遊戯王ARC―V ~二色の眼と焔の武装~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第1章 スタンダード次元篇
ペンデュラム召喚
第1話 烈火の一撃!! 焔の武装龍使い「焔龍牙」
前書き
オリ主はほとんどオリカしか使いません。
「──ここは······どこだ?」
澄み渡る快晴の大空。整備されたアスファルトに大きな建造物が建ち並ぶ街。その街の一角にある公園と思しき場所で、一人の青年がそうこぼした。
青年の出で立ちは、炎のような模様のある赤のインナーの上に黒のロングコートを着ており、右手には黒のオープンフィンガーグローブと手首に炎のような模様のある赤のリストバンドを着用していた。
(いや······それ以前に······俺は誰だ?)
青年はなぜか、過去の記憶をなくしていた。
(名前は······覚えてるな)
青年の名前は焔龍牙。
龍牙はいま現在で覚えていることを把握する。
龍牙が覚えているのは、自分の名前、性格、一般的な知識。そして──。
龍牙は自身のベルトに付けられているケースのようなものに視線を向ける。
ケースを開き、中に入っていたものを手に取る。それは、カードゲーム──デュエルモンスターズのデッキだった。
龍牙はデュエルモンスターズの深い知識と自分がデュエリストであることも覚えていた。
「それ以外はさっぱりか······ま、デュエルではよくあることか」
あろうことか、龍牙は現状の問題をその一言で済ませてしまった。
「デュエルに関わっていれば、記憶喪失になることもあるよな」
そんなことがあるはずない。デュエルモンスターズはただのカードゲームなのだから。
だが、龍牙にとって、デュエルではそういうこともあるという認識だった。
「とりあえず、どっか行くか」
龍牙はカードをデッキケースにしまい、その場から当てもなく移動を開始するのだった。
―○●○―
「う〜ん」
街の中を歩きながら、龍牙は街の全貌を眺める。街の中を探索するうちに、この街の名前が舞網市というところで、デュエルモンスターズが盛んな街である。あっちこっちにデュエルモンスターズ絡みの看板があった。特に、デュエル塾の告知と入塾者希望のものが多かった。
デュエル塾というのは、文字通り、デュエルを学ぶ塾だ。また、その塾ならではのデュエルスタイルも学ぶようだ。そのデュエル塾でひときわ目立っていたのは、LDSという塾だった。なにせ、その塾が街のどこのいても見えるぐらいの高いビルな上、巨大なディスプレイで大々的に宣伝と入塾者希望をしているのだから。どうやら、この街一番のデュエル塾みたいだ。
(やっぱ──ここは俺が生まれ育った世界じゃねえな)
龍牙は唐突にそう思った。
まるで、自分がこの世界とは別の世界──異世界から来たかのような言い分だ。
記憶がないため、確証はできないが、なぜか龍牙にはそう思えた。──いや、そう感じたと言うべきか。
「まあ、いっか」
だからといって、龍牙は特に気にしなかった。······お気楽すぎである。
「おっ、カードショップ」
龍牙はとあるカードショップが目にとまる。店の前に立てられた看板を見ると、どうやら、とあるプロデュエリストが訪れており、特別デュエルを開催しているようだ。誰でも一回挑戦でき、勝つと新品のデュエルディスクが進呈される。どうやら、まだデュエルディスクを持ってない人のために開かれたイベントのようだ。デュエルをするさいには、カードショップのほうでディスクの貸し出しをしてくれているみたいだ。
「ちょうどいいな。ディスク持ってなかったし」
龍牙はデュエルディスクを持っていなかったので、このイベントを利用してデュエルディスクを手に入れようと考えた。
龍牙がショップの中に入ると、すでにデュエルは始まっていた。
ProDuelist
LP3200
手札0
モンスターゾーン
・ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン
Challenger
LP800
手札0
戦況は挑戦者の劣勢だった。
「僕は《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》でダイレクトアタック!」
「うわぁぁぁぁぁ!?」
Challenger
LP800→0
ProDuelist:WIN
プロデュエリストのダイレクトアタックで、挑戦者の敗北が決定した。
カードショップの店長らしき人物がマイクを手に実況する。
『決まったぁぁッ! 勝者は牛島プロ! これで牛島プロの10連勝だぁぁぁぁッ!』
さすがはプロ。本気を出してはいないだろうが、それでも一般のデュエリストでは相手にならない。
『さぁて、次の挑戦者は誰だぁぁ!』
名乗り出る者はいなかった。プロが相手、しかも、挑戦者がことごとく敗北したのを見て、誰も挑戦心が湧かないのであった。
「はい! はいはい!」
だが、相手が10連勝したプロだろうが、龍牙にはそんなの関係ない。むしろ、強いデュエリストは大歓迎だった。
