ペルソナ4~覚醒のゼロの力~
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4/11 堂島家へ
前書き
この作品の主人公は、原作の主人公とはまったく違います。
原作を知らない方は、誤解されないようにお願いします。
ついに母さんの弟、つまり叔父の家へと向かうことになった日。
母さんから叔父の家の住所、そして叔父の住む市への行き方を貰ったメモを見て俺は言葉を失った。
八十稲羽市?…マジか?
自分や家族、友人のことは覚えていないが、それ以外のことは覚えている俺。
八十稲羽市って言ったら、ペルソナ4じゃないか。某携帯ゲーム機で発売された、ペルソナ4のリメイク版もプレイした。
非常に面白かった。直斗の晴れ着姿や、水着姿が無かったのが唯一の欠点だった。
キャラは覚えてるんだが、ストーリーは全然覚えていない。
おかしいな……。結構やったのにな…。
まあいいか。さて、そろそろ行くか。
ある程度の家具は両親が持って行ったが、無くなったわけじゃない。
誰も住んでいない間は2週間に1・2回掃除してくれるように、母がお隣さんに頼んでいたらしい。
事件が起きるのは分かっている。
不謹慎な話ではあるが、楽しみだ。
「ほぅ。これはこれは、また変わった定めを持った方がいらしたようだ」
出た。鼻でか老人イゴール。
そして、隣には超絶美人のマーガレット。ヤバいくらいに美人だ。
「フフ。私の名はイゴール。お初にお目にかかります」
知ってるけど、会ったのは初めてだ。
見たことはあるけど。
「ここはどこですか」
「ここは夢と現実。精神と物質の狭間にある場所」
ここは現実であり、ある意味では夢の世界ということか?
精神はそのままの意味だとして、物質は何を指す。
確かな精神があるのは、人間。
物質と言うのは、人間のことか?
ん~、わからん。
「本来ならこの場所は、何らかの形で“契約”を果たされた方のみが訪れる部屋」
“契約”……?
「貴方には、近くそうした未来が待ち受けているのかもしれませんな。ふむ。お名前を伺っておくとしましょう。客人となるかも知れませんからな」
「鳴月 斎」
「良いお名前だ。では、貴方の未来を、少し覗かせて頂きましょう」
イゴールは、目の前にあるテーブルに掌を翳すと、掌とテーブルの間が一瞬発光する。
光が無くなると、そこには数十枚のカードがあった。
未来を覗くとは、どういう意味だ。
カードが出てきたということは、タロットか?
「占いは、信用されますかな?」
信じているわけではないが、まったく信じていないわけでもない。
微妙な感じです。
イゴールはその大きく見開かれた両目で俺を見た後、カードの上を左手を軽く払って見せた。
すると、カードは7つの場所に分かれ、残りのカードは消え失せた。
「常に同じカードを操っているはずが、まみえる結果は、その都度変わる。まるで人生のようですな。フフ、実に面白い」
イゴールは左手でカードをめくるような動きを見せると、俺から見て手前にある右下のカードが表になった。
「ほう…。近い未来を示すのは塔の正位置。どうやら大きな“災難”を被られるようだ」
「…」
タロットは詳しくない。占い全般と言った方が正しいか。
俺はイゴールに口を挟むことはせず、ただ黙って成り行きを見守る。
「そして、その先の未来を指し示すのは…」
イゴールは再びカードをめくる仕草で、今度は先程めくったカードの反対のカードが表になった。
「月の正位置。“迷い”、そして“謎”を示すカード…。実に興味深い…。貴方はこれから向かう地にて災いを被り、大きな“謎”を解くことを課せられるようだ」
つまり、俺の未来は“災難”、“迷い”、“謎”を被る未来にあるということか。
それが、事件のことだろうな。
どんな事件かは覚えてないけど。
「近く、貴方は何らかの形で“契約”を果たされ、再びこの場においでになることでしょう。今年、運命は節目にあり、もし謎が解かれねば、貴方の未来は閉ざされてしまうやも知れません」
節目の年…。謎を解かなければ、未来は閉ざされる。
怖いな…。
「私の役目は、お客人がそうならぬよう、手助けをさせて頂く事でございます」
もし俺にそんな未来が訪れたら、イゴールが協力者となってくれる。
ペルソナの合体!だな。
