「害ポケモンの駆除か……」
グレイは掲示板に貼られた1枚の紙を見ながらそう
呟いた。
湖岸でエレナとバトルしてから約1週間。グレイが旅立ってからは約5ヶ月が経過していた。
グレイは現在、ヒヨワタウンという小さな町のポケモンセンターにいる。その場所にある掲示板に、ポケモン駆除の補助員募集を伝えるお知らせが掲載してあったのだ。
そのお知らせには、普段は山奥に生息しているリングマというポケモンがヒヨワタウンの近くに出没している現状のことが書かれており、その下には募集要項が書いてある。
募集要項には、危険を伴う作業のためジムバッジを所持している者に募集を限ること、なるべく大きくて強そうなポケモンを連れていることが好ましいこと、が書かれていた。
(ジムバッジを集めるような奴が、こんな場所に来るとも思えないな……応募すれば採用確実だろこれ)
ここヒヨワタウンは、2つの都市を結ぶ街道から山側へ分岐した道を進んだ先にある小さい町である。道はヒヨワタウンで行き止まりになっているため、ヒヨワタウンを経由してどこかに行くことはできない。
さらに、街道からは離れているため、都市を行き来する者がヒヨワタウンを休憩地点として利用することもできない。
これらの理由から、ヒヨワタウンに訪れる者など目的なくブラブラ旅している者だけであり、実力あるトレーナーが訪れることなど滅多に無いだろうとグレイは思っていた。
町に1つしかないボロくて寂れたポケモンセンターが、この町に訪れるトレーナーが少ないことを物語っていた。
グレイはジムバッジを2個所持しており、さらにギャラドス(高さ6.5m)を手持ちに連れている。求められている要素は十分に満たしていると思ったグレイは、応募することに決めた。
(暇なトレーナーがオレ以外にもいるとはな……)
指定された時間、集合場所に到着したグレイは、駆除作業のリーダーの男の他に、自分よりも身長が低い少年がいるのを見てそう思った。
その少年は既に駆除作業用の制服を着ていたが、年齢的に考えて、仕事でこの町で野生ポケモン対策を行っているとは考えられず、旅のトレーナーであることは明らかであった。
「お前、歳いくつだ?」
自分よりも身長がひと回り小さい少年に、グレイは思わず聞いてしまった。
聞かれた少年は、露骨に不快そうな表情を浮かべながらグレイに返答する。
「……14歳だ」
「はあ? 14歳!? 義務教育終わってないじゃねえか。家出したのか? 不良なのか? だいたいポケモン扱えるのかよ?」
グレイは続けざまにそう質問を口にした。
少年はますます顔をしかめ、不快であることを露骨にアピールしながら口を開く。
「……アンタ、ずいぶんと失礼な奴だな。歳より先に聞くことは無いのか? 俺がアンタの立場だったら、まず名前を聞くね。その後に、持っているジムバッジの数を聞く」
少年はグレイを睨みながら話を続ける。
「……俺もアンタもトレーナーだってことはお互い想像がつくことだ。それに、これからポケモン使って仕事するんだ。だったら、歳なんかよりもトレーナーとしての実力を先に確認するべきだろ……? 違うか?」
その少年の態度と言葉に対して、グレイは言葉を返す。
「ああ!? オレはお前の歳が気になったから聞いたんだよ! 気になったこと聞いて何が悪いんだよ? それにトレーナーの腕なら聞いただろ? 『ポケモン扱えるのか』って」
「……なんだ、その人を見下した聞き方は? この作業に採用されたんだから、ジムバッジを持ってるに決まっているだろ? アンタは人を見下しすぎだ」
「見下してる!? 悪いかよ? オレはお前よりも歳上だ。むしろお前の方がオレに生意気な態度とってるんだよ!」
「……ポケモントレーナーは実力の世界だ。歳は関係ない」
「勝手に決めんなよ」
最初の接触が悪かったのか、それとも2人の相性が悪いのか、
傍目から見ればグレイと少年の関係は良好とは言えないものであった。