『おぉっと、新たな挑戦者の登場だぁぁぁッ!』
龍牙は観戦者たちの輪を抜け、プロデュエリスト、牛島プロと対面する。
「よろしく。名前は?」
「焔龍牙です。よろしくお願いします。牛島プロ」
龍牙と牛島プロは握手をし、デュエルをするための距離を取る。
龍牙はカードショップの店長からデュエルディスクを借り、デッキケースから取り出したデッキをセットすると、ディスクを左腕に装着する。
『さぁ、デュエル開始だぁぁ!』
「「デュエル!」」
RYUGA
LP4000
手札5
USIJIMA
LP4000
手札5
先行は龍牙。
「俺の先行。俺は《AD-ダブルソード・ドレイク》を召喚」
AD-ダブルソード・ドレイク
レベル4
ATK1600
龍牙のフィールドに体の一部と両腕に機械仕掛けの装甲を纏い、両腕の装甲の先から剣が突き出ている赤い鱗のドラゴンが現れる。
「カードを1枚セットして、ターンエンド」
RYUGA
LP4000
手札3
モンスターゾーン
・AD-ダブルソード・ドレイク
魔法・罠ゾーン
・リバース
USIJIMA
LP4000
手札5
「僕のターン。ドロー。まずは魔法カード、《ナイト・ショット》を発動! キミの伏せカードを破壊させてもらうよ!」
《ナイト・ショット》のカードから光弾が放たれ、龍牙の伏せカードを破壊する。
「さらに僕は《アレキサンドライドラゴン》を召喚」
アレキサンドライドラゴン
レベル4
ATK2000
牛島プロのフィールドにアレキサンドライトの鱗を持ったドラゴンが現れる。
「バトル! 《アレキサンドライドラゴン》で攻撃! アレキサンドライト・ブレス」
《ダブルソード・ドレイク》にアレキサンドライトが混じったブレスが迫る。
「手札の《AD-シールドジェネレーター・ワイアーム》を墓地へ送り、効果を発動! この戦闘による《ダブルソード・ドレイク》の破壊とダメージを無効にする!」
フィールドに全身を機械仕掛けの装甲に覆われたヘビのようなドラゴンが現れ、《ダブルソード・ドレイク》に巻き付くとバリアが発生し、《アレキサンドライドラゴン》の攻撃を防ぐ。
《アレキサンドライドラゴン》の攻撃がやむと、役目を終えた《シールドジェネレーター・ワイアーム》は消滅する。
「······防がれたか。やるね、キミ。僕はカードを1枚セットしてターンエンドだよ」
RYUGA
LP4000
手札2
モンスターゾーン
・AD-ダブルソード・ドレイク
USIJIMA
LP4000
手札3
モンスターゾーン
・アレキサンドライドラゴン
魔法・罠ゾーン
・リバース
「俺のターン。ドロー! 俺は《ダブルソード・ドレイク》で《アレキサンドライドラゴン》を攻撃!」
「攻撃力が劣るモンスターで攻撃!?」
《アレキサンドライドラゴン》よりも攻撃力が劣る《ダブルソード・ドレイク》に攻撃されたことに牛島プロは驚愕する。
「俺は墓地から罠カード、《AD-バーニング・エナジー》を発動!」
「墓地から罠だって!?」
「墓地のこのカードをゲームから除外し、自分フィールドの『AD』モンスター1体の攻撃力を800アップする!」
AD-ダブルソード・ドレイク
ATK1600→2400
灼熱のエネルギーが《ダブルソード・ドレイク》に流れ込み、《ダブルソード・ドレイク》は己をふるいたたせるかのように雄叫びをあげる。
「攻撃力が《アレキサンドライドラゴン》を上回った!?」
「行け! ダブルソード・スラッシュ!」
《ダブルソード・ドレイク》の二本の剣によって斬り裂かれ、《アレキサンドライドラゴン》は破壊される。
「くっ!」
USIJIMA
LP4000→3600
『おぉぉっとぉぉぉ! 最初にダメージを受けたのは、牛島プロだぁぁぁッ!』
「俺はこれでターンエンド。この瞬間、《ダブルソード・ドレイク》の攻撃力は元に戻る」
AD-ダブルソード・ドレイク
ATK2400→1600
RYUGA
LP4000
手札3
モンスターゾーン
・AD-ダブルソード・ドレイク
USIJIMA
LP3600
手札3
魔法・罠ゾーン
・リバース
「僕のターン! ドロー!」
牛島プロにターンが変わり、牛島プロは勢いよくデッキからカードをドローする。
「僕は永続罠、《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地からモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。僕は《アレキサンドライドラゴン》を特殊召喚! この瞬間、速攻魔法、《金剛剣の復活》を発動! 墓地から特殊召喚されたドラゴン族モンスターをリリースし、手札から《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》を特殊召喚する!」
ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン
レベル8
ATK?
