魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic16公開意見陳述会に向けて~We’re all set~
前書き
まさか執筆後、サブタイトルを考えるだけで2日も消費するとは思いませんでした。しかも悩んだ末に導き出した答えが、ちょっと前のサブタイトルをそのまま使うという暴挙。拘りが首を絞めるという・・・。
まぁその間に、アニメ放送時からずっと考えていた、ギンガのISを考える時間も出来ました。結局、決まりませんでしたがね。
†††Sideアリサ†††
あたしとギンガ、それにすずかが機動六課に出向することになってから4日。当たり前だけど六課に来てからも変わらず“レリック”関連の捜査で、今日まではフェイトやアリシアと組んで外回りもしてた。とは言え、プライソン一派は完全に鳴りを顰めていて、尻尾の“し”すら掴めてない状況なのよね。
(やっぱりはやて達の推測通り、公開意見陳述会に仕掛けて来るのかしら・・・)
まぁたとえ仕掛けて来ようとも地上本部には、シャル率いる騎士隊ロート・ヴィンデを筆頭にした3個騎士隊、それに本局からも武装隊が何隊かが来てくれるって言うし。ここ六課の隊舎にはあたしとすずか、それにシャマル先生やザフィーラ、アイリも残る手筈になってる。それに最悪、ルシルにルールを破らせて働いてもらえば、そうそう陥落することはないわ。
「お、アリサ姐さん! こんちはっす!・・・こんな外で何やってんすか?」
隊舎前のターミナルから海をのほほ~んと眺めてると、「あら、ヴァイス」が声を掛けてきた。ヴァイスが姐さん呼びするのは世界広しと言えど、あたしとシグナムだけでしょうね。最初は嫌だったけど、もう慣れちゃったわよ。
「午後から隊長陣だけの、デバイスのリミットブレイクモードの運用試験戦があるのよ。それまでの時間潰しの日向ぼっこ」
「お、良いっすね。まだあったかい気温ですし。俺も時たまやるっすよ」
そう言って笑うヴァイスに、「なんか慌てたみたいだけど、なんかあった?」そう訊いてみる。結構慌てて隊舎から出て来たようだし。
「妹がこっち来るって連絡がお袋からあって・・・!」
「ラグナが?なんでまた・・・」
ラグナ・グランセニック。名字の通りヴァイスの妹で、人質事件以降、あたしも昔は通信でよく顔を合わせたりしてた。ラグナが凶悪事件の人質になったことで動揺したヴァイスは、彼女を誤射するっていう事故を起こした。非殺傷設定とはいえ、柔らかい眼球への直撃ってことで失明しかけたけど、偶然現場に同行していたルシルが治癒魔法で完治させた。
「いや、まぁ個人的な理由なんすけどね。お袋に頼んだんですけど、どういうわけかラグナが代わりに来るようで。っと、そうだ、アリサ姐さんも一緒にどうです? ラグナも久しぶりに会ってみたいと思いますし。あ、お暇でしたら、ですが・・・」
「そうね。じゃあご一緒しようかしら」
ヴァイスからのお誘い。兄妹水入らずでの面会を邪魔しちゃ悪いもするのだけど。でも久しぶりだし、挨拶くらいしないと悪いわよね。というわけで、ヴァイスと一緒にラグナを迎えに行くことになった。
「そういやラグナは今年でいくつになるんだっけ?」
「ついこないだ12歳になったばかりっすね」
「となると、初めて会ってから6年というわけね。しかも12歳って、結構難しい年頃じゃない?」
「そうっすね~・・・。俺にはアイツを誤射したっつう引け目があるんで、正直そんなに強気に出られねぇんですけど。ちょこ~っと歳相応に生意気になってきましてね。やれ掃除しろだの、やれ不潔だの、やれ早く彼女作れだの、口うるさくなっちまいましたね~」
そう言って嘆息するヴァイス。けどそれは「お兄ちゃんのことを大事に思ってくれてる証拠じゃない」と思うわけよ。肘でヴァイスの脇腹を小突きながら、「大切にしてあげないなさいよ」そう忠告してあげた。
