。冷蔵庫から卵を出し、尖った方に軽くヒビを入れる。卵より2周り位大きい直径の耐熱容器に卵と卵が浸る位の水を入れ、600wのレンジで2分~2分半チンする。これは器の厚みとか様々な条件で変化するから、個人で調整してくれ。目安としては卵のヒビからはみ出して来る白身。これが透明で無くなった位が調度良い具合だ。
「司令、私が手伝える事はないか?」
そう言って来たのは那智だ。グラスの準備や蜂蜜酒のお代わりを注ぐだけでは手持ち無沙汰になってきたんだろう。
「じゃあシーザードレッシングを作ってもらおうか。今材料を書き出すから、これを全部ボウルに入れて混ぜてくれ」
「了解した」
シーザードレッシングは使う材料は多いものの、分量さえ覚えれば混ぜるだけで出来るから案外簡単だ。その間に俺はサラダの具材を支度するとしよう。
ロメインレタスを食べやすい大きさにカットし、玉ねぎはスライス、トマトは小さめの角切りにしてやり、ベーコンはカリカリに焼き上げる。
「ンー?darlingが作ってるのはシーザーサラダですカ?」
「あぁ、材料見れば解るだろ?」
「Oh!ジュリアス=シーザーの大好物の歴史あるサラダですネー」
「あん?そりゃ違うぞ金剛。シーザーサラダが生まれたのは1924年……20世紀に入ってからだ」
1924年、アメリカとの国境を接するメキシコの街であるティファナにある「シーザーズ・プレイス(Caeser's place)」というレストランで、シーザーサラダは産声をあげた。アメリカは禁酒法時代真っ只中、ティファナはハリウッドで働くアメリカ人達の歓楽街として賑わっていた。7月4日(アメリカ独立記念日)、シーザーズ・プレイスのオーナーであるシーザー=カルディーニが大挙してやって来た客をもてなす為、残り少なかった材料を使って客の前で鮮やかな手つきでサラダを作ってみせた。そのサラダの美味しさは評判を呼び、作り出したカルディーニの名前を取って『シーザーサラダ』と命名されたのさ。
「そ、そうなんですか……知ったかぶりでショックデス…」
「まぁ、サラダの味には影響ねぇよ。さぁ、もうすぐあがるぞ~」
サラダボウルにレタス、トマト、玉ねぎ、細く切ったカリカリベーコンを入れて程好く混ぜる。そこにクルトンとお好みでチーズを散らし、ドレッシングを回しかける。仕上げにボウルの中央に温泉卵を落としてやれば完成だ。
「はいお待ち、『温玉シーザーサラダ』だよ。温泉卵を崩して、軽く混ぜてからお召し上がり下さい」
「おぉ~スゲェ!本当に閣下は料理がお上手なんですね!」
「まぁな。霧島は蟒蛇だからな、ウチの店の常連だよ」
「し、司令!彼の前でなんて事を言うんですか!」
真っ赤になって蟒蛇発言に抗議してくる霧島。実際の所ウチの鎮守府で1、2を争う酒豪のクセに何を今さら。
「事実だろ~?なぁ金剛」
「YES!霧島はsisterの中でもNo.1だからネー!」
「お、お姉様まで……もう!」
霧島は恥ずかしい所を暴露されたからか、顔を真っ赤にしてむくれている。しかしすかさず、橘君がフォローに入った。
「いやいや、下戸の嫁さんよりも全然いいですよ。自分も飲めるクチですから、どうせなら嫁さんと杯を酌み交わしたいですから」
なんて台詞を吐かれちゃあ、こちらは太刀打ち出来ねぇや。霧島も真っ赤になりながら見つめあっちゃってるし、青葉は写真撮りまくってるし。明日〆られても知らんぞ~?俺は。
「はいはい、御馳走様。さて、お次はどうするかねぇ……」
「あの、司令」
「ん?なんだ霧島、何か喰いたい物でも?」
「せ、折角のお祝いですので鯛が食べたいんですが……」
鯛か。まぁお祝い事だから一応仕入れてはいるが。しかし蜂蜜酒に合わせるには刺身や尾頭付きの丸焼きじゃあ合わないし、カルパッチョじゃあ前菜扱いでシーザーサラダと被ってしまう。……ソテーにでもするか。
《鯛のソテー・レモンマスタードソースがけ》※分量4人前
・鯛(切り身):4切れ(320g)
・塩、胡椒(下味用):各少々
・ほうれん草:200g
・オリーブオイル:大さじ1.5
・小麦粉:少々
『レモンマスタードソース』
・白ワイン:1/4カップ
・水:大さじ2
・粗びきマスタード:小さじ1
・醤油:大さじ1
・バター30g
・レモン汁:大さじ1
まずは鯛を捌く。普通にスーパーで切り身を買ってきてやっても良いが、今日は尾頭付きで仕入れてたからな。80g位ずつの切り身になるように切り分け、腹骨が付いていたら削ぎ落とす。次に、皮に一筋の切れ目を入れておく。これをしておかないと焼いた時に皮が縮んで身がまるまってしまうからな。後は塩、胡椒で下味を付けて小麦粉を薄くまぶせば焼く前の鯛の下拵えは完成。
お次は付け合わせのほうれん草。洗って4~5cmに切ったら、沸騰したお湯に軽く塩を入れて茎→葉の順番で茹でていく。茹で上がったらザルにあけてよく水気を切り、盛り付け用の皿の中心に平たく広げるようにして盛っておく。これは那智に任せて、俺は鯛の焼きに入る。
フライパンにオリーブオイルを熱し、鯛の皮目から焼いていく。フライ返しで押し付けて皮をパリッと焼き上げる。コレには身の収縮を防ぐ意味もあるのでしっかりとな。皮が焼けたら弱火にし、裏返して身に火を通す。身にも火が通ったら盛り付けておいたほうれん草の上に。
一旦フライパンを洗い、レモンマスタードソースを作る。
「司令、何故フライパンを洗うのだ?洗わずにやった方が手間がなかろう」
「オリーブオイルまでソースに混じるとくどくなるんだ。本当は別のフライパン出せばいいんだが、洗い物を増やしたくないんでね」
洗って水気を飛ばしたフライパンに、白ワインを入れて軽く煮詰めてアルコールを飛ばす。そこに水、マスタード、醤油を加え、弱火にしたらバターを加えて溶かしながら混ぜる。仕上げにレモン汁を加えたらソースを鯛にかけて完成。
「ハイよ、『鯛のソテー・レモンマスタードソースがけ』だ」
「いただきます……さっぱりしてて美味しいです!」
「甘い蜂蜜酒を引き立ててくれますね。これは美味いなぁ……」
今の所、ご満足いただけてるようだな。さて、お次は何を作ろうか。
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