IS~夢を追い求める者~
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第2章:異分子の排除
第38話「お買い物」
前書き
原作での水着を買いに行く話。
一応、一夏の謹慎が解けたぐらいまで日にちが経っていますが、一夏に出番はありません。
=秋十side=
「...買い物に行くだけなのになんでこんな人数に...。」
「まぁまぁ。皆何か買おうと思ったからさ、ついでだから一緒に行こうって訳だ。」
「それは分かってるんだけど...。」
IS学園のある島から、モノレールで移動中、シャルがそういう。
ちなみに、今いる面子は俺たち二人の他に、桜さん、マドカ、ユーリがいる。
...まぁ、いつもの面子だな。
「...ま、今じゃ同じ会社の人だからいいんだけどさ。」
「しかし、シャルが水着を持ってないのは驚いたな。女子って服とか水着って結構余分に買ったりするんだろ?」
俺たちが買い物に行くきっかけは些細な事だった。
偶々シャルとの会話中に臨海学校の話題になって、水着を持ってない事に気づいたのだ。
...で、俺もついでに買おうと思ったら、それを聞きつけた桜さん達もついてきた...と。
「あー...えっとそれはね...。」
「男として入学してきたのに、女子用の水着を持ってたら不自然だから...だろ?」
「...うん。」
後ろの席で聞いていた桜さんが先に答える。
...なるほど。確かにそうだな。元々不本意とはいえスパイなんだから、当然か。
「...でも、シャルの本国の方の荷物ってうちの会社に届いてるはずじゃ...。」
「それが...実は確かめてみたらちょっときつくって...。」
きつい?...まぁ、少し経ったら成長しててきつい事はあるけど...。
グシャッ!
「ま、マドカさん!?」
「ん?...って、マドカ!?いきなりどうした!?」
ユーリと一緒に座っているマドカの方を見ると、なぜかマドカは飲んでいた紙パック式のジュースを握り潰していた。
「...ね、ねぇ、シャル....きついって、どこが?」
「え?...あの、マドカ?怖いんだけど...。」
「答えて。」
「は、はいぃっ!?」
直視できない怖さを放つマドカがシャルに聞く。
...ん?桜さん、なんでそんな“あっ...(察し”みたいな顔をしてるんだ?
「え、えっと...その...胸が....。」
「......。」
シャルの答えにマドカは無言でシャルの肩を掴む。
...って、滅茶苦茶力入ってないか?あれ。
「いっ...!?痛い!痛いよマドカ!?」
「ぅぅう...!シャルに持たざる者の気持ちなんてわかるもんか!」
「え、えええ...?」
あ、マドカが少し涙声になってる。
「お、大きいのだって苦労してるんだよ?肩こりとか...。」
「持ってる奴は大抵そういうんだよ!うわぁあん!」
...拗ねちまった...。どう収拾つけるんだ。これ...。
「.........。」
「....ゆ、ユーリ?」
ふと、俯いているユーリにシャルが気づく。
...心なしか胸に手を当てて気にしてるような...。
「(....どの道、男の俺には居心地の悪い状況だなぁ....。)」
俺と桜さんという男がいるの忘れてないか?
「(...ふと思ったけど、シャルはまだマシな方だよな。...マドカは箒とかに対してどう思ってるんだ...?)」
女性に対して失礼だが、ふと思い出してみるとシャルでも比較的に大きい訳ではない。あまり気にしてなかったが、束さんや箒、セシリアの方が...。
「っ...!?」
「........。」
...マドカの視線が俺に向いている。
もしかして、思考を読み取られた?
