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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic15強者の証明~Who is Strongest?~

 
前書き
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします! 

 
†††Sideスバル†††

9月に入ってもまだまだ暑さが和らぐ気配を見せない中、あたし達フォワードは午前中の訓練を始めるために、ロッカーで訓練服に着替えて外へ。なのはさんとヴィータ副隊長の待つ海上シミュレータの入り口へ急ぐ。そこには教導隊の制服を着たなのはさんと、あたし達と同じ訓練服を着たヴィータ副隊長が待ってた。

「はーい、フォワード集合~!」

「さっさと並べ~」

ヴィータ副隊長に急かされたあたし達はダッシュでなのはさん達の前に整列する。でもなんでかヴィータ副隊長がニマニマしてる。訓練前に、というか普段の仕事中でもそんな表情なんてしないから、今日は一体どんなキッツイ訓練をするんだろうってちょびっと恐い。

「午前の訓練を始める前に、まずはお前らに大事な連絡がある」

「うん。予想されてるプライソン一派の地上本部襲撃に備え、機動六課に協力してくれる新しい仲間が本日より出向してくれるから、まずはその紹介ね。どうぞ~!」

なのはさんが隊舎の方へ振り向いてそう言うと、タタタっと駆けて来る足音が・・・たぶん3人分くらいしてきた。そしてあたし達に姿を見せた新しい仲間に「うえ!?」あたしは心底驚いた。

「陸士108部隊から、アリサ・バニングス二等陸尉とギンガ・ナカジマ陸曹。本局技術部から、月村すずか技術官だ」

「アリサ・バニングスよ。よろしく頼むわよ、あんた達♪」

「ギンガ・ナカジマです。みんな、またよろしくね♪」

「月村すずかです。私は前線魔導師じゃないから一緒に戦うことは出来ないけど、みんなと仲良くなりたいです♪」

何せギン姉とすずかさん、そしてアリサさんだったからだ。ギン姉は言うまでもなく、すずかさんはサイボーグとしてのギン姉やあたしのメンテナンスを何度もやってくれてるし、アリサさんはよくお父さんやギン姉に誘われて家に遊びに来てくれてた。

「アリサとギンガは、今日からお前らと一緒に訓練に参加してもらう。お前らよりずっと強ぇからしっかり揉んでもらえ」

「「「「はいっ!」」」」

尊敬してるギン姉、それにアリサさんと一緒に訓練が出来る。そう考えただけでワクワクが止まらないよ。なのはさんは続けて「キャロ。すずかちゃんはブースト魔法のエキスパートだから、一緒に訓練に参加してもらおうか」そう言って、キャロとすずかさんを見た。

「魔法を教えるなんて初めてだから、ちょっとぎこちないかもしれないけど、よろしくね、キャロ♪」

「あ、はい、よろしくお願いします!」

というわけで、ギン姉とアリサさんとすずかさんを交えての午前の訓練が開始される。まずは準備運動から。いつも通りあたしはティアと、エリオはキャロと組んでストレッチ。あたし達と同じ訓練服を着てるギン姉とアリサさんも、2人で組んでストレッチ中。その間・・・

「午後からはオフィスで仕事だったよね、なのはちゃんとヴィータちゃん」

「うん」「おう」

「じゃあ午後からレイジングハートとグラーフアイゼン、借りても良いかな? 公開意見陳述会はもう来週だし、リミットブレイクモードの最終調整をやっておこうと思うんだ」

「あ、うん。ありがとう、すずかちゃん」

「サンキュー」

そんな会話が聞こえてきた。だからあたしは「リミットブレイクモードってなんだろうね?」ティアにそう訊いてみたんだけど。ティアは「そのまんま限界突破した超火力モードでしょ」なんて、馬鹿なあたしでもすぐに思い至った答えを返してきた。

「じゃなくて、どういう形態で能力なのかな?ってこと」

「知んないわよ、初めて聞いたんだし。気になるなら直接訊いてきなさい」

「あぅ~」

正論を言われたらもう言い返すことも出来ないわけで。しょんぼりしながらストレッチを続けて、「はーい。集合~!」終わったところでなのはさん達の元に集合する。

「それじゃあ初日ということもあって、局員としての先輩たちと軽く戦ってみようか。アリサちゃん、すずかちゃん、ギンガ。お願いね」

「ええ」「うん」「はい!」

「そういうわけだ! フォワード一同、防護服着用!」

「「「「はい!」」」」

あたし達フォワードと、ギン姉とすずかさんとアリサさんは揃ってバリアジャケットに変身。そして海上シミュレータに移動して、すでに展開されてる森林フィールドの中で、あたし達はギン姉たちと対峙する。

