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嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり

作者:時雨日和
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第2章 第1話 怨みの恨みの憾み

 
前書き
今回から第2章に突入します。先が…敵が多いなぁ… 

 
真っ暗な世界、意識だけがそこにあるだけの世界、その時何を見るか?何を聞くか?何を嗅ぐか?何を触るか?

「ここはどこだ?」

何を話すか?何に会うか?何を使うか?何を殺すか?

「みんなは?」

何で刺すか?何で切るか?何で焼くか?何で凍らせるか?何で消すか?何で潰すか?

「あれは?」

希望はあるか?望みはあるか?夢はあるか?絶望はあるか?地獄はあるか?

「あれは…」

否、それは、そこには、

『怨み』

「……………はは」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
新たな朝を迎えた日、昨日の出来事の全てを話した。そして、1つの覚悟した言葉も添えた。

「出ていく…か」

「はい」

「理由は?」

カルロスの問い質す時の目はとても鋭い。そこには誰しも嘘はつけないような雰囲気がある。

「……」

「私を納得させるような理由があるか?」

朝食後のためその場には全員がいる。もちろんメリーもいる。この少女がここにいるも全員がしっかりと認めている。そしてメリーの見た目も成長させ、ルイスとほとんど同年代の見た目になる。マリーとミリアを足して2で割った体格だ。
その全員が固唾を飲みそのやり取りを見守る。もちろん、使用人達は聞かされてもいないしこの提案についても反対だ。しかし、主の決定に従うと決めている。

「『タロットの騎士』達へ挑む為です」

「寿命を定めたらしいじゃないか、わざわざ君の方から行かなくともあっちから来るんじゃないか?」

「きっときます、いいえ、必ずと言ってもいい程です。でも、足りないんですよそれだけじゃ…」

「……」

「兄さんは成す術なくやられ、僕も目不意打ちとは言え目をやられました。そんな相手がいるんです。簡単に言えば修行の旅ですよ」

「修行か…」

「はい、古い考えではありますが必要な事なのです。シグレ様に貰った白の魔法、完全ではないんです。まだ伝承のようにはいかないんです」

「君の目的は何だい?」

「それは、鬼の一族を」
「違う君の目的だ」

「………」

その問にルイスは答えられなかった。拳を握り締め何かを抑えるように隣に座るメリーには見えた。

「鬼の一族を君以外滅ぼした『タロットの騎士』を殲滅する。それが一族のためってのも、兄であるレイのためだってのはわかっているよ」

一息つき言葉を繋げる

「でも、それが本当に君の目的であるようには私には思えないんだよ。囚われているようにしか思えない」

「……いずれ…」

「ああ」

「今は…申し訳ありませんが言えません。主様の言う通り僕は鬼の一族の、兄さんのためと囚われていると思います。ですが、これも紛れもない僕の目的です。これを終わらせなければ次へは進めません、僕はそこまで器用な性分じゃないんですよ」

「そうか…では」

その時、窓ガラスが割られる音がした。その場にいる皆がそれに注目する。そこには映るはずの外の景色は映されずただ黒い幕に覆われているようだった。

「っ…これは」

「油断は禁物だがね。ルイス・テスタロット」

「!?」

呼ばれることの無い名前、存在するはずのない名前、忌み子であるルイスに付けられない家名が付けられた呼び名、それに対して怒りを示したいがルイスにはそれが出来なかった。

「やっぱり貴方だったのね。『デス』」

「そうだとも『ハイプリエステス』もっとも今はメリーと呼んだ方がいいようだがね」

「ええそうね。でも旦那様に変わって言わせてもらうけどテスタロットの姓をつけるのはやめなさい」

「ふふふ、そうかいそれは失礼した」
真っ白い正教師の格好をした。痩せすぎと言っていいほどの男がルイスの首筋に触れルイスの意識を刈り取った。

「私は子供のように可愛らしい君の方が好きだったんだがねぇ、どうしてそこまで大人びてしまったのか疑問だが」

ルイスから少し離れ立ち上がっていたメリーと向かい合う。

「あら、私は本当は成長していたのよ。でも人形がこっちなのだからこっちにするしかないのよ。だからせめて口調くらいは大人になってもいいじゃない。もっとも貴方に言われても変えることは無いわ、小さい子が大好きな趣味なら尚更ね」

「いえいえ、私は純粋な子を愛しているだけだがね。ある意味では君もその内の1人だが…私達を裏切りこの彼についたというのはとても許されない事だがね」

「ふふっ、私が貴方達に仲間意識を持っていたとでも思っていたの?それならお笑いね、私は『エンペラー』の恩賞にわざとかかっただけ。私が認めた相手を見つけるまでのただの依代だったのよ『タロットの騎士』なんて」

