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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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第百三三幕 「138億年越しのフォークロア」

 
前書き
何か月ぶりかの月2つめ更新……! 

 
 
 衝撃の事実に暴れ疲れた鈴であったが、今の彼女に安息の地はない。
 そう、甲龍と一体化した麟王機はその気になればいつでも鈴に話しかけられるのだ。
 また謎全裸空間に突入した鈴に、威厳があるけどちょっと飽きれた声がかけられる。

 ――汝、些か浅慮なり。我が言葉に耳を傾ける気概ありや?

『うっさい貧乳の呪いの元凶が!金輪際アタシに話しかけんな近づくなッ!!』


 が、鈴の小さな胸は悲しみと怒りで満たされていたのでいつもと違って完全に聞く耳を持っていなかった。それどころか夢の世界なのをいいことに麟王に向かってイメージで作ったお菓子の袋やクッション、挙句双天牙月を投げつけるという暴挙に出ている。実体がないからスカっと通り抜けていてダメージはないが。

 ――契約を捨てるは心臓を捨てると同義。諦めよ。

『諦めろと言われた諦めてるようなら全世界の乙女は化粧やおしゃれに情熱を注がないのよ!!意味わかる!?分かんないでしょ!?わかんないヤツが簡単に諦めろとか言うのよッ!!分かったら永遠に閉嘴(シャラップ)!!』

 普通なら麟王の気配を感じただけで大抵の人間は金縛りのように動けなくなったりするものだが、鈴はどうにもその辺の事情が歴代の操者と違うらしい。麟王は軽く億を超える年月貯め込んだ記憶を反芻してそう思った。
 ここで一つ幸いなことが。麟王機は他の超機人に比べて人間への思いやりが非常に強いため、平和的な手段を選んでくれたことだ。

 ――成長したいのか?

『したいに決まってんじゃない!!この妖怪ロリコンオバケ!!』

 ――バラルの尸解仙とは違い、飽く迄肉の体にて一生を全うすることを選ぶか。ならば……。

 たぶん鈴の意見と麟王の意見は根本的に食い違っているのだが、奇跡的に到達点が一致している。
 それはすなわち、普通の人間として成長し、老い、死ぬという点だ。

 鈴は単純に肉体の成長がある一生を望んでいるが、実は鈴の体は現在かなりヤバイ状態にある。成長が止まっているという事は老化もしない……つまり、今の鈴は人類の夢の一つたる『不老』の状態。今の鈴は寿命が無くなってしまっているのだ。
 簡単に言うと肉体のある仙人みたいなもので、恐らく一夏に孫が生まれてその孫がジジイになっても鈴はロリボディのまま生きているだろう。本人はそんなことより胸の話に脳を持っていかれているが、不老を知ったら知ったでイヤな顔をするだろうと容易に想像がつく。どう考えても彼女のガラじゃない。

 ――汝、強念の資質を研鑽(けんさん)し、操錬すべし。

『何よ。そのキョーネンとかいうのを特訓したらアタシの体が成長してナイスバディになるとでも言うワケ?』

 ――失われし肉の体の時間を取り戻すことは可能である。

『詳しく聞かせてもらいましょうか』

 そしてこの変わり身の早さである。
 夢の世界なのをいいことに何故かバリっとしたキャリアウーマン風の服装と髪型に変化して銀縁眼鏡をクイっとする鈴の姿がそこにあった。彼女の脳内の真面目イメージを固めたらこんな感じなのだろう。どうやら完全に全裸空間の性質を把握したらしい。

 ――強念とは本来、絶対運命に干渉する力なり。絶対運命への干渉、それすなわち現実の歪曲なり。

『………スプーン曲げるどころの話じゃなくなってんですけど』

 念力でスプーン曲げるとかイメージしていた鈴だったが、いつのまにやら「食べるためにスプーンではなくサイコキネシスで直接カレーを口に運ぶ」レベルの話に発展し始めている。それはそれで楽かも……と考えるあたり、結構現金な女の子である。

 ――されど、強念を自在に操るには果てしなき鍛錬と天賦の才覚が必要なり。

 ――汝、破邪強念を有せども、その資質は未だ弱なるが故に力不足なり。

 ――然るに、強念の資質を極めることから始めねばならぬ。

『はーい、しつもーん!』

 ――応えよう。申してみよ。

 学校の授業みたいに手を上げる鈴。もはや麟王をナメくさってると勘違いされても仕方ないレベルに達しているが、麟王は別に気にした様子もない。この場合、麟王の心の広さを褒めるべきか鈴の順応性の高さを褒めるべきか。
 閑話休題。

