真田十勇士
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巻ノ六十二 小田原開城その九
「正論は常に正論でありな」
「何時何処で言ってもいい」
「そう考えておられますな」
「桂松殿と違い」
「そしてそれが、ですな」
「悪いところですな」
「全くじゃ、わしはじゃ」
秀長はというと。
「これでも時と場所を考えておる」
「そのうえで、ですな」
「関白様にも申し上げていますな」
「それも言葉を選んで」
「遠慮もしつつ」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「そうしてじゃ」
「話を聞いてもらっている」
「そうしていますな」
「殿の場合は」
「左様ですな」
「さもないとじゃ」
例え兄弟であってもというのだ。
「話は聞いてもらえぬしじゃ」
「かえって、ですな」
「反感を買う」
「そうなってしまいますな」
「そうじゃ、しかしじゃ」
石田はというのだ。
「あ奴はそこがわかっておらぬのじゃ」
「正論は何処でも通じる」
「そう考えていて」
「どうしてもですな」
「押し通すのですな」
「一本気過ぎるのじゃ」
それが石田の困ったところだというのだ。
「あれではな」
「関白様に言っておいても」
「関白様も聞けぬ」
「そうなりますか」
「そうじゃ、桂松も言うことは言うが」
しかしというのだ。
「あ奴は言葉よりもじゃ」
「行動ですな」
「あの御仁はそうですな」
「言葉よりもです」
「そちらの方ですな」
「うむ」
その通りだというのだ。
「そうした者じゃ」
「では佐吉殿ですか」
「関白様に言われるのが」
「ご気質でもお立場でも」
「そうなりますか」
「難しいやもな」
石田の気質を考えてだ、秀長は言った。
「やはりあ奴では」
「では関白様にお話出来る者は、ですか」
「殿以外にはおられぬ」
「これからもそうですか」
「そうであれば」
若し石田や大谷が止められなければというのだ、秀長が危惧している様に。
「羽柴家は危ういやもな」
「ではやはりです」
「殿は長生きされるべきです」
「養生の薬を飲まれて」
「湯治にも行かれて」
「兄上にも勧められてそうしておるが」
薬を飲み湯に入っているというのだ。
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