「4対3のチーム戦。アリサちゃんとすずかちゃんは魔力出力をAA-まで抑えてね。ギンガは制限無しの全力でね」

「はーい♪」「了解!」

「判りました!」

なのはさんからの指示にギン姉たちはそう応じて、あたし達に体を向けてそれぞれデバイスを構えた。一目見るだけでもうベテランって判る隙の無い構え。

「ギンガさん達は強敵よ。特にチーム海鳴のすずかさんとアリサさんは。アリサさんは確か炎熱系。すずかさんはどんな魔法を使うか知ってる、スバル?」

「えっと、確か氷結系魔法の使い手で、キャロと同じフルバックのブースト魔法使い。あと射砲撃にも優れてて、身体能力もかなり高い」

チーム海鳴のメンバーの中で一番付き合いが深いのはすずかさんだ。だからすずかさんがどんな魔導師なのかは、検査時間の合間にそういう話をよくしてたから知ってる。あたしがすずかさんについて知ってることを伝えると、「結構厄介みたいね・・・」ティアは苦笑した。

『とりあえずスバルはギンガさんを1人で抑えて! あたしとエリオとキャロで、すずかさんとアリサさんを倒すわよ』

『オッケー!』

『『了解です!』』

念話を使ってのティアからの指示にあたし達は応じて、あたしはギン姉を見詰める。あたしの視線に気付いたギン姉がニッと笑った。そして・・・

「それでは、模擬戦・・・開始!」

なのはさんの合図の直後にあたしとエリオは突撃開始。ギン姉は「スバルは私が!」そう言って、こちらの狙い通りに1対1を仕掛けて来てくれた。

「ギン姉! あたしがどれだけ強くなったか、見せてあげる!」

「ええ!」

右前腕の装着されてる“リボルバーナックル”のカートリッジをロードして、ナックルスピナーを高速回転させる。だけどギン姉は左腕に装着してる“リボルバーナックル”のカートリッジはロードしないまま。

「おおおおおおおおッ!」

――リボルバーキャノン――

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

――ナックルバンカー――

お互いに攻撃範囲に入ったことで、あたし達は同時に“リボルバーナックル”を繰り出した。

†††Sideスバル⇒キャロ†††

「我が乞うは、疾風の翼と清銀の盾。若き槍騎士に、駆け抜ける力と城砦の守りを。ダブルブースト・アクセラレイション&ディフェンスゲイン!」

エリオ君の機動力と防御力を底上げする。アリサさんはミッド式の魔導師でありながらベルカ式の騎士のような戦い方をする。フェイトさんやアリシアさんに保護してもらって、アルフと一緒に遊園地とか動物園とか遊びに連れて行ってもらってた頃、大切な親友――チーム海鳴の話とか聞かせてもらってたし、私たちフォワードは2ヵ月前の海上戦闘の記録データも観たから知ってる。

「(魔力出力の制限があっても、根柢の強さは変わらない。でもだからと言って初めから諦めたくない・・・!)ティアさん!」

――ブーストアップ・バレットパワー――

さらにティアさんの射撃魔法の威力を強化。エリオ君とティアさんからの「ありがとう、キャロ!」を受け取って、私は同じフルバック(熟練度で言えば目も当てられないけど)のすずかさんを見る。

――ソニックムーブ――

「クロスファイア・・・シューット!」

エリオ君の突撃とティアさんの制圧射撃を、「よっしゃ、来なさい!」アリサさんは真っ向から受け切るつもりみたいで堂々とデバイス・“フレイムアイズ”を構えて・・・

「せぇぇーーーい!」

――フレイムウィップ――

“フレイムアイズ”から伸びる炎の鞭でティアさんの射撃魔法を迎撃して、10発の魔力弾をすべて斬り払った。そしてエリオ君は、「おわっ!?」なんとアリサさんに脚を引っ掛けられてすっ転んじゃった。でもエリオ君は地面に叩き付けられる前に前転することで衝撃を殺して、「・・・く!」今度は高速移動魔法を使わず、その足でアリサさんの元へ駆け寄ってく。

