提督はBarにいる。
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惚れた弱味
「するってぇと、後は金剛型の四姉妹の誰か、っちゅう事になるのう。」
ウチのケッコン艦メンバーを思い出しながら荒木がそう宣った。げ、どんどん核心にせまってやがる。ヤバイぞこれ、どうすんだコレ。
「へぇ、金剛さん達皆とケッコンしてるのね!」
「でもそれって、本命さんを隠すためのカモフラージュ……だったりして。」
おいおい、さっきからクルツのトコの夕雲が物凄いニアピン発言連発なんだけど。今胃がキリキリと絞り上げられてる気分なんだけど。これが世に聞く女の艦、もとい女の勘って奴なのか。すると此方をチラリと見た夕雲、確信を持ったように妖艶な笑みを浮かべる。
「やっぱり。本命さんは金剛さん達姉妹の誰かね?」
ゲ、まさかさっきの会話に対する俺のリアクションを観察してやがったのか!?それを聞いた酔っぱらい共、やおらテンションが上がる。
「よ~し、じゃあ金剛四姉妹の中から、コイツの本命を探って行きましょ~っ‼」
「「「「おー‼」」」」
ハァ。もう好きにして下さい……。
「じゃー下から順に……まずは霧島さん!」
「うん、まぁ。霧島さんなら不思議じゃないですよね。」
「そうよねぇ。戦艦としての実力は申し分無いし。」
「『艦隊の頭脳』の二つ名通り、秘書艦能力も高いし。」
「改二になってからは更にオンナに磨きがかかったよな、彼女。」
「眼鏡っ娘で末っ子、男の人ってそういうの好きですし。」
ジトッとした目でコッチを見てくる大和。まぁ否定はしないが。確かに霧島は可愛らしいとは思う。それに、改二になってからは長門型に勝るとも劣らない火力を叩き出す、難関海域の突破には欠かせないメンバーとなっている。それに、他の艦に比べても事務処理能力は高いし、意外と何をやらせてもそつなくこなす。酒も強いから、俺に付き合って飲んでくれる事もしばしばあり、非の打ち所がない女性といった感じだ。だが、それがまた逆にネックだったりする。
「けどのぅ。そういうオンナを好む男もいるじゃろうけども、コイツはそういうタイプじゃあないしのぅ。」
そう、そうなんだよ荒木。流石に解ってるな、お前は。
「えっ、なんで?悪いところが無いなら良いじゃない。」
叢雲がむくれたようにそれに突っかかる。
「何て言うか……ねぇ?」
「男はネ、女性に『弱さ』を求めるんだよ、本能的に。」
サラトガのグラスを傾けながら、語り始めるクルツ。
「男は本能的に、『女性は守る者だ』という意識がある。それなのに、守る必要が無いと言われると、途端に困ってしまうんダ。」
まぁ、それに近い感覚だろう。相手の足りない部分を補ってこそのパートナーだと思うし、そういう所を補いたいと自然と思えるのが愛だと、俺は思うがね。
「まぁ、霧島はしたたかだからな。意外と既に彼氏が居たりしてなw」
有り得なくはない、と思ってしまった俺がいる。
「じゃあ次は三女の榛名さん!」
「彼女こそ良妻賢母、って感じですよねぇ。」
「ただただ健気だし。」
「可愛いしなぁ。」
「何て言うかこう……守ってあげたい!って思えるよなぁ自然と。」
うへへへ……、とニヤつく男性陣を冷ややかな視線で眺める女性陣。うわぁ、他の女の話題で盛り上がってるとこんな顔されるんだなぁ。気を付けよう。
確かに榛名は健気だ、何をやらせても一生懸命だし細かい所に気が付く。こういう奴が嫁さんだと、旦那は仕事に集中させてくれそうだよな。……けどなぁ、榛名はなぁ。
「でもさぁ、榛名ちゃんて重そうだよな。」
赤ら顔の染嶋が、唐突に言い放った一言。これが榛名に躊躇する一番の理由では無かろうか。個人の勝手なイメージかもしれないが、榛名はその愛情表現が重そうなのだ、何となく。
俺も大将という立場上、同じブルネイ泊地に在籍する提督のまとめ役のようなポジションを担う事がままある。そういう時によく話題に挙がるのが『鎮守府の中での生活』、特に嫁艦との生活に関して……つまりはノロケ話だ。カッコカリとはいえ、まがりなりにも『嫁』なのだ。勿論、夫婦らしい過ごし方も認可されているし、大本営も提督のストレス軽減に効果があると寧ろそれを推奨している。そんな中でもよく名前が挙がるのは榛名だ。健気に尽くしてくれる優しい美人……男には堪らないだろう。だが同時に、嫁として苦労するとの話をよく聞くのも榛名だ。
嫉妬深く、独占欲が強い。他の艦娘と仕事の話をしているだけでボコボコに殴られた、なんて奴もいた。幾ら健気で美人でも、ヤンデレは勘弁願いたい。
「じゃあ……残るは比叡さんか金剛さん?」
やっぱそうなるよなぁ。実際問題、二人の内片方は本当に惚れた相手だから困ったモンだ。さて、どうやってこの流れを収めた物か。
「……そういえば、提督さんがその本命の人を好きになった理由って何ですか?」
好きになった理由?理由なぁ……考えた事も無かった。
「なんだろうなぁ。気付いたら視線で追ってて、何で追ってんだ?って考えたら、『あぁ、俺コイツに惚れてんのか』って気付いた。」
「一目惚れ、って奴かいのぅ。」
「ワォ、なかなか純情ボーイだネ。」
「ケッ、からかう気も失せるわ。そろそろ寝るぞ~、叢雲。」
そう言ってフラフラと千鳥足で立ち上がる染嶋。その傍らで脇から支える叢雲。
「ほんじゃ、ワシ等も行くかぁ。」
荒木もよっこらせ、と立ち上がり染嶋を追う。大和もクスリと笑って後ろを付いていく。
「じゃ、司令。私達も休みましょうか。」
「え~?まだ飲んでから……」
瞬間、夕雲がクルツの耳を引っ張った。
「司令ぇ~?行きますよ~?」
「ハ、ハイ……。」
ズリズリと引き摺られていくクルツを眺めていると、夕雲が振り替えって微笑んだ。
「提督さん?でも、いずれはその気持ち、伝えてあげて下さいね?その娘はずっと、待っているハズですから。」
そう言い残し、クルツ達も出ていった。部屋には、俺一人を残して。
「随分と、難儀な課題を残してくれたモンだぜ……。」
頬杖突いてブスッとした顔で、頭が痛いのを感じながら俺はいやに苦く感じたウイスキーを、一気に胃袋に流し込んだ。
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