「そうは言っても、プライベートにまでツッコまれるのはちっと勘弁してほしいっすよ」
「頑張れ、お兄ちゃん」
「っ! う、うっす! やべぇ、可愛い・・・」
「なんか言った?」
「いえ、なんでも!」
そんな話をしながらここターミナルでラグナが来るのを待つ。ラグナはそう待つことなく、タクシーに乗って現れた。料金はすでに払っているようで、リアドアが開いてすぐに大きなバッグの持ち手を両手で持ったラグナが降りてきた。
「ありがとうございました~。・・・おに――って、アリサさん! あ、お、お久しぶりです!」
あたしに気付いたラグナは、持ってたバッグをポイッと捨ててあたしの前まで駆け寄って来た。んで、ヴァイスは「おい!」地面にポイされたバッグに駆け寄って拾い上げた。ソレを受け取るのが個人的な理由ってわけね。
「ええ、久しぶりね、ラグナ。少し見ない間にまた可愛くなっちゃって」
「い、いえ、そんな・・・。アリサさんも一段とお綺麗になって、です」
照れ笑いを浮かべながらもあたしの容姿を褒めてくれたラグナに「ありがと♪」お礼を言いつつ頭を撫でる。ラグナの左目は、あの日から変わらずきちんと光を灯している。ま、ルシルの最高の治癒魔法による治療だし、当然と言えば当然かしら。ラグナは恥ずかしそうにあたしから目を逸らして、「そうだ、お兄ちゃん。彼女できた?」突然そんなことを言い出した。
「んな!?」
だからヴァイスも素っ頓狂な声を上げる羽目に。あたしは「ほっほ~」覗き込むようにヴァイスの顔を見上げる。ヴァイスは「ち、違っ、違いますって!」あたしから一歩二歩と後退した。
「機動六課は他の部隊に比べて、年下の若い女性局員が多いから、彼女も出来やすいかもって言ってたでしょ?」
「うお!? おい、コラ、ラグナ! お前、急に何を言い出すんだ!」
「なるほど~」
「ち、違うんすよ! 最初はまぁそんな邪な考えも持ってましたけど! だけど今は、ちゃんと1人の六課隊員として誇りを持って職務に励んでいます!」
バシッと胸を拳で打って釈明したヴァイスを横目に、「お兄ちゃん、24歳にもなって彼女いないなんて、妹としては心配なの」ラグナはそう言って肩を竦めた。
「お前は俺のお袋よ、大きなお世話だ! ったく」
「あ、そうだ、アリサさん! 彼氏さんが居なかったらですけど、ウチの兄はどうですか? 顔はまぁ悪くない方ですし、公務員ですし。あ、アリサさんほどは偉くないしお給料も低いでしょうけど。そんなに悪い物件じゃないかとおも――」
ラグナがあたしの両手を取って、兄であるヴァイスをあたしの恋人にって推してきた。あたしが反応するより早くヴァイスが「おまっ!? マジでいい加減にしとけ!」そう言って、ラグナの頭頂部を鷲掴みして、彼女をあたしから引き離した。
「マジですんません、アリサ姐さん! ラグナが馬鹿な事を言って! 気にしないでください!」
「お兄ちゃんって、タイプの女の人に対しては奥手でしょ? わたし、あの事故からよそよそしくなったお兄ちゃんと、昔みたいに仲の良い兄妹に戻りたくてずっと見てたんだよ。そうしたら、お兄ちゃんのヘタレっぷりがまぁ明らかになってきて。好きな人に告白することなくただ見てたら、他の男の人に先を越されちゃう~、なんてことも」
「っ!? な、なななな、なんでお前、そんな事まで知って・・・!?」
驚きと妹にまでそんな事を知られてた恐怖でヴァイスは顔を青褪めさせた。確かにこれは恐ろしいわ。たぶんだけど、ラグナには協力者が居るわね。
「それで・・・アリサさんは兄の事、どう思います?」
「聴けよ!」