「....秋兄も、大きい方がいいの...?」
「えっと....。」
どう答えればいいのだろう。
気遣うとか関係なく、本気でそう思った。
「(というか...。)考えた事ないなぁ...。」
「ふーん....。」
マドカのジト目が怖い...。言葉の選択肢を間違えたらどうなるやら...。
「...お、そろそろ着くぞ。」
そこで桜さんの声が聞こえ、とりあえず降りる事にした。
=out side=
「とりあえず、全員まずは水着かな。その後は各々の買いたいものを探すのもよし。誰かの買い物に付き合うのもよしだ。」
「はーい。」
駅前の商業ショッピングモール“レゾナンス”に着き、桜はそういう。
ちなみに、先程拗ねていたマドカは何とか元に戻ったようだ。
「.........。」
「.........。」
そして、それを物陰から覗く者が二名。
鈴とセシリアである。
「楽しそうね...。」
「楽しそうですわね...。」
二人とも、今朝偶然に桜たちが外出するのを見て、急いでついてきたのだ。
「いいなぁ...。」
「...ふと思ったのですけど、普通に混ざればいいじゃないですの?」
別段何か事情がある訳でもないので、実質セシリアの言う通りである。
ただ、なんとなく混ざりづらいと思っているだけである。
「そうなんだけどね...。」
「...何をしているんだ?」
唐突に後ろから話しかけられ、鈴とセシリアはつい大声を上げそうになる。
「あ、アンタどうしてここに...。」
「なに、臨海学校では泳げると聞いてな。それで水着の話になった際、学校指定の水着以外持っていない事に気づいてここまで来た訳だ。」
「あぁ、そういう事...。」
ラウラはつい最近まであまり世間を知らなかったため、水着も持っていなかった。
だから今日買いに来たらしい。
「...なら、混ざってくれば?どうやら、同じ目的みたいだし。」
「む、そうなのか?...だとしたら、なぜお前たちはこんな所で...。」
「それは...ちょっとね。」
物陰に隠れてついて行きながら、鈴たちはそんな会話をする。
「ふむ....そうか。」
「...あれ?結局行かないの?」
「なにやらこちらも面白そうなのでな。」
“尾行する”という行為に案外乗り気なラウラ。
「では、見失わないようについて行こう。」
「ホントに同行するのね...。まぁ、いいわ。」
イキイキとしながら鈴たちと同行するラウラ。
好奇心の多さはどうやら見た目相応のようだ。
「(.....ばれてるんだけどなぁ...。)」
...尤も、三人は隠れているつもりでも桜にはばれていたが。
「...ん?あれって...。」
「どうしたの?」
水着売り場に向かう途中、秋十は何かを見つける。
シャルロットが気になり、そちらを見てみると...。
「兄妹...?知り合いなの?」
「ああ。親友とその妹だ。」
秋十は軽く関係を説明し、その二人に近づく。
桜たちもそれについて行く。
「よっ。随分と買っているな。」
「あ、秋十さん!?」
向こう側は気づいてなかったようで、秋十に話しかけられて妹の方...蘭は驚く。
「秋十じゃねぇか。どうしたんだ?」
「ちょっと水着を買いにな。...そっちは?」
「俺はこいつの水着と服の買い物の付き添いだ。」
見れば、弾は既に結構な紙袋を持っている。既に買い終えているようだ。
「しかしまたそれなりの人数で...。」
「あぁ、それはもうすぐ臨海学校があるからな。シャルが買いに行くから皆一新しようと...。」
「“シャル”?」
「あっ...っと、紹介し忘れていたよ。」
秋十は弾と蘭にシャルロットの事を軽く説明する。
さすがにデュノア社云々の事は言わなかったが、ワールド・レボリューションに所属している事は紹介した。
「えっと...秋十の親友...なんだよね?よろしくね?」
「あ、はい!五反田弾です。よろしくお願いしまsいっづ!?」
「お兄、鼻の下伸ばしすぎ。」
金髪美少女という事で、弾は緊張しながら挨拶した所で蘭に脇腹を抓られる。