「ストラーダ!」

――スピーアシュナイデン――

エリオ君の魔力付加斬撃。初めの頃はカートリッジロードと魔法陣を展開しての魔力チャージが必要だったけど、今ではカートリッジ1発だけで発動できるようになった。エリオ君は魔力を纏った“ストラーダ”を振るって、アリサさんへ斬撃や突き攻撃を繰り出し続ける。

「へえ。結構やるじゃない。さすがは幼いながらも騎士というわけね。大した槍捌きだわ」

「ありがとうございます! あ、でもキャロからのブーストのおかげもあるので!」

涼しい顔で“ストラーダ”を弾き続けるアリサさんが、猛攻を繰り返してるエリオ君を褒めた。そんな中で、『キャロ! 錬鉄召喚スタンバイ! ターゲットはアリサさん!』ティアさんから指示が入った。

「『了解です!』・・・我が求めるは、戒める物、捕らえる物。言の葉に答えよ、鋼鉄の縛鎖・・・」

いつでも発動できるように詠唱完了。ティアさんはエリオ君に当たらないように魔力弾を撃ち続けて援護。そしてアリサさんは、エリオ君の刺突を半歩分だけ体を反らして躱した後、空いてる左手でエリオ君の胸倉を掴んで、「わわっ?」ポイッと放り捨てた。直後にティアさんの魔力弾を“フレイムアイズ”の斬撃で対処。

『今よ!』

「錬鉄召喚! アルケミックチェーン!」

ティアさんの合図に従って即座に発動。魔力弾の対処中のアリサさんの足元に展開された魔法陣から8本の鎖を召喚して、アリサさんを捕らえようとした瞬間・・・

「おっと。アリサちゃんの邪魔をしちゃダメだよ♪」

――シュートバレット――

「え・・・?」「んな・・・!?」

鎖が8発の魔力弾で弾かれちゃった。アリサさんは「ナイスタイミングよ、すずか!」すずかさんの方を見ずにお礼を言って、「私が何もしないと思ったら、大間違いだよ♪」すずかさんは私たちにウィンク。

『エリオ。アリサさんの足止め、何秒くらい出来る?』

『えっと・・・持って5秒くらいでしょうか。手加減してもらってそれなので、もしかするともっと短いかもしれません』

『スバルは・・・、期待できそうにないわね・・・』

スバルさんとギンガさんは、お互いにウイングロードを発動していて空中戦を繰り広げてた。たぶん、こっちの戦闘には参加できないと思う。だから私たち3人で、アリサさんとすずかさんをどうにかしないと。

『すずかさんも同時に攻略するしかないのよね・・・。しょうがない。あたしがアリサさんを足止めするから、その間にエリオとキャロはすずかさんを無力化して』

『え!? そんな無茶な――』

『最後まで聴いて。真っ正直に騎士相手に騎士をぶつけるのが間違ってるのよ。搦め手で攻めれば、少しは持つだろうしね』

確かにティアさんなら、と思う反面、『一応アリサさんも射砲撃を使えますけど・・・』そっちの心配もある。剣型のアームドデバイスを使って騎士みたいな戦いをしても、アリサさんはミッド式の魔導師。海上戦闘で見せた火炎射撃と砲撃は、射程は短くてもすごい威力だった。

『望むところよ。キャロ。あたしにも防御力とスピードのブーストをお願い』

「『あ、はい!』我が乞うは、疾風の翼と清銀の盾。若き槍騎士に、駆け抜ける力と城砦の守りを。ダブルブースト・アクセラレイション&ディフェンスゲイン!」

『ありがと。じゃあ、すずかさんのことは頼むわよ』

――クロスファイアシュート――

ブーストを掛けたティアさんは、10発の魔力弾をアリサさんに撃ち込みながら林の奥へと掛けて行った。シールドで魔力弾を防御したアリサさんは私とエリオ君をチラッと見て、「すずか。こっちは任せたわよ」すずかさんにそう言ってティアさんを追って行った。

「う~ん、2対1か~。ちょっと厳しいかもだけど、精いっぱい頑張るよ♪」

「ストラーダ、フォルムツヴァイ・デューゼンフォルム!」

カートリッジをロードした“ストラーダ”が変形する。石突のところに1つ、穂の両側に2つずつの計4つ、ブースターが追加された。そして「行きます!」ブースターを添加したエリオ君がすずかさんへと一直線に突撃して行った。

