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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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真・魔人-ファウスト・ツヴァイ-part3/相反する力の奇跡

 
前書き
実はこの話、2年近く前に完成してました。 

 
安全な場所まで避難を終わらせたルイズ・ムサシは、以前アルビオンへ任務に出掛けた時に利用した、大木のような桟橋に来て、運んでいたハルナを降ろし、今の街の状況を確認した。
ここに来るまで、ムサシはルイズから、本当のファウストがウェザリーで、ハルナを影から操って己の目的を果たすための駒として働かせていたことを聞いて、当然ながら彼女のハルナへの行いに対して怒りを覚えていた。
街の避難は、ここに来るまでの間に確認したが、あまり進んでいるとは言えなかった。ゼロへの憎しみで暴徒化した人たちが避難を妨害している。
しかも…
「デエエエイイ!!」
「ダアアアアアッ!!」
ちょうど今、テクターギアを無理矢理装備されたゼロと、ファウスト・ツヴァイのクロスカウンターが炸裂した。
しかし、ゼロだけが怯み、膝をついてしまう。テクターギアのせいでパワーが落ちていたのだ。対するファウスト・ツヴァイの方はと言うと、まるでダメージを受けていない。平然としている。
「あの鎧…」
ルイズには見覚えがある。テクターギアを身に付けていた頃のゼロの姿があそこにあった。だか、鎧のない姿と身に付けた姿とでは、ゼロの強さは驚くほど違う。今の彼は、圧倒的にファウスト・ツヴァイより劣っていた。
しかも、鎧から発する邪悪な波動がゼロを苦しめる。そこをファウストが追撃し、徹底的に彼を追い詰めていった。
「あの鎧さえ破壊できれば…」
ムサシはまだエネルギー不足で変身できない状態であることに歯噛みする。
「なら、私がやれば済む話よ!」
ルイズは杖を構え、詠唱を開始する。虚無にはじめて目目覚めた時、〈爆発(エクスプロージョン)〉でゼロの鎧を破壊し、ウルトラマンとトリステイン軍の勝利に貢献した。なら今回だって!
詠唱完了と同時に、ゼロの邪魔くさい鎧に、ルイズは魔法を発動した。
「〈エクスプロージョン〉!」
瞬間、ゼロの体に白い光が発生し、爆発を引き起こした。彼の姿は砂煙に隠れた。これでゼロが元に戻れば…
しかし、ルイズの期待は裏切られた。
ゼロの体には、まだテクターギアが身に付けられたままだったのだ。
「そんな…なんでっ…!」
なぜ破壊できなかった!?あの時は確かに今の魔法でテクターギアを破壊できたのに!そう言葉に出そうとしたとき、ルイズは虚無に詳しかったデルフの話を思い出した。虚無に目覚めたばかりの頃は、精神力が生まれてからの16年分も溜まっていたのだ。虚無は通常の四大系統魔法と違い、一度使うと精神力が一気に減ってしまう。あの時と違い、精神力をチャージした期間は僅か数日程度だから、威力が足りなかったのだ。
「もう、大したことないじゃない…伝説の系統のくせに…!」
実家で気持ちを切り替え、新たに一歩踏み出したと思ったのにこれだ。活躍の場が広がらないままという状況が続き、ルイズもまた悔しがった。
「くぅ…」
すると、意識を手放していたハルナが目を覚ました。
「ハルナ、気がついたの…?」
ルイズは彼女の顔を覗き込んだが、大事なことを思い出した。目覚めたばかりのハルナが、まだウェザリーの禁忌の魔法で植え付けられた人格のままであるかもしれないのだ。
「あたしは…」
「大丈夫だ、ルイズちゃん。今の彼女に闇の力はない」
「そうだっ…あたしはウェザリー様から闇の力を奪われ…」
目を覚ましたハルナは、まだ闇の人格の方だったが、目を覚まして今の自分がどうなったのかを思いだし、沈んだ表情を浮かべた。
「は、はは…無様なもんだな…あたしはウェザリー様の魔法で生み出された、闇の力を振るうための人格。けど、それがなくなった今、あたしには何も残っちゃいない…」
「ハルナ…」「ハルナちゃん…」
使われた果てに捨てられた少女に、もはや敵としての危険な匂いはなく、ルイズとムサシは少しやるせなくなった。
「グワアアっ!!」
ゼロの悲鳴が聞こえ、三人は顔を上げた。