「いっつつ...なにすんだ蘭!」
「いつもそうやって女性の前でデレデレして...。相手によってはそれを利用されてすぐに警察送りになるかもしれないのよ!」
「うぐ....。」
蘭はそういうが、弾がそうなる相手は全員女尊男卑に染まってない女性だったりする。
弾は直感的にそれがわかっているようなので、これでも相手を選んでいる。
「あはは...。なんだか面白い兄妹だね...。」
「これでも少し前まで暗かったからなぁ...。ホント、元気になってよかったよ。」
苦笑いしながら言うシャルロットに、秋十はそういう。
「...って、そういえば、秋十さんも買いに来たのなら、選んでもらえば...。」
「...あー、そりゃ、間が悪かったな。諦めろ。」
ふと気づいたように言う蘭だが、弾の言う通り間が悪く、既に買い終えていた。
「せ、せめて同行だけでも!」
「俺は構わないけど...。」
せめてものという要求に、秋十は周りを見渡す。
「俺は別に構わないぞ。」
「蘭がそうしたいなら俺もいいぜ。」
「ボクも賑やかな方がいいかな。」
桜、弾、シャルロットと了承の返事が返り、マドカとユーリも構わないと頷く。
「じゃあ、行こうか。」
「はい!」
全員が了承した事で、秋十達は水着売り場へ向かった。
「そういや、マドカちゃんはいいのか?」
「え?何が?」
水着売り場に向かう途中、秋十と蘭が二人して歩くのを眺めつつ、桜がマドカに聞く。
「いや、いつもなら“秋兄は私のものだよ!”的な感じで突っかかってたからな。」
「...いや、さすがにそんな頻繁に...っていうか私の声真似上手い...。」
マドカの言う通り頻繁ではないが、それでも同じような事をしたことはあるようだ。
「...んー、まぁ...罪悪感...って所かな?」
「...それは秋十君に対して?それとも...。」
「蘭の方。私たちが洗脳されてたから迷惑を掛けちゃったしね。多少の事は目を瞑るよ。」
「なるほどな。」
慕っていた相手に会えないという辛さをマドカは汲み取り、蘭に対して親切にしていた。
また、かつては秋十を虐げていた事の罪悪感も残っていたのだろう。
「...お、着いたぞ。」
「あ、いつの間に。」
適当に談笑している内に、水着売り場に着く。
「じゃあ、俺たちは男物の方に行くし、お互い買い終わったら店の前に集合な。何かあったら呼びに来てくれ。」
「はい。わかりました。」
桜がそう言って、男女で別れる。
「...ところで桜さん。どういう水着を選ぶつもりなんですか?」
「ん?あー、普通にトランクス型だが...。」
そこまで言って桜は秋十がどういうつもりで聞いたのか理解する。
「まぁ、さすがにそこまで似合わないって事はないだろうよ。」
「...そうですよね。」
「...なんの話だ?」
そんな二人の会話に弾が割り込む。
「いや、桜さんの水着の話。」
「俺の見た目がアレだからな。似合わない場合が多いんだよ。」
“ほら”と言って括っておいた髪を降ろす。
「た、確かに...。」
「さすがに骨格とかは男性だから、上半身裸ともなれば女性には見えんさ。」
「逆にそこまでしなければ男性に見えないのがおかしいんですが...。」
秋十のいう事はごもっともであるが、生憎生まれつきなのでどうしようもない。
「弾君はいいのか?」
「えっ、俺は...まぁ、家にあるのがまだ使えるので。ホントに今日のは蘭の付き添いなだけでしたから。」
「...なんか、付き合わせちまって悪いな。」
「あ、いえいえ!...蘭が楽しめる方がいいですからね。」
桜の言葉に弾は謙遜する。
「じゃあ、俺はこれにしておくから、後で買っておいてくれ。」
「あ、了解です。...ってどこに?」
「ちょっとな。」
どこに行くかははぐらかし、桜は秋十達と別れてある場所へ向かう。
「....一緒に見る...って訳じゃないのね。」
「ふむ...では私も買いに行ってくる。」
