仮面ライダーAP
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第三章 エリュシオンの織姫
第2話 仮面ライダーの死
2009年にシェードの非人道的な人体実験が明るみになり、組織は解体された。
しかし、それで改造されていた被験者達が元通りになれるわけではない。
身体を人外の兵器にされた挙句、部隊を解体され居場所も奪われた被験者達が路頭に迷い、異形ゆえに人間社会から追放された影響で凶行に走るという、社会問題にまで発展してしまった。
さらに元隊員だけでなく、シェードに誘拐され改造手術を受けた民間人も、周囲に白眼視され居場所を失う事態に見舞われている。怪人の素体として誘拐されながら、改造人間への適性の低さから半端な改造しか受けずに放逐されていた民間人も、元隊員と同じ問題に直面していたのだ。
これを受けて、政府はただちに改造被験者保護施設を全国各地に設立。
シェードに改造され、かつ民間人への害意を持たない被験者達を隔離にも近い形で保護することになった。改造人間にも、人権が保障される制度が組まれたのである。
シェードの蜂起から7年が経過した2016年現在で被験者の数は300人を超えており、その保護施設は東京都内に設けられている。
その役割を担う二つの施設。目黒区の市街地に設立されている渡被験者保護施設と、稲城市郊外の山中に近年設立された風田被験者保護施設の二つには、それぞれ100人以上もの被験者達が収容されている。
保護されている被験者達は税金から捻出された費用で生活しつつ、社会復帰に向けた職業訓練や勉学に励んでいる。特に体力を要する職業において、改造された彼らの肉体は労働力としての効果も期待されていた。
だが、その期待通りに自らの能力をコントロールできた被験者は一握り。実際のところは自分の力を操り切れず、危険と見なされ社会への復帰が叶わない者が大半であった。
情報化社会である昨今、そうした実情はネットを通して人々に広く知れ渡っている。
テレビで被験者を好意的に取り上げる番組が組まれる一方で、ネット上や一部の週刊誌では被験者へのバッシングが横行していた。
「税金の無駄遣い」「兵器の体なら某国に特攻して死ね」「人間でもない、ちゃんとした改造人間でもない。なんで生きてるの?」「こんな連中飼う金があるなら俺らに回せよ」。そんな人々の暗澹とした「本音」は、ネットワーク上に深く染み付いている。
人間社会にも、シェードにも、彼らの安らぎとなる居場所はないのだ。仮面ライダーと、同じように。
◆
――2016年12月5日。
東京都目黒区渡改造被験者保護施設。
「なんだよ……なんなんだよこいつッ!」
「逃げろ! 踏み潰されるッ!」
日本最大の改造被験者保護施設の一つ。その地で今、未曾有の事態が発生していた。
白昼堂々、市街地の真っ只中。
突如現れた、数体の量産型フィロキセラ怪人。その猛威に為す術を持たない市民は蹂躙され、鎮圧に挑む警官隊も容赦無く餌食になっていた。
彼らの肉体から伸びる触手は強靭な鞭となり、人々の体を容易く切り裂いて行く。肉の刃は命乞いも聞かず、淡々と弱者を屠り続けていた。
――だが、人々を脅かしている災厄は怪人達だけではない。むしろ、彼らは「おまけ」のようなものだった。
白と赤を基調とする塗装。アスファルトに跡を残し、ガードレールもパトカーも人も踏み潰していくキャタピラ。
一度火を吹く度に、何十軒というビルを灰燼に変えていく主砲。
外見こそ、ナチス・ドイツ陸軍の重戦車――「ティーガーI」だが。その骨董品同然のフォルムの下に、破壊と殺戮に傾倒した最新技術が投入されていることは誰の目にも明らかだった。
その周りをうろつきながら、手当たり次第に市民も警官も惨殺しているフィロキセラ怪人達は、重戦車の随伴歩兵に過ぎない。
市民、警官問わず何もかも踏み潰し、破壊しながら渡被験者保護施設を目指して前進しているこの重戦車こそが、この戦場の主役となっていた。