「おいで、受け止めてあげる!」

すずかさんの周囲に魔力スフィアが4基と展開されたから、「させません!」私も魔力スフィアを2基と展開。

――フローズンバレット――

――シューティング・レイ――

エリオ君に向かって放たれた魔力弾を私の魔力弾で迎撃した。すぐに新しい魔力弾をスタンバイ。そしてエリオ君はすずかさんの元に辿り着いたんだけど、すずかさんはピョンっと横移動してエリオ君の突撃を躱した。

「ライトブースター!」

“ストラーダ”の穂にある右側のブースターだけが点火を続行して、エリオ君はその場で急速旋回。“ストラーダ”の穂がすずかさんに当たるかどうかって言うところで、「おっと」すずかさんはギリギリ後退して避けたけど・・・

「まだです!」

――スピーアアングリフ――

エリオ君は足を地面に付けることなく、穂の後部に付いてるヘッドブースターと、石突部分のリアブースターを再点火して追撃。すずかさんは「っ・・・!」咄嗟にラウンドシールドを展開して防御。

「キャロ!」

「うんっ!」

――シューティング・レイ――

エリオ君の一撃を防いでる最中のすずかさんに向かって4発の魔力弾を撃ち込む。着弾時に爆発を起こして、すずかさんの姿が砂煙に呑まれた。反撃や追撃に備えて、もう一度射撃魔法をスタンバイ。エリオ君もカートリッジの排莢や装填をしてる。

「けほっ、けほっ。あいたた。すごいね~。新人さんだって聞いていたけど、もう軽く武装隊員と並んでるね。4ヵ月ちょっとでここまで強くなれたのは、あなた達の頑張りと、なのはちゃん達の教導の賜物だ」

砂煙の中からすずかさんが出て来た。私とエリオ君は「槍・・・!?」すずかさんが手にしてる物を見て驚いた。フェイトさん達から聞いたことない槍型に変形してるデバイスを、すずかさんは持ってた。

「ちょこっと本気を見せちゃおうかな♪ 手加減しないで良いよ、って言われたし。さぁ、エリオ、キャロ。同じ槍使い同士、ブースト魔法使い同士・・・やろうか」

――フローズンバレット――

「「っ!」」

そう言ってすずかさんは、私とエリオ君に魔力弾を4発ずつ放って来て、すずかさん自体もエリオ君へと向かって突撃した。

†††Sideすずか⇒ティアナ†††

「「「「ありがとうございました!」」」」

午前の訓練を何とか乗り越え、あたし達はなのはさん達に一礼。そして解散となって、あたし達は着替えるために寮へと向かう。その最中にあたしは「まだチリチリする・・・」腕の肌をスッと撫でる。

「魔法とは言え焼かれる経験は、ちょっとしてトラウマになるわよ・・・」

アリサさんと1対1で戦ったんだけど、まぁ搦め手云々なんて問題じゃなかったわよ。隠れての幻術包囲からの制圧射撃も、火炎斬撃や高速回避なんかで対処されて。魔力出力が制限されていても、それまで過ごしてきた経験が違い過ぎた。

「すずかさんも、なのはさん達にすら秘密だったデバイス形態を見せてきて、もうコテンパンにされてしまいました」

「まさか槍も使うなんて予想外です」

エリオとキャロも、すずかさんに完全敗北したみたい。スバルはと言うと、「あたしは惜しかったかな~、なんて?」って、ギンガさんの方を見た。

「そうね。本当に強くなったわ、スバル」

「えへへ~♪」

「でも。まだまだ粗いわよ、スバル。私が六課に居る間、徹底的に鍛えてあげるから覚悟しなさい♪ って、私も偉そうに言えないけどね。私も、なのはさん達に鍛えてもらう立場だし」

そう言ったギンガさんが頬を上気させる。すごく解るから心の中でうんうん頷いて同意する。なのはさんやヴィータ副隊長からの教導や、隊長陣とのガチ戦闘で経験を積めるのは正直すごい幸運だし。

「そうだな~。ギンガもまだまだ伸びそうだし。クイント准陸尉を取り戻すまでは、あたし達がお前ら2人を鍛えてやるよ」

ヴィータ副隊長にバシッと背中を叩かれたスバルとギンガさんは、「はいっ!」若干涙を浮かべながらも返事した。そしてあたし達は寮の前まで来たんだけど、そこには・・・

「あ・・・! アリシアさん・・・!」

あたしの所為で骨折、さらに入院してたアリシアさんが居た。それにフェイトさんも一緒。エリオとキャロが「おかえりなさ~い!」アリシアさんの元へ駆け出した。あたしも遅れて、「あの、おかえりなさい!」アリシアさんの元に駆け寄って一礼した。