「あ、元々それが目的でしたものね。」
結局尾行してついてきた三人はそんな会話をする。
「どっちを見てようかしら...。」
「混ざればいいんじゃないか?」
「しかし、それだとせっかくつけてきた意味が...。」
そこまで言って鈴とセシリアはふと違和感を抱く。
「...あれ?今のセシリア?」
「いえ、私ではありませんけど...。」
そこで唐突に肩を叩かれ、後ろを振り向くと...。
「よっ。」
「「っ―――!?」」
桜がそこに立っていた。
「い、い、いつの間に!?」
「ついさっきだ。なんだ、二人とも気づかなかったのか?」
驚く鈴に対し、ラウラが答える。
ちなみにラウラは買いに行こうとした際に桜を見つけていた。
「...あー、言っておくが、レゾナンスに着いたあたりから気づいていたからな?」
「嘘っ!?」
「...まぁ、桜さんならおかしくないですわ...。」
驚く鈴と、“桜だから”と納得してしまうセシリア。
「秋十君とマドカちゃんは買い物で少し浮かれているからな。...言っておくけど、普段なら二人も気づいていたからな?」
「...そうなのね...。」
「それで、結局どうするんだ?」
買い物に混ざるのか、桜は改めて聞く。
「...タイミングを見て自分で合流するわ。」
「そうか。」
鈴も蘭に思う所があるため、罪悪感で少し近づき難いようだ。
「じゃ、俺は戻るわ。二人もせっかくここまで来たんだから、楽しめよ。」
「あ、はい。わかりましたわ...。」
それだけ言って、桜は秋十達の元へ戻っていった。
「秋十。決めたか?」
「ん?ああ。これにするよ。」
「よし、じゃあレジに行くか。」
桜が鈴たちの所に行っている頃、秋十は水着を選び終わり、レジに向かっていた。
「マドカ達は...さすがにまだだろうな。」
「こっちは二人分、向こうは最低で三人分。でもほぼ確実にそれ以上だろうな。」
「だよなぁ...。」
女性の買い物は長いと分かっている二人は、まだまだ時間がかかるだろうと苦笑いする。
「ん?」
「あ?」
「私の分も買っておいてちょうだい。」
すると、そこへ当然とばかりに一人の女性が水着を入れて、買うように行ってくる。
「なんだ?いきなり...。」
「待て、弾。ここは俺が...。」
文句を言おうとした弾を秋十が止め、代わりに矢面に立つ。
「自分の分は自分で買ってくれ。赤の他人に買わせるのは明らかにおかしいぞ。」
「何よ。男の癖に歯向かおうっていうの?」
典型的な女尊男卑に染まった女性。秋十は目の前の女性をそう認識する。
「当たり前だ。こんなの、男も女も関係ない。第一、他人に物を押し付けて買わせるなんて、人としておかしいだろ。」
「っ...うるさいわね!男は黙って従っていればいいのよ!」
滅茶苦茶な物言いに、さすがに二人も呆れるしかなかった。
「女性しかISに乗れないからか?」
「そうよ!分かったのならさっさと...。」
「...最近じゃ、三人も男性操縦者が現れているけどな。」
「うっ....。」
一瞬、女性が動揺する。それを秋十は見逃さない。
「それに、まるで正当な権利を使っているような素振りだけど、貴女にそんな権限があるのか?自分が優れたIS操縦者ですらないのに?ただ風潮に染まってISを利用して男性を貶めるような真似をしているだけだろう?」
「っ.....。」
「(...うわぁ、容赦ねぇな...。)」
反論も許さない勢いで責め立てる秋十。
それを傍で見ていた弾は、つい秋十に対してそう思ってしまう。
「しかも、見た所この手口は初めてじゃなさそうだ。...一体、何人の男性を貶めた?虎の威を借る狐とはまさにこのことだな。見ていて呆れを通り過ぎて人間として憐れだ。」
「っ...言わせておけば...!」
挑発染みた言い方に、女性は耐える事も出来ずにキレそうになる。
「いやはや、言うねぇ、秋十君。」
「あ、桜さん。」
すると、そこへ桜が戻ってくる。
「いつもはそんな事言わないが....。」