「やはり施設を目指してるのか!? 収容者の避難は!」
「まだです! 中はパニック状態で……!」
阿鼻叫喚の生き地獄と化した目黒区。その戦火の渦中で、警官隊はせめて一人でも多くの市民を避難させるべく奮闘していた。
そんな彼らの勇気も、献身も。重戦車のキャタピラは、虫ケラのように踏み荒らしていく。その惨劇を身近に感じている渡被験者保護施設の人々も、騒然となっていた。
すでに重戦車は、施設の門前まで迫っている。
――その時。
「……!? おい、あれ!」
幸運の重なりから、未だに生き延びている警官の一人が声を上げる。
彼が指差した先には――こちらに向かい、爆走している風変わりな一台の車。
現代においては時代錯誤としか言いようのないフォルム。旧日本軍の九五式小型乗用車と見紛う赤い車体は、その形状に見合わない速さで廃墟に囲まれたアスファルトを駆け抜けている。
「……ッ!」
その奇妙なマシン――「アメノカガミノフネ」を駆る、一人の青年。
彼が羽織っている漆黒のライダースジャケット。その襟部に付いているファーが、向かい風に靡いていた。
赤いグローブを嵌めた手に力が篭り、黒のブーツに覆われた足が強くアクセルを踏み込んでいく。
彼は片手でハンドルを操作しつつ、懐から一本のワインボトルを引き抜いた。矢継ぎ早にそれを、ワインオープナーを模ったベルトに装填していく。
『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』
「――変身ッ!」
ベルトから響き渡る軽快な電子音声。それに呼応するように叫ぶ黒髪の青年は、ベルトのレバーを倒してワインボトル――の形を持つ「エンジン」を起動させる。
刹那。青年の全身は漆黒の外骨格に覆われ、全身にワインボトルから迸る赤いエネルギーラインが循環していく。
金色の複眼を囲う「a」の意匠。胸に装着された「p」を象るプロテクター。その外見的特徴が、彼の実態を物語っていた。
そして――風にたなびく白マフラーが、「歴戦のヒーロー」を彷彿とさせている。さらにマスクや外骨格は、長い戦いによる傷跡を色濃く残しており……装甲が破損している首元や後頭部からは、変身後であるにも拘らず、生身の肌や黒髪が僅かに覗いていた。
『AP! DIGESTIF IN THE DREAM!!』
変身シークエンスの終了を告げる、電子音声。鳴り響くその声と共に、青年こと南雲サダトは「仮面ライダーAP」として、地獄と化した目黒区の戦場に現れたのだった。
「か……仮面ライダーだ!」
「初めて見た……! お、おい俺達も一旦引くぞ! 巻き込まれたら今度こそ終わりだ!」
時代錯誤の車に乗り、颯爽と駆けつけてきた仮面の戦士。その姿を視界に捉えた警官隊は、これから施設の門前で始まる激戦を予感し、蜘蛛の子を散らすように退散していく。
仮面ライダーAP――サダトは素早くアメノカガミノフネから飛び降りると、赤い「P」の字を模した柄から刃を伸ばす一振りの剣を手に、白マフラーを翻して怪人達に斬り掛かって行く。
「――とあッ!」
問答無用の速攻は、怪人達から伸びる触手よりも速く。しなる肉の鞭を裂く剣閃は、瞬く間に怪人の肉体に届いて行った。
それはさながら、患者の体にメスを入れるかのように。
肉も骨も、紙のように断ち切る剣が肉体を通り過ぎた後は――噴き上がる血飛沫が、その結末を告げていた。
「……ッ!」
同胞の死を見せつけられた怪人達が、奇声を上げて次々と躍り掛かる。矢継ぎ早に舞い飛ぶ鞭の連撃が、仮面の戦士に降り注いだ。
しかし、金色の複眼――の奥の瞳に、迷いの色はない。
一撃目の鞭を切り裂いた直後。
手首を返して逆手に剣を構え、死角を狙う二撃目の鞭を斬る。その隙を突いて左手に巻きついた触手を掴み返し、触手の「持ち主」を力技で手繰り寄せ――頭から叩き斬る。