2人の雇い主である駆除作業のリーダーは、2人が言い争うのを見て見ぬフリをしている。仕事さえやってくれれば良いという態度である。
リングマの駆除と言っても、リングマを戦闘不能にしたり殺処分にしたりという話ではない。あくまでも山奥に帰ってもらうことが目的であり、大きなポケモンを求めたのはリングマに町の戦力を見せつけるためである。
ちなみに、一般的なリングマは高さが1.8mと言われている。
グレイは、高さ6.5mのギャラドスを出して、どこにいるか分からないリングマに戦力をアピールする。
一方、少年は高さ9.2mのハガネールを出した。
ハガネール。てつへびポケモン。鋼タイプかつ地面タイプである。複数の鉱石が連結して大蛇となった外見は、鉄蛇の名に恥じない姿である。
(ハガネールか、実物を見るとでかいな……! KKよりでかいポケモンなんて、めったに見ないからな)
グレイはハガネールを見ながらそう思った。
突如、ギャラドスがハガネールに向かって好戦的な態度をとり、今にも攻撃を始めそうな姿勢を見せた。ギャラドスは、ハガネールをバトル相手だと勘違いしたのである。
グレイは大慌てでギャラドスを制止した。
「……アンタ、ギャラドスの
躾がなってないな」
ギャラドスを制止するグレイの様子を見て、少年がそう言った。
グレイもすかさず言い返す。
「もしオレのギャラドスがハガネールを攻撃してたらそうかもな! だが、オレはギャラドスをちゃんと止めた。
躾はなってるだろ!?」
「……本当に躾ができていれば、そもそも俺のハガネールをいきなり攻撃しようとはしないだろ?」
「それは躾とは関係ないな! 個性だろ個性! オレのギャラドスは戦うのが好きだから、いきなり攻撃しようとするのはしょうがない事だ」
「……体が大きいポケモンには好戦的なヤツが多い。その好戦的な性質をコントロールしてこそ、実力あるトレーナーだ。……実力が足りないのにギャラドスみたいな大きいポケモンを扱うからそうなるんだ」
「ああ!? 遠回しに自分のこと実力が高いトレーナーってアピってんのか!?」
「……自分の実力の高さをアピールしたつもりはない。アンタの実力の低さを指摘しただけだ」
「ああ!? ムカつくなお前! ガキのくせに」
「……アンタだってそう変わらない歳だろ!?」
再び口論が始まる2人。
駆除作業のリーダーは、先と変わらず2人の言い争いは見て見ぬフリをする。
傍目から見ればグレイと少年の関係は悪く、険悪な雰囲気が漂っているように見える。しかし実のところグレイは、内心でこの少年との言い合いを楽しんでいた。
普段旅をしている中で、他のポケモントレーナーと喧嘩になることなどほとんど無い。遠慮なく言い争いができる相手を、グレイは密かに求めていたのである。
「明日も参加してくれると嬉しいけどね。まあそれは君たちの自由だ。今日の分のお金はちゃんと払うから安心してね」
駆除作業のリーダーが2人に向かってそう言いながら、バイト代の入った封筒を渡した。
時刻は夕方。夜間の作業は危険ということで、リングマの駆除作業は終了となった。
目撃情報がある地点は全て巡回したが、結局今日の作業中にリングマが出現することは無かった。
「じゃあ、今日はこれで。解散していいよ」
そう言い残し、駆除作業のリーダーは去っていった。
その場に残ったのは、グレイと少年だけである。
「……じゃあ、俺はこれで」
「ああ、ちょっと待てよ」
無愛想に挨拶して帰ろうとする少年をグレイは引き留める。
不機嫌そうな表情を浮かべながら少年が口を開く。
「……まだ何かあるのか?」
「お前、ジムバッジ持ってるトレーナーなんだろ? バトルしてくれよ」
「……3個だ」
「あ? 何が?」
「……俺が持っているジムバッジの数だ」
「ああ、そうなのか。オレは2個」
「……引き下がるつもりはないのか?」
「あ? なんでだよ? ジムバッジ持ってる数が違ったらバトルしちゃいけないのか?」