テクターギアを強制装備され、町中のレプリカレーテに集めたマイナスエネルギーでパワーアップを果たしたファウスト・ツヴァイに、ウルトラマンゼロはかつてない危機を迎えていた。
「どうしたの?もう少し足掻いてくれなくちゃ舞台は盛り上がらないわよ」
ファウスト・ツヴァイは、立ち上がろうと気力を絞り出しているゼロを見て、滑稽なもので見るように笑った。イラつく笑いだ。意地を張って立ち上がるゼロ。
「妻を殺した報いを受けろ!!」
「ぶっ殺してやる!!」
「やめろお前ら!んなことしてる場合じゃないだろ!」
「早く避難して!!」
「うるせえ!!」
だが、ただでさえ強力なパワーアップの恩恵を受けたファウスト・ツヴァイだけでも手一杯なのに、彼に向けて街の人たちの一部の、銃撃や矢・魔法の攻撃がゼロに降りかかる。
(くっそぉ…俺が言うのもなんだが、復讐することよりも自分が避難すること考えろよ!!)
ゼロもサイトも、同じ言葉を心の中でぼやいた。客観視できる立場であり、憎しみを経験しその愚かさを知っている者だからこそ考えられることだが、今の彼らは頭に血が上っていてそれがわからないのだろう。おかげで、彼らにいちいち気を配らなければならなくなった。
『ジュリオの奴はどうしてるんだ!ゴモラたちで援護できないのかよ…!!』
『もしかしたら、怪獣たちのダメージが残っているのかもしれない…この前のファウストとの戦いはゴモラたちも手を焼かされていただろッ…?』
『そ、そうか…あの時、俺たちジュリオの邪魔しちまったこともあるしな…』
『いないやつのことを当てにしても仕方ない。俺たちだけでウェザリーを止めるぞ!』
『そうは言うけど、街の人たちがさっきから…!』
『これも、あのときの過ちによるものか…!』
ゼロの中で、イラつくサイトと冷静なゼロの声が轟く。別に大きなダメージを受けるわけでもないが、本来避難しなければならないはずの街の人たちの一部が暴徒化してゼロに攻撃を仕掛け、それを街の人たちやギーシュたちが必死に食い止めようとしている。
「……このままではゼロはまずいな」
ジュリオはゼロの苦戦を見かね、やはりここは自分も出なければならないと見て、バトルナイザーを取り出す。今のゼロが全力を出せないのなら、自分が出るしかない。
前回だけでもファウストはハルナの体に残留していた頃から強大なパワーアップを施しており、ゴモラもリトラもそのときの戦闘ダメージがまだ回復できていない。迂闊に召喚してゼロの救援に向かわせたら、共倒れの可能性も否定できなかった。
ゼロの予想は当たっていたのだ。
(…サイト君から恨まれるかもしれないな)
自分も相棒たちの命がかかっている。たとえ仲間がピンチに陥っても、そんなかけがえのない相棒たちの命を差し出そうとする真似は、怪獣使い『レイオニクス』としてやりたくないことだった。
(悪いけどサイト君、今は自力で耐えてくれよ…)
できることは、暴徒化している人たちをなんとか避難させ、ゼロの勝利を願うことだけだった。
しかし一向に、暴徒化した街の人たちは静まる気配がない。ギーシュや、ゼロに攻撃を加えていない街の人たちが止めに入ったものの、まるでそれが火付けになったかのようにヒートアップしている。
その隙を突いて、ファウスト・ツヴァイは両掌の間に、まがまがしい闇のエネルギーの弾を凝縮させていく。
あの技は…やばい!!
「「死ね!ウルトラマン!」」
ちょうどファウスト・ツヴァイと街の人の一部の声が重なり、ファウスト・ツヴァイの手から闇の必殺光弾が放たれた。
かつてタルブ村での戦いでも、ゼロとネクサス、そしてレオを一度に大ダメージを与えた恐るべき技…〈ダーククラスター〉が発射された。
それも、ゼロだけを狙っただけじゃない。ラ・ロシェール中にそれが雨のように降り注いだ。街のあちこちが、最初のこの街での戦いの時よりもさらに破壊され、建物が吹き飛んでいく。当然逃げ遅れた街の人たちも巻き込まれ、散っていった。
「うわ…!」
当然それはゼロの近くにいる暴徒化した人々にも降り注いだ。本能的に彼らはギーシュたちへの抵抗を中断し、自らの身を覆い隠す。だが、それは無駄なことだ。人間の身であれらの攻撃を受けてしまえばひとたまりもない。それでも逃げる暇もなかった以上、そうするしかなかった。

