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提督はBarにいる。

作者:ごません
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秋祭り~The after story~

 あの騒々しかった秋祭りから2週間経ったある夜、俺は店に二人の艦娘を呼び出した。理由は単純、「事情聴取」の為だ。勿論、公的な物じゃない。あくまでも個人的、私的な知識欲……好奇心を満たす為の物だ。

「提督、来たぞ。」

「おぅ、入れ入れ。」

 簡単な言葉のやり取りの後に、扉が開かれる。そこから入ってきた二人は、まるで母娘のような身長差だった。

 一人は褐色の肌に銀髪。制服に収まりきらない胸をサラシで巻いて抑え、前をはだけている。昔本人に聞いたのだが、「ボタンを止めようとしたらボタンが弾け飛んだ」らしく、以来止めていないらしい。銀縁の角眼鏡の下の眼差しは、まるで猛禽類のような鋭さだ。黒い革のグローブに納められた拳も、その佇まいで威力を物語る。ただ、その右手は今は首に添えられて、脛椎の辺りをゴキゴキと鳴らしていた。

「やれやれ、エラい目に遭った。お陰で身体中がバキバキに固まってしまった。」

 不満げにそう漏らす彼女は武蔵。大和型の二番艦であり、ウチの店の常連だ。

 もう一人の方は白い肌に武蔵と比べると華奢な体つき。しかし、その自慢の速力を産み出す脚はスプリンターのようにしなやかだ。しかしながら、その服装は露出狂なのでは?と疑いたくなりそうな物だ。紅白のニーハイに尻が丸出しになる程短いスカート、その下に履いているのはZ旗がモチーフだという紐のようなパンツ。肩口までしか袖がないセーラー服に、白い長手袋、極めつけに何故か黒いウサ耳のカチューシャ。艦娘でなければお巡りさんに補導待ったなしな格好と言えるだろう。

「うぅ~…、アタシ臭くないよねぇ?10日振りのお風呂だったから、自分が臭くないかどうかもわかんないよぉ。」

 そう涙目で話すのは島風。島風型駆逐艦の一番艦で、悪戯好き。いつも鎮守府内を駆け回り、その頭のウサ耳のせいか元気一杯に跳ね回っている。

「アホゥ、そりゃ自業自得だろうが。…ホレ、さっさと座れ。」

 俺はそう言って、二人に着席を促した。



「ホレ、まずはおつとめご苦労さん。」

 そう言って二人の前にグラスを置き、ビールを注いでやる。

「フン、放り込んだ本人に労われても嬉しくないぞ?」

「そーだそーだ~。」

 ゴン。瞬間的に二人の頭部に拳骨をいれてしまった。二人共頭を抑えて痛そうにしているが、こっちの手も尋常じゃない位痛い。特に武蔵、お前の頭蓋骨は超合金か。

「ったく、営倉に10日間じゃ足りなかったか?本来ならお前ら解体処分でもおかしくなかったんだぞ?」

 お~痛て、と両手を振りながら俺がそう言うと、二人はぶすっとして口を閉じた。そう、この二人は先日軍規違反をやらかし、つい数時間前まで営倉に入れられていた。拘束付きで。そして解放された後で風呂に入れ、ここに呼び出したのだ。罪状は『無断での出撃及び戦闘用艤装の無断持ち出しと使用』。私的な理由から艤装を持ち出し、戦闘行為を行ったという罪状だ。艦娘は軍属の人型兵器、その艤装を無断で私的に使う事は軍艦を私用に使うのと同義。どうにか監査のついでに取り調べに来た染嶋達は上手い事とりなしたが、下手を打つと二人共解体処分になってしまっていた。

「なぁ武蔵よぉ、俺も俺なりに調べあげてんだ。あの時何でお前が勝手に出撃してたのか。」

 あの時とは、美保から来たというあの一団を見送ったあの朝だ。あの時、既に武蔵と島風は鎮守府を抜け出して二式大艇の飛行ルートへと先回りして待機していた。そうでなければ武蔵の速力であの一行が戦闘を繰り広げた海域には間に合わない計算だ。つまり、武蔵はあの時敵艦隊の襲来を予見し、待ち伏せしていたのだ。

「あの時お前は二式大艇が襲われると考えて飛行ルートを予測。それを護る為に待ち伏せして敵艦隊を攻撃した。違うか?」

「ふっ!……くっくっくっ、あっはっはっはっは‼」

 突然武蔵が大爆笑。何だよ、コッチは真面目な話をしてるんだぞ?

「いや、いやいやいや。存外提督も頭が堅いのだと思ってな。」

 くっくっ、とまだ笑いが収まらない武蔵は、否定の意を示すように右手を左右に振ってみせる。



「私が無断で出掛けた理由だと?それはな提督、あの提督を私は気に入ってたんだ。一目惚れ、といっても良いかも知れんな。」

「……は?」

 あまりの答えに言葉を失った。武蔵があの美保の提督に一目惚れだと?

「それでな。照れ臭いのと仕事上で、彼には強く当たってしまった。だから一人で静かに見送りたくてな。こっそりと抜け出そうとしたら島風に見つかってしまったのだ。なぁ島風、そうだったよな?」

「おっ、おぅ?……そ、そうだよ提督っ、武蔵さんにアタシは勝手に付いてったの!」

 いや、絶対嘘だよなコレ。でもまぁいいや、結果的に美保の一行は助かったみたいだし。コイツらが反省しとるかは解らんが、まぁ営倉にいる間は大人しくしとったから、それでチャラって事にしといてやろう。

「はぁ。まぁ、そういう事にしといてやろう。今日は謹慎明けだからな、お前らがまだ味わえてないだろう秋の味覚を喰わせてやるよ。」

 はぁ、俺もまだまだ甘いねぇ。 
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