提督はBarにいる。
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卵料理……食べりゅ?
「う~ん、不味くはないんだがなぁ。」
とある夏の日。店に料理を持ち込んで試食してくれと頼まれた。品は卵焼き。持ち込んだ軽空母・瑞鳳の得意料理だ。
「う~ん、提督の口には合わないかぁ……。」
瑞鳳の顔は明らかに悄気ている。決して不味いわけではないのだ。寧ろ、卵焼きとしては完成された美味い部類に入る。だが、やはり俺の味の好みは『酒の肴』というのが中心で、いかんせん瑞鳳の卵焼きは肴にするには甘めの味付けだった。
「なんやなんや、随分と辛口なんとちゃうか?」
そう言って横槍を入れてきたのは龍驤。軽空母の中では古参の部類であり、(似非だが)関西弁でズケズケと意見を述べてくる辛口の批評家といったポジションだ。
「そうですよ、提督は、その……む、胸の小さい娘に冷たいと思います!」
そう言って龍驤に同調してきたのは大鳳。装甲空母という特殊な艦種だが、その特性を活かしてメキメキと錬度を上げている艦娘だ。この3人に瑞鶴と葛城を加えた5人は、豊満なバストの持ち主が多い空母艦娘の中では慎ましい5人で、一部からは「フラット5」なんて揶揄されたりしているらしい。勿論、俺はそんな呼び方はしない。地雷原のど真ん中でタップダンス踊るようなモンだ、そんなバカな真似はしない。
「あのなぁ、決して不味いわけじゃあねぇんだよ。ただな、酒の肴にゃあ向かねぇって話よ。」
「じゃあじゃあ提督、お酒に合う卵焼き……ううん、卵料理教えて!」
瑞鳳からのリクエスト。ウチの店のスタンスとしては断れないが、はてさて、何を作った物か。3人の飲んでいる酒はそれぞれ、『菊の司』、『七福神』、『社の白菊』。俺の地元・岩手にある菊の司酒造の日本酒だ。米の旨味を活かした味わいで、濃い味にも薄味の料理にしっくりくる。
「わかった、何品か作るから待っててくれ。」
まずは待ち時間の合間の小鉢を一品。取り出したのは地元の特産・真イカ(スルメイカ)の胴体。手際よく皮を剥いて真っ白な身を露わにしてやる。それをイカ素麺よりも太めにカットしたら、取り出すのはこれまた俺の地元の特産・塩ウニ。俺の故郷はウニの養殖が盛んでな。塩ウニってのは保存を利かせる為に塩をまぶして水分をある程度抜いた物だ。それとイカの切り身を和えれば、イカの甘味とウニの塩気と旨味が酒に合う『イカのウニ和え』の完成だ。
「おおっ、今日のお通しは随分と豪華やねぇ。」
イカをつまみ上げて口に放り込みながら、龍驤がほくほく顔で聞いてきた。
「地元の知り合いが大量に送ってきてな。塩ウニはある程度保存が利くが、脚が速い食材には変わらねぇ。ある内にちゃっちゃと美味しく喰った方が得なのさ。」
それに、この塩ウニを作る時の副産物も、このあとの卵料理に使う予定なのだが、それはまだ秘密。
さぁて、まずは食感プルプル、しかも失敗がない餡掛け茶碗蒸しを作ろうかね。
《失敗0!餡掛け茶碗蒸し》※材料2~3人前
・絹ごし豆腐:1/2丁(160g)
・卵(Lサイズ):1個
・合わせだし:150cc
・塩:小さじ1/3
(醤油あん)
・鶏挽き肉:100g
・合わせだし:180cc
・椎茸:2本
・醤油:大さじ2/3
・塩:小さじ1/3
・酒:大さじ1
・片栗粉(同量の水で溶く):大さじ1
・せり:20g
まずは合わせだしを取る。以前にも出汁の取り方は紹介したが、今回は旨味の強い濃い目の出汁の取り方をご紹介。
水1リットルに削り節20gと10cm角の昆布を1枚入れてアクを取りつつ煮立たせ、布巾で濾す。この出汁は卵液を作るのにも使うから、予め作って置いて粗熱をとっておこう。
卵に合わせだし、塩を加えてよく混ぜる。絹ごし豆腐を蒸すのに使う器に入れ、そこに卵液を注ぐ。
卵液を注いだら豆腐をヘラ等で大きく崩す。細かくボロボロにしてしまうと折角のプルプル食感が損なわれるから注意。
器の納まる大きくて深めのフライパンの底にさらし布巾を敷き、器を置く。そうしたら器の半分の高さまでお湯を入れ、蓋をしたら静かに沸騰する位の火加減で12~13分。こうすれば、蒸し器がなくても茶碗蒸しが作れるってワケさ。
その間に上にかける餡掛けを作る。卵液にも使った合わせだしと酒、醤油を鍋にかけて軽く沸騰させる。そこに刻んだせりとスライスした椎茸、鶏挽き肉を入れて肉をほぐしながら火を通す。後は味見をして塩気が足りなければ塩で調整し、水溶き片栗粉で強めにとろみをつける。この餡掛けの具材は好みの物で構わないぞ。
さぁ、盛り付けだ。大きい器で作ったから、小さめのお玉などで器によそい、そこに餡をかけてやる。茶碗蒸しでよく聞く失敗に気泡(いわゆる「す」)が入って見た目が汚くなる、という失敗があるが、この茶碗蒸しなら中に具材が入っている訳でもなく、そもそも形を崩して盛り付けるから気泡は気にしなくても大丈夫だ。
「さぁ出来たぞ、『餡掛け茶碗蒸し』だ。」
木匙を使って口に運ぶ3人。
「「「あふい!」」」
同時に悲鳴を上げる。そりゃそうだ、出来立てアツアツの所に、これまたアツアツの餡を掛けてるんだからな。
「フーフーして食べろよ。ガキじゃあねぇんだからそれ位解るだろ?」
少し涙目になっている3人を見ながら、苦笑いを浮かべる俺。フーフーと息を吹き掛け、冷まして再び口の中へ。
「んっ、美味っ!」
「ホント、プルプルトロトロでほっぺも落ちそうです~♪」
顔を綻ばせている龍驤と大鳳に対して、瑞鳳は
「ま、まぁまぁよね。」
と少し負け惜しみ。ほほぅ、ならば追い討ちといこうか。
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