……だが、彼らの身にダーククラスターが降り注ぐことはなかった。

「グアアアアアアアアアアアアア!!!!」
痛烈な叫び声が、街の人たちやギーシュたちUFZの面々の耳に届いた。彼らは思わず顔を上げると…。
「ガァ…グアアア!!」
そこには、自ら彼らの盾となって、ファウスト・ツヴァイの光弾の雨を背中で受け続けていたゼロの姿があった。しかも、こうしている間にもテクターギアからも発せられる闇の雷状の波動がダーククラスターと重なって、二重攻撃となって彼の体をさらに痛めつけていた。
それでもゼロは、避けようとしなかった。ひたすらテクターギアの発する邪悪な波動と、ファウスト・ツヴァイのダーククラスターを受け続けた。
この街で引き起こしてしまった悲劇の、自分たちに対する罰として…。
「な、なんで……?」
さっきまで暴徒化していた街の人の一人が、信じられないと言った様子で声を洩らす。ここに来てようやく、彼らは自分たちがしでかした行いの重さを思い知ったのだ。
ウルトラマンゼロは確かにこの街で、取り返しの付かないことをしてしまった。だが、それを悔やんだ彼は、人のために戦い続けてきたのだ。それを自分たちは…ゼロのせいで起きたあの爆発で大切なものを失ったことから、それを許せずにいた。今更正義の味方面して…と。だが、こうして自分のみを省みずに守っているゼロの姿に、街の人たちは言葉を失っていた。