自分の肉体の一部を斬られた二体は痛みにのたうち、脳天から両断された一体は苦しむ暇もなく絶命した。
そのまま流れるような剣捌きで、サダトは残る二体を斬り伏せてしまう。まるで、苦しみから解き放つ「介錯」のように。
『三体のフィロキセラを無傷で――か。その脆弱な体にしては、上々な戦果だ』
「……!」
そうしてサダトの剣によりフィロキセラ怪人が全滅した後。残された最後にして最大の刺客――白塗りの重戦車から、くぐもった声が響き渡った。
ノイズが混じるスピーカー音が、死屍累々と骸が転がる戦場に鳴り響く。――すると。
「……だが。今のお前では、その背に守られている弱卒と大差ない。その脆弱な改造ボディでは到底、改造人間の真の価値は証明出来んだろう」
「さっきから……何を言ってる」
戦車上部のハッチが開かれ、そこから一人の初老の男が現れた。
白髪のオールバック。皺が寄った顔でありつつも、精悍さを失っていない面持ち。漆黒のトレンチコートを内側から押し上げる、はち切れんばかりの筋肉。
顔立ちから高齢であることは窺えるが、その長身の体躯は老境という言葉からは程遠い分厚さとなっていた。並の軍人では、こうはいかない。……いや、生身の人間ではこうはいかない。
ハッチから乗り出してきたこの男がシェードの改造人間であることは、誰の目にも明らかだ。
今まで戦ってきたシェードの刺客とは、全く雰囲気が違う異質な男。その得体の知れないオーラに反応し、サダトは素早く剣を構える。
一方、切っ先を向けられている男は涼しい面持ちで、サダトの方をハッチから見下ろしていた。
「貴様は一体、何のためにこんなことを……!」
「――いいだろう、お前には知る権利がある。俺の目的は、ごくありふれた単純なことだ。改造人間の『兵器』としての『商品価値』を証明し、この国に改造人間の必要性を説くこと。ひいては、その過程を以て日本という国を富国強兵へと誘うことにある」
「……!?」
「仮面ライダーAP。お前は、政府に飼われたこの被験者達をどう見る。俺達と変わらない、人間を越えた力を手にしていながらその力を活かす義務を放棄し、あろうことか国の金を食い潰し利権だけを貪っている」
「……」
「大いなる力には、大いなる責任が伴う。だが、改造被験者保護施設で暮らす弱卒共に責任の二文字はない。俺の目的はそういった毒にも薬にもならない者達を排斥し、限りある国家予算を効率的に削減することにある」
老境の男は表情一つ変えないまま、淡々と己の目的を語る。施設で暮らす改造被験者を「弱卒」と言い切る彼の眼を見据え、サダトは拳を震わせた。
「……力には、責任が伴う。それは、わかる。けど……俺達は、貴様らに力をくれと乞うた覚えはないッ!」
「誰しも『望んで』力を得ることはない。子が親を選べないように、己も己の力を選ぶことはできない。我々は常に、持って生まれた才能や実力で生きていくことを、この世界から強いられている。お前達が望んだか否かなど、何の意味もない話だ」
「なんだと……!」
「お前は改造人間として優れた適性を持っていた。施設で飼い慣らされている弱卒共にはそれがなかった。その違いに、『望み』の有無は関係なかろう」
施設で暮らしている被験者の中には、元シェード隊員ではない民間人の被害者も大勢いる。そんな、何の罪もない人間までも弱卒と切り捨てる男の姿勢に、サダトはさらに声を荒げた。
「……この施設の人達は。貴様らに人間の尊厳を奪われながら、それでもなお『人間』として生きようとしている。貴様らは、そうやって自分の了見だけで、今も生きている人達の命まで奪うのか!」
「俺は単なる道楽で殺しているわけではない。弱卒共の頭が減れば、それだけ連中に割く予算が削減される。さすれば、真に強く正しい者達が然るべき恩恵を享受できるのだ」
「詭弁を……」
「お前にとってはそうであろうな。だが、日本政府はその『詭弁』を選んだらしい。――見ろ」
「……!?」