グレイの問いかけに対し、少年は小さくため息をついた。
少年は静かに口を開く。
「……アンタ、知らないのか? ジムバッジの所持数は、2個と3個じゃあ実力に大きな隔たりがある。ジムバッジ3個持ってる奴はな、普通は道端でバトルなんかしないんだよ。一般人とは実力が違いすぎるからな」
「へえ、3個持ってるとそんなに違うのか」
「……もしかしてアンタ、他の地方から来た人か? このトラベル地方はな、トレーナーの数が多いせいで、他の地方に比べてジムバッジ取得のハードルが高いんだよ。トラベル地方のジムバッジを3個持ってる奴は、もはや一般トレーナーじゃないんだよ」
「いや、オレ普通にトラベル地方出身だけど。普通に知らなかったが」
「……アンタ、けっこう常識のない人だな」
「あ? 義務教育終わってねえのに旅してるお前の方が非常識だろ!? ああ、そういえば1人で旅に出てもいい歳ってその地方によって違うって聞いたことあるな。お前こそ他の地方から来たのかって」
「……俺もトラベル地方の出身だ」
「やっぱりお前も大概非常識……ああ、もう何でもいいからオレのギャラドスと遊んでくれよ。オレの名前はグレイ。よろしく。さっさとバトルできる場所探すぞ!」
話が進まないと思ったグレイは、強引にバトルする方向に話しを進める。
「……俺の名前はイザルだ」
グレイの強引な話に対し、イザルと名乗った少年は拒否の意思を示さなかった。
グレイは、イザルと共にヒヨワタウンの町外れに移動した。
夕方であり、日が沈むまであまり時間が無いので、バトルはポケモン1対1で戦うことになった。
グレイは宣言通りにギャラドスを出した。
イザルは、先ほどのリングマ駆除作業で連れていたハガネールを繰り出した。
ギャラドス(高さ6.5m)とハガネール(高さ9.2m)が対峙する光景は、迫力あるものであった。
「じゃあ、準備はいいか?」
「……ああ大丈夫だ。アンタの指示を合図に始めていいぜ」
「ああ分かった……KK! 突撃!」
「……“あなをほる”!」
グレイの合図で、ギャラドスがハガネールに一直線向かう。
一方ハガネールは、地中から相手を強襲する地面タイプの攻撃技“あなをほる”を発動し、地面を勢いよく堀り進み、地中に潜った。
イザルが“あなをほる”を指示したのを見たグレイは、相手に声をかける。
「おいおい、ギャラドスは飛行タイプ。地面技は効かないぜ?」
「……攻撃技は攻撃にしか使えないって思ってるのか? アンタ、発想が貧弱だな。……ハガネール“ロックカット”!」
イザルが大声で地中にいるハガネールに指示した。
“ロックカット”は、岩や鉱石でできた体を磨くことで摩擦を減らし、素早く動けるようになる補助技である。
ハガネールは地中で、ギャラドスに邪魔されることなく、“ロックカット”で自身の素早さを大幅に上昇した状態にした。
「……飛び出せハガネール! “がんせきふうじ”!」
ハガネールは地中で助走をつけ、勢いよく地上から空中へ飛び出し、空中にいるギャラドスよりも上の位置から、岩石を投げつける岩タイプの攻撃技“がんせきふうじ”で攻撃する。
ギャラドスに巨大な岩石が複数降り注ぎ、ギャラドスにダメージを与えた。
さらに、ギャラドスに命中した岩石は、ギャラドスの体にしつこく張り付いて剥がすことができない。岩石に封じられてギャラドスの動きが遅くなった。
「KK、負けるな! 攻撃!」
「……“あなをほる”だ!」
イザルの指示により、ハガネールは空中から地面に降り立った勢いのまま地中に潜った。これによりギャラドスの攻撃は空振りに終わる。
「……飛び出せハガネール、“がんせきふうじ”!」
「KK、“たきのぼり”! 捕まえろ!」
再び地中で助走をつけ、勢いよく地上から空中へ飛び出したハガネールは“がんせきふうじ”で上の位置からギャラドスに岩石を降らせる。
しかし、ギャラドスは“たきのぼり”を発動し、水をまとって全力で上に位置するハガネールに突っ込んだ。