ようやくダーククラスターが振り終わったそのときには、ゼロは完全にダウン寸前だった。手と膝を着いて、ただ荒い息を吐き続けている。テクターギアの下に隠れたカラータイマーも、おそらく赤く点滅している頃だ。
しかしそんなゼロに、容赦なくファウスト・ツヴァイは空中からの蹴りで蹴飛ばしてきた。
「グアァ…!!」
「やっぱりお前が守ろうとした人間は愚かね。今になって、自分たちの過ちに気づくなんて…まったく笑えてくるわ」
上空から降りてきたファウスト・ツヴァイは呆れてものも言えないといった口調で呟いた。
「貴族だけじゃない、この国の…いえ、人間そのものに守る価値なんてなかったのよ」
それと似たような言葉を、ムサシは聞いたことがあった。わだかまりを越えて親友のような繋がりを持ったかつての戦友が、コスモスとは別のウルトラマンから聞いたという言葉だ。
『人間に守る価値なんてない』
それは、人間が過ちを繰り返し平和を乱すばかりであることに絶望した言葉だ。けど…
「違うよ、ウェザリーさん。人間に守る価値がないなんて、それこそあるわけがないんだ」
ムサシはうそぶくようにウェザリーの言葉を否定した。なぜなら、彼女が言う通り人間が守る価値さえもないほどの存在なら、なぜコスモスは自分を認めてくれたのだ?どうして自分はカオスヘッダーと分かり合えたのだ。
そんなムサシの言葉に乗るように、ゼロはふらつきながら立ち上がると、ファウスト・ツヴァイ向けて口を開いた。
「…確かに人間は、間違いを犯しちまう生き物さ。俺もそうだ。それどころか自分の欲のために他人を傷つける奴もいる。けどな…俺は知っている」
顔を上げ、上空から見下ろすファウスト・ツヴァイに、さらに彼は強く言い放った。
「地球でも、この世界でも…俺は出会ってきた!
何があっても大切なものを守る強さを持つ人々を!俺が守りたいと思える仲間たちを!
そいつらの存在が、人がお前の言うような愚かなだけの存在じゃないって証明だ!」
「…」
闇人格が表に出たままのハルナも、その言葉を聞いていた。ゼロが…サイトがあそこまで強く思うほど、この世界もまた、守らなければと強く思うほどの価値があるというのか、と。
…いや、あたしはただ…。
「ウェザリー、あんたの境遇には俺も心が痛くなったさ。けどな…それを理由に、人間の醜いとこしか見なくなったくせに、全てを知った気になった意気地無しが人間の価値を語るなんざ…」



――――二万年早いぜ!!



二本指を突き立てながら、彼は強く言い放った。
ルイズ、街にいるギーシュたち、街の人たちにも、ゼロの魂の叫びが聞こえていた。ウルトラマンの声は、人間には本来聞こえないはずだった。けどこのとき、誰の頭の中にも…ウルトラマンゼロの声が聞こえていた。
「ウルトラマン…」
ルイズは思わず呟く。
ふと、彼女の左目に、奇妙な現象が起きた。
なんだろう、左目の視界が、右目と異なる景色を写し始めている。これは一体?
いや、確か契約を交わし合った使い魔と主は視界を共有する現象が生じると、学院の授業で学んだことがある。サイトもどこかで見ているのか?

しかしルイズはまだ気づかなかった。

そのサイトこそが、ウルトラマンだということに。




「黙れ…黙れええぇ!!」
心底不愉快にウェザリーは感じた。赤く光っていた目が彼女のイラつきに呼応してさらに赤く輝き、闇の力がさらに高ぶり出す。
空中からロケットのように超高速で飛んできた彼女は、ゼロの喉元を右手で掴み、地面に押さえつけながら首を絞め上げた。
「が、はあ…!」
「…この三流役者風情が偉そうに!!このまま殺して、貴様の体を八つ裂きにしてやる!!」
ファウスト・ツヴァイはゼロの首を、まるでそのままもぎ取ろうとする勢いで、首を絞める力を殺意と共に強めていった。



「このままだとウルトラマンが!」
「や、やばい!ヤバイよ!」
ギーシュやマリコルヌもウルトラマンの苦戦する姿に慌てる。次は自分達かもしれないという恐怖が迫る。そんな彼らをモンモランシーやレイナールが叱り飛ばした。
「ギーシュ、あなた隊長でしょ!?もっと毅然としなさいよ!」
「マリコルヌ、君もだ!早くここの人たちを避難させろ!」
二人に怒鳴られ、二人は怯えた自分達に恥を覚えつつも、言われた通りに従うことにした。
「やれやれ、これじゃ誰が隊長かわからないな」
ジュリオは肩をすくめながら微笑し、ギーシュたちの手伝いのために避難誘導を開始した。さっきと違い、街の人が冷静で、ギーシュたちが貴族ということもあって、街の人は従ってくれた。



