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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ハリー・ポッター】編
  175 ≪嘆きのマートル≫


SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー

〝決闘クラブ〟から幾日か経過して、そろそろクリスマス休暇のあれそれ浮き足立つ頃合いだが、とある出来事が水を差した。

〝スリザリンの継承者〟による一連の事件に、また新たなる動きを見せたのだ。

……結果から云えば、マグル生まれのハッフルパフ生、ジャスティン・フィンチ‐フレッチリーと≪ほとんど首なしニック≫が襲われた。

位置関係からして、ジャスティンがニック越しにバジリスクの眼を見てしまったと云うのと、サー・ニコラスは直截(ちょくせつ)見たが、一度死んでいるのでもう一度死ぬことはなかった──教師方の見解だ。

「……結局誰なのかしらね、〝スリザリンの継承者〟って」

「……〝決闘クラブ〟のあの様子を見るに、マルフォイじゃない事は少なくとも明らかだな──ルークをG‐6へ…王手(チェック)

ハーマイオニーのナイトをルークで討ち、キングに王手(チェック)を宣告する。……ハーマイオニーのキングはまだ二つほど逃げ道があるが、一つはポーンが──もう一つはナイトが押さえてあるので、その実質は〝詰み(チェック・メイト)〟だ。

ハーマイオニーの悔しそうな顔を見る限り、ハーマイオニーもまた、〝詰み(チェック・メイト)〟だと云う事に気が付いているらしい。

大広間でチェスをしながら俺達が思い出すのは、あの〝決闘クラブ〟があった晩にアニーにけしかけられた蛇に、ひきつり顔で及び腰になるマルフォイの姿。

……最早〝〝スリザリンの恐怖〟=バジリスク〟と云う等式が浸透している手前、〝肥大化〟させられたとは云え──ただの蛇を相手に〝あんなザマ〟を曝したマルフォイを誰が〝スリザリンの継承者〟だと(はや)したてられようか。

「ロンは誰だと思う? マルフォイはハズレだったけど──降参(リザイン)よ。やっぱり強いのね」

「仕込みが違うのだよ、ワトソン君──〝スリザリンの継承者〟ねぇ」

「次はボクとやろう。ハーマイオニー、代わって」

〝どこまで〝知識〟を開陳すべきか〟──などと頭を悩ませているとチェス盤の向こうに、ハーマイオニーに代わる代わるのかたちで今度はアニーが腰を降ろす。

俺達が使っている魔法使いのチェス盤は進めたい駒を進めたいマスに宣言するだけで動いてくれるし、相手の駒を壊す時のアクションは中々に見物なので割りと面白い。駒が自動的に修復されるのもグッド。

「ポーンをC‐6へ──一旦句切っちゃった〝継承者〟についてだけど、結局のところ次の目星は?」

「ポーンをF‐3──目星か…。……あれは〝目星〟とまでは言い切れないかもしれないが、気になる点はある」

「〝気になる点〟って?」

「今現在、この──【ホグワーツ魔法魔術学校】ではバジリスクが這いずりまわっているだろう?」

改めて現状を俺が口にすれば、チェス盤の向こうのアニーと〝撒き餌〟に引っ掛かったハーマイオニーはほぼ同時に頷く。

「そこで俺はちょっとばかし視点を変えて〝在ったり無かったり部屋〟で〝【ホグワーツ魔法魔術学校】内で死んだ人間がいないか〟を調べた」

更に「……バジリスクが居る学校で人死にがあってもおかしくないからな」と付け足せば、アニー、ハーマイオニーの二人は渋々ながらも納得の意を見せる。

……ちなみに俺が語っているのは映画ありきの〝知識〟ではなく映画を補填するために集めた知識である。

「そしてその部屋に在った新聞に興味深い記述を見付けた。……どうやら50年前くらい前に、この学校の女子トイレとある少女が不自然な突然死を迎えたらしい」

アニーもハーマイオニーも俺の話に聞き入るばかり。

「チェスやめようか?」

「そうだね、やめようか。ロンの話も聞きたくなってきたし。……降参(リザイン)

アニーへとそう()けば俺の話でチェスがどころじゃなくなるのをアニーは悟ったのか、とっとと降参(リザイン)して、てきぱきとチェス盤を片付け始める。……ちなみにハーマイオニーは何やら〝女子トイレ〟と俺が言葉にしたときから考え込んでいる。

……アニーがチェスを片付け終わるのを見計らい更に続ける。

「……さて、今俺は〝不自然な突然死〟といったが、記事から読み取るに、その少女の遺体には目立った外傷は無かったらしい。……そこはまぁ良いとして──そしてそれから、一人の勇敢な生徒が犯人を突き止めてホグワーツから追い出したそうだ」

「……確かに興味深い話だね」

「……いや、更に興味深いのはこれからだよ。……犯人を突き止めた生徒は〝ホグワーツ特別功労賞〟なる物を受賞したらしい」

「……立派じゃない。私達も見習わないとね」

思考の海から這い出してきたらしいハーマイオニーは、〝その生徒〟の功績に感心した様子を見せる。

「で、その生徒について気になった俺は、更に調べる為にトロフィールームに向かって、その少女が亡くなった年を照らし合わせながら誰が〝功労賞〟を受賞したのかを調べて──〝とある名前〟を目にした。……二人も間違いなく知っているだろう名前だったよ」