だが、その横暴にどれほどサダトが怒ろうと、彼は怯む気配もなく話を続けていく。やがて彼が指差した先に視線を移し――サダトは、硬直してしまった。
生き延びたパトカーの運転手や、移動手段を失った警官隊が、うめき声を上げて助けを求めている市民を放置し、我先にとここから離れている。そんな光景が、四方八方から窺えた。
一時撤退からの立て直しにしては、妙だ。彼らが逃げ始めてから数分が経つのに、増援のサイレン音は全く聞こえてこない。
「……もしここが、普通の病院なら。警察署前なら。議事堂前なら。連中も敵わないなりに、あと数時間は粘っていただろうな。……政府にとっても結局のところ、被験者達は邪魔者に過ぎんということだ」
「……!」
「警察も政府の意向を汲んだ上で、撤退命令を出している。生きていたところで、この先役に立つ望みが薄い被験者100人の命より、警官一人の命の方が『重い』のだ」
「……そ、れは……」
「実利主義への傾倒。弱肉強食の肯定。悪くない判断だ。表立って被験者を排除すれば世論や国際社会から誹りを受けるが、シェードのテロで排除された――となれば、待っているのは『同情』。国の癌を切除できる上に融資も期待できるのだ、まさに一石二鳥だろう」
「そんな……!」
「シェードの改造人間に通常兵器は通じず、警官隊は敗走を繰り返してきた。今回も、力を尽くしたが及ばなかった――とされるだろう。この場にいる人間がこれから皆殺しになる以上、市民を捨てて逃げ出したという証拠も証言も――何一つ残らん」
まさにこれから、全員を殺すと宣言する白髪の男。その発言を聞かされた瞬間、サダトの全身から突き上げるような憤怒と殺気が迸る。
「させると思うのか……俺が!」
「……加えて。頼みの綱のお前も敗れたとあっては、誰も警官隊を責められまい。それほどの圧倒的な理不尽さが、この『タイガーサイクロン号』の威力なのだから」
その発言を最後に。
男はハッチの下へと潜り込むと、沈黙していた重戦車――タイガーサイクロン号を再起動させる。金属同士が軋み、こすれ合う歪な音と共に、鋼鉄の災厄が再び動き始めた。
『仮面ライダーAP。まずはお前を、その脆弱な肉体から解放してやる』
「……ッ!」
スピーカーから響くノイズ混じりの声と同時に、主砲が施設の方に向けられる。すでに、砲弾は装填されているようだ。
剣が届く間合いではないが――射撃できる形態に切り替えている猶予はない。そう判断した瞬間、サダトは施設を庇うように主砲の正面に立つと、ベルトのワインボトルを強く押し込み、エネルギーを右腕へ集中させていく。
その力の奔流はやがて赤い電光となり、彼の右手に握られた剣に宿った。
『FINISHER! EVIL AND JUSTICE OF MARRIAGE!』
「スワリングッ――ライダァッ、ビィィィトッ!」
そして。あらゆるものを切り裂く、必殺の電光剣を逆手に構え。
一気に振り抜くように――重戦車目掛けて投げつけるのだった。
真紅の矢と化した、電光の剣がタイガーサイクロン号に肉迫する。
その直後。
全てを破壊する重戦車の主砲が、火を吹いた。それはまるで、裏切り者に裁きを下すかのように。
◆
――2016年12月5日。
某国某戦地。
草一つ生えない不毛の荒野。その荒れ果てた地の上では、血で血を洗う争いが日常となっていた。
何のために戦っているのか。誰のための戦いか。誰も何もわからないまま、それでもこの一瞬を生きるために。
戦場に立たされた若者達は、今この瞬間も銃を手に戦っている。
――そんな、この地上を探せばどこにでもあるありふれた戦場の渦中。漆黒の外骨格を纏う仮面の戦士が、一振りの剣を携え戦地となった街を歩いていた。
砂と廃墟と死体しかない、ゴーストタウン。その中を歩む彼は、「G」の形を持つ柄を握り締め、晴天の空を仰ぐ。
ここではない、遠く離れた故郷を見つめるように。
「……」
その刃には。
彼が長年追い続けた宿敵の、血潮が染み付いていた。