「…サイ…ト…!」
ファウスト・ツヴァイの首絞め攻撃で身動きがとれなくなったゼロの姿に、ハルナは思わず体を起こした。
たとえ闇の人格であっても、根元は高凪春奈という少女だから、サイトへの想いは根強かった。だが、今の彼女はウェザリーが作り出した人格のため、生みの親への情もあった。なにより、闇の力を失って、今ではただの二重人格の少女でしかないために手を出そうにも出せなかった。
「なにか、何かあるはずよ…」
一方でルイズは、常備していた始祖の祈祷書を取り出して必死にページを捲っていた。爆発がだめなら、何か別の魔法を探ろう。それが今の状況を打開する鍵になるかもしれないのだから。
ムサシも手持ちの変わった形の銃を取り出していた。恐らく彼の元いた世界『コスモスペース』の地球で自作したものだ。
「なにをしてるんだ…」
「見ればわかるでしょ!あの黒い巨人を…ウェザリーを止めるのよ!」
「ハルナちゃん、君はここにいて。僕はゼロを援護に向かう」
「お願い」
ルイズは、サイトを探しに向かってくれることに感謝する。
「無理だ…今のウェザリー様は町中からウルトラマンへの恨みのマイナスエネルギーを吸って無敵の力を手にしている。虚無の魔法でも…」
ゼロを助けに向かおうとする二人に、ハルナは絶望混じりの声を漏らす。サイトを手に入れたい。取り戻したい。自分に命をくれた方に報いたい。それだけだったのに…力を失い、用済みと捨てられたことで、闇の人格の彼女は生きる気力を失っていた。



バシッ!



しかし、その時だった。ルイズがハルナの顔を平手打ちした。
「な、何を…!」
何をするんだ、とハルナが言う前に、ルイズは彼女の胸ぐらを掴んで、鋭い目で睨み付けてきた。
「今、何て言ったの?無理ですって?だからどうしたって言うの?だったらこのままみんながウェザリーに殺されるのを黙って見ているつもり?
ふざけんじゃないわよ!あれをごらんなさい!」
ルイズは、街の方を指差す。
「サイトはさっき街へ、あの黒い巨人を食い止めに行ったわ。あいつは自分の意思で、故郷へ帰りたいって思いを封じて、この世界に留まって一緒に戦ってくれているわ。ウルトラマンみたいに強い力を持っているわけじゃないにもかかわらずによ?
あんたも…知っているはずよ?」
「……」
「あの黒い巨人の攻撃がサイトに届いてしまってもいいわけ!?何かできることがあるとか、考えないで腐ってるつもり!?
あんたのサイトへの想いって、その程度なの!?」
サイトをさらった元凶の癖にヌケヌケと…などと言う、減らず口を叩ける状態でもそんな立場でもない。ハルナの闇の人格は、ルイズに叩かれた頬を押さえたまま押し黙っていた。
『…ルイズさんの、言うとおりだよ…』
そのとき、ハルナの頭の中に、もう一人の…本来の彼女の声が聞こえてきた。
そして、闇に溶けて消えかけていた記憶が蘇る。