グレイのギャラドスが使う“たきのぼり”は、上方向へ突撃する時に特に威力が高くなるという特殊な性質がある。ギャラドスの“たきのぼり”は、“がんせきふうじ”を弾き飛ばしてそのままハガネールに直撃した。
重さが400.0kgもあるハガネールは、ギャラドスの“たきのぼり”でダメージを受けるものの、大きく吹っ飛ぶことは無く、両者の距離が縮まった。
ギャラドスは長い胴体でハガネールに巻きついて締め上げ、“こおりのキバ”をくらわせ、食い込ませた自身の牙をグリグリと動かしてハガネールに痛みを与える。
ハガネールもギャラドスの胴体に噛みつきながら、“アイアンテール”で鋼鉄の尻尾を叩きつけてギャラドスを攻撃する。
空中で絡み合うギャラドスとハガネールだが、ギャラドスはハガネールの重さを支えきれず、やがて両者は墜落しそうになる。
そのタイミングでグレイもイザルも新たな指示を出す。
「……“あなをほる”! 地中に逃げろ!」
「逃がすな! “たきのぼり”!」
地面が近づき、地中に逃げようとするハガネールに対し、ギャラドスは“たきのぼり”でハガネールにダメージを与えつつ上方向に押し出す。ギャラドスの肉弾戦による攻撃が再び始まる
ハガネールは地中に潜る体勢をとっていたため、ギャラドスの攻撃への対応が遅れ、その隙にダメージがたまる。
しかしすぐにハガネールも体勢を立て直してギャラドスへの攻撃を開始する。
「……今! “あなをほる”」
イザルはタイミングを見計らってハガネールに指示した。
ハガネールは再び地中に潜った。
今度ハガネールは、上方向へは勢いをつけずに、素早く地面から這い出して、ギャラドスよりも下側から“がんせきふうじ”でギャラドスに攻撃する。
岩石にまとまりつかれているギャラドスは動きが鈍く、素早く避けることができずに“がんせきふうじ”が直撃した。
しばらく両者の戦いが続いた。
ハガネールは地中を上手く使って自分を守りながら、ギャラドスへ“がんせきふうじ”と“アイアンテール”で攻撃を加えていた。
ギャラドスは、ハガネールの僅かな隙を逃さずに積極的に肉弾戦をしかけながら“たきのぼり”や“こおりのキバ”でハガネールにダメージを与えた。
体力の消耗は両者とも同じくらいであった。
「……“あなをほる”!」
イザルの指示により、ハガネールは地中に身を潜めた。
このタイミングで、グレイが新たな技を指示する。
「KK! “あまごい”!」
ギャラドスは“あまごい”を発動し、周囲に局地的な雨を降らせた。
ハガネールは、ギャラドスが“あまごい”を使っている隙に地上に出て、“がんせきふうじ”で攻撃し、ダメージを加える。
ギャラドスは“あまごい”を終えた瞬間、“たきのぼり”でハガネールに突撃した。
周囲の雨粒を吸収して凄まじい威力になった“たきのぼり”がハガネールに直撃し、大きなダメージを受けた。
「……“あなをほる”!」
イザルの指示でハガネールは地中に潜った。
イザルがグレイに向かって口を開く。
「……アンタ、何で最初から“あまごい”を使わなかった? 俺のハガネールを舐めていたのか?」
「違う違う! KKはな、破壊力のない技を使うのが嫌いでな、機嫌の良い時しか使ってくれないんだよ」
「……今は機嫌が良いのか?」
「そういう事だ」
「……機嫌に左右されるとは、もったいないな。……アンタの実力が足りないせいで、ギャラドスの力を100%引き出せてないんだな」
「ああ!? この期に及んでそれかよ! だったら100%の力を出してないギャラドスを相手に手間取ってるお前はなんなんだ?」
「……うるさいな! 俺の方こそハガネールの力を引き出せていないって言いたいんだろ!? そんな事、言われなくても分かっているんだよ!」
(あ? 別にそんな事、言おうとしてないし思ってないんだが……あいつ、あんな生意気な態度とってるけど、意外と悩んでんのかね?)
