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提督はBarにいる。

作者:ごません
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出撃・礼号作戦!~礼号作戦本番、の前に……~

 棲姫を倒したとはいえこれはまだ前哨戦。本チャンはここからだ。集積地に棲まう棲姫……仮に【集積地棲姫】としておこうか。今までの経験から鑑みるに陸上型と呼ばれる姫級は手強い物が多い。

 飛行場姫が最たる例だ。あの子憎たらしい二本角の姫に、何度煮え湯を飲まされた事か。戦艦並み、下手をすればそれ以上の砲撃火力に分厚い装甲、正規空母数隻に並ぶとも思われる航空兵力。そして駆逐艦・軽巡必殺の魚雷攻撃も、陸上建造物だから当然効かない。打つ手なしかと言えばそうでもない。

 戦艦・重巡が積み込める三式弾、軽巡・駆逐が積み込めるWG42艦対地ロケットランチャーが有効であろうと予想が立てられる。

 三式弾……正式名称は『三式焼霰弾』だったか?時限信管で中に充填された可燃性ゴム弾や硫黄マグネシウム等が燃焼しながら散弾銃のように飛散して攻撃する、という代物だ。太平洋戦争中に実際に戦艦で使われていた物だと、ソフトボール大の燃えるゴム弾が飛んできたらしいからな。人間に当たればひとたまりもないだろう。ただ、この弾は対空兵装、つまりは航空機を狙うために開発された物らしい。大して航空機には真価を発揮できなかったようだが、別の所で日の目を見た。

 それは対地攻撃。『広範囲』を『焼き払う』事が可能な三式焼霰弾は対地攻撃にはうってつけだったようだ。艦娘の使う三式弾も、この三式焼霰弾をベースに艦娘が使いやすいように妖精さんが改良した物らしい。

 もう1つがWG42。同盟国ドイツの科学力の一端が垣間見える装備だ。

 元々は陸軍の略式榴弾砲として使われていた物を、水中発射可能なように改造した物らしい。太平洋戦争当時の計画ではこれをUボートのU-511に積んで水中からニューヨークを爆撃する、という計画があったらしい。しかし潜行中の航行に支障を来したりと問題だらけで計画は頓挫、そのままドイツは敗戦という歴史がある。

 今回はそのリベンジのつもりだったのか、U-511が此方に派遣されて来る時に設計図や仕様書が一緒に送られてきて、妖精さんが完成させてくれた物を使っている。三式弾よりは威力は落ちるのだろうが、軽巡や駆逐、潜水艦など比較的非力な艦娘でも運用が可能なのがメリットか。

 さてさて、何でいきなりこんな俺らしくもない兵装の話やら何やらをしているかと言えば、

「だーかーらー、戦艦と空母をメインにした艦隊で敵艦隊を吹っ飛ばしてやるネー!」

「はぁ!?アタシ達礼号作戦組が主軸になって戦った方が良いに決まってんでしょ!」

 今目の前でウチの嫁さんと史実では旗艦だった霞が、今にも取っ組み合い寸前のバチバチの喧嘩をやらかしてやがるので、現実逃避してました。



 今は潜水棲姫を撃破してから数時間が経過した所。第二段階である礼号作戦の本チャンに向けての作戦会議中。過去の作戦を知る霞と、ウチの最高錬度である金剛とが真っ向から対立してしまった。

「陸上型の姫と言えば戦艦の独擅場デース!最近やっと改ニになったばかりの小娘が生意気言うなデース!」

 おい金剛、幾ら頭に血が昇ってるとは言え今のは言い過ぎだ。

「はぁ!?錬度が高くて提督のお気に入りだからってそれに胡座を掻いてるオバサンには言われたく無いわよ!」

「What!?今何て言いましたか!?」

「オバサンよオ・バ・サ・ン!オバサンになると耳まで遠くなるのかしら?」

 どんどんヒートアップする二人。対して周りの嫁艦共は二人の喧嘩を止めるでもなく、間宮が差し入れてくれたアイスをパクついている。……まぁ、かくいう俺もそうなんだが。

『オイ、誰か止めろよいい加減に。』

『えー、ヤですよぉ。折角の間宮アイスを犠牲にしてまで喧嘩の仲裁なんて。』

『あら、意外な所で気が合うわね瑞鶴。』

 特に不満げなのは加賀と瑞鶴。普段は他所で聞くほど犬猿の仲ではないがそれほど親密な訳でもない二人だが、妙な所でウマが合う。

『そうですね、金剛さんは提督の伴侶なワケですから責任を以て提督が仲裁すべきかと。』

 あらら。優しい顔して結構辛辣だね翔鶴。……ハァ、仕方ねぇか、俺が止めるとしよう。俺は席を立ち上がり、バトルしている二人の傍らに立った。

「うぉ~いお前らー、いい加減にしとけよ~?作戦会議が纏まらんわ。」

「「アンタは黙ってて(るデース)‼」」

 同時にハモってきやがった。カチンと来たぜ。




 瞬間、執務室に響いたのはガツン、という衝撃音と、

「「いったああああああぁぁぁぁぁい!」」

 再びハモった二人の悲鳴だった。あんまりにもしつこいから昔取った杵柄で喧嘩両成敗の鉄拳制裁。二人は脳天押さえてうずくまったまま動かない。

「う、うわぁ……相変わらず提督の拳骨は痛そうです。」

「ひ、ひえぇ~……」

「は、榛名も久し振りに見ました……」

 五航戦の二人は呆気に取られている。無理もない、二人が着任したのは先代の加賀を失った後だ。その頃の俺は昔のような鬼軍曹と呼ばれそうな感じではなく、今の昼行灯に近い状態の俺だったから、滅多に怒ることは無くなっていた。

「いい加減にしろよテメェ等。こちとら作戦考えるのに忙しいんだよ、解るか?俺の仕事の邪魔すんじゃねぇよ。」

「な、何よ!今更昔に戻ったって怖くなんかーー……」

「怖くなんか……何だ?霞よぉ。新人の頃に口のききかたがなってないって絞られたのを忘れたか?あ?あの時泣き喚いて許しを乞うたのを忘れたってのか。」

 霞はハッとしたような表情でみるみる内に青くなり、カタカタと震え始めた。古参の古い生意気だった艦しか知らないトラウマのスイッチが入ったらしい。

「忘れたってんなら……思い出させてやるが?」

「ひっ、い、いえ……結構です!すいませんでした!」

 霞の震えはますます大きくなり、目からは大粒の涙が今にも零れそうだ。ここでオイル漏れ(意味深)されても困るし、脅かすのはこのくらいにしとくか。

「解ればよろしい。金剛も良いな?ったく、あんまり手間かけさせんなよな~…っと。」

 二人の頭を撫でてやると、そのまま崩れ落ちるようにへたり込み、俺は再び席に着いた。その日以降、瑞鶴以下後発組の中には『提督を怒らせるな』という暗黙のルールが出来たとか出来ないとか。 
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