提督はBarにいる。
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大掃除と年越しと
今日は12月30日。我が鎮守府恒例行事となっている一斉大掃除の日だ。今日は完全に寝不足(というか寝てない)だが俺も早起きし、食堂に全員を集めて朝礼をする。食堂には駆逐艦から特殊艦まで全員が揃い、顔を見ると寝起きらしき奴や飲み過ぎで死んだ魚のような目をした奴もいる。しかしそんなのは関係ない。この大掃除は全員参加と決まっている。
「えー、毎年恒例ではありますが鎮守府全体の大掃除の日がやって来ました。例年通り公共のスペースはくじ引きで、個人の部屋は各個人毎の担当となります。なお、サボり・逃走を犯した者がいるグループには年末年始の宴会の参加及びお節・年越し蕎麦の支給は無い物と思うこと。以上!」
ここで担当区域の書かれた割り箸を筒に入れた大淀が一歩前に出る。
「えー、それでは各グループの代表者はくじを引きに来てください。掃除の進捗は私に報告するように。終わり次第チェックに参ります。」
各グループ6隻ずつに別れた中の代表者がくじを引いていく。何故か金剛がくじを引いた瞬間にガッツポーズをしていた。くじがチラリと見えたが、『執務室』とあった。……何をする気かは分からんが後でチェックに行かねば(使命感)。俺はというと、鳳翔・間宮・伊良湖・浦風・雷等といった料理の上手い艦娘達と共に、お節と年越し蕎麦の仕込み役だ。
「さぁて、俺は何をする?」
「……では、私とお餅をつきましょうか。」
そう名乗りを挙げたのは鳳翔。臼と杵は既に用意してあるし、餅米も蒸かし上がっているらしい。
「しかし毎年餅つきの担当は長門じゃなかったか?」
毎年の餅つき担当は長門と鳳翔だったと記憶している。その間俺は天ぷらや年越し宴会用の刺し身を捌いたりとバタバタしていたのだが。
「長門さんは……そのぅ…」
言い澱んでしまった鳳翔さんに見かねたのか、浦風が口を開いた。
「長門さんは今頃、大淀さんの監視付きで部屋の整理をしとる頃じゃ。…何でも、憲兵さんに連行スレスレの写真が大量に見つかったとかでの。」
「そうそう、しかも青葉さんと衣笠さんも一緒に捕まったらしいわ!」
浦風の言葉に雷が続く。もういい、判った。その面子だけで何が起きたか判ったから、これ以上俺の頭痛のタネを増やさないでくれ。
仕込みをしていた食堂から出て、臼と杵をセッティング。臼と杵の先はぬるま湯で湿らせて餅がくっつかないようにしておく。
「餅米持って来ましたぁ~!」
伊良湖が湯気の立ち上る大鍋を抱えて、パタパタと忙しなく走って来た。おいおい、頼むから転ぶなよ。鍋に入った餅米を臼に移すと、
「でっ、ではつき上がり次第おかわりを持ってきますのでっ!」
そう言い残して再びパタパタと走っていった。普段もあんなに落ち着きが無いのだろうか?
「フフフ、提督と接する機会が少ないですからね。緊張しているんですよ、きっと。」
苦笑いする鳳翔。おいおい、寧ろ怯えてるように見えたんだが。
「なら、提督のお顔が恐いのでは?」
勘弁してくれ。そんな事言われたらガチで凹むから。……おっと、こんな無駄話をしている暇は無かったな。餅米は熱い内につきあげてしまわなければ上手く餅にならない。
「さぁ~ってと、行きますか?」
「はい、いつでもどうぞ♪」
とは言ったものの、いきなりドンドンとついてはいかない。先に杵を細かく動かし、捏ね回すように餅米の粒を粗めに潰す。その際、返し役の鳳翔が適度に水を足し、水分量を調節する。ある程度粘りが出てきた所で本格的な餅つきスタートだ。
「行くぞ……そらっ!」
「よいしょ♪」
「うりゃっ!」
「はいっ♪」
俺が臼の中心をつくように杵を振り下ろす。鳳翔はついた部分を回すようにして位置をずらし、まだ粒の残っている所を中心に持ってくる。それを10分~15分繰り返す事により、柔らかく粘りのある餅がつき上がる。
「ふぅ、結構疲れるな。」
「お疲れみたいですけど……提督?まだまだついていただかないといけませんからね?」
鳳翔が満面の笑みでニコニコと笑っている。
「へっ?」
そこに、再びパタパタと大鍋を抱えた伊良湖がやって来た。
「お、おかわりをお持ちしましたぁ。」
息を切らして伊良湖が持ってきた鍋の中身は、当然のように蒸かした餅米。
「ちなみにだが……鳳翔?さっきついたので何人前だ?」
「えぇと……ざっと10人分、といった所でしょうか。」
それから4時間近く、昼飯時まで一心不乱に餅をつき続けた。死ぬかと思った。
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