真田十勇士
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巻ノ七十 破滅のはじまりその二
「そうされておられる」
「左様ですか」
「太閤様のご側室は多いがな」
「その中でもですな」
「うむ、茶々殿がお気に入りでな」
それでというのだ。
「今もじゃ」
「よく一緒におられますか」
「そうじゃ、あの方とは」
「茶々殿はです」
幸村もその茶々について話した。
「かつて太閤様のお子を生まれていますな」
「捨丸様じゃな」
「そうでしたが」
「太閤様はお子はな」
「どうしても」
「ずっと恵まれておられなかった」
若い頃から女好きでそのことでねねと何度も大喧嘩になり信長が嗜めることもあった。この時信長はねねに手紙も送っている。
「それがじゃ」
「茶々殿との間にはですな」
「お子が出来たからのう」
「余計にですな」
「あの方が特にお気に入りじゃ、それに」
秀次は幸村にさらに話した。
「あの方はな」
「はい、お市の方のご息女で」
「お市の方に最もよく似ておられる」
「その話それがしも聞いたことがあります」
幸村も秀次にこう返した。
「大層お奇麗な方だと」
「そうじゃった、織田家はお顔立ちの整った方が多いが」
信長にしてもそうだった、彼は生前その整った顔立ちでも知られていた。彼の次男織田信雄もその顔立ちは有名である。
「その中でも特にじゃ」
「お市の方は」
「見事なお顔立ちの方で背も高く」
秀次は幸村にこのことも話した。
「非常にお奇麗であられた」
「そしてですな」
「そのお市の方にな」
「茶々殿は最もですか」
「似ておられるのじゃ」
そうだというのだ。
「生き写しと言ってもいい」
「そうですか」
「うむ、実にな」
「そういえば太閤様は」
「時折世で言われておるな」
秀次も幸村に応えて話した。
「お市の方を慕われていたと」
「それはまことだったのですか」
「表立っては言えぬが」
ここで秀次は小声になった、幸村は信頼出来る者だとわかっているが自然とそうなってしまったのである。
「しかしな」
「それでもですか」
「太閤様は慕っておられた」
「やはりそうでしたか」
「これはあくまで内密の話じゃがな」
「それでもですか」
「この話はまことじゃ」
こう幸村に話した。
「太閤様も誰にも言われぬが」
「見る限りは」
「北ノ庄の城が落城してじゃ」
ここで柴田勝家は滅んで秀吉の天下は確かなものになった、そしてこの時にお市の方も夫であった柴田と共に自害しているのだ。
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