『出たぁぁぁッ! 牛島プロのエースモンスターだぁぁぁッ!』
さきほど、牛島プロを勝利に導いた、頭部と体のところどころがダイヤモンドで覆われたドラゴンが現れる。
「《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》の攻撃力は、リリースされたドラゴン族モンスターの攻撃力に1000ポイントを加えた数値となる!」
ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン
ATK?→3000
「僕は《リビングデッドの呼び声》を墓地に送って魔法カード、《マジック・プランター》を発動! カードを2枚ドローする。さらに僕は装備魔法を2枚発動! 《ジャンク・アタック》を《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》に、《ニトロユニット》を《ダブルソード・ドレイク》に装備。《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》で《ダブルソード・ドレイク》を攻撃!」
「ッ!」
RYUGA
LP4000→2600
《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》のブレスが《ダブルソード・ドレイク》を粉砕する。
「この瞬間、《ジャンク・アタック》と《ニトロユニット》の効果を発動! 《ジャンク・アタック》の効果で装備モンスターが戦闘で破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを、《ニトロユニット》の効果で破壊された装備モンスターの攻撃力分のダメージを受けてもらうよ」
「ぐっ!」
RYUGA
LP2600→200
「僕はカードを1枚セットして、ターンエンド!」
RYUGA
LP200
手札3
USIJIMA
LP3600
手札0
モンスターゾーン
・ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン
レベル8
ATK3000
魔法・罠ゾーン
・ジャンク・アタック
・リバース
(ふーん。なるほど、こんなもんか)
「俺のターン!」
牛島プロの実力を把握した龍牙は、このターンで決めにいくため、勢いよくデッキからカードをドローする。
「──来たな」
ドローしたカードを確認した龍牙は、密かに不敵な笑みを浮かべる。
『さぁぁてぇ。挑戦者、攻撃力3000のモンスターを前にしてどうするぅぅぅ!』
「また牛島プロの勝ちかぁ」
「やっぱ、プロには敵わねえよなぁ」
カードショップの店長の実況を聞き、周りの観戦者たちが、また牛島プロの勝利だと決めつけている中、龍牙の中では勝利への道筋ができあがっていた。
「魔法カード、《死者蘇生》を発動! 墓地から《ダブルソード・ドレイク》を特殊召喚! そして──」
龍牙は手札からさきほどドローしたカードをフィールドに出す。
「俺はチューナーモンスター、《AD-ソードウィング・ワイバーン》を召喚!」
AD-ソードウィング・ワイバーン
レベル4
ATK1200
龍牙のフィールドに機械仕掛けの装甲に覆われ、剣の翼を持ったドラゴンが現れる。
牛島プロは、カードショップの店長は、周りの観戦者たちは、龍牙の召喚した《ソードウィング・ワイバーン》を見て、驚愕の声をあげる。
「チューナーモンスターだって!?」
『おぉぉっとぉぉぉ! 挑戦者が召喚したのは、チューナーモンスターだぁぁぁッ!』
「チューナー!?」
「チューナーってあの!?」
周りが騒ぐが、龍牙は構わずプレイを続ける。
「《ソードウィング・ワイバーン》が召喚に成功したとき、デッキから『AD』カードを1枚手札に加えることができる。俺はカウンター罠、《AD-ブレイク・ショック》を手札に加える。そして、レベル4の《AD―ダブルソード・ドレイク》に、レベル4の《AD―ソードウィング・ワイバーン》をチューニング!」
《ソードウィング・ワイバーン》が四つのリングとなり、リングの中心に《ダブルソード・ドレイク》が入ると、《ダブルソード・ドレイク》は四つの星となる。