以前サイトの口から明かされた、彼と初めて会った日の記憶だった。

いつもどおり学校から帰っている日だった。突然帰り道を歩いていると、目の前に他校の不良学生が二人、自分に目をつけて声をかけてきた。髪の毛を染め上げ、ピアスを顔や耳たぶにつけていて、見た目からしてかなりの悪だ。
『君、かわいいね。ちょっとあっちでお茶しない?』
なんともありきたりで怪しい口説き文句。それにハルナも女の勘が働く方だから、この不良学生たちが下心丸出しで自分に近づいてきたことを察知した。
『い、いえ…これから用事がありますから』
『いいじゃん。そんなの』
『ちょっと話をするだけだって。なぁ?』
適当に嘘をついてこの場を切り抜けようとしたが、不良学生たちは一向にハルナから離れようとしなかった。大声を出して助けを求めようか。いや、ここは走って逃げよう。ハルナは反対側に振り向いてすぐに駆け出した。
『あ、待てやこのアマ!!』
だが、ハルナは成績優秀ではあるものの、運動は得意ではなかった。華奢な体では、鍛えられた不良学生にすぐに追いつかれてしまうのは仕方のないことだった。
『い、いや!!離してください!!』
『大人しく着いて来いって言ってんだよ!』
自分の腕を掴んできた不良学生の手を振りほどこうにも、やはり相手の方が力が強くて逃げることができなかった。
『ま、待ちやがれ!』
だがそんな時だった。サイトが現れたのは。
『その子には…ゆ、指一本触れさせねぇ!』
不良学生を指差して、必死に毅然と振舞いながらかっこいい台詞を言ってみせるサイト。だが…以前にサイトがルイズたちに話していた通り、足が震えていた。
『なんだこいつ!足ブルブルじゃねぇか!!』
『だっせぇ!!』
サイトを指差してあざ笑う不良学生。サイトも男のプライドからか、不良学生たちに対してカチンと来ていた。殴り飛ばしてやりたいとは思うが、自分は運動ができる方である戸は思うが、あんな喧嘩慣れした相手にかなうほどとは思えなかった。だから最後の手段をとった。
『おまわりさーーーん!!ここに女子高生にちょっかいを出す不良がいますよおおお!!!』
最終奥義、大声で叫ぶ。情けないことかもしれないが、一人の少女の身がかかっていたのだ。今から彼女に対して汚い手を伸ばそうとした奴らと比べ、彼のとった行動など健全だろう。その叫び声が周囲に響き、近くの人たちがいっせいにサイトたちの方に視線を寄せた。しかも偶然にも、本当におまわりさんがサイトの声に釣られてやって来た。
『やべ!お回りだ!』
『くっそが!ずらかるぞ!!』
不良学生もさすがに警察のお世話になりたくなかったのか、一目散に逃げ出した。ハルナは助かった…と安堵し、サイトの方を見る。彼は足がまだ震えていた。さっき大声で出した言葉も、正直彼にとっても博打だったのだろう。だが少なくとも周囲の人たちの目を惹き付けたことで、あの不良学生たちにアリバイを利けない様にしただけでもハルナを助けるには十分だった。
『ね、ねぇ君…大丈夫…かな?』
サイトはハルナの元に来ると、そう尋ねてきた。やはり足が震えていた。寧ろあなたが大丈夫?と尋ねたくなったくらいだ。
でもハルナは、こんなに怖い思いをしてまで自分を助けてくれたサイトの方が、何よりもかっこよく映って見えていた。




「そうだ…あたしは…あの時サイトに…」
おそらくウェザリーがハルナのもう一つの人格を形成するために使った魔法の余波だろう。
操りやすいように、邪魔になる記憶を少しいじられたのかもしれない。
今になって、初めてサイトに会った日のことを思い出したハルナ。だがルイズの話はまだ終わらない。寧ろそこからだった。
『あなたは、私の心の闇。だからわかるの。あなたも、平賀君のこと…だからルイズさんから必死に平賀君を奪い返そうとした。例え平賀君から非難されても、ウェザリーさんの魔法があるからとか、それ以前に……私たちだけが平賀君の隣に立てる女の子になりたかったから…そうでしょ?』
『それは…』
闇ハルナは、言葉を詰まらせた。だが、いわずとももう一人の自分にも、恋敵となっていたルイズにも見抜かれていた。
サイトやルイズたちの知るハルナも、敵として対峙してきた闇の人格のハルナも…どちらもサイトに対して強い想いがあるのだ、と。表のハルナはそのあたりについて直接的な言い回しはしなかった。
『けど、あんたもわかるだろ…?今のあたしたちはもうファウストじゃない!それ以前に、あたしがウェザリー様に逆らうことなんてできるわけがないんだ!!』
『…ねぇ、もう一人の私。本当にそう思う?
私たちにとって、平賀君はウェザリーさんと比べて、大切な人じゃないの?
本当にウェザリーさんのほうが大事なら、平賀君を手に入れるとか言わなかったはずよ?』
『ぐ…けど、それでもあたしたちが無力なことに……』
図星を突かれて、闇ハルナはその辺りを言い返せなかった。でも、それでも今の自分たちに戦う力は残っていないことに変わりない。だが、ハルナはそれでも話を続けてきた。
『でも、それでも平賀君を助けたいと思わないの?このままだと彼は…』
それ以上は言葉を途切れさせる。視線をウルトラマンたちの方に向けると…。




