仮面ライダーAP
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第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
第2話 仮面ライダーAP、南雲サダト
前書き
あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いしますっ!
――2009年。世界各地でテロが多発。
日本政府は鎮圧のため、精鋭揃いの対テロ特殊部隊「シェード」を創設。
地球全土を活動範囲とする彼らの活躍により、世界には少しずつ平和の光が差し染めるようになっていた。
だが。
その成果が、人体を改造して兵器化するという非人道的な行為によるものと判明。シェードは直ちに解体され、創始者「徳川清山」も逮捕された。
――それから僅かな日数が過ぎた、2009年1月31日。
開局50周年を迎えたテレビ朝日本社ビルにて、突如謎のテロ組織が踏み込み、ビルが瞬く間に占拠される事件が発生。
その正体は、「織田大道」をリーダーとするシェード残党であった。人質と引き換えに徳川清山の釈放を要求する彼らは、「No.5」と呼ばれる兵士に犯行声明を読み上げさせる。
しかし――彼が改造される以前から恋人関係にあったワインソムリエ「日向恵理」の説得をきっかけに、No.5は洗脳から解放され、組織から離反。
改造人間「仮面ライダーG」に変身し、織田率いるシェード残党の怪人部隊と交戦。これを撃破した。
それから間も無く、No.5は恋人を残し出奔。人間社会からもシェードからも孤立したまま、人類を脅かす怪人達と激闘を繰り広げることとなる。
◆
――それから7年が過ぎた、2016年5月。
長きに渡る仮面ライダーGとシェードの戦いも徐々に沈静化を見せ、シェード残党の勢いはかなり弱まっていた。
そんな折、世界中に「シェードに改造された元被験者が生身を取り戻した」という不可思議なニュースが舞い飛ぶようになる。
それは、改造人間にされた罪なき人々を救う為に外宇宙から来訪してきた、エリュシオン星の姫君「アウラ」の所業だった。
「改造人間を生身の人間に治す」秘術を持つ彼女の存在に目を付けたシェードは、東京まで単身で来日してきた彼女を攫おうと画策する。
しかしその目論見は、現場に居合わせた城南大学2年生「南雲サダト」によって妨害されてしまった。
生身でありながら、改造人間である戦闘員から少女一人を助け出した彼の手腕にも狙いを定めたシェードは、アウラを匿う彼を急襲。
敢え無く囚われてしまった彼は、仮面ライダーGをモデルに開発された新型改造人間「APソルジャー」の一員として改造されてしまった。
やがて仮面ライダーGと交戦することになる彼だったが、戦闘中にアウラの呼びかけにより洗脳から覚醒。No.5と同様に、組織への反旗を翻す。
斯くして「仮面ライダーAP」と名を改めた南雲サダトは、アウラの力で人間に戻ることをよしとせず、仮面ライダーとして彼女を守るために戦うことを選ぶのだった。
――そして。
この「Gの世界」における、第二の「仮面ライダー」が出現してから三ヶ月。
シェードの中から、さらなる暴威が目醒めようとしていた。
◆
――2016年8月24日。
東京都奥多摩町某所。
「……」
蝉の鳴き声。川のせせらぎ。小鳥の囀り。
都市開発がこの国で最も進んでいる東京の一部とは思えないほどに、自然の音色に彩られたこの空間の中で。
赤いレザーベストに身を包む一人の若者が、石段に腰掛け一冊の本を読みふけっていた。
夏の風に黒髪を揺らす彼の傍らには、真紅に塗装されたバイク「VFR800F」をベースとする改造人間用二輪車「マシンアペリティファー」が置かれている。
(相互に影響し合う、複数の世界――か)
木陰の中でページを捲る若者……もとい南雲サダトは、手にした本の一節を静かに見つめる。その本の表紙には、「パラレルワールド 互いに干渉する異次元」という題名が記されていた。
オーストラリアのとある高名な学者が提唱する、今ある世界とは全く違う歴史を歩んだ異次元の存在を、科学的考証に基づいて証明した論文を元に、日本の大学教授が学術書として著した一冊である。
裏表紙には、「割戸神博志」という著者名が記されていた。
(城南大学の元教授、か……。2009年に消息を絶っているって話だけど)
