世界をめぐる、銀白の翼
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
リトルバスターズ ~パーティアンドメンタル~
蒔風は結局リトルバスターズには本加入しないことになった。
数日後にはいなくなってしまうからだ。
それでも、一時的には仲間になる、という事で、放課後に食堂でパーティーを開いてくれることになった。
「マジで!?パーティーとか大好きなんですけど!!!もうみんないるん?」
蒔風がわくわくしながら理樹に訊く。
そんな蒔風を見ていると、理樹は「この人ホントに十九歳かなぁ・・・」と考え込んでしまったが、凄く身近にも子供みたいな年上がいるので、すぐに慣れてしまった。
なぜ理樹が食堂に蒔風を連れて行っているのかと言うと、恭介は何らかの準備をしているらしいのだ。
「くそみたいに楽しみなんですけどっ!やばいやばいっ!」
移動中にも蒔風はなんだか騒がしい。
よっぽどうれしいみたいだ。
「そんなにうれしかった?」
「そりゃあもう!!いつも一人だからね、こう言うみんなでワイワイは大好きさ!!!」
「いつも一人?」
理樹は顔をしかめた。
確かいろんな世界を回っていて「奴」と戦っているはずだ。
だったら各世界で友達や仲間はできなかったのか?
「できたよ?皆最高の仲間だし親友さっ。でも・・・・」
「???」
そこで蒔風の声が少しだけ落ちた。
「誰かと一緒に世界は回れてはいないのさ。行く先々で友人はできても、俺の隣にはだれもいないのよ」
軽快にそう言い放つ蒔風に、理樹は少しだけ寂しさを覚えた。
そんな旅をしていて、彼は大丈夫なのだろうか、と。
「ん?理樹ぃ、俺の心配してくれてんの?」
「え?うん・・・・ちょっとね」
「ありがとな」
そう言って頭をくしゃくしゃと撫でる蒔風。
そしてすでに吹っ切れた顔をしてこう言った。
「確かにオレは一人かもしれない。でも、俺の戦いがきっと誰かを救っていると、信じている。だから大丈夫なんだ。だから・・・・・戦えるんだよ」
その言葉に理樹は何も言えなくなり、ついには顔がニヤケてしまった。
なんてすごい人なんだろうか。
その考えに達するのに、この人はどれくらいの・・・・・
「え?この程度は高一ぐらいで知ったさ。その後に「正義と悪の存在」、さらには「死と生」だ」
「そんなこと考えてたの?」
「ま、ね。もっと人生をかけて知るべきことを、俺は二十年もしないで、考え始めてからだと三年もしないで知ってしまったからな」
「それって・・・・」
「ま、普通じゃない。だから俺は「異端者」なのだよ。えっへん」
「威張ることじゃないだろ」
「その通りです(笑)」
そんな話をしてると、二人が食堂に到着した。
「ここかっ!!」
「そうだね」
「では行くぞッ!!」
「あ!!待っ・・・」
バタン!!
と勢いよく扉が開かれる。
ボフン!!
瞬間、蒔風の視界が真っ白になった。
なにやら扉の上に仕掛けがあったようだ。
何かの粉で蒔風の全身が真っ白になり、前方では葉留佳がケタケタと腹を抱えて笑っていた。
「やははっ!!引っかかってくれましたなぁ~~~~舜さんは!!」
「はるちゃん、やっぱり悪いよ~~~」
「え~~?こまりんノリ悪いぞ~~~」
そう言って蒔風の方にピョンと寄ってきた葉留佳。
「にしし、かんそーどーですか!?」
固まったままの蒔風に、葉留佳が聞いた。
そして蒔風がフッ、と笑ってから、叫んだ。
「小娘が!!!お前も同じようにしてホットケーキに埋めて食ってやるわ!!!」
「きゃぁ~~~~~~~~!!!!!」
蒔風が葉留佳を追いかけ始める。
事情を知ってる彼らだからいいが、なにも知らない人間が見たら真っ白な変質者が女子生徒に迫る光景だ。
かなりやばい。
「まったく葉留佳さんは・・・・」
「理樹、遅いぞ」
「ごめんごめん。ちょっと話しててね」
食堂中を走り回る蒔風と葉留佳を眺めながら、理樹もテーブルの上にあるものに手を伸ばす。
テーブルの上にはホットプレートが並び、そこで小毬やクドが主体となってホットケーキを焼いていた。
「ぜぇーーー、ぜぇーーー、やっと・・・捕まえたぞ・・・・」
「はぁはぁはぁ・・・・・・捕まっちゃうとは思わなかったですな・・・・・・・」
そこに肩で息をした蒔風と葉留佳が戻ってきた。
葉留佳は蒔風のように頭から小麦粉を被っている。
「やられた~~~~!!悔しいですね~~~~~~!!!!」
「何やってんのさまったく」
そう言って二人にタオルを差し出す理樹。
「こいつメチャすばしっこいのな。まさか軽く本気出すとは思わなかった」