「うん、ただいま~。退院予定日からちょこっと遅くなったけど、アリシア・テスタロッサ・ハラオウン執務官補。本日より職務に復帰します♪ アリサ、すずか、ギンガもよろしく!」

「ええ」「うん!」「はい!」

「でも、どうしてこんなに退院が遅れたんだ? リハビリは順調に行ってたんだろ?」

ヴィータ副隊長がそう訊くと、「あ、はは・・・いや~」アリシアさんは明後日の方を向いて苦笑。

「入院中は食っちゃ寝してたから太っちゃったんだって。だから体重を落として元のスタイルに戻るためにダイエットを――」

「にゃぁぁぁぁ! 内緒だって言ったじゃん、フェイト!」

予定日を過ぎての退院の理由を喋ったフェイトさんとポカポカ叩くアリシアさん。同じ女の子としてはまぁ理解できるからしょうがないわよね、うん。そしてあたし達は戻って来てくれたアリシアさんと一緒にエントランスを潜る。

「なのはママ、フェイトママ!」

ロビーの一角にある休憩スペースに居たヴィヴィオが満面の笑みを浮かべて駆け寄って来て、なのはさんが「お待たせ~。お昼ご飯にしようか」ヴィヴィオを抱き上げた。すずかさんとアリサさんがなのはさん達の元に歩み寄って・・・

「この子がヴィヴィオちゃんなんだね。はじめまして、ヴィヴィオちゃん。なのはちゃんとフェイトちゃんの友達で、すずかって言います♪」

「あたしはアリサよ。よろしくね、ヴィヴィオ」

「でねでね。あたしのお姉ちゃんの・・・」

「ギンガです! よろしくお願いします!」

「よ、よろしくおねがいします!」

それぞれ自己紹介。ギンガさんの敬礼に倣ってヴィヴィオも敬礼返しすると、「可愛い♪」すずかさんがメロメロ。ほのぼのした雰囲気の中、「ん? ヴィヴィオ。何を見てたの?」フェイトさんがそう訊いた。ヴィヴィオがさっきまで座ってたテーブルを見ると、モニターが1枚と展開されてた。

「えっとね、フェイトママ。なのはママとフェイトママの・・・きょーざいよービデオ?を見てたの!」

とのことで、実際にモニターを見るとなのはさんとフェイトさんの航空機動データが流れてた。ホントに洗練されてて、思わず見惚れちゃうわね。

「なのはママとフェイトママ、どっちがつよいの?」

ヴィヴィオが突然そんなことを訊いた。なのはさんとフェイトさんはお互いを見合わせて小さく苦笑した後、「同じくらいかな~」そう答えた。それからあたし達やギンガさん、すずかさんとアリサさんは、訓練で掻いた汗をシャワー室で流す。

「ギンガ、あたしは先に行ってるわね。はやてやルシルと顔合わせしないといけないから」

「私もお先に行くね~♪ ティアナ達はゆっくりでいいから~」

「「「「はい! お疲れ様でした!」」」」

これから八神部隊長とルシルさんに挨拶をするとのことで、すずかさんとアリサさんはササっとシャワーを済ませて行った。お言葉に甘えてゆっくりと汗を流した後は制服に着替えて、更衣室から出てエリオと合流。

「シャワー中ずっと考えてたんだけど、なのはさんとフェイトさん、どっちが強いんだろうね~」

スバルがそう漏らしたから、「2人が言ってたように同じくらいなんじゃないの?」って、あたしは心にも無いことを言う。だから「本音は?」スバルがニヤニヤとあたしの顔を覗き込んできた。

「そうね~。なのはさんじゃない?」

「だよね! 航空戦技教導隊の教導官で、10年と飛び続けた歴戦の勇士だし!」

「負傷のブランクで1年ほど飛んでないけど、エースオブエースは伊達じゃないでしょ」

あたしとスバルは同意見で、あたし達の分隊長であるなのはさんを推す。でも・・・

「いえ! フェイトさんだって負けてませんよ! フェイトさんだって手荒な現場でも陣頭に立って解決してきた一線級の魔導師なんですし!」

「魔導師ランクも、なのはさんと同じ空戦S+ですよ!」

エリオとキャロは、2人の分隊長であるフェイトさんを推した。それを苦笑いして眺めてたギンガさんにスバル達は詰め寄って・・・

「ギン姉はどう思う!?」「「ギンガさんはどっちと思いますか!?」」

そう訊ねた。ギンガさんは「あ、あー、えっと~・・・」顔を引き攣らせてあたしの方を見てきたから、「何かしら答えた方が良いかと・・・」あたしも苦笑して返す。

「・・・同じ?」

ギンガさんが当たり障りのない答えを出した。まぁスバル達は納得していないようだから「というかさ、六課の誰が一番なのかしらね」話を逸らすために、八神部隊長たちも巻き込むことにした。すると「そ、そうね! 誰が一番強いんだろう!」ギンガさんも乗ってくれた。