生物学を専門とする、某県出身の老教授。当時から偏屈者として知られていたらしい。
サダトが入学してきた頃には、すでに割戸神教授は大学から姿を消している。
――それに彼が行方知れずとなった時期は、シェード残党の武装蜂起にも重なる。
やがて、訝しむような面持ちでページを捲る彼の目に、あるページが留まった。終盤であるその項は、オーストラリアの論文の解釈ではなく――割戸神教授自身の主張が記されている。
――『この国には、この世界には偽善と欺瞞が溢れている。平和を謳いながらマイノリティを公然と迫害し、誰もそれを咎めない。この世界に生を受けていながら、この世界に居場所を見出すことができない。それを是とするならば、我々はもはや他の世界に居場所を求める他はないのかも知れない』。
その一節は、この世界への深い絶望と諦観を滲ませていた。
(居場所を見出すことができない……か)
サダトは神妙な面持ちで、その文面を見つめる。
――無差別テロを繰り返すシェードの怪人。
その脅威から人々を守り続けてきた仮面ライダーに対する民衆の反応は、真っ二つに分かれていた。
怪人達から被害を受けている大多数の一般市民は、人間の自由と平和を守る正義の味方として、惜しみない賞賛を送っている。
現実問題として、シェードのテロ行為による被害が後を絶たない昨今においては、この考えが世論の主流であった。
特に右翼寄りの勢力からの支持が多く、警察や自衛隊の特殊構成員として引き入れるべきという意見もある。
だがその一方で、正義を騙り公然と人殺しを繰り返す殺人鬼として、強烈に批判する見解もあった。その背景には、シェードによる改造手術を受けた被験者問題がある。
2009年にシェードの非人道的な人体実験が明るみになり、組織は解体されたのだが……それで改造されていた被験者達が元通りになれるわけではない。
身体を人外の兵器にされた挙句、居場所も奪われた被験者達が路頭に迷い、異形ゆえに人間社会から追放された影響で凶行に走るという、社会問題にまで発展してしまった。
これを受けて、政府はただちに改造被験者保護施設を全国各地に設立。シェードに改造され、かつ民間人への害意を持たない被験者達を隔離にも近い形で保護することになった。改造人間にも、人権が保障される制度が組まれたのである。
そんな彼らにとって、シェードの怪人とあらば問答無用で抹殺に掛かる仮面ライダーは、まさしく「死神」であった。
仮面ライダーの標的はシェード残党の暗躍に関わる怪人のみであるが、詳細を知らない元被験者達の間では「仮面ライダーに殺される」と錯乱状態に陥る者が続出。これを受けて、一部の人権保護団体が仮面ライダーを差別主義の殺人鬼と糾弾し始めたのである。
そうして世論が二手に分かれた今も、仮面ライダーとシェードの戦いは続いている。
だが、シェードを倒したとしても、仮面ライダーに勝利は来ない。
異形の存在を受け入れる居場所がないことは、改造被験者保護施設の存在が証明している。平和が訪れたとしても、そこに安住の地はない。
この広い世界に、仮面ライダーは独りなのだ。
(……俺の居場所も、ここじゃないのかもな)
シェードも仮面ライダーもいない世界なら。改造人間が普遍的に暮らしている世界なら。……そんな世界が、あるなら。
きっとそこに、自分の居場所もあるのではないか。ここよりもっと、相応しい場所があるのではないか。
隣の芝生は青く見える、ということかも知れないが……それでも。似て非なる異世界が実在するというのなら……それを求める割戸神教授の思想にも、共感してしまう。
気がつけばこうして、彼の著書を手に取っているのが、その本心の顕れであった。
――だが、その時。
林の向こうから響き渡る悲鳴が空を衝く。その断末魔にも似た叫びを聞き、サダトは我に返るように石段から立ち上がった。
「……ッ!」
考えるよりも速く。サダトは傍らのマシンアペリティファーに跨り、エンジンを噴かせる。
プルトニウム原子炉を動力源とする改造人間用のスーパーマシンは、主人を乗せて猛烈に道無き道を疾走した。
後書き
今話から第9話まで、仮面ライダー側の世界でお話が展開していきます。
ちなみに今話で触れられた、この世界における改造人間を巡る社会問題については、第三章でちびちび掘り下げる方針ですので、第二章の大筋にはそこまで関係ないです。ごめんなさい。
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