提督はBarにいる。
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ガッツリ!スタミナ牛丼SP!
朝潮の一件の翌日、大淀に許しを乞うための『条件』を聞いてみた。彼女は暫く悩んだ後、
「じゃあ、私と親友にお昼をご馳走してください。……あ、勿論提督の手料理ですよ?」
案外安い条件だな、と思ってしまったがまぁそれは置いておこう。そして、その日の昼時。
「いや~なんか申し訳無いですねぇ、大淀のついでに私までお呼ばれしちゃって。」
えへへへ、と頭を掻きながら笑うのは明石。もうじき大規模な攻勢を向こうがかけてくると専らの噂だった為、最近は工廠フル稼働で装備の開発や改修を急いでいた。大分無理をさせていそうで申し訳無く思っているのはこっちの方だ。
「いやいや、こっちこそ。最近は工廠を忙しくさせちまってるからなぁ。これくらいの労いでいいならいつでも来てくれ。」
「え、本当ですか!?じゃあ毎日でも来ようかなぁ。」
「ちょっと待ってよ明石!それじゃあ提督の執務が進まないでしょ!?」
「あ、それもそっか。ゴメンゴメン。」
二人の会話を聞いていると、本当に仲の良さが伝わってくる。仕事仲間というよりも幼馴染みのような感覚だ。
「さぁさぁ、稀少な昼飯の時間を雑談で終わらすつもりか?お二人さん。さっさと注文した方がいいと思うぞ?」
「そ、それもそうですね。じゃあ……」
「『牛丼』をお願いします。」
「あ、でも普通の牛丼とかありきたりなトッピングじゃ嫌ですよ?私達、す〇屋とか〇牛、〇屋なんかも全メニュー制覇してますから!」
なんともまぁ、牛丼とは。なんでも、本土の大淀とか明石が牛丼チェーンとのタイアップでポスターになっていたらしい。それを見ていたら堪らなく食べたくなり、二人で色んな店の色んなトッピングの牛丼を食べ歩いているらしい。
「最近牛丼続きなんですけど全然飽きる気配もないんですよ!」
「成る程なぁ。んで、具体的に注文はあるか?」
一口に『牛丼』と言っても、そのレパートリーは多種多様だ。使う牛肉の部位、共に味わう具、味付け、トッピング等々……その組み合わせだけで数百、数千の味になる。具体的な物でなくとも、どういう方向性の味が良いのかだけでも確認しておきたい。
「うーん……最近バテて来てるんで、ガッツリスタミナ付きそうな牛丼で!」
明石の注文だ。上手く化粧で誤魔化してはいるが、目の下にうっすらと隈が出来ている。相当に疲れが溜まってきている証拠だ。
「では……私は提督が私に食べさせたい牛丼を。」
随分と難解な注文しやがって、大淀め。しかしそれを無理だと断じるのは簡単だが、それは俺のポリシーに反する。
「了解。手間かかるから、少し待っててな。」
俺はそう言いながらお通しの冷奴とぬか漬けを出してやる。
「提督、このお豆腐って手作りですか?」
「そうだよ。市販の豆乳とにがりがあれば作れるからな。」
流石に木綿や絹ごしなんてのは専門的すぎて作れないが、寄せ豆腐位なら家庭で簡単に作れる。手間もかからないので重宝している。
「こっちのぬか漬けも落ち着く味ですねぇ~。」
ほんわかした表情で、明石がぽりぽりとぬか漬けを咀嚼している。疲れている時の塩分は、何より身体に嬉しい。そんな光景を眺めながら、俺は牛丼の支度に入った。まずは明石の注文した『スタミナガッツリ系の牛丼』だ。
《提督流スタミナ牛丼》※分量2人前
・牛切り落とし肉:200g
・ニラ:1/2束
・玉ねぎ:1/2個
・にんにく:2~3片
・薄力粉:大さじ2
・サラダ油:大さじ3~4
・卵黄:2個分
※その他、韓国のりやキムチ、刻みネギなんかがあっても美味いが、それはお好みで。
(タレ)
・にんにく(すりおろし用):1/2片
・おろししょうが:適量
・水:大さじ3
・醤油:大さじ1.5
・酢:小さじ1
・砂糖:小さじ1/2
・白すりごま:大さじ1
まずは例のごとく、野菜を刻む所から。ニラは5cmくらいの長さに切り揃えて、玉ねぎは縦に薄切りにしてボウルに入れておき、薄力粉を全体にまぶしておく。にんにくは1/2片はすり下ろし、残りは芽を取り除いて縦に薄切りにしておく。
フライパンにサラダ油大さじ2を垂らして熱する。その間にタレの材料を全てボウルに入れて混ぜておく。油が温まったらにんにくを入れて揚げ焼きにしていく。カリッときつね色になった所で油をきりつつ取り出す。そこに再び油を大さじ2程足す。加熱して足した油もいい温度になったら、粉をまぶしておいた玉ねぎを揚げる。薄切りの為、焦げやすいので火加減は弱火~中火で。
「えっ、玉ねぎ揚げちゃうんですか!?」
素っ頓狂な声を明石があげる。
「まぁな。カリカリサクサクの食感の方が飽きが来ねぇのさ。」
フライドポテトならぬフライドオニオン、ってワケだ。それに先ににんにくを揚げておいたお陰で油にはにんにくの食欲をそそる香りが移っている。これだけでもいい肴になりそうだ。塩と胡椒、さっき揚げたにんにくチップかけてビールでキューっと行きたい。……しかし、これはあくまでも牛丼の具だ。これもにんにく同様、カリッと揚がったら油から取り出す。
いよいよ、牛肉の調理に入る。先程まで玉ねぎを揚げ焼きしていたフライパンから油を拭き取り(大さじ1程残す)、牛肉を入れて強火で炒める。全体の色が変わってきたらそこにニラを入れてサッと炒める。仕上げにタレを入れて炒め合わせ、ニラが軽くしんなりしてきて、タレが全体に絡んだらOKだ。
丼に飯を盛り、炒めた牛肉を乗せる。真ん中に窪みを作って卵黄を落としてやり、更に上からフライドオニオンとにんにくチップを散らす。仕上げに韓国のりを揉んで砕いてまぶし、万能ネギも刻んだ奴をパラパラと。これで完成だ。
「ヘイお待ち、『提督(オレ)流スタミナ牛丼』だ。にんにくキツいから気を付けろよ?」
「わ~い、大淀おっさき~!」
明石は子供のようにはしゃいで、卵黄を崩してグチャグチャに掻き回していく。見てくれは良くねぇが、アレが一番美味い。程よく肉と飯が卵の黄色を纏った所で、大口を開けて迎え入れる。
「うんっまあああああぁぁぁぁぁぁ!ちょっと大淀、これホントに美味しいよ!」
「大袈裟な奴だな~、材料なんざその辺のスーパーで買えるのばっかだぞ?」
苦笑いしながら、付け合わせの『しじみの味噌汁(ジャガイモ入り)』を出してやる。芋としじみが合うのか?と疑問に思われるかもしれないが、意外や意外、芋がしじみの出汁を吸って抜群に上手くなるし、味噌汁自体がまろやかになる。味の濃い丼物には最適だ。
「だってぇ、ホントに美味しいんですもん~~!」
明石はよほど美味いのか、涙を流しながら掻き込んでいる。その様子を隣で眺めている大淀も、生唾を飲み込んでいる。
「さてさて、大淀も我慢の限界のようだし、早速作っていきますかねぇ。」
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