「おっと、ご紹介が遅れましたな。こちらはマーガレット。同じく、ここの住人でございます」
「お客様の旅のお供を努めて参ります。マーガレットと申します」
イゴールは右側に座っていた青い服を着て、黒いタイツを穿いた銀髪の女性へと目を向ける。
うーむ。何度見ても美人だ。
「詳しくは追々に致しましょう。ではその時まで、ご機嫌よう…」
イゴールがそう言った瞬間、俺は意識を手放した。
ハッと目を覚ますと、俺がいるのは電車の中。
ここは・・・・・・。
叔父には会ったことがあるようだが、俺はまったく覚えていない。
会ったのは赤ん坊の頃らしいから、当然と言えば当然か。
やっぱりイゴールに会ったな。原作通りか。
どんなことが待っているのかな。
「次は終点、○○駅~。稲羽市方面行のお客様は、3番ホームでお待ちください。忘れ物の無いよう、お願い致します。ご利用、ありがとうございました」
乗換か。降りなきゃ。
俺はボストンバッグを担ぐと、電車から降りて放送で言っていた3番ホームに向かう。
10分ほどでやって来た電車に乗り、目的地に向かう。
乗っている人はまばらで、座席はかなり空いている状況だった。
俺はボックスシートに近付くと、上の棚にボストンバッグを置き席に座った。
電車はゆっくり動きだすと、徐々にスピードを出して走り出す。
俺は頬杖をつきながら、窓の外に広がる街並みを眺める。
ボーッとしていると、次第に眠気が襲って来る。
今日は朝が早かったせいかな。さっきまで寝てたのにな。
再び、俺は眠りに襲われた。
「次は、八十稲羽~、八十稲羽~」
目が覚めると丁度、目的地に近付いていることを知らせる放送が流れていた。
時間はすでに夕方に近付いている時間だった。
東京からはかなり遠かった。
寝過ぎたせいか、何故か頭痛がする。
額を手で抑えていると、不意にフラッシュバックする。
見えたのは、鼻の長い老人と銀髪の女性。
どこかで見た?どこかで会った?夢の中で?
『今年、運命は節目にあり、もし謎が解かれねば、貴方の未来は閉ざされてしまうやも知れません』
頭の中で響く、老人の声。
・・・やっぱり、夢ではない。
これから向かう地で、何が待っているのか。
八十稲羽市についに到着すると、山に囲まれた街だった。
空気が良いね。
「おーい、こっちだ!」
駅を出て周囲を見渡していると、声を掛けられた。
そこには短髪に無精髭を生やし、スーツを着ているはずなのだが上着は肩に担ぎ、赤いネクタイはかなり崩していた。
原作通り、渋いね。
「おう、写真より男前だな。ようこそ、稲羽市へ。お前を預かることになっている、堂島 遼太郎だ。ええと、お前のお袋さんの弟だ。一応、挨拶しておかなきゃな」
「よろしくお願いします」
「しっかし、大きくなったなー。ちょっと前までオムツしててたと思ったが・・・」
叔父さんの言うとおり、母さんから聞く限り赤ん坊の時にあって以来、それ以来は会っていない。
「こっちは娘の菜々子だ。ほれ、挨拶しろ」
そういうと、叔父さんの後ろに隠れていた女の子を俺の前に押し出した。
初めて会うな。そして、可愛いな。
「・・・・・・。・・・にちは」
ギリギリ聞こえる程の声で挨拶をすると、顔を紅くして再び叔父さんの後ろに隠れてしまった。
……キャワイイ!…キショッ。
「ははっ。こいつ、照れてんのか?いてっ、ははっ」
叔父さんがそう茶化すと、菜々子ちゃんは叔父さんの尻をひっぱたいた。
仲良いんだな。菜々子ちゃんはすねてしまい、そっぽを向いてしまった。
さて、挨拶はしなければな。
「初めまして、菜々子ちゃん。鳴月 斎です」
「うん…///」
俺は菜々子ちゃんと目線を合わせると、笑顔で挨拶をした。
初対面の印象は大事だからな。
菜々子ちゃんの顔が見る見るうちに紅くなると、叔父さんの腰に顔を押し付け顔を隠してしまった。
「ははっ。こいつ、本当に照れてやがる」
叔父さんがまた茶化すものだから、菜々子ちゃんは再び叔父さんを叩いた。
「さぁて、じゃ行くか。車、こっちだ」
叔父さんは踵を返すと、菜々子ちゃんを伴って歩いて行く。
「…ねえ」
俺も後に続こうとした時、急に声を掛けられた。
振り向くとそこには、紅のチョーカーに黒のネクタイ、チェックのミニスカートに白と黒のハイニーソックスを穿いた可愛い女の子だった。
田舎にはそぐわない雰囲気を持った子だな。
だが、可愛い!って、マリーか!