「あ、そうなると気になるね・・・。ヴィータ副隊長もシグナム副隊長も強いし・・・」

「八神部隊長もSSランクですし・・・」

「アリサさんやすずかさんも入れると、どうなっちゃうんでしょう・・・?」

話題逸らしのために振った話だったけど、「確かに気になるわ・・・」あたしも本気で気になってきた。というわけで・・・

「え? 私らの中で一番強いのは誰かって・・・?」

受け取りカウンターからそれぞれ昼食のトレイを持ってテーブルに着き、すでに食堂に集まってた八神部隊長たちに意を決して訊いてみた。あたし達の知ってる隊長たちの実力なんてほんの僅かだろうし、直に訊くしかない。
八神部隊長たちは顔を見合わせて一斉に「セインテスト調査官」受け取りカウンターで丼の乗ってるトレイを受け取ってるルシルさんを見た。ルシルさんは側に居るフォルセティに微笑みかけて、フォルセティも微笑み返し。そんな2人を見てさらに微笑むアイリさんとすずかさん。すっごいほのぼのしてる。

「あの、さすがにセインテスト調査官は反則と言うか・・・入れるべきじゃないと言うか・・・」

「そうか? まぁそうやな。・・・そうやったら私以外かな~。私はホンマに弱いよ。そやから空戦やなくて総合やしな」

「でも、総合とは言ってもSSとなると、やっぱり単純に考えても魔力はすごいんじゃ・・・」

「う~ん、魔力が大きいからこそ高速運用が出来ひんし、並列処理も苦手なんよ。どうしても大魔力やと衝突するからな。そやから私は戦闘時、立ち止まっての展開からの発射~ってゆう固定砲台役に徹してる。後方支援専門に適性の低い殴り合いスキルなんて無用やし、鍛えたところで意味無いしな」

「えっと・・・セインテスト調査官は衝突してないように見えますけど・・・」

「そうやね、キャロ。けど衝突するんが、ふ・つ・う、なんよ。セインテスト調査官は普通やない、うん! 私も魔導騎士なんて言われてるけど、実際ホンマもんの魔導騎士は、セインテスト調査官のようなオールレンジの騎士のことを指すんやろね」

八神部隊長はそう言って嘆息した。ここで「お待たせ~!」アイリさんとすずかさん、そしてルシルさんとフォルセティがテーブルに着いた。すずかさんに「なんの話をしてるの?」そう訊かれて、あたしは「六課隊長陣+すずかさんとアリサさんの中で最強は誰なんでしょう?と・・・」そう答えた。

「最強か~。私じゃないのは確かかな~。今挙げられたメンバーの中だと最弱かも」

「うっそや~。すずかちゃん、絶対に私より強いわ~。すずかちゃん、支援専門とか言うて近接も十分強いし。ほら、中学の卒業式の後、お祝いに集団戦やったやろ。あの時、すずかちゃん、自分にブースト魔法を重ね掛けして無双してたやん」

「思い出した。それであたし負けたわ」

「わたしなんか真っ先だったし・・・」

「あたしもだ・・・」

「「私も・・・」」

アリサさん、アリシアさん、ヴィータ副隊長、さらにはなのはさんとフェイトさんまでがすずかさんに負けたとのこと。それに対してすずかさんは「もう4年も前だし、さすがに現在だともう勝てないよ」そう言って笑うだけだった。

「えっと、ヴィータ副隊長はどうですか?」

「誰が一番か?ってか。強さと言ってもいろんなもんがあるんだろ」

「じゃあ平均的な強さと言いますか・・・」

「なんだそりゃ。そんなん戦闘時の状況、相手との相性によって左右される。そんな状況下での、お前の言う平均的な強さつうのは要は何でも屋だ。マルチスキルは所詮、対応力と生存力を上げるもんで、直接的な繋がらねぇぞ。つうわけで、1人の人間が出来ることは1つだけだ。そいつが通用しないと強さにはなんねぇよ。なあ、シグナム」

