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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第71話:買い物日和って、どんな日和?

(芸術高等学校)
ピクトルSIDE

今日の授業も全て終わり、描きかけの絵の続きを描こうと自習室で準備してると、何やら廊下の方が騒がしくなってきた。
隣で私と同じ様に絵を描こうとしてたエウカリスに視線を向けて首を傾げたけど、彼女も何事なのかは理解してない。まぁ当然よね。

気になって作画作業どころでは無いので、エウカリスと共に廊下に出てみた。
するとそこには驚くような光景が展開された。
なんと戸惑う学長と共に国王陛下が廊下を歩いてらっしゃった。

陛下の後ろには鎧を着た数人の兵士が居り、隣には猫を頭に乗せたウルフさんが両手に大きなジェラルミンケースを持って付いてきている。
その顔はどことなくウンザイ気味に見える。……ってか、何で頭に猫を乗せてるの?

「あ、この部屋で良いや。みんな入って」
私の方に視線を向けた陛下は、突如この自習室に入ってきて随行員達も招き入れる。
以前に一度だけ会った事のある私を見て、この部屋に入ってきたのだろうか?

「わぉ……また陛下にお会い出来るとは思わなかったわ」
私の思いとは裏腹に、エウカリスが小声で陛下との再会を感激している。
彼女も陛下に会った事があるらしい。

「エウカリスは陛下にお目に掛かった事あるの?」
「うん。私がバイトしてるキャバクラに、以前お客様としてお見えになったのよ。でも最初は変装して身分を隠してらっしゃったから、帰る直前まで陛下だとは気が付かなかったの。一緒の席に居たウルフ様もぞんざいな口調で話すから、誰も陛下だなんて気付かなかったのよ……知ってる人以外」

……そう言えばウルフさんは普段から陛下にぞんざいな口調で話をされていたわ。
私だって自ら名乗って戴かなければ、あの美形カップルが国王陛下と王妃陛下だとは思わなかったモノ……
何であんなにぞんざいな口調なんだろう?

「そう言えば隣のウルフ様って、先日宰相閣下に就任なさったのよね? しかも国務大臣を兼務した宰相閣下に」
え、そうなの!?
私、毎週逢ってデートしてるけど、そんな事は一言も言ってなかったわ。

「何で後ろの兵士等は手ぶらなのに、国家のナンバー2が一番荷物を持ってるの? あと、あの頭に乗せてる猫は何?」
確かに……陛下が手ぶらなのは当然としても、兵士さん達は気を遣って荷物を持ったりはしないのかしら? 頭の猫は気にしないとして……

「やあ皆さん、初めまして。僕はリュカ……今日はこれから皆の描いた絵を買おうと思ってやってきました」
絵を買う? 何でワザワザ芸術高等学校(ここ)で!?
画廊とかに行けば、もっと良い絵が沢山売ってるのに。

「あー、学長を含め皆に言っておく事がある」
陛下と共に自習室の奥へ進んだウルフさんが、2つの大きなジェラルミンケースを床に置いて話し出す。でも猫は頭に乗せたまま。

「この男は性格が悪いから、下手に絵を薦めると気分を害して買おうとしなくなる。絵の事なんて(なん)も解ってないから、専門的知識を押し付けられるとヘソを曲げるんだ。黙ってこのオッサンの感性に任せよう……金だけは持ってるからね」
良いの……これだけの人前で陛下の事を悪く言って?

「ウルフ……流石に口が悪すぎるぞ!」
ほら……陛下だって大勢の人前で馬鹿にされたら、流石に怒るわよ。
「何か不適切な発言がありましたか?」
わ、解ってないの?

「僕は『オッサン』じゃない! イケメンと呼べ」
そこ!? 不適切な発言ってそこなんですか!?
「失礼しましたイケメン陛下。……な。性格悪いだろコイツ」
同意を求めないで!