出たな、ツンデレ!
「落ちたよ、これ」
彼女が差し出してくれたのは、念のために持って来ていた堂島家の住所が書かれたメモだった。
落ちてたか。
「ありがとう」
「別にいい。拾っただけだから」
それ以上は何も言わずに、少女は立ち去ってしまった。
また、そのうち会うでしょ。
「おーい、どうした」
彼女と話していて時間を掛け過ぎたようだ。
叔父さんに呼ばれ、俺は急ぎ足で車へと向かった。
「菜々子、シートベルトは締めたか?」
「うん」
「よし。じゃあ行くぞ」
叔父さんはアクセルを踏んで車を発進させると、家に向けて出発した。
叔父さんの家までの道中、俺は窓から見える街の風景を眺める。
車の通りも多くなく、人も多いわけではない。
「…東京とは大違いだな」
「お前の住んでた都会と違って、ここは静かだろ?お前にしたら、調子狂うんじゃないか?」
「そうでもないですよ。東京は騒がしいくらいです。こういう街の方が、俺には合っているかもしれません」
「ははっ、そうか」
紛れもない、俺の本心。俺は騒がしいのは嫌いだから、静かな方が好きだ。
それに、人が多いところも嫌いだ。
「お父さん、トイレ行きたい」
「何?…家まで我慢できないか?」
「うん」
「叔父さん、あそこにガソリンスタンドがあるけど」
「そうだな。ガソリンも半分を切ってたし、丁度良いか」
叔父さんはガソリンスタンドへと入ると、入れ違いで1台の車が出るところだった。
車には、【いなば急便】と書かれていた。
「らっしゃーせー」
車を停めると、すぐに店員が威勢のいい声を上げながら近付いていくる。
「トイレ、1人で行けるか?」
「うん」
叔父さんの問いに菜々子ちゃんは頷くと、2人は同時に車から降りた。
その話を聞いていたのか、店員がトイレの場所は左側だと教える。
箸を持たない方だというその言葉に、菜々子ちゃんはちょっと怒った口調で返すと、トイレへと走って行った。
菜々子が左利きだったら、どうするんだろうか。
日本人は右利きが多いから、大丈夫だろうけど。
「どこかお出かけで?」
「いや、こいつを迎えに来ただけだ。都会から、今日引っ越してきてな」
店員の問いに、車から降りて伸びをする俺を見て叔父さんは答えた。
「へえ、都会からすか」
「ついでに満タン頼む。あっ、レギュラーでな」
「ハイ、ありがとうございまーす」
「一服してくるか…」
叔父さんは店員にそう言い残し、一服するため歩いて行ってしまう。
俺はどうしよう…。空の雲でも眺めているか。
おっ、あれ魚みたいだ。鯖、鰆、鰯、鰤?
…自分で言っといて何だけど、どうでもいい
「君、高校生?都会から来ると、なーんも無くてビックリっしょ?実際、退屈すると思うよ~。高校の頃つったら、バイとするか友達んち行くかくらいだから。でさ、ウチ今、バイト募集してんだ」
マシンガントーク。俺、何も言ってないんスけど。
でもまあ、東京と比べたら行くところは無いな。
けど、だからこそのこの街だと思う。
でも、バイトか。考えてみようかな。
「ぜひ考えといてよ。学生でも大丈夫だから」
そういうと店員は右手を差し出してきたので、俺も右手を出して握手を交わした。
その瞬間、何かが俺の中に入って気がした。
……ん?
