真田十勇士
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巻ノ六十二 小田原開城その八
「最早な」
「左様ですか」
「後は、ですか」
「お二方ですか」
「関白様を支えられるのは」
「それにじゃ」
さらに言う秀長だった。
「利休殿もじゃが」
「しかしです」
「近頃関白様は利休殿を疎んじておられます」
「今は殿がとりなしていますが」
「ですが」
「わしがいなくなれば」
利休はどうなるかとだ、秀長はあえて言った。
「兄上は利休殿を」
「まさかと思いますが」
「そうなるやも知れませぬか」
「関白様が利休殿を」
「その様に」
「わしがいればな」
秀長は自分でまた言った。
「兄上は止まるが」
「しかし殿がいなければ」
「関白様は、ですか」
「止める者がいなくなり」
「それで」
「最悪のことも考えられる」
またあえて言った秀長だった。
「だからじゃ」
「佐吉殿と桂松殿」
「お二方に、ですか」
「羽柴家はかかっている」
「そうですか」
「うむ、徳川殿は関東にやった」
このことについても言及した秀長だった。
「大坂城の守りもあり富も蓄えておる」
「そうしたことは磐石にしました」
「それでは後は人ですな」
「悩みの種を遠ざけ守りを固め財もある」
「それならば」
「人じゃ」
まさにというのだ。
「人が大事じゃ」
「その人ですな」
「殿に何かあった時に関白様を止められる人」
「その人が必要ですか」
「家中にな」
秀長が憂いの満ちた顔のままで言った。
「必要じゃ、それではな」
「はい、では」
「これからのことも考えますと」
「佐吉殿と桂松殿」
「お二方が家の軸になりますか」
「特に佐吉じゃな」
石田、彼だというのだ。
「あの者は誰にも遠慮なく言う」
「関白様に対しても」
「あえてですな」
「誰も恐れず謹言を憚らぬ」
そうした意味での遠慮はしない男だというのだ。
「あの者のよいところでもあるが」
「悪いところでもありますな」
「誰にも時と場所を弁えず言いますから」
「関白様に対しても」
「そうされますから」
「うむ、それで敵も作るし兄上もじゃ」
謹言を受ける秀頼もというのだ。
「面と向かって遠慮なくしかも飾らずみきつく言われるとな」
「その通りに出来ぬ」
「佐吉殿の言われる様には」
「そうしたこともありますな」
「あ奴は頭がいいがそうしたことはわからぬ」
時と場所を弁えるということがだ。
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