「褒めて褒めて~~~」
「褒めるかいっ!!!」
「舜!!こっち来いよ!!!ゲームやろうぜ!!!」
そこに恭介からの声がかかる。
そちらに足を運ぶと、恭介がビンゴのカードを差し出してきた。
「やろうぜ!!」
「景品は?」
まずそこに食い付く蒔風。
それに対する恭介の返答は
「無い!!だが、ビリには罰ゲームがある!!真人!!!」
「んだよ。こっちはいま食ってんだよ!!」
「いいから、持ってきたもん出せよ」
「へいへいっと!(ドスン)マッスルエクササイザーⅡセカンドだ!!!!」
2が二回ある!?
と、そんなことを思いつつ、それを掲げる恭介。
「ビリにはこいつを飲んでもらう!!!」
「待てよ恭介。なんでこれが罰ゲームに使われるんだよ!!」
「そりゃそうだろ」
そりゃそうである。
このドリンクは真人が筋肉のさらなる成長のために作り上げたものだ。
その味は何とも形容しがたいものである。
「筋肉の筋肉による筋肉のためのこのドリンクをそんなことに使うなよな!!!」
「じゃあこっちで用意しよう」
そう言って蒔風がドリンクを取り出した。
「どこかの世界からの贈り物だ。なになに・・・・・超栄養ドリンク・・・・?」
そのラベルには当て字としか思えない名前が書いてあった。
それは野菜汁(苦)・ペナル茶(ティー)(辛)・青酢(酸)・イワシ水・粉悪秘胃(コォヒィ)とある。
「なんだこれ・・・・・」
「ま、まずそうだ・・・・・」
「何処かのテニスの世界で飲まれているらしいんだが・・・・・身体にはいいらしいぞ?」
「飲んだ瞬間にぶっ倒れそうだが?それにこれでは罰ゲームは五人ではないか」
謙吾の言葉に、蒔風がふっふっふ、と笑って答えた。
「大丈夫だ、秘策がある」
「どんなだ?」
「一つにする」
「なに!?」
「そして一つにしたものがこちらでございます」
「何やってんの!?」
そこにはなんだかよくわからない色と形状をした飲み物?が置いてあった。
「命懸けのビンゴゲームだ・・・・・」
「ゲームスタートだ!!!」
そして始まったビンゴ。
みんな目が本気だ。
と言っても完全にこれは運だ。
どうしようもないほどの運頼み。
そして結果を言えば、蒔風が負けた。
「な・・・・なぜだ・・・・」
「うわぁ・・・・・」
「ご、ご愁傷さま・・・・」
蒔風の握るカードは穴が開きまくっていた。
あとどこでもいい、一カ所でも穴があけばビンゴなのに、そこが全く開かないのだ。
「なんで・・・・あと一つなのにぃぃぃぃぃイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」
「さ、飲もうか」
そう言って恭介がドリンクを差し出してくる。
「い、否だ!!!」
「おっと逃がさないよ」
「!?」
蒔風の背後にいつの間にか来ケ谷が回りこんで退路を塞ぐ。
「ちぃっ!!ならば!!」
蒔風が強引にわずかな隙間から逃げようとするが、ビー玉に足を取られて転んでしまう。
「ふっふっふ~~。はるちんからは逃げられないのだ!!」
「何このお前らのハイスペック!?」
「気にしないでください。それよりも、飲まないんですか?」
美魚が冷やかに蒔風に言う。
自分で言ったくせに逃げるのですか?と目が語っていた。
「・・・・・飲んでやる!!!!見てろよ!!!(ゴ)ブルァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
ゴクッ!!と行く前に蒔風は噴き出してしまった。
皆がそれを避け、蒔風が床に倒れてビクビクしている。
まあ、そんなことがあって皆で大騒ぎをした。
その途中に天井裏からホットケーキを大量に持っていた沙耶が落ちてきたり
来ケ谷が鈴、小毬、クドに襲いかかり、三人の貞操の危機があったりと、いろいろあった。
そして日も傾いた頃に、片付けをして、各自寮に戻った。
明日に備えて、みんなの士気は最高潮にある。
きっと大丈夫だろう。
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月の綺麗な夜
蒔風が寮の裏で構える。
ジ・・・・・・・と動くことなく構え続ける蒔風に、フワ、と風が吹く。
その瞬間蒔風が一瞬だけ動き、風の軌道を変える。
そんなことをジッと続けていた。
「・・・・・・・・なんだい?」
唐突に蒔風が声をかける。。
その声に応じて寮の陰から出てきたのは謙吾だ。
「すまない。邪魔するわけじゃないんだが」
「いいっての。何かあったのか?」
「いや・・・・気になることがあってな・・・・」
「???」
蒔風が首をひねる。
何かあっただろうか?