「さて、ウルフ宰相の口の悪さが知れ渡ったところで……見たところこの部屋で絵を描こうとしてた人が居るみたいだから、何人かには今すぐに絵を描いてもらっちゃおうかな」
私やエウカリスの道具を見た陛下は、この部屋の用途に沿った事をさせるべく、ウルフさんが置いたジェラルミンケースを合わせるように並べて、その上に彼を座らせた。

「さぁ画家の卵諸君。今日のモデルはこの子だ。ベビーパンサーのソロ」
「え、俺じゃ無いの!? 何で俺を座らせたの?」
2つのジェラルミンケースを跨ぐように座ったウルフさん。しかし頭に乗せた(ベビーパンサー)を紹介されて驚いている。

「モデルの下の台座は黙ってろ」
「だ、台座ぁ……?」
酷い……あんなに格好いいのに台座扱いなんて。

「僕は学長と共に皆の絵が保管されてる所を巡って選んでくる。その間にベビーパンサーのソロを可愛く描いて僕に見せてくれ。完成してなくても可愛さが伝わってくれば完成後に買うことを約束しよう……下の台座は描いても描かなくても良いよ。ジッとせず動くようだったら、絵の具を投げつけても良いよ。でもソロには当てるなよ」

そこまで言って陛下は学長と兵士さん達と出て行ってしまった。
ど、如何すれば良いのだろうか?
描きかけの絵は後回しにして、今日はウルフさんと頭の猫を描けば良いのだろうか?

「ほらほら、あのオッサンは絵を吟味して選ばないから、さっさと描き始めないと戻ってきちゃうぞ。折角王家に絵を売りつけるチャンスなんだから、頑張らないと損するぞ!」
そ、そうか……例え今日絵を買われなくても、実力を示すチャンスなのね。

私は慌てて描きかけの絵をイーゼルから外し、新たなキャンバスをセットする。
隣ではエウカリスも同じ様に絵を描く準備を整えた。
周囲を見渡せば、先程まで居なかった生徒らも集まり、広めの自習室が手狭に感じる盛況ぶりを醸し出してる。

「良いかぁ……俺は宰相閣下だぞ。イケメンに描かないと大変だぞぅ」
うわぁ……地位を盾にした脅しを入れたわ。
顔は笑ってるから冗談だろうけど、ウルフさんの事を知らない人からしたら真に受けかねないわ。

「ですが宰相閣下。先程、超イケメンの国王陛下が『台座は描いても描かなくても良い』って言ってましたぁ。宰相閣下より国王陛下の方が偉いから、どちらの命令を遵守するかは自明の理では?」
わぁ……エウカリスってば言うわねぇ。

「何だ、生意気な事を言う女が居ると思ったら、お前はキャバクラで働いてるサビーネじゃねーか! 本当にこの学校の生徒だったんだな。確か本名はエウカリス・クラッシーヴィだったよな。金づる手放したくなかったら、宰相閣下もイケメンに描くんだよ!」

「あれ以来お店に来ないクセに、金づる気取りですかぁ? 図々しくない!?」
「馬鹿野郎、俺はそんなに暇人じゃねーんだよ! あのアホ侯爵と一緒にすんな!」
「『アホ侯爵』ってカタクール候の事ですか?」
「他に居るか、あんなアホ?」

「私の目の前で頭に猫乗せてる生意気な小僧は?」
「俺は天才なんだよ。知らんのか夜の蝶のクセに!?」
よ、夜の蝶って……なんか怪しい言葉ね。

「私達夜の蝶は、金だけは持ってるエリート等を限度以上に酔わせてます。そして前後不覚に陥った所で、近況や情報を喋らせてます。なのにイケメン宰相閣下の天才情報が入ってこないって事は……」
「って事は、お前の魅力がスライムにも劣るって事だよ!」

「な、何でそうなるのよ!?」
「男ってのはな、如何に酔っ払ってても第二の脳(股間)の命ずる良い女には、格好を付けて持てる情報を全て吐露するモンなんだよ。だが、その第二の脳(股間)が反応しないって言うのであれば、情報暴露に値しない女って事だ。理解したか、夜の蝶よ」

「うわっ、こいつ腹立つ」
そんな事を言いながらエウカリスは頭の猫(ソロさん)と共に台座(ウルフさん)の絵を描き上げて行く。
二人とも笑ってるから、冗談を言い合ってる雰囲気が伝わってきた。

お店で1度だけ来店したお客さん(ウルフさん)と、こんなにも親しそうに会話する彼女が羨ましい。
私は毎週土曜日(偶に平日)に逢ってるけど、ウルフさんは私に酷い事を言ったりしないから……
愛されてるのは強く感じるけども、贅沢な悩みかしら?

