クローンといえど
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第一章
クローンといえど
アルツール=ノイマン博士はクローン医学の権威である、医学者そして科学者の才能は天才と言っていいが人格は狂気スレスレだと言われている。
そして博士自身もだ、助手である日本から来た若い医師山村始に笑ってこう言っていた。
「わしは俗に言うマッドサイエンティストだ」
「自分で言いますか」
「ははは、小説や漫画で出て来るそれだな」
食事の時の言葉だ、博士はウルスト、つまりソーセージを茹でたものとザワークラフトそれに黒パンとジャガイモを食べつ山村に言う。銀髪をオールバックにした面長で皺の目立つ顔だ。背は高く一九〇近い。山村は黒髪を清潔に七三分にしている眼鏡の青年だ。背は一七五位ですらりとしている。二人共白衣にスーツだがノイマンは真っ赤なスーツで、山村は黒だ。
そのノイマンは山村にだ、こう言ったのだ。
「わしは」
「そう呼ばれて楽しいですか」
「結構な呼び名だ」
また自分で言った。
「わしはな」
「そうですか」
「あれだな、とんでもない人間のクローンを増やしてな」
「世を乱すとか」
「面白いな、ではな」
博士は今度はザワークラフトを食べつつ言った、飲みものはビールだ。
「実際にやってみるか」
「本当にやられるんですか」
「試しにヒトラーのクローンを作るか」
ドイツ人であるがあえてこう言った。
「ここは」
「あの、ヒトラーって」
「うむ、アドルフ=ヒトラーじゃ」
まさにその彼をというのだ。
「彼のクローンをな」
「大量にですか」
「造ってみるか、あとな」
「あとは?」
「スターリンとかな」
ヒトラーと並び称されているもう一人の悪名高い独裁者もというのだ。
「ムッソリーニもいいな」
「その連中のクローンなんて造ったら」
それこそとだ、山村は博士に真面目な顔で返した。
「大変ですよ」
「政権に就いてか」
「はい、またああした独裁政治をしてです」
そのうえでとだ、山村は博士にさらに話した。
「戦争したり粛清や虐殺したり」
「歴史にあった通りになるか」
「ムッソリーニは戦争だけでしたけれど」
しかも負けて負けて負け続けた、だからムッソリーニは先の二人程評判は悪くない。もっと言えばファシストであり戦争で毒ガスも使ったが粛清もしていないし極端な虐殺もしていない。
「先の二人はそれこそ」
「歴史にあるな」
「とんでもないことになりますよ」
そうした連中のクローンを造ればというのだ。
「本気ですか」
「本気だ」
これが博士の返事だった。
「思いつきにしても」
「博士の思いつきは本気でしたね」
「そうだ、閃きだからな」
博士はこう思っているのだ、自分の思いつきは神から与えられた閃きだと考えていてそのうえで研究を行っているのだ。
「やってみよう」
「全く、それじゃあ」
「今からな」
「ヒトラーやスターリンのクローンを生み出す」
「そうするぞ」
「言っても聞かないですし」
山村は博士のこの気質も知っていた、ベルリン大学教授として博士は多くの業績を残している。だが彼は助手として博士のその面も知っている。
だからだ、ここは諦めてこう言ったのだ。
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