「あはは。う~ん、そうね~・・・、以前シグナムも言ってたけど、確かにヴァイスの見た目は悪くは無いわね。初見時はまぁチャラそうで陽気なお兄ちゃんタイプの、付き合うなら友達までくらいだよね~的だけど。でも付き合いが長いと、意外に律義な良い男だって判ってくるし」
あたしがヴァイスに対する心証を言うと、ヴァイスは目を点に、ラグナは興奮気味に目を爛々と輝かせていた。ラグナが「じゃあ!」あたしに詰め寄って来た。
「そうね。あたしのヴァイスに対する好感度は結構高いわよ。ま、彼氏彼女の関係にはなれないけど」
「えええー!」「そ・・・っすか」
共に残念がるラグナとヴァイス。ラグナが「お兄ちゃんの彼女になってくださいよ~」あたしの右手を両手で持ってブンブン振ってくる。でもあたしはまだ19歳の女の子なのよ。もうちょっと独り身で居たいわけ。
(まぁ、なのはとはやて、それにフェイトとアリシアは、ヴィヴィオやフォルセティ、エリオとキャロっていう子持ちみたいなことになっちゃってるけどさ・・・)
あれじゃ結婚せずに一生終わりそうよね。すでに子持ちなんだから。ちなみにルシル争奪戦に関しては、はやてのフォルセティを養子として引き取りってところを突いて、シャルとトリシュはルシルと結婚して実子を生もうとしてる。だけど、ありゃ苦労するわね。ルシルにその気がないんだし。
「というか、あたしなんかよりヴァイスにお似合いな恋人候補が居るわよ♪」
「え?」
「そうなんですか!?」
「ええ。しかもヴァイスとその娘は結構いい雰囲気なのよ。話も合うみたいだし、恋人関係になるならそっちの娘との方が良いと思うわ」
嘘は言ってないわよ。六課の女性隊員の中にはヴァイスとものすごい親しい娘が居る。けどヴァイスは「そんな娘、居たっけか?」腕を組んで唸る始末。それだけであの娘を女の子として見ていないことが理解できた。
「本当ですか!? ちょっとお兄ちゃん! そんな人が居るならちゃんと言ってよ、もぉ。お父さんとお母さんも、早く孫が見たいって言ってるんだし」
「ラグナに何を言ってんだ、あの親父とお袋は!」
うがーっと頭を両手で掻き毟るヴァイスにはちょこっと同情。ラグナがあたしに向いて「そのご相手は一体・・・?」ヴァイスの彼女候補が誰なのか訊いてきた。
「ロングアーチ03・・・」
「03・・・? ん!? まさか・・・!」
「アルト・クラエッタよ!」
バシッとその名前を教えた。ラグナは「そうか、アルトさんが居た・・・!」目からうろこという感じで納得したようだけど、「いやいやいや! ねえっすよ!」ヴァイスは即拒否ってきた。
「お兄ちゃん! アルトさんとすっごく仲が良いじゃない! 彼女になってもらおうよ!」
「ねえよ! 確かにアイツとは話が合うし面白ぇし、一緒に居て気を使うこともねぇから楽だぜ? でもよ、そこに恋愛感情なんてねぇよマジで。アルトは俺にとっちゃ後輩以外の何者でもねぇよ」
あたしとラグナは顔を見合わせて「ハッ」ヴァイスを鼻で笑った、解ってない、判ってないわね、ヴァイス。そういうのが大事なのよ、恋愛にはね。アルトだってヴァイスと同じようなことを思ってるかもしれないし、あとはキッカケさえがあればコロコロ恋に落ちてゆくわよ。
「ラグナ。ファイトよ?」
「はいっ♪」
「勘弁してくださいよ・・・」
ガックリうなだれるヴァイス。でもアルトは本当に良い娘だから、彼女を見る目をちょこっと変えちゃえばきっと、女の子として好きになっちゃうこと間違いなし。
「あ、そうだ、お兄ちゃん、アリサさん。ここの部隊にはルシルさんが居るって聞いたんだけど・・・」
ラグナが話題を変えて、ルシルが六課に居るかどうか確認してきたから、「ルシルなら確かに居るぜ」ヴァイスが答えた。5~6年前くらいは、ヴァイスもルシルのことをセインテスト査察官って呼んでたけど、ルシルから訂正を食らって今では友達として、ルシル呼び、だ。
「本当!?」
「どうしたの? ルシルに何か用?」