その時ルイスの意識を戻そうとマリーがルイスの元へ駆け寄った所

「待ちなさい。今の旦那様に余計な事はしない方がいいわ」

触れようとした所に声をかけられビクッと体を震わせるマリー。その言葉の意味を知ろうと対峙している二人を除いてメリーに注目する。

「『タロットの騎士』『デス』の恩賞の力よ。このタナトスが対象を決めて触れた相手を精神世界へと意識を飛びすの」

「その通り、ちなみに下手に起こして中途半端な状態だった場合精神は崩壊されて人間として死ぬことになるんだがね。先に紹介されたが、私がタナトス。『タロットの騎士』の1人『デス』の恩賞を受けた者だ。本当は宣教師なのだがね」

「精神世界…怨みの念が強ければ強いほど相手を苦しめる…ほんとインキュバスとは思えないわ」

「ふっ、インキュバスとしての私は捨てたのだがね。今の私は宣教師、神の教えに従う者だがね」

「それでも精神世界。ほとんど夢と変わらないわインキュバスとしての生き方は辞めても、どこまでも囚われているのよその本能には」

「そうはいうがね、女性を襲わないだけマシと思う事だがね。インキュバスは淫魔だと言う事を忘れない事だがね。もっとも私は純粋無垢な子にしか興味が無いがね」

クククと不気味に変態的に笑うタナトス。お互いがここまで動かないのはこの『デス』の恩賞のせいだろう。タナトスはこの恩賞中は攻撃が出来ない、タナトスを殺してしまえばルイスが不完全な状態だった場合精神世界から抜け出せなくなる。

「…でも、貴方の恩賞は怨みの強さによって左右される。残念ね、旦那様に恨みの念は無いわ」

その言葉にタナトスはまたクククと笑った。

「何がそんなに可笑しいのかしら?」

「いや、残念なのは君の方だがね。メリー」

「どういう事…」

「確かに君と同じように彼は恨みの念は薄い、いや無いと言っても過言では無いがね。これはこれはとても素晴らしい…が、彼には怨霊が憑いてるそうじゃないか…つまりはどういう事かわかるかね?」

「まさか…その怨霊達の念も範囲内だとでも?」

「その通りだがねメリー。怨みの塊とも言える怨霊達だがね、それが70体以上となっては…彼に耐え切れるかな?」

「旦那様…旦那様なら突破してみせるわ」

「いい信頼だがねメリー。では、彼を待つとしようがね。どうせお互い何も出来ないのだがね」

そう言ったタナトスの言葉にはルイスを嘲笑うような雰囲気が醸し出されていた。それに対して怒りを示したいがそれを抑えたメリーが心配そうにルイスに視線を戻す。
メリーには見えないがそのルイスが笑ったような表情を俯いた顔に示した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『どうしてお前が生き残ったんだ!!』
『お前なんぞに何が出来る!!』
『鬼さえ…お前さえいなければ!!』

死んでいった者、殺していった者、そんな者達の恨みの言葉。そんな言葉がこの世界を歩くと頭に流れてくる。1歩踏み出す事に聞こえてくる、ルイスにとって昔から言われ続けた言葉たち。

『忌み子のお前がいたから一族は全滅したんだ!!全部お前が悪いんだ!!』

言われ慣れた。

『お前が脱走しなければ俺は行くことは無かったんだ!!全部お前のせいだ!!』

言われ慣れた。

『お前なんて生まれて来なければ良かったんだ!!兄の足元にも及ばない劣化品が!!』

1番言われ続けた。
兄の劣化品というレッテル。昔は苦痛だった、負の要素を持って生まれ、魔法すらろくに使えないルイスにとって兄の存在は大き過ぎたのだ。

「兄さん…は、天才だ。僕には追いつくことは疎かその姿を見ることすら叶わない」

そうルイスは自分に言い聞かせ続けていた。
そんなルイスの前に2つの光が見えた。

「父さん…母さん…」

今までは光の粒が周りに漂いそれから声が聞こえていた。それがこの2人でははっきりとその姿が見える。

『ルイス』

「……」

『俺たち2人はお前にガッカリだよ』

「……」

『兄のレイは天才、それに比べてお前はどうだ?角は短い、髪は青い、成長は遅い、魔法は使えない…お前のどこに良い所がある?』

「………」

『お前が生きていて何がある?』

「………は」

『お前なんて生まれて来なければ良かったと思わない日なんて無かったよ。お前のせいで村での俺たち家族の印象が悪くなった、疫病神以外の何でもないんだよお前は』

「……は」

『無理やり連れてった森の中で魔獣に襲わせたのに何故死なずに帰って来れた?!川に投げ入れたのに何で溺れなかった?!いつもいつもお前の食事に毒を入れていたのにどうして何ともない?!致し方なく直接殺そうと首を絞めたのにどうして死なない?!何度も何度も刺したのにどうして死なない?!火の中に入れてもどうして死なない?!そして…どうして泣かないんだよ!!お前は何なんだ?化け物だよお前は…どうしてお前なんかが生まれるんだよ…どうして俺たちを苦しめるんだよ…俺たちが何をしたって言うんだよ!!!』

「は…はは……は、は、……」

言い終えた時、2人の光が消えた。ルイスは膝をつき頭に手を置きながら乾いた笑いを零していた。 
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