「・・・・オレはうまく言葉にするのが得意ではないから単刀直入に言う・・・・・舜、お前、無理してないか?」
「無理?」
蒔風の眉が少しだけ動き、反応する。
「ああ・・・・昨日、「世界最強」と言ったとき、その時はわからなかったが何だかそんな気がした。もしかしてお前・・・・自分の事そんな風に思ってないんじゃないのか?」
その言葉に蒔風がそらを見上げ、頭を掻いてから、謙吾に向き直った。
「まさか・・・・・・な・・・・・」
「オレもそうだったからわかるんだ。無理をしてるんだな?」
「ふぅ・・・・確かに」
蒔風が言葉を紡ぐ。
「オレは世界最強じゃない。それに近い力は持っているが、決してそうじゃないんだ。オレの本質は結構泣き虫でな。本気で「バカ!!」と十回も言われれば泣きだす男だ。あまり自分にも自信はない。それでも・・・・・オレは世界最強じゃないといけないんだ」
「そこまで・・・・・・なのか?」
「そうじゃなきゃ世界がパァだからな。だから、俺は世界最強だと言い張るんだよ。ようは自己暗示に近いかもな。「本当の蒔風舜」に「蓋」をしているのがオレだ。これが蒔風舜の理想形態なんだよ。そしてその形をとってるだけの道化(ピエロ)だ」
「そんなことが・・・・できるのか?」
「さあな。だけど俺は異端者さ。普通から異常に足を踏み入れ、どの理からも外れた人間・・・・いや、人間としてどころか生物として違ってんもんなァ・・・・・」
「お前はそれで大丈夫なのか?」
返事の代わりに、蒔風が謙吾に拳を突き出す。
その拳圧が風となって謙吾を通りぬける。
「大丈夫だよ。今までこうやって生きてきたんだし、例え何かあっても「蓋」をすぐにかぶせればいいんだしね」
「・・・・・・・・・」
宮沢謙吾は考える。
ではそれが溢れてきてしまったらどうなるのか。
心が恐怖やストレス、または幸福や信頼でうまったら、その蓋はどうなるのか。
よく知られてないが、幸福なイベントでも心のストレスになるのだ。
悪いことばかりがストレスになるとは限らない。
だが、それならまだいい。
蓋が取れる頃には、彼は幸福に包まれているから。
だが、もし逆だったら?
その時彼がどうなるのか、想像もつかなかった。
目の前にいる青年は、自分の考えよりも上の次元にいる。
そんなことを考えていると、一陣の風が吹く。
それにハッとなって謙吾が顔を上げると、蒔風はもういなかった。
紙が一枚置いてあって、「明日は戦いになると思うから、早く寝な」と書いてあった。
「舜・・・・・・・・一人の旅で・・・・お前は本当に大丈夫なのか?」
いつかきっと彼の蓋は剥される。
しかし、それはずっとずっと先の物語。
もしそうなれば、きっと彼は元の「人」に戻れるのだろう。
今はその時ではない。
明日には「奴」が来る。
戦いは、待ってはくれないのだ。
to be continued
後書き
アリス
「次回、「奴」が来る」
ではまた次回
この世界には秘密がある
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