「あ、はい。近くに居らっしゃるのなら、お礼をしておこうかと・・・。ルシルさんともう一度会って、お礼を伝える。それが今日の目的の1つでもあるんです。お母さんに言って代わってもらったくらいですし」
そう言って照れ笑いを浮かべるラグナ。ラグナやヴァイスにとってもルシルは恩人だからね。そんなラグナの表情を見て、「ルシルだけはやめとけ。勝ち目はねぇから」ヴァイスはそう言ってラグナの肩を優しく叩いた。するとラグナは顔を真っ赤にして、「ち、違うもん!」否定した。
「ライバルは全員すげぇ強ぇぞ。10年来の幼馴染の八神部隊長と教会騎士のシャルさん。同じく教会騎士の騎士トリシュタン。シャルさんと騎士トリシュタンは良家のお嬢さまで、八神部隊長は同じ家に住んでたこともあるって言うしな~。あー、ホント羨ましいぜ」
「だから違うもん! た、確かにルシルさんのことは格好良いな~、こうゆう人がお兄ちゃんなら友達に自慢できるな~、って思ってるけど!」
「え? 今、俺・・・ディスられた?」
「だからお兄ちゃんが思ってるような好きじゃないもん!」
「へいへい。判ったからそんなにキレんなよ」
お手上げポーズをしたヴァイスに対して「もう!」ラグナはプンプン頬を膨らませる。とりあえず「ルシルに連絡してみるわ」ラグナと面会できるように取り図ろうとした時・・・
「きゃぁぁぁぁ♪」
「わぁぁ~~い♪」
どこからともなくそんな歓声が聞こえてきて、声の出所である寮のある方へと目をやる。その直後・・・
「ひゃぁぁぁぁ♪」「ゴー、ゴー!」
「アレクサンドロス・・・!」
隊舎の陰から巨大な黒馬アレクサンドロスが飛び出してきた。鞍に跨ってるのは主であるクラリス、それにヴィヴィオとフォルセティ。子供2人は手綱を握るクラリスの前に座っていて、満面の笑顔で歓声を上げてるわ。その後ろにはアリシア、それに狼形態のザフィーラが駆けて来てた。
「あ、ラグナだ」
あたし達のところに来て、クラリスがラグナに気付いたことでアレクサンドロスを止めて地面に降り立った。ラグナは「クラリスさん!?」も居るとは思わなかったようで、すごく驚いて見せた。
「ん。久しぶり。大きくなったね、ラグナ」
「はいっ。お久しぶりです! その節は本当にお世話になりました。わたしも、友達も、みんな元気でやってます!」
「うん、それは良かった」
クラリスも、あたしと一緒に人質事件を起こした犯人の逮捕に参加した。犯人の逮捕数で言えばクラリスの方が多い。というより重傷者を出した数ね。クラリスの攻撃を受けた犯人はもれなくどこか骨折していたし。
「知らない子が居る」
遅れてやって来たアリシアがラグナを見てそう言ったから、ヴァイスが「アリシアさん、ザフィーラの旦那。コイツは俺の妹で・・・」そう前置きして、ラグナの頭の上に手を置いた。
「あ、はじめまして、ラグナ・グランセニックです! 兄がいつもお世話になっています」
「そうなんだ。わたし、アリシア・テスタロッサ・ハラオウン。で、こっちの狼はザフィーラ。うちの部隊長の使い魔ね」
「使い魔ではない、守護獣だ」
「っ! 喋れるんだ・・・さすが使い、じゃなかった、守護獣さん。あ、よろしくお願いします、アリシアさん、ザフィーラさん」
アリシアとザフィーラにお辞儀したラグナが顔を上げた直後、「っ!?」目を丸くした。その視線の先には、アレクサンドロスの鞍の上に座りっぱなしのヴィヴィオとフォルセティ。気付くの今さら?と思ったけど、アレクサンドロスがクラリスを乗せるためにか自分の意思で伏せたことで、ラグナの身長でも2人が見えるようになったからなのね。
「え? あれ? ルシルさん? ちっさ! え、小さい! 変身魔法か何かですか!?」
事情を知らない人がフォルセティを見ればそういう反応をしてもおかしくはないわね。あたし達は苦笑して、「その子はフォルセティ。一応、ルシルの義理の息子になるわね」そう紹介する。
