提督はBarにいる。
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提督の麻雀教室・その3
さて、俺が絶賛絶体絶命なんだが、今の状況を整理してみよう。那珂の鳴いたのは3副露……つまりは完成している面子が3つ。二・三・四索の順子と六索・發の暗刻。これだけで發、ホンイツ、ドラ3の跳ネ満確定の手なのだが派手好きな那珂の性格を鑑みるに恐らくは役満・緑一色狙いだろう。つまり、那珂の抱えているであろう牌は二・三・四索の順子か刻子、または八索の刻子。そして雀頭だろう。恐らくは既にテンパイしているだろう事から、俺の今ツモった八索はかなりの危険牌。
だが、俺は今リーチ中の状態。和了り牌のツモでなければ切らなければならない。当たらないのを祈るのみだ。
「提督~、早く切っちゃってよぉ。」
せっかちな川内はイライラしながらお代わりに作ってやったジントニックを煽っている。
『えぇい、ままよ!』
ツモった八索を勢いよくタンッ!と卓に叩き付ける。和了られたならそれまでだ、今日は俺の日じゃなかったって事だ。……しかし、那珂からはロンの声は聞こえない。どうやら、首の皮一枚繋がったらしい。思わずフーッと息を吐き出したら、
「提督さん?そんなに緊張する必要ないと思いますけど?」
と、隣でカルーアミルクを啜っていた由良に突っ込まれてしまった。
「いや、昔のクセというか何というかな。貧乏学生の頃は少ないバイト代を賭けて稼いでたんだよ。」
「えぇ~?提督賭博やってたの?ダメなんだよー、捕まっちゃうよ~?」
黒霧島を4合飲み干し、良い感じに顔が紅くなってきた那珂がとばをかじりながらそう横槍を入れてきた。確かに、賭け麻雀は賭博法違反で捕まる歴とした犯罪行為だ。だが、昔は暗黙の了解というか、仲間内でやっているなんてのはザラにある事だった。何せ警官なんかもやったりしてたんだから取り締まる側も甘かった時期が確かにあった。
※あくまで個人の見解です。
「いいんだよ、今はやってないんだから時効だろ。ホラ、由良のツモ番だぞ?」
由良のツモは白だったようだ。手牌に無かったからか、即ツモ切り。そして川内のツモ番に回る。山から一枚取り、確認する。その顔には落胆のような苛立ちのような物が見てとれる。
「う~、揃わないぃ!」
イラついたように四索を河に捨てる川内。それは素人故の無警戒だったのか、それとも単なる気の緩み……慢心から来る物だったのか。それは定かではないが確かに四索は捨てられたのだ。瞬間、
「川内ちゃん、油断したね~?ロンだよっ‼」
パタリ、と手牌を倒す那珂の手牌は予想通りの緑一色。しかも八索は頭の四索単騎待ち。本当に間一髪でかわしていたらしい。その時、由良がクスリと笑って手牌を静かに倒した。まさか、由良の待ちも四索だったのでは?そんな事を一瞬考えたが今はそれよりも那珂の和了りだ。まさかまさかの麻雀初心者が役満和了り。その運も大した物だ。
「えぇ!?じゃあ私が1発で負けちゃったの!?何それ、戦艦の直撃喰らうよりショックかも……。」
オイオイ、そういう不吉な話は勘弁してくれ。そんなこんなで那珂と川内の初の麻雀は幕を閉じ、二人は麻雀にドはまりしてしまった、というワケだ。それから数年が経つが、未だに麻雀熱は冷めやらないどころか、最近では漫画やアニメの影響か徐々に麻雀に興味を持つ艦娘が増えているらしい。
「さぁ、もう半荘行くよ!」
眼がギラギラとたぎった状態の川内が牌を卓の中にガラガラと落とす。全自動卓は積むのが無いから楽で良いよな。そしてふと、気になったので隣に着席していた由良に訊ねてみた。
「なぁ由良、実はあの時お前も和了ってたんじゃないのか?」
「? いつの事?」
「那珂と川内に初めて麻雀教えたあの時だよ。」
「……あぁ、あの時ね。」
そう言うと由良はクスリと笑って此方にグラスを渡してきた。
「別に良いじゃない?那珂ちゃんの役満和了りで決着付いたんだし。…それに、弱ってる相手を叩いてもつまらないでしょ?」
キール・ロワイヤルお願いしますね、と言いながら此方にそう言って笑顔を向けてくる由良。やれやれ、こういう手合いが一番手強いんだよな。俺はカウンターに立ち、キール・ロワイヤルに使うスパークリングワインとクレーム・ド・カシスを仕度しながら苦笑いした。
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