「おっと、仕事しないと」
店員は慌てた様子で、仕事に戻って行った。
気のせいか?気のせいだな。
すると、いつの間にか戻っていた菜々子ちゃんが俺を見つめていた。
その瞬間、頭に痛みが走った。
「大丈夫?車酔い?ぐあい、わるいみたい」
確かに菜々子ちゃんの言うとおり、長旅の疲れからか頭痛と軽く目眩もする。
「どうした、大丈夫か?」
「大丈夫です…」
「長旅だったろうからな。疲れが出たんだろう。無理もない」
叔父さんの言うとおり、ここまで結構かかった。
でも、さっきまでは何ともなかったのに…。
「散歩がてら、その辺でも見てきたらどうだ?戻ったら、声をかけてくれりゃいい。俺はここで待ってる。外の空気でも吸って来るといい。ついでに、ここは近所だからな。地理も簡単に覚えるといい」
「はい」
ここは東京とは違って、空気が良い。
東京の汚れた空気とは全然違う。
本屋の前まで来ると、マリーが立っていた。
ちょっと話しかけてみよう。
「あれ、どっかで会った?」
「駅で何を?」
「駅…?ああ、あの時の。…何もしてない。ちょっと行っただけ。…行くとこ無いから」
行くとこが無い?どういう意味だろうか。
かなり複雑な家庭環境と言うことか。
少女は黙り込んでしまった。これ以上、突っ込んで聞くのは失礼か。
そろそろ叔父さんのところに戻ろう。
「おう、もう大丈夫か?」
「はい」
叔父さんにそう答えるが、菜々子ちゃんは心配そうに俺を見上げている。
会ったばかりなのに心配してくれているのが嬉しくなり、俺は自然と笑顔が浮かぶ。
「大丈夫だよ。ありがとう」
「うん…」
菜々子ちゃんの頭を優しく撫でると、菜々子ちゃんは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
何か俺、照れさせてばっかだな。
自重しよう。
「よし、じゃあ行くとするか」
給油が終わった車に乗り込み、堂島家に発進した。
堂島家は、都会には無いような家だった。
これから1年間過ごす家だ。
夕食の時間になると、叔父さんが引っ越し祝いをしてくれるらしい。
8貫入った惣菜の寿司を準備してくれていたらしい。
寿司は好物なので、有り難いことだ。
特にイクラとマグロ。サーモンも好きだ。
苦手なのは、アナゴとウニ。何故か食えない。
前世で何かあったんだろう。
「じゃ、歓迎の一杯と行くか」
叔父さんのその言葉で、俺はアイスコーヒー、菜々子ちゃんはオレンジ、叔父さんはお茶を掲げ、乾杯する。
「しっかし、義兄さんと姉さんも相変わらず仕事一筋だな。今度は海外務めだったか?」
「はい。ニューヨークだそうだです」
「1年限りとはいえ、親に振り回されてこんなとこに来ちまって…。子どもも大変だな」
「そのお陰で、この街で新しい出会いもあると思いますので」
「前向きだな。姉さんみたいだ」
それは前からかな。父さん曰く、お前は母さんの血を継いでいるとのこと。
そうなのかな?