「義理の息子ですか!?」
「事情が深すぎて、どういう経緯でそうなったのかは説明できないのよ。とりあえず、ルシルは一児の父親になったと思ってればいいわ」
「はあ。なんか・・・ショックかも・・・」
ボソッと何か呟いたラグナ。聞き取れなかったけど、おそらく愚痴っぽいことでしょうね。とにかく、「そっちの金髪の子がヴィヴィオね」と紹介する。
「フォルセティです」
「ヴィヴィオです」
「「はじめまして」」
「あ、はじめまして、ラグナって言います」
ラグナ達の自己紹介も終わって、「それじゃラグナ。またね」クラリスはアレクサンドロスの鞍に跨ると「Los !」合図を出して、アレクサンドロスを再び走らせた。ラグナとヴィヴィオとフォルセティは手を振り合って、そして「またね~♪」アリシアとザフィーラも後に続いて行った。
「・・・じゃあルシルを呼び出してみるわ」
「その必要はないよ」
後ろから声がして、振り向いてみればそこには「ルシル」が居た。ラグナは表情を輝かせて、「お久しぶりです、ルシルさん!」ルシルに駆け寄った。
「久しぶり、ラグナ。元気そうで何よりだ」
「はい♪ あの、ルシルさんもお元気そうで良かったです♪」
ルシルとラグナは挨拶をし合って、2人ともニコッと笑った。
†††Sideアリサ⇒すずか†††
聖王教会騎士団から騎士が週一で機動六課に派遣されるっていうシステムを知ったのはついさっき。今日やって来たのは、騎兵騎士におけるA級1位のクラリスちゃん。アイリと同じように真っ白な髪は肩に掛かる程度のセミロング。瞳の色は綺麗なアップルグリーン。
派遣される騎士はどうやらはやてちゃん達と縁のある騎士に限られてるようで、シャルちゃん、ルミナちゃん、トリシュちゃん、クラリスちゃんの計4人がローテーションでやって来る。その全員が陸戦・空戦Sランク越えを果たしてるからすっごく強い。
「それじゃあ午後からは何して遊ぼうか? 私は召喚士でもあるから、そっち方面で遊ぶ?とりあえず、私が召喚できるのは馬のアレクサンドロス、亀のアスピドケロン、鳥のステュムパリデス、鶏のコカトリス、鷲獅子のグリフォン、あと飛竜のワイバーンが居るんだけど。どれかを召喚しようか」
「お馬さんに乗りたい!」
クラリスちゃんがここ六課に来るために使ったのは公共交通機関じゃなく、まさかの召喚獣の1頭である巨大な黒馬アレクサンドロスだった。それを見ていたヴィヴィオは驚いて、フォルセティは大興奮。やっぱり男の子だね~。
そしてお昼休憩になって、午後からの職務時間中に何して遊ぶ?って、クラリスちゃんが2人に訊いたところで、フォルセティの今の発言だね。お昼休憩はなのはちゃん達ママとお話したり遊べたり出来るけど、午後からのお仕事が始まっちゃうと何も出来ないから。
「アレクサンドロスに乗りたいの?」
「うんっ! ヴィヴィオもいっしょに乗ろうよ!」
「ぅえ? あぅ・・・わたしは・・・」
表情を輝かせてるフォルセティとは対照的に、ヴィヴィオは少しばかり渋ってる。フェイトちゃんが「危ないことはダメだよ?」2人に言うけど、フォルセティだけは「パパ、ママ、ダメ?」納得できないみたいで、パパのルシル君とママのはやてちゃんに小首を傾げながら訊いた。
「うん、ええよ~❤」
はやてちゃんは目をハートにして即OKを出した。ルシル君も「やんちゃで良い。男の子だからな」OKを出して、フォルセティの頭を撫でた。はやてちゃんとルシル君の間に座るフォルセティは「やった~❤」万歳して喜んで、その様子にはやてちゃん達は微笑んでる。本当の親子だな~って思う。
「ヴィヴィオも一緒に乗ろ?」
「でも・・・」
「だいじょーぶ。ボクが付いてるから」
「・・・うん。フォルセティがいっしょなら・・・やる」
