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真田十勇士

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巻ノ七十 破滅のはじまりその三

「その時太閤様はいたく落胆しておられた」
「お市の方のご自害に」
「そうされておられた」
「やはりそうでしたか」
「そうしたことを見るとな」
「太閤様はお市の方を慕われていて」
「生き写しの茶々殿にな」
 まさにというのだ。
「思い入れが強いのであろう」
「左様ですか」
「うむ、それでじゃ」
「そのことはわかりました、ですが」
 ここまで聞いてだ、幸村は考える顔になった。そのうえで秀次に問うた。
「太閤様は茶々殿にとってはです」
「親の仇じゃな」
「そうなりますな」
「あの方は小谷城攻めの陣頭に立っておられた」
 浅井長政の本城だ、茶々の父の。
「小谷城が落ちてな」
「それでお父上が自害され」
「そして北ノ庄城でな」
「お母上が」
「どちらもご自身は二人の妹君と共に助かっておるがな」
「はい、幸いに」
「しかしそこで兄上もじゃ」
 茶々のだ、名を万福丸といった。
「太閤様がな」
「捕らえた後で関ヶ原で処刑されましたな」
「田楽刺しのうえ磔になった」
 その万福丸はというのだ。
「そうしたこともあった」
「では太閤様を」
「深く恨んでおられたであろうが」
「その茶々殿が」
「太閤様はお気に入りじゃ」 
 まさにというのだ。
「誰よりもな」
「そうなのですな」
「うむ、よくお傍におられて今はな」
「その茶々殿も」
「太閤様を慕われている」
 かつては深く強く恨んでいたがというのだ。
「そうなった」
「そうなのですな」
「仇の室になるのも戦国の世のならいじゃが」
「それでもですな」
「その茶々殿すら惹き寄せる」
「それが太閤様ですな」
「天下無双の人たらしと言われるだけはある」
 秀吉、彼はというのだ。
「まさにな」
「ですな、確かに」
「もう太閤様はお子は諦めておられる」
 秀次はこのことについてもだ、幸村に話した。
「最早な、それがな」
「関白様としましては」
「悲しくある、わしはこう考えておる」
 秀次は幸村に己の考えも話した。
「わしは太閤様の跡を継ぐ」
「そして天下人となられますが」
「次の天下人はわしの子ではなくな」
「太閤様のお子を」
「そう考えておる、若しくはわしは天下人にならずな」
 そうしてというのだ。
「お子に天下人になって頂き」
「後見人にですか」
「なろうと思っておるのだ」
「そうでしたか」
「だからな、何とかな」
「太閤様にはですか」
「諦めず」
 そのうえでというのだ。
「お子をもうけるようにされて欲しいが」
「しかしですか」
「こればかりはな」 
 子宝を授かることはというのだ。 
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