彼の戦いは、幕を下ろしたのだろう。「元」を絶った今、これ以上新たな怪人が生み出されることはない。
だが。
全てが終わったわけではない。
終戦協定が結ばれても、それを知らない兵隊が戦い続けているように。今も、この戦地で若者達が戦い続けているように。
戦火の残り火が、今も戦士の故郷を蝕んでいる。地獄の業火と成り果てて。
しかし、仮面の戦士にできるのはここまで。手の内を知り尽くされている「師匠」を、討つ術は彼にはない。
だからこそ「師匠」は、己の介錯を「孫弟子」に託したのだ。
「……羽柴さん。『人間』は、あなたが思うほど脆弱ではない。生きる力は、愛は。あなたの理想には屈しない」
仮面を脱ぎ、空の向こうを見つめる青年。戦士としての殻を捨てた彼は、その想いを故郷で戦う後輩に託していた。
「あの子が、きっと。それを教えてくれる」
◆
――2016年12月5日。
東京都目黒区渡改造被験者保護施設跡。
全てが終わったこの街――否、廃墟には。生者は独りしか残されていない。
ただ独り、生きてこの地に立っているその男は、ハッチを開けて重戦車から降りると、辺りをゆっくりと見渡していた。
悲鳴すら絶え果てた無音の廃墟。ゴーストタウンと化した、目黒区の市街地は閑散としている。
逃げ出していく警官隊に見捨てられ、それでも懸命に生き抜こうとあらがっていた市民は、皆一様に力尽き亡骸と成り果てていた。炎上を続けるパトカーや路上に横たわる死体の山が、この場で起きた惨劇のほどを如実に物語っている。
――その災厄の手は、警官隊や仮面ライダーが身を挺して守ろうとしていた、改造被験者保護施設にまで及んでいた。
半人半獣の身でありながら、それでも明日を夢見て人間としての生を追い続けていた、被験者達。彼らの骸は燃え盛る施設に焼かれ、無惨に爛れている。
元隊員だろうと、誘拐されただけの民間人だろうと、関係ない。女子供も構わず焼き払われ、全てが蹂躙され尽くしていた。
「まずは一つ。残るは稲城市の風田改造被験者保護施設――か」
静寂に包まれた廃墟の中。白髪の男の呟きは、この場に強く響き渡る。
彼はゆっくりと歩み始めると、自分が乗り込んでいた重戦車の正面に立ち――感心するような色を僅かに表情に滲ませ、車体に突き刺さる白刃の剣を見つめた。
「……大したものだ。俺のタイガーサイクロン号にここまで傷を付けたのは、No.5を除けばお前が初めてだ」
そう呟く彼が、振り返る先には――血だるまになり横たわる、仮面ライダーAP。
だった「何か」が眠っている。
手足はもがれダルマのようになり、腹には風穴が開いていた。血に濡れ、ひしゃげた外骨格は、もはや原型をとどめていない。
「だが、それまでだ。脆弱な『APソルジャー』の性能では、ここまでが限界。如何に訓練を積んだとて、これ以上は――俺を屠るほどには、強くなれん」
瓦礫の上を歩む男は、足元に転がるサダトの腕を蹴り飛ばし。横たわるダルマの傍らに立つ。
「お前には、俺の理想の礎になってもらわねばならん。……用があるのは、その脆弱な体ではなく」
そして片手で頭を鷲掴みにして、100kg以上ある外骨格の胴体ごと持ち上げると。ぶらがった胴体と頭を繋ぐ首に――抉り込むような肘鉄を放った。
直後。
男の肘に削り取られた首は、その役目を失い。頭と繋がっていた胴体が、瓦礫の上に崩れ落ちる。
男の手には――僅かな脊椎が付着した、仮面ライダーAPの頭部だけが残されていた。
「性能差をものともせず、アグレッサーを倒した……お前自身の『魂』だ」
そして、この日。
仮面ライダーAPは、死んだ。
後書き
登場早々、脊椎ぶっこ抜かれる出オチ系主人公。ヒーローっぽくマフラー巻いても結局彼はこんな調子です。
ちなみに「首元や後頭部の髪が露出」という外見設定は、仮面ライダー旧1号と「仮面ライダー THE FIRST」の影響から。
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