「桜さんの影響ですよ。こう、揚げ足を取るような言い方も自然と身に着くんです。...なぜかは敢えて言いませんが。」
「あっはっは。耳が痛いな。」
そう。秋十はただ桜を真似て言葉を並べたに過ぎない。
秋十では性格上、あそこまで言葉で追い詰める事はしないのである。
「さて、後は俺が始末をつける。」
「...何よ!いきなり現れて...っ!?」
桜が現れた事で一瞬固まっていた女性が、再び調子を取り戻して何か言おうとする。
しかし、桜が突きつけた物を見て、再び動揺してしまう。
「IS学園の....学生証...!?」
「ああ。...何が言いたいかわかるな?」
IS学園の学生証を持つ男性。...それはつまり、たった三人の男性操縦者の内の一人という事を表している事に他ならない。
尤も、桜の学生証では女性にしか見えないので見せたのは秋十のものである。
「ISに乗れる女性は優れているとか、女尊男卑の風潮を利用して散々立場を利用してきたんだろ?...なら、利用され返される覚悟はあるんだろうな?」
「っ....ぁ...!?」
あくどい顔を浮かべる桜に、つい女性は怯える。
「これでも貴重な男性操縦者だ。後ろ盾もしっかりある。...その気になれば、お前を脅迫罪で警察行きにできるぞ?」
「ぅ.....。」
今まで女性が貶めてきた男性は、皆女尊男卑の影響で立場が弱いのを気にしていたが、桜や秋十はそんな事で恐れるほど軟ではない。
「おまけに言えば、お前たち女性が憧れている織斑千冬や、ISを創り出した篠ノ之束は女尊男卑を嫌っていると聞いたぞ?」
「っ....。」
憧れている人物の想いと反している。それが女性には効いたようだ。
なお、実際に桜が二人に聞いた事なので、紛れもない真実である。
「....ま、これに懲りたらこれ以降は男性に普通に接する事だな。今回は特別に見逃すが、今度同じような事をしたら覚悟するんだな。」
「......。」
悔しそうにしながらも、桜の言う通りだと女性は認める。
屈辱的な思いを味わいながらも、女性は去っていった。
「....それに、近いうちに女尊男卑の風潮は終わるからな...。」
自分たちがいつまでもそのままにしている訳がないと、桜はそう思いながら言った。
「...結局、桜さんに任せてしまいましたね。」
「いや、秋十君もだいぶ成長したよ。口論であそこまで真正面から言うなんて。」
「誰の影響でしょうね。」
皮肉りながら秋十は桜に言い返す。
「.....。」
「あ...っと。弾君、すまんな。置いてけぼりになって。」
「い、いえ、なんか、秋十にも助けられちまって...。」
申し訳なさそうにする弾。
「いいさ。今まで秋十君を助けてくれたんだし、そのお礼とでも思っておけ。」
「それは....。」
恩着せがましく秋十を助けていた訳ではないので、弾は遠慮しようとする。
「そう思っておけ、弾。もしくは何も気にしなくていい。」
「...秋十もそういうんならそうするが...。」
そこでふと、弾は気づく。
「...それよりも、見逃してよかったんですか?ああいう手合いは、結局また繰り返すと思うんですけど...。」
「あー、それか。まぁ、大丈夫さ。」
「え....?」
はぐらかすように大丈夫だという桜に、弾は訝しむ。
「桜さん、まさか...。」
「まぁ、反省しないなら自業自得って事だ。」
秋十は、傍で桜の異常っぷりを見てきたからか、何をしたのか大体察する。
「(俺と束にかかれば、情報操作ぐらい容易いからな。)」
ちなみに、もし反省しておらず、再び同じ事を繰り返した場合だが...。
第一に、既に桜が鞄に入れている白から女性のデータを束に送り、束のラボから監視できるようにしてある。つまり、女性の動きは既に把握されているのである。
そしてそんな状態で同じ事をすれば...社会的にその女性は終わりに持っていかれる。
「さて、さっさと買い物を済ませよう。」
結局放置された女性の水着を元の場所に戻し、三人は買い物を終わらせる。