「ああ。それに我々の実力は伯仲していて、トーナメント形式で戦えば、ルールによるだろうがその都度に優勝者は変わるだろう。ゆえに誰が一番強いのか?という問いの答えは、判らない、だ」

それがヴィータ副隊長とシグナム副隊長の答えだった。今度はキャロが「アリサさんはどう考えますか?」って訊く。

「え、あたし? 正直な話、あたしは最強じゃないわね。最強ってことなんだから陸戦・空戦含めてってことでしょ? あたしも空戦は出来るけど、射程じゃなのはに及ばないし、機動力じゃフェイトに及ばない。だから空戦じゃ弱い。陸戦限定でなら、なのはとフェイトを相手にまぁなんとか勝率6割くらいじゃない?」

アリサさんの答えはそれ。空戦じゃ勝てないけど陸戦なら勝つことも出来る。ヴィータ副隊長たちと同じ考え方ね。

「ねえ、なのは。あの話をしてみたら?」

ここでフェイトさんがなのはさんにそう言って、「あー、うん。そうだね」なのはさんは頷いた。

「みんなはこんな問題を聞いたことないかな。自分より強い相手には勝つためには、自分の方が相手より強くないといけない」

なのはさんの話にあたし達は顔を見合わせて「いいえ」首を横に振った。そもそもそんな矛盾を抱えた問題、成立するわけがない。

「じゃあ問題を出そうか。なのはの話の矛盾と、その意味をよく考えて答えなさい」

フェイトさんからそんな問題が出された。なのはさんの話を思い返してみるけど言葉遊びのような気がしてならない。あたしとスバル、エリオとキャロは昼食を前にうんうん唸り出した。

†††Sideティアナ⇒エリオ†††

六課隊長陣、そして今日から出向してくれることになったアリサさんとすずかさんの中で、誰が一番強いのか。そんな疑問が生まれた僕たちフォワードは、その答えを知るべく直にフェイトさん達に訊いてみた。

(自分より強い相手には勝つためには、自分の方が相手より強くないといけない・・・)

なのはさんから聞いたこの話の矛盾とその意味を答えよ、って問題が出された僕たちは必死に考えを巡らせるんだけど、さっぱり解らない。

「やっぱり訓練を重ねて、相手より強くなれば良いんじゃないでしょうか」

とりあえずパッと考えついた答えを言ってみた。

「あの、エリオ君。それだと自分より弱い相手に勝っちゃってることになるかな・・・」

「あ・・・!」

キャロからそう言われてハッとした。ティアさんからも「そもそも特訓や訓練で簡単に強くなれたら苦労しないわよ」叱られた。う~ん、考えれば考えるほどにドツボに嵌りそう。

「ん? ギンガはなんか納得してない感じね。何か言い分ある?」

「うえ!? いえ、そんな言い分なんて・・・!」

俯いて少し眉を顰めてたギンガさんの様子に、アリサさんが話を振った。ギンガさんは両手をわたわた振って否定するけど、「ん~?」アリサさんがジト~っと見るから、「昔、母が・・・」ギンガさんはそう前置き。

「打撃系のスタイルは、刹那の隙に必倒の一撃を相手に叩き込んで瞬時に終わらせる。そう言っていたんです。ここからは私個人の考えですが、必要なのは魔力出力・射程・速度・防御能力、自分と相手の個人戦力差、そういったもの全て関係なく、狙うのはただ相手の急所への正確無比な一撃のみ、と」

「なるほど。クイント准陸尉とギンガの意見も1つの答えだ。彼我の強さと弱さに捕らわれ、戦いの本質を見失っては本末転倒だ。己の強さを驕るのはさらに愚かしい」

「だな。的確な攻撃で一撃必倒。エリオ、お前の騎士の端くれだ。戦いに臨むならその結果は勝利のみ。騎士の一撃はそのためにある。忘れんなよ」

シグナム副隊長とヴィータ副隊長から肯定の意見を貰ったギンガさんは「ホッ・・・」と一安心したみたい。そして僕は「はいっ!」ヴィータ副隊長の言葉に力強く応えた。でもフェイトさんとなのはさんからの問題の答えには辿り着けてない。
その後は、フェイトさん達は談笑して、僕たちはうんうん唸り続けた。そして昼食ももう終盤になったところで・・・