なんて、まるで恋人のようなやり取りをやっちゃうヴィヴィオとフォルセティ。プライソンの研究所で生まれて、6歳(推定だけど・・・)までそこで育てられたみたいだし(でも母親役が誰だったのかは忘れてるよう)、恋人・・・というよりは、とっても仲の良い兄妹の方が正しいのかな。
「ええー!? ダメダメ、フェイトママは許しません!」
でもやっぱりフェイトちゃんは却下。となれば、「なのはもそうだよね!?」ヴィヴィオのもう1人のママのなのはちゃんの意見が重要になってくる。フェイトちゃんの必死な確認になのはちゃんは・・・
「う~ん。ヴィヴィオがやりたいなら良いんじゃないかな?」
少し悩んだ後にOKを出した。フェイトちゃんの顔がポカーンとなる。その様子に、「た・だ・し」なのはちゃんはそう前置きした。
「クラリスちゃんの言うことは必ず聴く。浮かれて危ないことはしない。それが守れるなら、だよ? フォルセティ、守れるかな? あなたに、ヴィヴィオをお願いするからね」
「はいっ! ヴィヴィオは、ぼくは守ります!」
ビシッと右手を挙手して宣誓したフォルセティ。ヴィヴィオは嬉しそうにはにかんで見せた。なんかもう、2人を見てるだけでこう・・・胸がキュンっとする。
「うん。じゃあいいよ。クラリスちゃん、2人をお願いね」
「ん。確かにお願いされた。ヴィヴィオもフォルセティも、聖王教会にとってすごく重要な存在だから。もし何かがあったらリアルに私の首が飛ぶ」
クラリスちゃんはそう言いながら敬礼した。ヴィヴィオとフォルセティの出生の秘密はもう聞いてる。聖王オリヴィエと魔神オーディンのクローンだっていう2人は確かに、聖王教会にとって特別な存在なのかもしれない。
「なのは~」
「心配しなくても大丈夫だよ、フェイトちゃん。フォルセティもしっかりしてるし、ヴィヴィオだって・・・」
「でもぉ~」
「まぁフェイトの心配性は今に始まったことじゃないし。いいよ、わたしも見てるから」
「我も居よう」
なのはちゃんの撃墜事件からさらに心配性度が上がったフェイトちゃん。気持ちは解るけど、過保護もどうかと思っちゃったりする。アリシアちゃんがしょうがないって風にそう言って、ザフィーラもいつも通りに子守りをすることを伝えた。
「ね? フェイトちゃん。ここはヴィヴィオ達を信じてあげよう?」
「む~・・・、うん。ヴィヴィオ、フォルセティ。ほんと~に、危ないことはしちゃダメだからね」
「「はーい!」」
というわけで、なのはちゃん達が午後のお仕事をしている間は、クラリスちゃんとザフィーラ、それに午後から待機非番のアリシアちゃんが、ヴィヴィオとフォルセティの子守りをすることになった。そしてお昼休憩があとちょっとで終わるという頃・・・
「よ~し! ヴィヴィオ、フォルセティ、行こうか!」
「「はーい!」」
クラリスちゃんがヴィヴィオとフォルセティ、それにアリシアちゃんとザフィーラを伴って寮から出て行くのに合わせて、私も一緒に寮を出る。クラリスちゃん達は寮の前に集まって・・・
「汝は遥かなる陸を疾駆する者。地を揺るがすは馬蹄、空を震わすは轟鳴。行く手は苛烈なる戦火、過ぎ去るは打ち斃せし亡者の群れ。汝が主の命に応じ、いざ参れ! アレクサンドロス!」
召喚魔法を発動。召喚魔法陣から大きな黒い馬アレクサンドロスが出現。フォルセティは「おっきい~!」大興奮。ヴィヴィオは「かまれない・・・?」少し怯えてフォルセティの後ろに隠れてる。
「大丈夫。アレクサンドロスはとっても優しい子だから。ほら、撫でてみて」
クラリスちゃんがアレクサンドロスの首を優しく撫でると、気持ち良いのか鼻を大きく伸ばした。フォルセティがヴィヴィオの手を引いてアレクサンドロスに近付いて行くと、「よいしょっ」クラリスちゃんが2人を同時に抱き上げた。そしてフォルセティは興味進々に撫でて、ヴィヴィオもそろそろと優しく撫でた。