そこへ...。
「....む。」
「あ。」
千冬と山田先生がやってくる。
「千冬と山田先生。もしかして二人も水着を?」
「まぁ、そういう所だ。」
プライベートだからか、桜の呼び捨ても気にせずに返事をする千冬。
「そういうお二人も...。」
「俺たちだけじゃなく、他にもいますけどね。俺たちは既に買い終えました。」
聞いてきた山田先生に秋十が水着の入った紙袋を見せる。
「...ところで、そこの方は...。」
「あ、えっと、五反田弾です!秋十の友達です!」
「あっ、篠咲君のお友達ですか!私は篠咲君のクラスの副担任の山田真耶です。」
なぜか緊張しながら自己紹介する弾に、丁寧に自己紹介し返す山田先生。
「他の...というのは、マドカか?」
「ん?ああ。ユーリちゃんとマドカちゃん、そしてシャルロットだ。」
「なるほどな。」
女性用水着の方を見ながら、千冬は頷く。
「...選んでほしいのか?」
「ふっ、話が早いな。」
「まぁ、俺と千冬の仲だしなぁ...。」
千冬の言外の要求を察し、桜は苦笑いする。
「...それと、何人かつけているようだが...。」
「...まだ混ざってなかったのか。」
千冬が言うのは、鈴たちの事であり、どうやらまだマドカ達と合流してなかったようだ。
「まぁいいや。待ってるのもなんだし、二人もついてくるか?」
「え?...まぁ、いいですけど。」
「一人で待つのもなんだし...俺も行きます。」
秋十も弾もついてくるようだ。
...最初に決めた“買い終わったら店の前に集合”の事は無意味だったようだ。
「...あれ?結局来たんだ。...それに冬姉も。」
「ふ、“冬姉”!?」
女性陣の所へ行くと、マドカがそう声をかけてくる。
そして、千冬に対する二人称に驚く山田先生。
「お、織斑先生!?」
「...今はプライベートだ。先生と付ける必要はない。」
「あ、はい...。」
シャルロットが千冬が来た事に驚く。
担任と外出先で鉢合わせしたら驚くのも無理はないだろう。
「...ん?もう決まってるんじゃないのか?」
「あー、それなんだけど...。」
桜がマドカ達は既に水着を選び終わっているのを見て聞く。
そこで、一人欠けているのに気づく。
「....ユーリちゃん?」
「な、なな、なんですか!?」
「...いや...水着は選び終わったのかなって。」
「あ、えと、ま、まだです!」
試着室から出てこないユーリに、桜は声をかけるが、何かに慌てるようにユーリはどもりながら返答する。
「(んー...これはもしかして...。)」
「...あー、秋兄と違って桜さん、気づくんだ。」
桜は鈍感な訳ではないので、ユーリが恥ずかしがっている事に気づく。
「...なんの事だ?」
「...やっぱり...。」
そして、秋十はマドカに言われても気づけない程だった。
「ふむ....。」
「うん?あ、おい千冬...。」
徐に千冬は試着室のカーテンを開ける。
「他の客の邪魔になる。別に、今試着している訳ではないのだろう?」
「うぅ...はい...。」
顔を赤くしながらも千冬に引っ張り出されるユーリ。
その手には、既に選んだらしき水着があった。
「...あれ?もう選んでるじゃないか。」
「そ、そうなんですけど...。」
水着を持ちながらモジモジするユーリ。
「その...皆さんは似合うと言ってくれるんですけど、その...。」
「....あぁ、人前で着るのが恥ずかしいんだな?」
「....はい。」
納得した桜に頷くユーリ。いくら似合うとはいえ、人前での水着は恥ずかしいらしい。
「似合うというなら、別におかしい事はないだろう。とりあえず、レジに行くぞ。」
「は、はい...。」
桜に諭され、まずは会計を済ませる。
「あれ?ラウラさん?」
「む、ユーリか。」
いざ一度店を出ようとして、ラウラを見つけるユーリ。
「ラウラさんも水着を?」
「うむ。学校指定のものしか持っていなかったのでな。」
「なるほど...。」