「あ・・・!」

キャロが声を上げた。視線が一斉にキャロへと向けられる。僕もキャロを見て、「何か判った?」って訊いてみた。

「たぶんなんだけど・・・。もしかして、私たちの質問の仕方が悪かったんじゃないかな、って。誰が一番強いんじゃなくて・・・」

「あ、なるほど! そういうことなんだ」

「「???」」

キャロに続いてティアさんも何か解ったみたいなんだけど、僕とスバルさんは小首を傾げるばかり。するとティアさんはスバルさんに耳打ちして、「エリオ君」キャロが僕に耳打ちしてくれた。なんで念話じゃないのか判らないけど、これはこれで良いかも。

「あ、そういうことなんだ」

キャロから聞いた話に納得した。そして僕たちはまず「八神部隊長が、なのはさんやフェイトさん達に勝つ方法ってなんですか?」って、最弱だって自分を評した八神部隊長に訊いてみた。

「ん? ガチンコ以外の広域戦限定なら、少なくとも負けは無いからな。それを念頭に戦うよ」

「はいです! 最大射程と効果範囲は、反則級戦力のセインテスト調査官含めたチーム海鳴一ですからね!」

「あとは集団戦やな。特にチーム八神としての戦闘なら、どんな相手が来ても負けへん自信があるよ」

「無敵です!」

八神部隊長は誇らしそうに笑って、リイン曹長はえっへんと胸を張った。これがなのはさんの問題の答えなんだ、きっと。アリサさん、それに八神部隊長がすでにヒントを教えてくれてた。

――あたしも空戦は出来るけど、射程じゃなのはに及ばないし、機動力じゃフェイトに及ばない。だから空戦じゃ弱い。でも陸戦限定でなら、まぁなんとか勝率6割くらいじゃない?――

――すずかちゃん、自分にブースト魔法を重ね掛けして無双してたやん――

「自分より総合力で勝ってる相手に勝つためには、自分が持っている相手より勝っている部分で勝負する」

「そのために、自分の一番強い部分を磨き上げて、そしてソレを武器に、誰にも負けないって自信と気概で戦いに臨む」

「チームメンバーそれぞれが誇れる強さを持ち寄れば、もっと万全な強さに近くなる」

「ですからなのはさんの言葉は、正しくもありますけど間違ってもいる、と・・・」

――自分より強い相手には勝つためには、自分の方が相手より強くないといけない――

正しいのは、ティアさんの言う相手の総合力による強さと、自分の突出した強さでの勝敗。これなら矛盾を回避できる。現にアリサさんは得意の陸戦で、すずかさんもブースト魔法っていう突出した強みで、実力的に上らしいフェイトさん達に勝ててる。間違っているのは、なのはさんのあの話の内容のイジワルさ。大事な部分が抜けているから矛盾に悩むことになる。

「「「「どうでしょうか・・・?」」」」

黙って聴いてくれてたフェイトさんとなのはさんに正否を問う。

「どうかな? なのは教導官?」

「うん。じゃ、正解かどうかはこれからの実地で確かめて行こうか♪」

「「「「え・・・?」」」」

そう言ってなのはさんはニッコリ笑った。スバルさんが「正解は教えてくれないんですか?」って訊くと・・・

「んん~? 素直に答えを教えてくれると思うのはどうかな~♪ 明日が楽しみだね~♪」

なのはさんは鼻歌交じりにそう言った。そのご機嫌さがちょっと怖いと言うか、不安にさせられると言うか。明日、僕は無事に訓練を終えられるのかな・・・。ちなみに「セインテスト調査官の倒し方?」もあるかどうかを訊いてみた。

「あるよ。スバルとティアナとキャロ、あとエリオもギリギリ行けるかな」

「「「あるんですか!?」」」

「僕はギリギリ・・・?」

「・・・最強の武器、泣き落としや!」

「「「「・・・・」」」」

八神部隊長直伝のルシルさん攻略法に僕たちは言葉を失った。そして若干肩を落としてるルシルさんを見て、僕はなんだか胸の奥がキュッと苦しくなった。まだ幼い僕には判らない、男としての最大の弱点に負けるルシルさんにちょっと同情。

 
 

 
後書き
ドヴロ・ユトロ。 ボーク。 ドーブロ・ヴェーチェ。
今話はコミック版STRIKERSの2巻に掲載されていた、強さの意味、をお送りしました。
読解力の足りない私なりに描いたんですけど、間違っているポイントの答えってこれで合ってるでしょうかね? そういう意味じゃねぇよ?ということでしたら、どうぞコメントにて叱咤してくださいませ。 
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