「まあ、ウチは俺と菜々子の2人だし、お前みたいのがいてくれると俺も助かる。これからは家族同士だ。自分の家と思って、気楽にしてくれ」
「よろしくお願いします」
「…堅いな。言っただろ、これからは家族だ。敬語は止めろ」
「そう?じゃあ、わかった」
「…お前、本当に姉さんそっくりだな」
そうだろうか?今まで父さん似だと思ってたんだけど、やっぱり違うらしい。
「さて、じゃ、飯にするか」
全員が寿司へと手を伸ばしたその時、携帯の着信音が鳴り響く。
俺…ではないようだ。
「ったく…。誰だ、こんな時に。…堂島だ。…」
叔父さんは携帯を取り出すと、苛立たしげに携帯に出る。
電話の相手から何か言われたのか、叔父さんの表情が険しくなる。
「…ああ…ああ、わかった。場所は?…わかった。すぐ行く。酒飲まなくてアタリかよ…」
仕事の電話かな?そういえば、叔父さんが何の仕事をしているのか知らないな。
確か……刑事か。
「仕事でちょっと出てくる。急で悪いが、飯は2人で食ってくれ。帰りは…ちょっと分からん。菜々子、後は頼むぞ」
叔父さんは電話を切ると、俺たちにそう言った。
こんな時間に仕事か。大変だな。
そんなことを考えながら、俺は途中だった寿司へと手を伸ばす。
あっ、美味い。
叔父さんと菜々子ちゃんが何か話しているが、俺の意識は目の前の寿司に集中している。
菜々子ちゃんはテレビを点けると、天気予報がやっていた。
…明日は雨か。…それより、寿司だ。
菜々子ちゃんに聞いてみるか。
「菜々子ちゃん。お父さんの仕事って?」
「しごと…ジケンのソウサとか。お父さん、刑事だから」
刑事か。当たってた。じゃあ、叔父さんが呼ばれたのは事件か。
「ニュース、つまんないね」
確かに、小さい菜々子ちゃんにはつまらないか。
俺はニュース好きだけどな。昔はつまんないと思ってたけど、最近はそうでもない。
父さんには、お前のオヤジ化が最近酷いと言われたこともある。
本物のオヤジに言われたくないって言ったら、泣いて逃げて行ったけど。
「ジュネスは、毎日がお客様感謝デー。来て、見て、触れてください。エヴリディ・ヤングライフ!ジュネス!」
「エヴリディ・ヤングライフ!ジュネス!」
テレビに流れるCMに、菜々子は楽しそうに繰り返した。
好きなんだな。可愛いから無問題。
食事も終わり、菜々子ちゃんの後に風呂にも入る。
叔父さんから割り当てられた部屋に入ると、あらかじめ郵送していた段ボールが積まれていた。
荷解きもしなきゃいけないけど、今日は無理だ。
長旅で疲れて、かなり眠い。今日はもう寝よう。
ふと目が覚めると、眠りについた布団の中ではなかった。
周囲は濃い霧で覆われ、2・3m先しか見えない。
さて、ここはどこだ。
これは記憶にないな。ここからはストーリーに入っているってことか。
ここがどこかは知らないが、進んでみるしかなさそうだ。
―――――真実が知りたいって?
!?
今の声は…。誰かいるのか?
だが、この霧では誰かいたとしても見つけるのは難しい。
歩いていると、再びどこからか声が響く。
―――――それなら、捕まえてごらんよ。
誰か知らないが、挑発されているようだ。
奥から聞こえてくるような気がする。
行ってみるか。
しばらく進むと、目の前に何かが見えてきた。
これは、扉か?
触ってみると、扉のような物が開いた。
扉の向こう側へと足を進めていると、正面に誰かの気配がする。
……。
警戒しながら進むと、再び声が聞こえる。
―――――追いかけてくるのは…君かい…
霧で姿をはっきりと視認することは難しいが、おぼろげにだが輪郭は分かる。
―――――ふふふ…やってごらんよ…
また挑発・・・。何だ、こいつ。
でも、そっちがその気なら・・・。
俺は駆けると、右足で地を蹴ると左足で影の側頭部目がけて脚を振る。
悪漢対策の格闘技が役に立つ時が!
!!
―――――へえ…この霧の中なのに、少しは見えてるみたいだね…
役に立ってねぇ…。
つうか、手応えが無かった…。
避けられた?いや、確実に当たった。
俺はもう一度影に接近すると、掌底で攻撃を繰り出す。
だが、やはり手応えは感じられない。
どういうことだ……。
幽霊?
―――――なるほど…。確かに…面白い素養だ…。
素養?どういう意味だ。
確かに、ということは俺のことを知っている?
ヤダ、ストーカーかしら?
ちょっとカマっぽくなっちまった。
―――――でも…簡単には捕まえられないよ…。求めてるものが“真実”なら、なおさね…。
何を言っているんだ、こいつは。
―――――誰だって、見たいものだけを、見たいように見る…。そして霧は、どこまでも深くなる…。
霧?周りに広がっている霧のことか?
それとも、何か別の意味があるのか?
―――――君とは、不思議とまた会える気がするよ…。こことは別の場所で…。楽しみに待っているよ…。
ストーカーとはもう会いたくないな。
この街に来てから、変なことばっかりだ。
いよいよ、原作の始まりか。
嫌な予感がするよ、まったく…。
俺の意識は闇へと沈んで行った。
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