「ウルフ閣下は彼女居るんですか?」
自習室のあちらこちらで彼等(ウルフさんと頭のソロさん)を描いてる他の生徒らも、二人の遣り取りで緊張が薄れたらしく、描く手は止めずに質問をする者も現れた。

「何だお嬢ちゃん……俺の彼女になりたいのか?」
「権力とお金を持ってるイケメンでしょ? うん、彼女になりた~い!」
「……名前は?」
「はい。ルナリア・マルティス……ルナって呼んで下さいダーリン♥」

「そうですかマルティスさん……こんど鏡をご覧になってみて下さい。そうしたら今回の答えが解りますから」
「おいおい酷いなイケメン宰相。ルナリアちゃんは可愛いぞ!」
丁寧な口調でルナリアさんの告白を拒絶したウルフさんに、エウカリスが批難を入れる。

「可愛いのは顔だけだろ。お前(エウカリス)と同じで胸が……」
「くあぁぁぁ……ムカつく! 女を選り好んでんじゃねーよ!」
よ、良かった……私、胸は結構大きいわ。

「イケメンで権力と金を持ってて強力な縁故を得ていない者は選り好み出来ないんだよ。俺は全部持ってるから選り好み放題だ! 羨ましいだろ男共」
「羨ましいっす!」
自習室(ここ)で絵を描いてる者の半数は男性で、その大半がウルフさんのコメントに眉を顰めてるけど、少数の冗談が解る人達から『羨ましい』との言葉が上がった。

「そうだろう。だったら今日のモデルのソロを可愛く描いて、下の台座も超イケメンに描き上げて実力を見せるんだ! もしかすると専属の宮廷画家として雇われるかもしれないぞ」
「マジっすか!?」
急に室内が響めきだつ。

先刻(さっき)までウルフさんの発言に嫌悪感を表してた人達も、台座を美化修正し始めた。
もう……ウルフさんだって大概に口が悪いわ。
宮廷画家になんて陛下がお決めになるのに、今回の絵が選考対象になるように思わせるんですもの。

「……で、ウルフ閣下。本当に彼女とかは居ないんですか? 巷の噂では、リュリュ姫様との関係が噂されたり、魔技高の美女との関係とかも噂されてますけど……?」
リュリュ姫様との関係は私も不安だったけど、仕事の邪魔になるって事で本当に気は無いみたいよね。

魔技高の美女ってのは、私が下宿するマンションのお隣さん……リューナちゃんのことだ。
何でも知人の娘さんだったらしく、私との関係を暴露させない為にケーキを奢ったって先日教えてくれたわ。
エリートさんも大変ね。

「魔技高の美女の事は知らん。どうせ気ままにナンパした女の事だろ……記憶に無いね。リュリュ姫の事は……皆には内緒だゾ」
完全なるウソだ。リューナちゃんの事が記憶に無い訳ないし、リュリュ姫様とは本気で何も無い雰囲気だもの。

「イケメンで権力と金を持ってて強力な縁故を得ている俺だが、ただ一つ持ってない家柄ってモノがある。それを手に入れる為にはリュリュ姫は完璧だろう!」
「マジかよぉ~……俺、リュリュ姫様のファンなのになぁ」

「ふっ、残念だったな若人よ。俺と彼女は相思相愛って感じ? 俺の地位も上がった事だし、婚約発表までカウントダウン開始ってとこかな!」
私はウソである事を知ってるが、それを知らない人達は驚きを隠せない。

「ニャ!」(パシッ!)
「あ痛!? 何すんだよソロ?」
ドヤ顔のウルフさんに対し、頭の上で大人しくしてたソロさんが前足で彼の頬を叩いた。

「ソロさんが“嘘を吐くな”って怒ってるんではないですかぁ?」
本当のところソロさんがウルフさんを叩いた理由は解らないけど、今の話題の真実を知ってる私は、それとなく皆さんに解らせる。

それを聞いた室内の全員から笑いが巻き起こる。
言われたウルフさんも楽しそうに微笑んでるから、リュリュ姫様との仲が冗談だと皆が理解する。
ウルフさんが口の悪い皮肉屋だけど、とても良い人である事を皆が知ってくれたみたいで凄く嬉しいわ。

ピクトルSIDE END



 
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