ラウラが手に持つ水着を見てユーリはそういう。
「私にはよくわからないから、クラリッサに聞いたが....。」
「...あの、凄く不安なんですけど...。」
「...確かに。」
日本のオタク文化から間違った知識を得ているクラリッサからのアドバイスという事で、どことなく不安を感じるユーリと秋十。
「とりあえず、買い終わった皆は待っていてくれ。俺は少し千冬と付き合う。」
「あ、はい。わかりました。」
桜がそう言い、秋十は皆を連れて店の前で待つことにする。
「では、選んでもらうとしようか。」
「あまり期待するなよ?」
「...私、蚊帳の外な気が...。」
意気揚々とする千冬の横で、居心地悪そうにする山田先生。
「あ、なら....。」
「....え?...あ、はい。それなら...。」
それならばと、桜は山田先生に耳打ちし、山田先生は近くの物陰に行く。
「こら!貴女達!」
「うひゃあっ!?み、見つかった!?」
「や、山田先生、これは...!」
叱責を飛ばし、秋十に集中して気づいてなかった鈴とセシリアは驚く。
「連れてきましたよ。」
「や、やっぱり桜さんの指示でしたのね...。」
「全く。いつまで見てるだけなんだか。」
連れてこられた二人に、桜は呆れながらそういう。
「...なんというか、どんどん入りづらい雰囲気になっちゃったから...。」
「....まぁ、気持ちは分かるがな。」
「どの道、尾行は見逃せないのでな。二人には私たちの買い物に付き合ってもらう。」
そういう千冬に、二人は付き合わされる事となった...。
...尤も、蚊帳の外になりがちな山田先生の相手をするだけだったが。
「....なぁ、秋十。ふと思ったけどよぉ...。」
「なんだ?」
店の前で待つ秋十は、何かを思った弾に話しかけられる。
「お前...結構美少女に囲まれてるよなぁ...。」
「....はぁ?」
唐突な発言に、秋十は間の抜けた返事を返してしまう。
「いや、だってよう...ほぼ女子高だろ?」
「まぁ、そうだけど...。」
「いいよなぁ...俺も行ってみたいなぁ...。」
行けないと分かっているからこその言葉だが、秋十はある言葉を思い出した。
―――...そりゃあ...俺たちからもお礼しないとな...。
「(...桜さんと束さんの事だし、本気で弾もIS学園に行けるようにしそうだ...。)」
かつて桜が弾に対して言っていた言葉から、秋十は顔が引きつる。
「...どうした?」
「いや、なんでも。」
すぐに取り繕い、秋十は誤魔化す。
「なぁ、誰か紹介してくれないか?」
「そんな事言われてもな....とりあえず、友人として紹介してみるけど、あまり期待するなよ?」
「まじか!?」
試してみるだけなのに、弾は喜ぶ。
「いや、だから期待するなって。...ったく、お前は普通の状態ならモテると思うんだけどなぁ...。」
「普段からあんな美少女侍らせてるお前が言うか!?」
弾の指す“美少女”とはシャルロットの事である。
他にもいるのだが、知っている人物や“秋十ではない人物を好いている”と分かっている人物なので除外してある。
「....なぁ、秋十よぉ...。」
「...なんだ?今度は真剣そうだが...。」
先ほどまでとは違い、少し真面目な雰囲気を出して言う弾に、秋十も少し身構える。
「いや、蘭の事だけどよ...あいつ、お前と再会してからIS学園に行きたいって言っていてな...。大方お前がいるからなんだが...どう思うよ?」
「蘭が...。...そうだな...。」
少し考え込んでから、秋十は言葉を発する。
「...普通に考えれば、本人が行きたいといった事だし、尊重するべきなんだが...。俺としては、ISをどう思っているか聞いておきたいな。」
「ISをどう思っているか?」
「ああ。...ISってどんな動機で生み出されたか知っているか?」
唐突に聞かれ、弾は考え込む。
「動機って...篠ノ之束博士が何を想って創ったかって事か?」
