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提督はBarにいる。

作者:ごません
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鰻はとかく難しい

 さて、鰻を捌くとしよう。今回は焼くからな、背開きの方が身崩れしにくい。だから今回は背開きでいこうか。

 ……っと、その前に自分の手をチェック。鰻の血液は哺乳類に対して有毒だからな、手に傷があってそこに触れると酷く痛む。どうしても、って時には使い捨てのビニール手袋をはめると良いだろう。俺の場合は傷は無いから無問題。右利きの場合は頭を右側に置き、背中が手前に来るようにする。そうしたら使うのは千枚通し。コイツで胸鰭の右側、つまり頭側の付け根の辺りにブスリ。まな板に打ち込むようにしっかりと固定する。動かないのを確認したら、いよいよ鰻に刃を入れる。刃を入れるのは胸鰭の左側の付け根。ちょうど千枚通しが鰭を挟んで反対側にある辺り。頭を切り落とさないようにゆっくりと包丁を入れ、中骨に当たった感触を感じたら包丁を左に傾けて切り口を大きくする。

 いよいよ鰻を開いていく。左手で確りと鰻を抑え、先程の切り口をスタート地点に包丁を入れる。コツとしては、刃に常に中骨が当たっているようにする為に刃を少しだけ傾ける。その状態でノコギリのように引いては戻すを繰り返して少しずつ左へ進めていく。

「やっぱり提督さんてお料理上手っぽい~。」

「そうですね、鰻を捌ける人は中々珍しいですよね。」

「そうかぁ?こんなモンやって慣れるしか無いだろうに。」

 昔から色々な魚を捌いて慣れているだけなのだ、本当に。流石に鮟鱇のような特殊な捌き方をする魚は出来ないが、大概の魚は捌けると思う。要するに戦闘と同じだ。場数が重要。注意点としては、腹側に包丁が貫通しないように気を付けて捌いていく。刃は背中線(背中の真ん中)を意識して波形にならないように気を付けて開く。尾鰭は無理に開かない。蒲焼きにすると、どっちにしろ焦げて食べられないからな。切り落としてしまった方が早い。が、今はまだ落とさない。



 鰻が開けたら次は肝と骨の除去だ。肝は手で取り除ける物は取り除き、身とくっついている部分は包丁を使って削ぎ落とす。この肝も調理すればいい酒の肴になるんだが……今回はパスだ。次は中骨だ。頭と付いたままの中骨を切り離し、身から浮かせるように刃を当てる。後は開いた時と同様に刃をノコギリのように動かして身から中骨を剥がしていく。この時一緒に尾鰭も切り落としてやる。

 骨が取れたら次は血合いの除去。肝があった辺りに付いている血合いを包丁で削るように取り除く。もしも中骨も食べるなら、こちらの血合いも取り除いてやる。中々食べた事がある人は少ないと思うが、鰻の中骨は素揚げにして塩を振るとパリパリサクサクでいいスナックになる。80cm以上ある大物の鰻だと腹骨もデカいので包丁で何本か切れ目を入れる。鰻屋は背鰭と臀鰭も切り落としてしまうのだが、アレは切れ味のいい鰻包丁と高い技術が必要な為に取らない。まぁ、蒲焼きにするなら気にならなくなるからな。後は頭を落として、表面に付いた血液を水道水で洗い流せば完成。二人からはおお~…と、感嘆の拍手が起こる。コイツを食べやすいように半分に切って鉄串を売ったら、焼きに入る。



 鰻の蒲焼きの調理スタイルは、大きく分けて三通りに分類される。関東風、関西風、九州風だ。

 関東風は背開きで焼き、途中から蒸してふっくらと仕上げるのが特徴。関西風は蒸さずにこんがりと焼くだけで火を通す(地焼き)。主流は腹開き。九州風は背開きで地焼きで仕上げる。それぞれにいい所があるのだが、個人的には皮の香ばしさが味わえるから関西風よりの焼き方の方が好みだな。今回は背開きでやってるから九州風だけど。

 ガスコンロに火を点けて皮目から焼いていく。焼き加減を見ながら、盛り付けの支度も同時進行でしていく。きゅうりを半分、青じそを10枚、三つ葉を1/2束、しば漬けを適量。きゅうりを輪切り、三つ葉は1cmの長さで刻み、青じそとしば漬けは粗微塵に刻んでおく。鰻の香りが立ってきた、そろそろ返し時か。

 クルリと表裏を返して、身の方を焼いていく。その間に皮目に刷毛でタレを塗る。今回は市販の鰻のタレ。甘辛く香ばしい香りが立ち込める。グウゥ…と腹の虫が鳴いた。どちらだろうかと顔を見ると、真っ赤になった神通がそっぽむいていた。バレバレだっての、可愛いなぁもう。

「でも珍しいなぁ。神通と夕立って組み合わせは。」

「今日は夕立も非番だったから、神通さんに組み手の相手を頼まれたっぽい。だから、今日は一緒に来たの。」

 成る程、神通が鍛練に熱を上げたのはそういうワケか。しかし軽巡と駆逐艦の最強火力の激突か。さぞ見応えのある試合だったろう。

「でも夕立ちゃん凄かったです。危うく負けてしまう所でした。」

「え~?だって結局4勝6敗で負け越したっぽい。」

 いやいや、それ十分凄いから。鬼教官て呼ばれてる神通に4回土付けてる時点で凄すぎるから。

 そんな会話をしている内に、そろそろ鰻も具合が良さそうだ。ならばそろそろ仕上げだな。俺はご飯を大皿に盛り、そこに酢1/4カップ、砂糖大さじ1、塩小さじ1/2を合わせたなんちゃってすし酢を全体に回しかける。酢飯っぽくするなら混ぜながらの方が良いんだろうが、わざとムラを作って味の差異を作った方が飽きずに食べられる。

 出来た酢飯に輪切りのきゅうりを散らしたら、焼き上がった蒲焼きを縦半分に切ってから1cm幅に切って全体に散らす。青じそ、三つ葉も散らしたら、最後にしば漬けと山椒の実の佃煮を散らす。これがピリッといいアクセントなんだ。

「さぁ出来たぞ、『鰻のちらし寿司』だ。二人で取り分けて食べな。」

 俺はそう言いながら、とっておいた肝に串を打ち、コンロで炙る。肝焼きである。

「ん~♪鰻がジューシーで美味しいっぽい~。」

「それに、しば漬けや山椒の佃煮がくどくなくしてくれますね。」

「だろ?結構美味いんだよな、それ。」

 そう言いながら、俺も肝焼きにかぶりつく。うん、ほろ苦さとタレの甘辛さが絶妙。いい肴だわ。今回は自分で焼いた蒲焼きを使ったが、スーパーで売ってる鰻の蒲焼き、なんなら穴子の蒲焼きでも美味しく作れるぞ。その時は、酒を軽く振ってからレンジでチンするとふっくらと仕上がる。

「んへへぇ、世界がグルグルっぽい~…」

「あらあら、飲ませ過ぎましたかね。」

 見ると、一升瓶は空。二人でほぼ五合ずつ飲んだ計算か。上善は飲みやすいが決して度数が低い酒ではないからな。

「では、夕立ちゃんは私が送って行きますね。提督、お休みなさい。」

「おぅ、また明日な。」

 むにゃむにゃ言いながら眠っている夕立を背負って行く神通を後ろから眺めていると、何故だか本当の姉妹のように見えてくるから不思議だ。まぁ、そろそろ呑兵衛共が二次会に此方に来る頃だろう。時刻は午後11時を指していた。 
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