「グ、アアアア…」
ウルトラマンゼロはテクターギアを外すこともできず、ファウスト・ツヴァイの猛攻に苦しめられていた。首を締め上げられた状態のまま投げ飛ばされ、落下した。
「どうしたの?さっきまでの減らず口も叩けないのかしら?確か『二万年早いぜ!』…だったかし…ら!!!」
「ガハァ!!」
諦めることなく立ち上がろうとしているが、ファウスト・ツヴァイはそんな彼に反撃を許す気配がない。すかさず、彼の胸元を蹴り上げてさらに深く痛めつける。
「そろそろ…止めを刺してあげる。愚かな人間たちの住む星の土になることを喜びながら死になさい」
ファウスト・ツヴァイは両拳を胸の前にあわせ、黒い稲妻をスパークさせていく。最後の必殺の光線をゼロに浴びせ、今度こそ止めを刺すつもりなのだ。
だが、それに対してゼロはテクターギアを装備されて力を半減させられた上に光線技を封じられ、肉体的ダメージもかなり蓄積されていた。
彼自身の力だけでは、もはやどうしようもなかった。



「う、ウルトラマン…頼む!立ってくれ!!」
思わずギーシュが恐れを抱きながら声を洩らした。
ようやく避難が完了した街の人たちも、彼らを誘導したギーシュたちも、絶望を混じらせながら焦り始めていた。
このままではウルトラマンは殺されてしまう。そして次に牙を向けられるのは、間違いなく自分たちだ。
(無理をさせてでも、ゴモラを出すか?)
今のゼロに、倒れられるのは誰にとっても思わしくない。ジュリオも、自分の相棒に無理をさせてでもゼロを助けさせようと模索し始めていた。



「ウェザリー、様…」
自分の生みの親が、自分の想い人を今度こそ殺しにかかっている。
ウルトラマンゼロを…平賀サイトという人間を殺そうとしている。自分に対してそうだったように、トリステインへの復讐の糧とするために。
やめてくれ。想い人を傷つけていく自分の生みの親の姿に、そう意見したい気持ちが次第にハルナの心の中に強く湧き上がった。
「……!!」
…そうだ。あたしは確かにウェザリー様によって形となった人格だ。けどそれ以前に…
『あの女』の手によってこの世界に連れてこられた誘拐の被害者で、人形としてやりたくもない復讐劇の一端を担わされた者だ。
けどサイトは、闇に落ちた自分を助け出そうとしてくれていた。今も、地球で起きたことをこの世界でも繰り返さないために、ウルトラマンであることを受け入れて戦っている。
『もう一度、頑張ってみよう?今度は私とあなたで、一緒に…平賀君を助けよう!』
表の人格のハルナが再び闇のハルナに呼びかけてきた。
『平賀君の中に、平賀君自身とウルトラマンゼロさんの二人がいて、一つになって戦っているように、私とあなたが一つになれば…きっと平賀君を助けられると思うの!』
「………」
ずいぶんと漠然なことを言ってくれる。でも…そうだ。
私たちは二人で一人…だから同じ気持ちを抱え、互いにそれを理解している。
彼女は、右手にあるものを取り出した。それはサイトがレイナールを託したときに、彼女のポケットに忍ばせていた、学生手帳だった。それを静かに開くと、手帳の中に一枚の写真が挟んであった。
地球にいた頃、自分と同じ高校に通っていた、学生服姿のサイトだった。
少し恥ずかしい秘密だが、この写真は彼女の宝物なのだ。
学校では、学級委員長とかコーラス部の活動とか、日常の中で立ちはだかる苦労に折れそうになった時、このサイトの写真を見るたびに、勇気がわいて来た。あの時サイトが、恐怖を超えて自分を不良学生から助けてくれたように。そしてこの世界に迷い込んだときも、約束を交わして自分を守ってくれていたように。



今のあたしは……私は…!!