「ああ。そうだ。」
「動機ねぇ...。あれほどのモノを作る程の動機なんて、俺に想像つくか...?」
きっと何か深い理由があるのだろうと思って、弾は秋十にそう返す。
「いや、結構単純な事だ。“空を自由に飛びたい”“あの宇宙の果てまで行きたい”っていう、子供染みた純粋な願いから生まれたんだ。」
「空を....。」
「だから、“インフィニット・ストラトス”なんて名前を付けたんだ。」
“なるほどな”と弾は感心する。
「桜さんや千冬姉も同じ考えを持っているらしいしな...。だから、俺も桜さんも、千冬姉や束さん本人も、ISの事は“兵器”や“乗り物”ではなく、“翼”として見ているんだ。」
「...蘭にも、同じ気持ちで接してほしいのか?」
「強制はしないけどね。でも、そういう想いで作られた存在だっていう事は知っておいてほしい。...もちろん、“兵器”として危険に繋がる存在だという事もね。」
「....そうか。」
少し離れた所で談笑する女性陣の中の蘭を眺めながら、弾は静かにそう呟く。
「強くなったよなぁ、秋十。」
「まぁ...な。まだまだ足りないと思っているけど、これも弾たちのおかげだ。」
「...そんな事ねぇって。」
謙遜する弾だが、実際秋十の言う通り、弾たちがいなければ今の秋十はいない。
「...そういや、あいつの事は大丈夫なのか?」
「あいつ...?」
「...お前の兄だよ。俺は認めたくないがな。」
嫌な顔をしながら弾は秋十に聞く。
弾も一夏の話題をするのが嫌なのだろう。
「あいつか...。まぁ、ほとんど気にしてないな。自業自得だし。」
「ん?何かやらかしたのか?」
「口外できないから詳しくは言えないが...まぁ、やらかして自室謹慎になっていた。今はもう期間は過ぎているけどな。」
「....まぁ、あれだな。ざまぁみろだな。」
弾もまた、一夏によって嫌な目に遭ってきたので、その事に清々する。
「さて...と。桜さんも出てきたみたいだし...ってあれ?」
「なんか、人増えてね?というかあれ鈴じゃねぇか。」
店から出てきた桜たちを見て、二人はそういう。
「ああ。もう一人はクラスメイトだ。どうして...っていうか、いつの間に...。」
「やっぱ女子のレベル高いな...。金髪美少女って...。」
何かを話して千冬と山田先生の二人と別れる桜たち。
それを見ながら二人はそう漏らした。
「お待たせ。二人は他にも用事があるから別れてきた。」
「それはいいんですけど...どうして鈴とセシリアが?」
「ん?俺たちが買い物に行くのが気になってついてきたんだ。」
“終始気づかなったのか?”と言われる秋十。
「え、えっと...。」
「あはは...。」
どう答えればいいのかわからずに、鈴とセシリアは苦笑いする。
「という訳で、今から二人も同行するからな。」
「は、はぁ...。」
段々と人数が増えていく事に、秋十は少し苦笑いする。
「...いいのか?鈴の奴が同行して...。」
「...大丈夫だろ。ほら、あれを見てみろって。」
心配になった弾に対し、秋十が示したのは蘭とマドカの方。
二人は、いつの間にか打ち解けたのか、普通に会話をしていた。
「....何とかなるもんさ。」
「...そうだな。」
確かにしがらみはあった。
だが、案外それは簡単になくなるものだと、二人は実感した。
「さ、買い物を続けるぞ。」
桜にそう言われ、秋十達は買い物を続け、楽しんだ。
後書き
この後、適当なタイミングで弾たちとはお別れしました。
バタフライエフェクトで弾がしっかり兄貴してるという。兄妹仲も良好です。
話に区切りが付けられなくていつもより長くなってしまった...。(しかも結局区切り悪い)
原作などだとシャルロットメインの話なのに、後半は完全に空気と化してしまった...。まぁ、この小説ではヒロインになっていないからね。
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