イザルは、グレイとの会話は終わりだという意思表示をするかのようにハガネールに指示を出す。
「……ハガネール! 這い出て“がんせきふうじ”」
イザルは、雨が降っている影響で威力が高い“たきのぼり”を警戒し、ギャラドスの下から攻めることに決めた。
グレイは新たな指示はしなかった。
ハガネールを視界に捉えたギャラドスは自主的にハガネールに向かって突撃する。
ギャラドスはうまくハガネールの体に絡みつくことに成功し、再び肉弾戦が始まる。激しい肉弾戦は状況が次々と変わるため、イザルは適切な指示を出せないでいる。
「KK! “にらみつける”!」
突然、グレイが指示を出した。
ギャラドスは“にらみつける”によって、ハガネールを睨みつけて不思議な念を送った。これにより、ハガネールは防御力が下がった状態になった。
「よしKK! “たきのぼり”で吹っ飛ばせ!」
グレイの指示で、ギャラドスはハガネールを地面に投げ飛ばしてから“たきのぼり”で水をまとってハガネールに突撃した。
雨粒を吸収して凄まじい威力になった“たきのぼり”が、防御力の下がったハガネールに直撃し、大きなダメージを与えてハガネールを弾き跳ばした。
「……くっ、ハガネール“あなをほる”!」
「逃がすなKK!」
ハガネールが地中に逃亡しようとするが、ギャラドスはハガネールの尻尾に噛みついて逃亡を妨害し、その隙に再び絡みついて肉弾戦へと発展させる。
肉弾戦も、防御力が下がったハガネールに不利な状況であった。
「KK! “たきのぼり”!」
激しくもつれあう両者の距離が少し開いたタイミングでグレイが指示した。
ギャラドスの“たきのぼり”がハガネールに直撃した。
ハガネールはその場に倒れ、動かなくなった。戦闘不能となったのである。
両者の戦いは、グレイとギャラドスの勝利に終わった。
バトルを終え、グレイとイザルの2人はポケモンセンターに向かって歩いていた。
歩きながらイザルがグレイに向かって
呟く。
「……まさか、ジムバッジ2個の奴に負けるとはな。……強いな、アンタのギャラドス」
「もう分かってんだよ、その後にお前が言う言葉。『ギャラドスは強くても、お前は実力が足りないな』って続くんだろ?」
「……いや、もうそんな事は言わないさ。敗者である俺にそんな事は言えないさ」
「なんだよ? 負けた途端に急におとなしくなって、張り合いねえなあ。1対1バトルなんだから、たまたま強いポケモンを1体持ってる奴に負けることもあるだろ?」
「……ハガネールは、今の俺のポケモンの中では1番強い奴だ。……負けてはいけないバトルだったのさ」
「じゃああれだ。お前が弱かった訳じゃなくて、オレが強かったっていう解釈でいいだろ? ジムバッジを2個しか持ってないからといって、ジムバッジ2個程度の実力とは限らないだろ? ジムに挑戦してないだけかも知れないしな」
「……そうじゃない。確かにジムバッジの個数で劣る奴に負けた事もそうだが、俺がショックなのはギャラドスに負けたことなんだよ!」
グレイは黙ったまま、イザルの話を聞くことにした。
イザルが言葉を続ける。
「……俺は、体が大きいポケモンの扱いに関しては相当な自信があるんだ。……扱いっていうのは、バトル中の指示だけでなく、調教や育成方法も含んでいる。……とにかく、体が大きいポケモンの扱いに関しては一流に近いレベルがあると自負しているのさ」
イザルはグレイを睨みながら話し続ける。
「……ハガネールで戦ってギャラドスに負けたって事は、俺はアンタよりも巨体のポケモンの扱い方が劣っているということだ。……ギャラドスを完全に従わせる事すらできないアンタみたいな奴よりもな。……自分に失望したね」
「おい、やっぱり言葉にトゲがあるぞお前」
黙って聞いていたグレイは思わず口に出した。
再び言い合いの喧嘩になる2人。しかし、その雰囲気は先と比べていくぶん
和やかなものであった。
「……おいアンタ、ちょっとあれを見てみろよ!」
軽口を叩きあいながら歩いていたグレイとイザルであったが、イザルが突然山の方を指差してそう言った。
グレイはイザルが
指している方向に目を向けた。山から何か大きな翼をもった生物が飛び立つのをグレイは見た。
「ああ、なんかいるな。もう辺りが暗くてよく見えないが、ポケモンか? 見たことないポケモンだな」
グレイはのんきにそう答えながらイザルの方を見た。
イザルは何やら真剣な目で大きな翼をもつ生物を見ている。