ウルトラマンゼロ…いや…


…平賀才人を……



私たちの大好きな男の子を助けたい!!



すると、ハルナはルイズとムサシの元から立ち上がり、ファウスト・ツヴァイの猛攻を必死に耐えるゼロの姿を凝視しながら、数歩ほど前に出た。
「ハルナちゃん…」
「ハルナ…」
『……』
ムサシは立ち上がってきた彼女の目つきが変わったことに気づいた。あの目には、覚えがある。ムサシも苦境に立たされたときは、あんな感じの目をしていたことを、ムサシの目を通してみていたコスモスも思い出した。
さっきまでの絶望しきったものじゃない。絶対に諦めない。最後の一秒まで…自分のなしたいことをするために。



あたしたちの、私たちの中に眠る力…



…少しだけでも残っているのなら…お願い



もう一度、あたしに…私に…力を!!!!




サイトの写真を挟んだ学生手帳を見つめ、胸の中にそれをぎゅっと抱きしめたハルナ。



そのとき、周囲から見て目を疑うような現象が起きた。



まばゆい光が、ハルナの手帳に灯り始めていたのだ。
「な、何…?」
発破をかけたとはいえ、何が起こったのかわからず、ルイズは目を丸くする。
「これは…希望の光…!?」
ムサシはその光がかつて、地球を宇宙正義の元に消し去ろうとした者たちから地球を守るために戦ったとき、自分がその身に纏った光とよく似ている気がした。
光は、ハルナの手から発光しただけではなかった。
どこからともなく、光が彼女の手帳に集まり、それを介して彼女の全身を星のように輝かせる。








「うああああああああああああああ!!!!」







胸の中に抱きしめた生徒手帳と共に、ハルナは吠えながら光となった。











ファウスト・ツヴァイの最大の光線のチャージは、完了した。後は拳をあわせて闇の波動をぶつければ、虫の息のウルトラマンゼロを抹殺することができる。
「ぐ…」
「さようなら…ウルトラマンゼロ!!」
広げた両腕の拳を、ファウスト・ツヴァイは相槌を打つように合わせて、闇の光弾〈オーバーダークレイ・ジャビローム〉
をぶつけようとした。
もはやこれまでか…!!

だが、そのときだった。


「ハァ!!!」


「ウグアアアアア!!!」


突然、ファウスト・ツヴァイは横から飛んできた何かに蹴飛ばされた。


「な…」
ゼロは予測しなかった事態に驚く。今のは…ジュリオがようやくゴモラを出してきてくれたのか?それとも…シュウがネクサスに変身して助太刀に来てくれたのか?
だが、それらの予想は全てはずれだった。
「ッ!!き…君は…!!」
目の前に降り立った、もう一人の巨人を見て、ゼロは…サイトは驚愕した。
光線の発射の邪魔をされ、イラつきを覚えながらも立ち上がったファウスト・ツヴァイも、ゼロの前に立つその巨人を見て、その言葉を言うしかなかった。

「ば…馬鹿な……お前はもう、変身できないはず!!」

ファウスト・ツヴァイの光線を妨害し、ウルトラマンゼロの窮地を救った新たな巨人、それは…



白く光る目と、青く輝くカラータイマー。
そして以前よりも女性らしく美しい顔つきと肢体を持つ…



『ファウスト』だった。


ハルナは、もう一人の闇の自分と心を一つにし、

『光の力』で再びファウストに変身したのだった。
 
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