提督はBarにいる。
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これはレディーですわ。
まずは簡単な奴から行くか。ライムジュース20mlに、ガムシロップを容器の半分。それをジンジャーエールを適量で割り、クラッシュドアイスを入れたコリンズグラスに注げば完成だ。
「ほれ。まずは一杯目『サラトガ・クーラー』だ。」
3杯分用意して、2人に手渡す。乾杯して、ゴクリと一口。
「美味しい!辛くない‼」
「ん。確かに、キツくないから飲みやすい。」
そりゃそうだ。これアルコール入ってないカクテル……モクテルだもの。呑兵衛な読者諸君は、ここにウォッカやジンを足すと中々に美味だ。因みにだが、サラトガという名前の全くレシピも違うブランデーベースのカクテルがある。下戸な読者の方はバーで頼む時には注意しよう。
続いて俺はお代わりの準備を始める。オレンジジュースとレモンジュースを2:1の割合でシェイカーに入れ、風味付けにアンゴスチュラ=ビターズというお酒を2dash。1dashは1mlなので、含まれるアルコールはほぼ0だ。最後に先程残ったガムシロップを淹れたらシェイク。少し大きめのカクテルグラスか、シャンパングラスに注いだら完成。
「はい、お代わり。『フロリダ』だよ。」
ルーツはアメリカ禁酒法時代と言うから、かなり歴史の古いモクテルだ。更にフルーティーにしたいなら、ガムシロップの代わりにザクロを使ったグレナディンシロップを使うとよりフルーティーな味わいに出来る。察しの良い読者諸兄は既にお分かりかと思うが、今俺は那智にアルコールの入っていないモクテルを飲ませ、血中のアルコール濃度を下げようと努力しているのだ。
「美味し~い!司令官、もっとちょうだい‼」
よほど気に入ったのか、もっと寄越せとせがんでくる暁。まぁ、いってみればちょっと大人っぽいミックスジュースだからなぁ。飲ませても問題ない、か?
「……そうだな。今度は趣向を変えて、南国風な物を貰えるか?」
少し口調が戻って来た。脳が再始動し始めたらしい。
「OK、ちょっと待ってな。」
用意するのはココナッツミルクとパイナップルジュース。それと氷をたっぷりと。ココナッツミルク45mlに、パイナップルジュースを80ml。それを氷と共に投入するのはバーブレンダー。ま、簡単に言えばミキサーだな。氷が細かくなるまでミキシングしたら、カットパインとレッドチェリーを飾り、ストローを刺す。
「おまち。『ヴァージン・ピニャ・コラーダ』だ。今日は暑かったからな、フローズンスタイルにしてみた。」
このように長時間掛けて飲むカクテルをロングスタイルカクテルと呼ぶ。ヴァージンとは言っても処女ではなく、「初めての」という意味合いで使われ、カクテルに付く場合にはノンアルコールである事を指し示している。呑兵衛な人はここにライト・ラムを30ml足せばピニャ・コラーダになるし、ウォッカを足せばチチというカクテルになる。試してみよう。
「う~ん、このココナッツミルクの独特の風味が、まさにトロピカルよねー。」
「うむ。ところで提督、ぴ……ぴにゃ?ぷにゃ?こらーだとはどういう意味だ?」
横文字苦手な那っ智可愛い(ノ≧▽≦)ノ
「ピニャ・コラーダな。スペイン語で『裏漉ししたパイナップル』って意味だぞ、確か。」
「流石に博学だな。」
「まぁな。好きこそ物の上手なれ、って奴さ。」
「しかし……暁が羨ましいよ。」
ピニャ・コラーダを啜りながら、那智がそう呟いた。途端にむせかえる暁。
「ふぇっ!?ななな、何言ってるの那智さん!?」
赤くなってドギマギする暁を尻目に、那智はクスリと笑って更に続けた。
「だって、私と同じ四姉妹の長女として妹達を取り纏めているし、自分の向上心も落ちる事がない。私には、暁がその名の通りに眩しく見えるよ。」
「何言ってるのよ那智さん!那智さんは立派なレディーじゃない!」
顔を真っ赤にして那智の発言を真っ向から否定したのは、誰あろう暁だった。
「那智さんは私達をどんな時だって身体を張って護ってくれるじゃない。自分が大破しようとお構い無しで他人を守れるなんて、とってもレディーな振る舞いだと思うわ。」
そうだよ、そうなんだよな。暁は普段ポンコツ(ヒドい)だけど、たま~に凄く良い事を言うんだよな。それが常に出せれば、一人前のレディーだと思うんだが、それにはまだまだかかりそうだ。
「さて、そろそろ店仕舞いだ。これを飲んでお帰りになられては?二人のお姫様。」
そう言って差し出したカクテルグラスの中身は「シンデレラ」。パイン・レモン・オレンジジュースを同じ量だけ入れてシェイクし、原料と同じカットフルーツで飾った見た目にも華やかなカクテルだ。更にそれをソーダ水で割り、爽やかさをプラスした。
気付けばもう時計は12時を回っている。さぁ、舞踏会は終わりの時間だぞ?
「ふふ、そうね。夜更かしはレディーの大敵だもの。ねぇ、那智さん?」
「そうだな。じゃあこれを飲んだらお暇するとしようか。じゃあ、小さなレディーに乾杯だ。」
そう言って二人はグラスを軽く打ち合わせ、飲み干すと席を立っていった。あれだけ酔っていた那智の足取りも軽やかだ。どうやら、小さなレディーの活躍のお陰らしい。
そして翌日、第六駆逐隊の部屋から雷の怒鳴り声が聞こえた気がしたが、俺は何も聞いていない事にした。
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