提督はBarにいる。
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■卵料理……食べりゅ?・2
「う~ん、茶碗蒸しも美味いけどなぁ。ウチ、そろそろワイン飲みたいんよねぇ。」
龍驤がそう言って日本酒のグラスを干し、チリワインを要求。ワインの本場と言えばフランスやイタリア、スペインなどだが、最近は南米系……特にチリワインが「美味い」「安い」「ハズレ無し」と謳われて人気を博している。
チリで最古のワインの醸造記録が残っているのが1556年。ヨーロッパ以外の所謂ニューワールドでは一番の歴史を誇る。フランスからカベルネやメルローといったワインに適した葡萄を取り寄せ、チリワインの歴史は始まった。実はヨーロッパの葡萄は寄生虫で過去に壊滅しているが、チリの葡萄はその難を逃れている。ワインの評論家の中にはチリの葡萄こそオリジナルのヨーロッパの葡萄だと語る者さえいる。日本とチリは自由貿易協定を結んでいるために関税がかかっておらず、しかもチリの物価は安いから低価格で楽しめるのだ。そんな中でも最高級の1本『ドンメルチョ』を出してやる。
『ドンメルチョ』は世界的に有名なワイン専門紙で世界のトップ12に選ばれ、豪華客船クイーンエリザベス2世号内で供されるワインにも選ばれている1本だ。
「ん~♪この香りが堪らんなぁ。提督、このワインに合うツマミ頼むわ。」
「あ!龍驤さんだけズルい!じゃあじゃあ、私は梅酒ソーダ!」
「じゃあ私はカシスウーロンを。」
瑞鳳が梅酒ソーダに大鳳がカシスウーロン。酒の好みも味もバラバラだが、それに対応するのも腕前って事か。んじゃ、チャチャッと作りますかねぇ。
んじゃ、ちょっとおしゃれにフランスの卵料理の代表格・キッシュを作ろう。
《ほうれん草のキッシュ》材料4~6人前
・冷凍パイシート:150g
・ほうれん草:1/2束
・玉ねぎ:1/4個
・ブラウンマッシュルーム:1/2パック
・ハム:3枚
・プロセスチーズ:60g
・にんにく:1/2片
・オリーブオイル:大さじ1
・バター:小さじ1/2
・白ワイン:大さじ1/2
・卵:3個
・生クリーム:100cc
・牛乳50cc
・塩、胡椒:少々
まずは材料を刻んでいく。マッシュルームは汚れていれば石附を取り、縦薄切りに。玉ねぎも同様に縦薄切り、ハムとチーズは1cm角に刻んで、にんにくはみじん切りに。
フライパンにオリーブオイルをひき、にんにくと玉ねぎを中火で炒める。薄いきつね色になったらマッシュルームとハムを加えて更に炒め、しんなりしてきたら白ワインとバターを加えてザッと混ぜる。その後は皿などに移して冷ましておく。冷ましておかないと卵液が固まってしまうからな。同時進行でほうれん草を塩を入れたお湯で15~20秒茹で、鍋から上げたら流水で冷やし、5cmの長さに切り揃える。
卵、生クリーム、牛乳、塩、胡椒を混ぜて卵液を作り、炒めた具材とほうれん草、プロセスチーズを加えて更に混ぜればキッシュの生地の完成だ。
冷凍パイシートは袋に書いてある通りに室温に戻し、綿棒で一回り大きくなるように伸ばす。直径20cmのパイ皿にシートを隙間なく敷き詰め、はみ出した部分は包丁やナイフでカット。縁をフォークで抑え、パイシート全体に膨らみすぎを防止する為の空気穴を開ける。後はキッシュ生地をパイシートに流し込み、180℃に余熱したオーブンで25~30分、こんがりとした焼き目が付くまで焼き上げれば完成。……だが、待っている間にもう一品作りながら会話に混じるか。
「しっかしなぁ、提督は胸囲で差別し過ぎやでホンマに。」
ぶすっとした表情でワインを煽る龍驤。そんな俺は茹で玉子を支度している。
「してるつもりはねぇんだがなぁ。」
実際のところ、ウチの航空戦力は充実している。満遍なく鍛えてきた事もあり、錬度の差は殆んどない。
「違いますよ提督!私達が言いたいのは、戦闘に関する事じゃなくて日常生活での事ですっ!」
ダン!とグラスを叩き付けてこちらを睨み付けて来るのは大鳳。日常生活?はて、それこそ差別なんざした覚えはねぇんだが。
「だって提督、ケッコンした娘はみんなおっきいおっぱいじゃないですかぁ!」
うぐ、そこを突かれるとさすがに弱い。確かに言われれば嫁艦には豊満なバストの持ち主が多い。
「あのなぁ、ウチは戦艦と正規空母の運用がメインだぞ?必然的に錬度が上がってくモンだろうが。」
「でもでもぉ、正規空母なら葛城ちゃんもいるし、ずいずい……じゃなかった、瑞鶴だって…。」
赤ら顔で今にも泣きそうな目をしている瑞鳳。
「葛城はウチの空母勢の中でも後発組だろうが。それに、お前ら知らんかも知れんが、アイツ改ニになってからバストサイズ2カップ位デカくなってんぞ?」
「なんやて工藤!?」
「だれがバーローだこの野郎!」
龍驤の会心のボケに間髪入れずにツッコミを入れる。割りとよくあるやり取りだがまぁ、今は置いておいて。
「て、提督……今の本当ですか?」
大鳳が青冷めて小刻みに震えている。それほどの衝撃的な事だろうか?
「あぁ、まぁな。瑞鶴とケッコンしたのは改ニ前でな。その日の内に夜戦(意味深)してな。この間の横須賀遠征の時もした時に確認したからな、間違いねぇよ。」
なんでこんなに夫婦生活を赤裸々に語っているんだろうか。自分で話しておいて気恥ずかしくなってきた。
「そ、そんな……。あのずいずいが…!」
「う、裏切りやっ!これは『貧乳艦娘同盟』に対する背信行為やでぇ!」
おい、なんだその聞いただけで涙が出てきそうな悲しい名前の同盟は。何となく参加メンバーは解るが、知らない方がいいような気がする。龍驤は怒りを露にした顔で、瑞鳳は絶望したような顔で小刻みに震えている。
「まぁまぁ、胸のサイズなんざ女の魅力の一部に過ぎねぇさ。ほら、キッシュが焼き上がるまでこのサラダでも摘まんで機嫌直せや。な?」
「サラダて、ただ茹で玉子と野菜と……この細いのはサラミか?混ぜただけやんか……んん!?」
ぶつくさ言いながら一口サラダを食べた龍驤の目が大きく見開かれる。
「ど、どうしたんです龍驤さん!?」
「まさか凄く不味いとか!?」
おいおい、失礼な。ウチは不味いモンだけは出した事ねぇのが自慢なんだぞ?
「サラダの具材は到って普通や……まぁ、サラミ入っとるからどっちかと言えばツマミ向けやけど…このドレッシングは何や!?クリーミーで爽やかなんやけど、仄かな苦味があんで!?」
そう、そのサラダの具材には大した目新しい物はない。だが、ドレッシングに秘密あり。そこに気付くとは、中々やるな龍驤。
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