「烈火の焔よ。刃に宿りて、剣を携えし紅蓮の龍の一太刀となれ! シンクロ召喚! 来い! レベル8! 《AD-ブレイズ・ブレード・クリムゾン・ドラグーン》!」
AD-ブレイズ・ブレード・クリムゾン・ドラグーン
レベル8
ATK2800
四つの星が一筋の光となった瞬間、龍牙のフィールドに翼と体のところどころに機械仕掛けの装甲をまとい、機械仕掛けの巨大な刀を口で持った、灼熱の鱗を持つ四足歩行の真紅のドラゴンが現れる。
『これはぁぁぁッ!? なんと挑戦者、シンクロ召喚を行ったぁぁぁッ!』
龍牙以外の誰もが、龍牙の行った召喚法に驚きを隠せない。
この舞網市では、融合召喚、シンクロ召喚、エクシーズ召喚は最近になってLDSで導入された召喚法なため、未だにその存在を驚く者が多い。
「だが、攻撃力は僕の《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》のほうが上──」
「バトル!」
「っ!?」
「《ブレイズ・ブレード・クリムゾン・ドラグーン》で《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》を攻撃!」
龍牙は構わず、攻撃宣言を行う。
「ッ! リバースカード、オープン!」
プロとしての直感から、この攻撃は危険だと判断した牛島プロは、伏せカードを発動する。
「罠カード、《聖なるバリア―ミラーフォース―》! 相手の攻撃モンスターを全て破壊する! これでキミのモンスターは──」
「手札からカウンター罠、《AD-ブレイク・ショック》を発動!」
「手札から罠!?」
「このカードは自分フィールドにエクストラデッキから特殊召喚された『AD』モンスターがいる場合、自分のターンでのみ手札から発動できる。『AD』モンスターがいるときに相手が発動した魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する!」
《AD-ブレイク・ショック》のカードから放たれた衝撃が《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》を守ろうとしていた《ミラーフォース》のバリアを破壊する。
「バトル続行! 《ブレイズ・ブレード》はモンスターに攻撃するとき、攻撃力が墓地の『AD』カードの数×200アップする! 俺の墓地に『AD』カードは4枚! よって、攻撃力は800アップする!」
AD-ブレイズ・ブレード・クリムゾン・ドラグーン
ATK2800→3600
「攻撃力3600!?」
「行け! 《ブレイズ・ブレード・クリムゾン・ドラグーン》! その灼熱の刃で、敵を一刀のもと両断しろ! 烈火一刀・鬼炎斬!」
《ブレイズ・ブレード・クリムゾン・ドラグーン》の一太刀が《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》を一刀両断する。
USIJIMA
LP3600→3000
「《ブレイズ・ブレード》の効果発動! 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! 爆裂熱波!」
一刀両断された《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》が大爆発し、その爆炎が牛島プロを襲う。
「なっ──うわぁぁぁぁぁっ!?」
USIJIMA
LP3000→0
RYUGA:WIN
『き、決まったぁぁッ! ついに、ついに牛島プロを破る者が現れたぁぁぁッ!』
龍牙の勝利に、周りの観戦者が大いに沸く。
「いやはや、負けちゃったよ。まさか、シンクロ召喚を使うなんてね。キミ、LDSの生徒なのかい?」
「いえ。どこの塾にも所属はしてませんよ」
握手を求めてきた牛島プロに龍牙は応じながら答える。
「じゃあ、どこでシンクロ召喚を?」
「企業秘密ってことで」
牛島プロの問に龍牙ははぐらかして答える。
龍牙にとっては、シンクロ召喚はもちろん、融合召喚もエクシーズ召喚も特に珍しいものじゃなく、誰も彼も使っていた召喚法という認識だった。