『その強念を鍛えてエスパーになる事とアタシの体の成長はどう繋がるワケ?』

 ――汝の肉体が時を静止させたるは、吾と汝の融合が遠因なり。

 ――すなわち、吾が力と汝が力は共依存となっている。

 ――汝の強念にて吾が本来の力を取り戻したらば、汝の心の臓を再生させることも可能なり。

 ――心臓の再生が叶うほどの強力を得たらば、吾は別の器にその身を移す。

 ――さすれば汝の肉体は再び時を取り戻し、成長することが(あた)うであろう。

『おぉぉ~……流石はISを操った存在。力さえあれば心臓まで取り戻せるんだ。……ん?ちょっと待って……アンタそんなに強い力を元々は持ってたのよね?』

 ――然り。

『じゃあなんで今はないのよ?あのペンダントの中に眠っていたせいなの?』

 それは当然の疑問だった。そんな人知を超えた超パワーをもともと持っていたんなら、なんでペンダントの中で眠っていたのだろうか。こういっては何だが、そんなスゴイ力を持っているのならもっと歴史に名を刻むほど凄い事をやらかしていそうなものだし、細々と凰家に伝えられる胡散臭い存在にならずに済んだ気がするのだ。
 しかし、世の中の凡その違和感には理由があるものだ。

 ――太古の昔、吾を含む数多の超機人がこの世に生み出された。

 ――吾らは長きに渡り、人界を守護する為に百邪や妖機人、或いは袂別った同胞と戦えり。

 ――その余りにも果てしなき戦いの末……多くの守護者が時代の流れに消えていった。

 ――吾はその生き残りの一かけら……本来宿っていた巨大な神体の一かけら。

 ――辛うじて存在を保っている真・五行器に宿りし最期の思念なり。

『うん、話が全然わかんない♪』

 そしてこの笑顔である。
 実際問題、麟王の話は重要な部分を端折りすぎて事前知識なしにはなんのこっちゃわけわからんストーリー構成になっている。これは鈴が悪いのではなくて麟王の説明が悪いのである。
 しかして麟王からすれば分かってもらわねば困る訳で。

 ――なれば、見るがよい。

 その瞬間、鈴の目の前に光り輝く球体が現れた。無意識にそれに手を伸ばした鈴は……ここにきてやっと自分の背負った荷の重みを実感することになる。

『こ、これは……っ!』

 目まぐるしく移り変わり歴史、人、光景の津波。押し寄せる強い念の波動。血肉を抉られても尚使命の為に戦い続ける太古の、現代の、未来の戦士たち。そして戦士達は誰しもが巨大な存在と共にある。

 其の名を『超機人』。太古の昔、鈴の遠い遠い先祖たちが約束の地(ちきゅう)に住まう人々を守護するために築き上げた人造の神。人知を超えた神霊の顕現。

 ――これは記憶。連綿(れんめん)と古から続く、魂の闘いの連鎖。

 己が身を喰らいつくす狡猾な敵がいた。
 大地を埋め尽くす異形の怪物もいた。
 山脈を越えるような巨大な超機人もいた。
 そして超機人は、常に人が人を護る意志と隣り合って存在していた。
 それはまさしく、人類存亡を賭けた神話の記憶だった。
 ISの出現がなんだとキャーキャー騒いでいる世界をひっくり返す、本物の激動だった。

『あ、アンタ一体いつから戦ってんのよ!?こ、こんな果てしなく……あんな化け物どもと!?』

 ――汝が垣間見たのは人の歳月に換算して百三十八億年ほど前の闘いの記憶。

 ――この宇宙が新生するより更に以前の、吾らの敵が押し寄せた『黙示録』の一部。

『ひゃくっ………す、スケールが違いすぎるわよそんなの……嘘だって言い張りたいのに、わかっちゃうの。あの映像もアンタの言葉も全部本物だってこと……』

 パニック寸前の頭の中で、鈴の心は激しく揺れ動く。
 鈴はあの太古の戦士たちのようにパッキリ割り切って人類存続をかけた戦いに飛び込めるほど肝が据わってはいない。いいや、むしろここで即決できるほうがどうかしているとさえ思う。自分の交わした契りの意味を鈴は理解してしまった。

 それはつまり、鈴にはもう選択肢がないということだ。
 生き残る為に逃げようとも、もう逃げ場がない程に大きな波なのだ。

『つまり、そういうことじゃない……アンタが目覚めて操者を必要とし、戦う覚悟があるかって聞いたのは――人類存亡の危機ってヤツがマジにこの世界に迫ってるからってことでしょ!?』

 ――然り。故に、吾は再度汝に問う。

 麟王は、その宇宙の死と再生を乗り越える宿命を背負ってしまった太古の古強者は、それまでになく真摯で重厚な威声を放った。



 ――汝、大禍を退け人界を守護する覚悟有りや?



 鈴は、決められずに返答に窮した。

 夢は、そこで途切れた。
  
 

 
後書き
八房OGの偉大な力を借りて1話仕上げました。
鈴ちゃんはまだ自分に納得できる答えを持っていませんから、まだ麟王の全てを受け入れきれません。次回は抽象的になってしまった超機人事情にも触れたいなーと思いつつ、鈴ちゃんの物語を続けさせていただきます。 
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