「じゃあ次。乗馬体験~」
クラリスちゃんがヴィヴィオとフォルセティを降ろして、アレクサンドロスの背中をポンポン叩くと、アレクサンドロスが地面に伏せた。まずは「わくわくしてるフォルセティから乗せようか」って、クラリスちゃんはフォルセティを抱え上げてアレクサンドロスの鞍に乗せた。
「おお・・・! すごい! ヴィヴィオも早く!」
「はい、じゃあヴィヴィオ」
次はヴィヴィオを抱え上げるとフォルセティの前に後ろに座らせて、「最後は私っと」クラリスちゃんが一番後ろに座った。そして軽くアレクサンドロスを蹴ると、アレクサンドロスは立ち上がった。
「おお!」「ひゃあ!」
「さぁ、軽く走ってみようか」
「ヴィヴィオ、フォルセティ。しっかり手摺りを持ってね」
歩き出したアレクサンドロスを追い掛けるアリシアちゃんがそう言うと、2人は鞍に設けられてる手摺に掴まった。アリシアちゃんとザフィーラも一緒だから、安心してここから離れられるね。
そして私は改めてメンテナンスルームへ。六課の隊舎は古い建物だっていうけど、シャーリーの拘りなのか、メンテナンスルームの設備だけは一級品だったりする。だからなのはちゃん達のデバイスの調整も、何も問題なくサクッと出来る。
「お待たせ、みんな」
メンテナンスルームの一角に並んでるポッド、その6基中5基の中に浮いているデバイスに声を掛ける。そのどれもが待機モード。操作パネルを操作して、ポッドの中から6基のデバイスを取り出す。
(決戦予定日までもう少し。間に合って良かった・・・)
リミットブレイクモードは今から6年前から構想して、少しずつ時間を掛けて作り上げてきた。ドクターやシスターズのみんなとも協力したから、危険性なども無くオールグリーン。あとは今日、これからの試験運用戦闘で使いこなせるかどうかの確認だけ。
「こんなに遅くなっちゃって、みんなには申し訳ないな・・・」
デバイスのフレームの強化から魔力伝導率エトセトラ。死線を潜り抜けないといけないような一線級の魔導師なみんなのデバイスだから、ここまで掛かっちゃった。でもその期間に見合うだけのスペックは確保できたと思う。
そんな新生デバイスをケースの中へと移して、みんなの待つ海上シミュレータへと持って行くためにメンテナンスルームを出ると、「ルシル君・・・」が居た。特務調査官として働くことになったルシル君は、残念ながら六課の一員として戦闘に参加することは出来ない。だけど・・・
「すずか、君に頼みがある」
ルシル君は普段通りの口調でそう言って、私に左手を差し出した。手の平に乗っているのは1個の指環。待機モードの“エヴェストルム・アルタ”だ。“エヴェストルム”からルシル君の顔へと視線を戻して、「何をすれば良いかな?」そう訊ねる。
「メンテナンスをお願いしたいんだ。対レーゼフェア戦に向けて」
「っ! レーゼフェアさん・・・」
10年も前に知り合った、ケーキ大好きなお姉さん。でもその正体が、ルシル君のご家族を殺した人型の兵器だったって知った時のショックは今でも忘れない。
「やっぱり・・・出て来ると思う?」
「おそらく、としか言えないけどな。正直、特務調査官である俺が戦場に出ることは許されない。しかしアイツが出て来たらルールを破ってでも戦うしかない。そのために万全を期す。頼めるだろうか・・・?」
私はルシル君の手の平から“エヴェストルム”を取って、「もちろん♪」笑顔で応える。ルシル君も「ありがとう」微笑みを返してくれた。ルシル君と一緒にエントランスロビーのところまで行って、私は外へ、ルシル君はオフィスへ向かう・・・その前に・・・。
「ルシル君」
「ん?」
「左目の視力と固有スキル、取り戻せると良いね・・・」