『見事牛島プロを破った挑戦者、焔龍牙くんには、こちらの新品のデュエルディスクの中からお好きなのをひとつ進呈します!』
カードショップの店長が複数のデュエルディスクを載せた台車を押してくる。
龍牙はその中からクリムゾンカラーのものを選んだ。それは、龍牙の瞳の色と同じものだった。
さらに、ベルトに装着可能なデュエルディスク用のホルダーも追加特典としてもらう。
『さぁて、他に牛島プロに挑戦するデュエリストはいないのかぁぁぁッ!』
カードショップの店長が他の挑戦者を募るなか、龍牙はカードショップをあとにする。
―○●○―
「強大な召喚反応?」
「はい」
とある部屋にて、二人の男性が話し合っていた。
一人は銀髪の青年。メガネをかけ、室内にも関わらずマフラー身につけていた。
もう一人はサングラスをかけ、スーツを着た男性。
「で? 召喚形式は?」
「はい。シンクロです」
「シンクロ召喚······」
青年は男性から渡された端末を見る。
そこにはふたつのグラフが表示されており、一方のグラフが圧倒的に高かった。
その下には、『SYNCHRO』の文字。
「場所は?」
「街の一角にあるカードショップです」
「すぐに目撃者の証言などから、召喚者の身元を特定しろ」
「ハッ!」
―○●○―
牛島プロとデュエルした日の翌日、龍牙は今後の生活をどうしようか悩んでいた。
幸い、お金はあったので、安めのホテルに泊まり、一夜を明かした。だが、お金も無限にあるわけじゃないので、いつかは底をつく。
「さあて、どうしたもんかなぁ」
最悪、食事は山なり海なりで自給自足すれば問題なかった。問題は住む場所である。
いまはまだいいが、冬にでもなろうものなら、さすがに凍え死ぬ。
「おまえら、温かそうだなぁ」
龍牙は自分のデッキを見ながらつぶやく。
龍牙のデッキのモンスターは全て『AD』と呼ばれるカテゴリーだ。『AD』のモンスターは皆、ドラゴン族・炎属性のモンスターで統一されており、見た目も温かいどころか、火傷しそうなほど熱そうだ。
「············」
龍牙はエクストラデッキに入れているカードを手に取る。
《AD-ブレイズ・ブレード・クリムゾン・ドラグーン》を初めとした十五枚のカードがあった。
シンクロモンスター以外にも、融合モンスター、エクシーズモンスターのカードもある。
だが、《AD-ブレイズ・ブレード・クリムゾン・ドラグーン》とある一枚の融合モンスターとエクシーズモンスター以外のカードが名前以外が全て白紙だった。もちろん、召喚しようとしても、ディスクから『ERROR』のメッセージが出るだけだった。
なぜ白紙なのかはわからないが、龍牙は特に気にしなかった。
「これもデュエルではよくあることだし、そのうち、いつの間にか使えるようになるだろ」
いまは住む場所であると、龍牙は考え込む。
「ヒマだな······」
だが、すぐに退屈になってきたので、考えることをやめ、何かおもしろそうなことはないかと、デュエルディスクでチェックする。
「おっ、なんだ?」
一際盛り上がっている情報があったので、それを見る。
どうやら明日、アクションデュエル現役チャンピオンであるストロング石島のファン感謝デーでスペシャルマッチが行われるようだ。
「アクションデュエルかぁ。めちゃくちゃおもしろそうだな」
アクションデュエルとは、この舞網市で人々を熱狂の渦に巻き込んでいる、デュエルの最強進化系らしい。
デュエルの深い知識を持っている龍牙が知らない未知のデュエルなので、存在を知った龍牙は非常に興味があった。
「チャンピオンとやれるデュエリストはどんな奴なんだ?」
チャンピオンの相手の名前は榊遊矢。
どうやら、三年前、現チャンピオンを決定するデュエルをする日に行方をくらまし、不戦敗になった前チャンピオン、榊遊勝というデュエリストの息子みたいだ。
デュエル直前に行方をくらました榊遊勝に対する周囲の反応は、負けるのが怖くてデュエルから逃げ出した『卑怯者』、『臆病者』という認識だ。当然、その息子の榊遊矢も『臆病者』の息子ということで嘲笑されていた。
(行方をくらました、か······これは······デュエルではよくあることが起こったと見た!)