「教師の誰か?」

「いや、50年前──範囲を拡げてのプラスマイナス3年で〝ホグワーツ特別功労賞〟を受賞したのは一人だけだった。……その名はトム・マールヴォロ・リドル」

「「っ!!!」」

大広間の周りの目なんか気にしたものかと云うほどに、もの凄い勢いで立ち上がるアニーとハーマイオニー。

然もありなん、トム・マールヴォロ・リドル──未来の≪死の飛翔≫がホグワーツに在学時、功労賞など貰っていたことなど驚天動地モノだったのだろう。

「自分に≪死の飛翔(ヴォルデモート)≫なんて片腹大激痛必至な──もとい、小洒落た通し名を着けちゃうくらいだから、〝スリザリンの継承者〟とか名乗っちゃっていてもおかしくないよなと云うのが俺の推論」

(もっと)も、〝サラザール・スリザリンの継承者〟と云うのは真実っぽいが、〝そこはそれ〟精神で今は語らない。

「……な? 〝目星〟っていうまでにはあやふやだろう?」

「……つまり、ロンは今年も去年の焼き直しだと云いたいの?」

「Exactly(イグザクトリー)──大体その通り」

アニーの確認に諧謔(かいぎゃく)を込めながら肯定すれば、こんどは先ほどのチェスとは逆に、アニーからハーマイオニーへとバトンが移る。

「でもどうやって…? ヴォル──もとい〝名前を云ってはいけない例のあの人〟はその力のおおよそを喪っているのよね? ……そう、だから〝焼き直し〟と云うことなのね」

「そう。だから、俺もその〝どうやって?〟が気になってるんだよ」

そこで俺は一旦言葉をおく。……そして俺の言葉に続くようにハーマイオニーが「そういえば」、と口を開いた。

「多分だけど──私、〝亡くなった少女〟について心当りがあるわ」

「……〝亡くなった少女〟──っ、そうか〝あの娘〟か…。奇遇だねハーマイオニー、ボクもその少女について覚えがある」

「……もしかしてさの少女ってゴーストになってたりするか?」

ハーマイオニーに思い出した様な表情で続くアニー。そんな二人にそう確認してみれば、二人は揃って鷹揚(おうよう)な頷く。

「……一応俺もその少女については調べてあるが──答え合わせしとくか?」

「そうね、1、2、3でいきましょう──1」

「2」

「3」

「マートル・エリザベス・ウォーレン」「≪嘆きのマートル≫」「≪嘆きのマートル≫」

マートル・エリザベス・ウォーレン──≪嘆きのマートル≫のフルネームを口にしたのは俺で、〝≪嘆きのマートル≫〟と云う通称を異口同音に口にしたのはアニーとハーマイオニーだった。

「……マートル・エリザベス・ウォーレン──≪嘆きのマートル≫ってそんなフルネームだったんだ」

「……これで次に行く場所は決まったわね」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

やって来ました女子トイレ。……何故か男子である俺も。

……ゴーストが地縛霊宜しく住み着いているトイレということで、皆から嫌煙されていて誰も訪れないだろう事も知っているが──一応女子トイレなので自粛していたがハーマイオニーとアニーに有無を云う前に押し込まれた。

「……どうして俺まで…」

「良いじゃないここには誰も来ないもの」

「まぁまぁ、ロンの知識も役立つかもしれないからね」

「ぬぅ…」

俺を女子トイレに押し込んでおきながら開き直るハーマイオニーには色々ともの申したいところはあるが、アニーの云う事も納得出来なくもない──どころか、実際その通りなので言葉に詰まる。……その時、トイレの奥の方から声が聞こえてくる。

<……貴方たち、何しに来たの…? ……ってハーマイオニーじゃない>

「ハァイ、マートル。ご機嫌は如何かしら? 今日はマートルに聞きたい事があって来たの」

<ふーん、でもそれだけならそこの赤毛君を連れてくる必要はなかったんじゃないの?>

「初めましてだな、えっと──ミス・ウォーレンで良かったかな? 俺はロン・ウィーズリーだ」

<あら、私のファミリーネームを知ってるのね。≪めそめそマートル≫や≪嘆きのマートル≫以外で呼ばれたのは──それも〝ミス〟なんて言われたのも久し振りよ>

久々にファミリーで──それも敬称つきで呼ばれたのが嬉しかったのか、(かんばせ)に──判りにくいが喜色を浮かべながらすす、と寄ってくるマートルをあしらっていると、俺達三人の仲で一番マートルと親交が深いハーマイオニーが話を進める。

「あのね、今日はマートルにはマートルが死んだ日の事について()きに来たの」

<……私が死んだ日の事…? ……良いわよ、今日はいい気分だから教えてあげる>

マートルは思い出すように語っていく。

<そうね、あの日の事は今でも思い出せるわ──あの日はオリーブ・ホーンビーに眼鏡の事でからかわれてここで泣いていてね、そしたらね、男子が入ってきたの! するとその手洗い台のところで、変な言葉──掠れた声で何かと話しているようだったわ。……まぁ男子だったからカチンときて個室から出て、その男子怒鳴ろうとしたら──死んじゃったの>

「話してくれてありがとう、マートル。……ロン、アニー、きっとここの手洗い台が〝秘密の部屋〟への入り口なのよ──ほら見てここに蛇の装飾があるわ」

ハーマイオニーに示唆(しさ)れた蛇口には確かに蛇の装飾があった。

「ねぇ、マートル最近ここに誰か来てた? もし来てたならその人の特徴を教えて」

<私が知る限りは誰も来てないわ。……あ、でもちょうど──ロン、貴方みたいな赤い髪が落ちているのは何度か見たわ。……その髪は長かったけどね>

「〝秘密の部屋〟が開かれたのは今年から…。ロンみたいな赤毛…。長髪…」

そこでアニーのぶつぶつとした呟きが聞こえるそして──

「ジニー」

この日を以て、俺達の〝継承者〟探しの議論は一旦終了した。

SIDE END 
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