レーゼフェアさんに奪われたと思われるルシル君の大切なもの。レーゼフェアさんを救う、つまり斃せばルシル君の左目の視力も複製スキルも取り戻せるはず。ルシル君は私に振り向いて「もちろん、取り戻すさ」自信ありげにニッと笑って、私に小さく手を振ってくれた。私も手を振り返してから外に出て、海上シミュレータへ向かった。
「なのはママ~、フェイトママ~!」
着いたところで、アレクサンドロスから降りたばかりのヴィヴィオが、なのはちゃんとフェイトちゃんの元へと駆け寄ってく後ろ姿を見た。
「走ると危ないよ~」
「転ばないように気を付けてね~」
なのはちゃんとフェイトちゃんから注意を受けていながらも「うん! ・・・ぅあ!?」残念ながらヴィヴィオは派手に転んじゃった。私とフェイトちゃんと、アレクサンドロスの側に居たフォルセティが「ヴィヴィオ!」に駆け寄ろうとしたんだけど・・・
「待って、フェイトちゃん、すずかちゃん、フォルセティ!」
なのはちゃんに制止させられたから、私たちはその場にピタッと止まる。
「大丈夫。草がクッションになったし、綺麗な転び方だったから、怪我はしてないよ。・・・ヴィヴィオ、大丈夫?」
なのはちゃんは片膝立ちして優しく声を掛けると、ヴィヴィオは顔を上げて「ママ・・・」今にも泣きそうな声でなのはちゃんを呼んだ。
「怪我してないよね。なのはママとフェイトママはここに居るから、自分の力で、ひとりで頑張って立ってみようか」
「ママ・・・」
「おいで」
なのはちゃんの教育方針に口は出せないけど、これはちょっと厳し過ぎる気もする。だから「ダメだよ。ヴィヴィオはまだ小さいんだから」フェイトちゃんがそう言って、ヴィヴィオの方に駆け寄って行くと、「ヴィヴィオ!」フォルセティも続いた。そしてフェイトちゃんは「大丈夫?」ヴィヴィオを抱え上げた。
「うん・・・」
「気を付けてね。ヴィヴィオが怪我をしちゃうと、なのはママもフェイトママも悲しくて泣いちゃうから」
「ごめんなさい」
「ヴィヴィオ、平気?」
「うん。ありがとう、フォルセティ」
「うんっ」
フェイトちゃん達がそう話してるところで、「もう。フェイトママ、ちょっと甘いよ」なのはちゃんが加わった。甘いって言われたフェイトちゃんは「なのはママが厳し過ぎるんです」プイッとそっぽを向いちゃった。
「ヴィヴィオ。今度は自分で立ってみようね」
「うん」
とここで、隊舎から午後の始業開始を告げるベルの音が聞こえて来たから、クラリスちゃんとヴィヴィオ達は一旦お別れ。もう一度アレクサンドロスの鞍の上に跨って、海上シミュレータから出て行った。クラリスちゃん達を見送った後・・・
「それじゃあ早速始めようか。リミットブレイクモードの運用試験戦を」
私はケースを開けて、なのはちゃん達にデバイスを返していった。
それからなのはちゃん達はリミットブレイクモードを用いた戦闘を重ねて、私はその経過を見たり、なのはちゃん達からの話を聴いたりして、デバイスの調整をその都度に繰り返していった。3時間ほどで全基の調整を終えることが出来て、機動六課隊長陣の準備は万端になった。だから・・・
「いつでも来い!」
後書き
ドブロ・ウトロ。 ドバル・デン。 ドバル・ヴェチェル。
今話は、アリサとヴァイス、ヴィヴィオの転倒を主として描きました。アリサ×ヴァイスというのも考えていたのですが、ヴァイス×アルトがやっぱり正規っぽいんですよね。それに、アリサファンの方がヴァイスとくっ付けるのに抵抗があるとも思いまして。というわけで却下となりました。
ヴィヴィオはなのはとの、自力で立てるようになるという約束、が最大の目的のためです。原作アニメでもそれが大事なシーンでしたし。本作にももちろん使わせてもらいます。
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