······デュエルをなんだと思っているのだろうか。
龍牙は早速、スペシャルマッチを見るために、そのストロング石島ファン感謝デーが行われる舞網スタジアムの場所を確認するため、下見に向かうのだった。
―○●○―
舞網スタジアムの場所を確認した龍牙は適当にぶらぶらしようとしていた。
「さぁて、どうすっかなぁ──ん?」
舞網市にある大きな橋で、龍牙はとある少年を見つけた。少年は緑の前髪を持った赤の髪をしており、どこかの学校の制服の上着を肩にかけたいた。
少年はゴーグルをかけ、何かを眺めている。
「舞網スタジアム?」
少年が眺めていたのは、ちょうど、手すりからその全貌を眺めることができた舞網スタジアムだった。
少年はおもむろに首にかけているペンデュラムを手に取ると、眼前で左右に揺らし始める。
「何してんだ、こんなところで?」
「ッ!?」
少年のことが気になった龍牙は少年に声をかけるが、突然声をかけられたことに少年は驚き、手に持っていたペンデュラムを落としてしまう。
「おっと!」
間一髪のところで、橋の下の川に落ちそうになっていたペンデュラムを龍牙はキャッチする。
「わりぃわりぃ。急に声をかければビックリするよな」
謝りながら、龍牙はペンデュラムを少年に返す。
「ありがとう。危うく、落とすとこだったよ」
「俺が招いたタネだから、礼はいらねぇよ──榊遊矢」
「ッ!」
「おまえ、明日のストロング石島ファン感謝デーのスペシャルマッチでチャンピオンとデュエルする榊遊矢だろ?」
そう。龍牙が話しかけた少年こそ、龍牙が楽しみにしている明日のストロング石島ファン感謝デーのスペシャルマッチでチャンピオンとデュエルする榊遊矢であった。
「俺が榊遊矢だって知ってたから話しかけたのか?」
「まぁな」
遊矢は再び舞網スタジアムのほうを眺める。
「明日のデュエルで緊張してる──て感じじゃねぇな? どうしたんだ?」
「ちょっと、な。これをチャンスだと思っているんだ」
「チャンス?」
「本当のエンターテインメント・デュエリストになれるかどうかのさ」
「エンターテインメント・デュエリスト?」
「エンタメデュエルっていう観客に笑顔を届ける父さんのようなデュエリストのことさ」
「へぇ、それはおもしろそうなデュエルだな。で、『本当の』ってのは?」
「俺、父さんが行方をくらました三年前から、自分が笑われることで周りの人を笑わせていたんだ」
「辛い現実から逃げるためか?」
「······ああ」
遊矢の父親、榊遊勝が行方をくらましたことは遊矢に強いショックを与えた。そこへ、周りの人が父親を『卑怯者』、『臆病者』と罵り、その矛は息子である遊矢自身にも及んだ。その辛い現実から目をそらし、逃げるために、遊矢は滑稽な道化の仮面をかぶった。
「でも、俺が本当にやりたいデュエルは、父さんのような、皆に笑顔を届けるデュエルだ! だから──」
「明日のデュエルは、そのために生まれ変わるための第一歩ってわけか」
遊矢は本当にやりたいデュエル、周囲を笑顔で溢れさせるエンタメデュエルをやるため、いままでの道化の仮面を破り、新たなる自分に生まれ変わろうとしていた。
そのために、因縁浅からぬストロング石島とのデュエルを自らの意思で受け、困難に立ち向かう決意をする。
「って、なんで俺、今日初めて会った人にこんなこと話してんだ?」
「そんなこと、本人がわからないのに、俺にわかるわけないだろ? けど、自分を変えるために困難に挑む、か。いいな、そういうの。明日のデュエル、ますます楽しみになってきたぜ!」
「はは、ありがとう」
遊矢はゴーグルを外し、龍牙と向き直る。
「なら、楽しみにしているお客さんのために、明日は大いに盛り上げなくちゃね!」
「期待してるぜ。明日はがんばれよ」
龍牙は踵を返してその場から去ろうとする。
「あっ、あんた、名前は?」
「龍牙。焔龍牙だ。龍牙でいいぜ」
立ち止まった龍牙は、改めて遊矢に向き直って名乗る。
「なら、俺も遊矢でいいよ」
「ふっ。がんばれよ、遊矢」
「ああっ!」
これが、後の大きな戦いの中心に赴く榊遊矢と焔龍牙の出会いだった。
後書き
まだ一話目ですが、いかがでしたでしょうか?
展開やカード効果でおかしなところがあったら、指摘をお願いします。
ページ上へ戻る