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セントバーナード

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第五章

「本当に盗もうとしたらです」
「その時に犬に吠えられて」
「逃げたとのことです」
「では」
 そう聞いてだ、ハンスは事情を理解した、そのうえで警官に言ったのだった。
「うちの犬が吠えて」
「そちらのお家では犬を飼ってるんですか」
「はい」
 そうだとだ、ハンスは警官に答えた。
「小屋の中でセントバーナードを」
「おそらくそれですね」
「小屋の中から泥棒に吠えて」
「泥棒がそれに驚いたんです」
「それで逃げたんですか」
「おそらく泥棒は犬をいないと思っていたのでしょう」
 ハンスの家にはというのだ。
「小屋の中にいて見えませんでしたし」
「だからですか」
「予想していない出来事には誰でも驚きます」
 人もというのだ。
「犬の声でも」
「それはわかりますが」
「泥棒はかえって小心なものです」
「犬に吠えられて逃げますか」
「悪いことをこっそりするものなので」 
 泥棒という行為自体がそうだというのだ。
「ですから」
「うちの犬の声に驚いて逃げて」
「捕まったのでしょう」
「成程、そうですか」
「はい、しかし犬を飼われているとはです」
 警官はハンスに確かな声で言った。
「いいことですね」
「防犯にも」
「吠えてその存在を知らしめるだけで違いますから」
「そうですか」
「いいことです、何よりも盗難に合わなかったので」
「はい、幸いですね」
「犬はいい生きものです」
 警官はにこりと笑ってこうも言った。
「防犯の意味でも」
「本当にそうですね」
「ではお宅のワンちゃんに感謝して下さい」
「そうさせてもらいます」
 ハンスは警官ににこりと笑って答えた、そしてだった。
 警官が帰った後でだった、ハンスはヨハンナに笑顔で言ったのだった。
「まさかな」
「ええ、ダイアが吠えてね」
「泥棒を追い返すとかな」
「犬は確かにそれがお仕事だけれど」
「ダイアがそうしてくれるなんてな」
「思わなかったわね」
「ああ、そっちでも役に立ってくれるなんてな」
 まさにと言うのだった。
「いい娘だ」
「本当にそうよね」
「ダイアはうちの守護天使だな」
 犬だがそれでもというのだ。
「家を和やかにしてくれて家族を笑顔にしてくれて」
「そして守ってもくれる」
「本当に守護天使だな」
「そうね、お家に入れてよかったわ」
「犬はいい生きものだ」
 ハンスも言ったのだった。
「ダイアはこれからも大事にしていこうな」
「可愛がっていきましょう」
「是非共な」
「じゃあ今日はね」
 ヨハンナはハンスに笑顔でこうも言ったのだった。
「フリッツが帰ったらね」
「三人で散歩に行くか」
「アルバイトの子が来るから」
「あの子にお店を任せてな」
「散歩に行くか」
「そうしましょう」
 二人で笑顔で話した、そしてだった。
 この日の夕方は一家三人で散歩を楽しんだ、ダイアはその散歩中にまた小犬に吠えられて泣きそうな顔になり逃げただ。
 家族はそんな彼女を優しく暖かい笑顔で見ていた、そしてダイアもその彼等を逃げてから振り返った。その目はつぶらで可愛らしいものだった。


セントバーナード   完


                           2016・7・19 
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