そのイザルの真剣な様子を見たグレイは、何かあるのかと思い、再びその生物の方を見る。
(灰色の体、紫の翼……それ以外何も変わったことはないと思うが、イザルは何をそんなに真剣に見てるんだ? ああ、珍しいポケモンだから捕まえようとしてるのか。確かに、体が大きそうなポケモンだしな。巨体のポケモンの扱いが得意とか言うイザルが欲しがるのも自然だな)
眺めていると、その大きな翼をもつ生物は甲高い声で叫びながらヒヨワタウンの方に近づいてくる。
「イザル、良かったな。こっちの方に近づいてくるから、捕まえられるかも知れないぜ」
グレイの言葉に対し、イザルは『何言ってんだコイツ』と言いたげな少し
苛立った表情を浮かべながらグレイに口を開く。
「……あのなグレイサン、あいつはプテラっていうポケモンなんだよ!」
「へえ、プテラってポケモンなのか。見たことないな。珍しいポケモンなのか?」
「……何言ってるんだ! プテラは大昔に絶滅したポケモンさ!」
「あ? なんでそんな絶滅したポケモンをお前が知ってんだよ?」
「……ああ、もう! 話が通じない人だなアンタ! 科学の進歩で、化石から古代のポケモンを復活させる技術があることは知っているだろ? もっとも、復活させられる化石は、見つかっている化石の中でもごく一部の種類だけだがな。……とにかく、化石を復活させることに成功した古代ポケモンの内の1つが、あのプテラなのさ!」
言いながら、ヒヨワタウンに向かってくるプテラを指さすイザル。プテラはすぐそこまで迫っていた。
イザルが言葉を続ける。
「……そして、プテラは獰猛なポケモンで、空の王者だったと推測されるポケモンなんだよ」
プテラと2人の距離はさらに縮まる。
「おい、そのプテラってポケモン、オレたちの方見てるんだが……」
グレイがそう呟いた。
突如、プテラは甲高い声で叫びながら、大きな口を開けてノコギリのようなキバを見せながらグレイとイザルに襲いかかってきた。
2人はとっさにモンスターボールを取り出し、グレイはギャラドスを、イザルはコモルーを出した。
ギャラドスは敏感に戦いのにおいを察知し、グレイの指示を待つことなく空中のプテラに飛びかかり、プテラを道路に投げ飛ばした。
町の中で舗装された道路のアスファルトにプテラが勢いよく叩きつけられ、アスファルトにヒビが入った。
自分のポケモンに指示しようとしていたイザルだが、その前にプテラとギャラドスによる1対1の戦いが始まってしまった。
指示のタイミングを逃したイザルは、代わりにグレイに話しかける。
「……アンタのギャラドス、ずいぶんと良い
躾がされているみたいだな」
「おい、言ってることがさっきと違うぞ」
「……トレーナーの指示なく、自主的にトレーナーを守るとは大した忠誠心だな」
「いや、違うと思うんだが。単に自分が戦いたいだけだろ……」
先ほどハガネールと戦って消耗していることなど忘れたかのように、ギャラドスは生き生きとしながらプテラを痛めつけていた。
再びギャラドスがプテラを投げ飛ばした。
木造の小屋のようなボロい建物にプテラが叩きつけられ、大きな音と共にボロい建物が崩壊した。
派手に戦う両者。その騒ぎを聞きつけ、何事かと確かめるために周辺の住民たちが集まってきた。
ギャラドスに痛めつけられ、空に逃亡するプテラ。そのタイミングでグレイが口を開く。
「KK、“たきのぼり”」
ギャラドスが、空に逃亡するプテラに向かって、水をまとって突撃した。
プテラは天高く吹っ飛び、やがて重力にしたがい落下し始め、道路に墜落した。プテラは動かなくなっていた。
野次馬からグレイとギャラドスに拍手が送られる。
「……なあ、あれは誰が弁償するんだ?」
イザルが、先ほどプテラがぶつかって粉砕された木造の建物を指差しながら、そう口にした。
「いや、オレ悪くないだろ? 野生ポケモンによる被害だろ? 野ポケ保険とか、そういう何かが払ってくれるんだろ?」
「……巨体のポケモンで町の中で戦う場合は、周りに配慮しながら戦うべきなのさ。……やっぱりアンタ、ポケモンの扱いがなってないな」
「うるせえな。褒めたり
貶したり、ころころと意見を変えるなよ」
2人が言い争っている内に、ヒヨワタウンの治安組織のトレーナーが現場に到着し、プテラの戦闘不能確認と生存確認を行いながら後処理を開始した。
グレイとイザルは事情聴取のために警察署に行くことになった。