幽雅に舞え!
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激昂のエメラルド
――津波が怒涛と化してサファイアとルビーを飲み込む。メガシンカしたヤミラミの守るに包まれてなお、激流に飲み込まれて視界がぐるぐると回った。しっかりとルビーの手を握り、離れないようにする。
どれくらい水の中で守られていただろうか、ほんの十秒ほどだった気もするし数分間だったかもしれない。ともかく水が引き、大分波打ち際に引き寄せられこそしたがサファイアたちは無事だった。
「ルビー、大丈夫か」
「なんとかね。ありがとう。どちらかといえば危ないのは彼の方だろう」
「エメラルドは無事なのか……?」
巻き込まれた側ではあるが、サファイアはエメラルドのことを心配していた。とにかく攻撃するスタイルの彼が自分のポケモンに守るのような防御技を覚えさせているとは思えなかったからだ。
心配して周囲を見回すと、彼は波打ち際からはるか先、街の方にまで逃げていた。ジュプトルが隣にいるあたり、恐らくは彼に自分を運ばせて津波の範囲外まで逃げようとしたのだろう。完全には逃げきれず、彼の体は濡れていたが。
「エメラルド!どうしたんだよ、一体……何があったんだ?」
大声でエメラルドに呼びかけるサファイア。だが彼はそれを無視して舌打ちし、踵を返した。ポケモンセンターのある方へ歩いていってしまう。
「……どうする?」
「どうするもこうするもない。追いかけよう。俺たちだってポケモンを回復させないといけない」
彼を追いかけて、サファイアたちはポケモンセンターに向かう。さっきの舌打ちの音が、妙に頭に響いて、市場のある華やかな街並みも頭に入ってこなかった。
ポケモンセンターに入ると、彼はポケモンを回復させたところらしくモンスターボールを受け取っていた。サファイアたちが来たことに気付くと、彼はまた舌打ちする。
「……んだよ、何ついてきてんだよ」
突き差すような物言いにはサファイアも少しむっときた。だがまだ抑える。せめてあんな暴挙に出た理由を聞きたかった。
「なんでって……俺たち一緒に旅してる仲間じゃないか。当たり前だろ?一体あのルファってやつとのバトルで何があったんだ?」
そう言えるのはサファイアの優しさゆえだろう。だがその態度が、今のエメラルドには腹立たしくてしょうがなかった。
「はっ、仲間だぁ?ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ。俺はてめえらを利用してただけだっつーの。そこの女は最初から分かってたみてえだが、てめえはまだ気づいてなかったとはとんだ間抜けだな!」
「利用って……どういうことなんだよ!」
「鈍いな、てめえらはあの博士の一味をおびき寄せるためのエサだっつってんだよ!そのためなら多少いちゃつこうが、俺様の足引っ張ろうが構わねえと思ってたが、もう我慢の限界だ!」
「!!」
自分たちを船に誘ったのはそんな理由があったのかと驚くサファイア。ルビーはまあわかってたとばかりに肩を竦めてみせる。
「あいつ……ルファとかいう野郎、俺様に対して明らかに手を抜きやがった!この俺様が、てめえらのせいで舐められたんだぞ!だからてめえらとは、もうこれまでだ!」
「なんで俺たちのせいなんだよ!」
その疑問には、ルビーが代わりに応える。
「エメラルド君は広範囲の攻撃が得意みたいだからね。本気を出すとどうしてもボクらを巻き込む危険があったんだろう。仲間として旅をするのを装う以上、それは出来ない。故に本気が出せなかった……そう言いたいのかな」
ああそうだよ、とエメラルドは吐き捨てる。そんな彼を、ルビーは嗤った。
「そしてそれは、ただの責任転嫁だよ。ボク達から船に乗せてくれるよう頼んだわけでもないしね。いわば――自業自得さ。責められる謂れはないね。はっきり言って、君には失望したよ。」
「チッ……」
エメラルドもそれはわかっているのだろう、露骨に舌打ちした。そしてサファイアたちを押しのけてポケモンセンターから出ようとした。
「とにかく、てめえらと旅をする理由はもうねえ。二度と俺様の前に面出すんじゃねえぞ……」
「待てよ!!」
だがそれを、サファイアは彼の胸ぐらを掴んで止めた。それはただ怒りをぶつけるための行為ではない。サファイアはまだエメラルドのことを一緒に旅した仲間だと思っているし、それを解消する気もなかった。
「だったら……だったら、一度俺とバトルしろ!」
「ああ……?なんで俺がんなことしなきゃいけねえんだよ」
「俺はバトルしてお前に勝つ。俺は、俺たちはお前が本気を出しても巻き込まれたりしない、大丈夫だってことを証明してやる!」
「……上等じゃねえかこの野郎!丁度むしゃくしゃしてたところだ。そのムカつく態度、メタメタのぎたぎたにへし折ってやらあ!!表に出ろ!」
お互いににらみ合い、今にも二人して外に出ていきそうなところを、ルビーが止めに入る。
「はいはい、熱くなるのもいいけれどまずはサファイア君のポケモンを回復させてからだよ。君たち、少し頭を冷やしたまえ。エメラルド君だって、弱った彼に勝ってもむしゃくしゃとやらは晴れないだろう?」
「……俺は先にあの砂浜で待ってる、てめえもポケモン治したらすぐに来い!ぶっ潰してやる!」
今度こそエメラルドはポケモンセンターから出ていく。ルビーはサファイアを見て、呆れたように言った。
「やれやれ。あんな自分勝手な子なんて、放っておけばいいんだよ?まあ、そういうところも嫌いじゃないけどね」
「……ごめん、迷惑かける。でも俺、エメラルドのことこのままほっとけない。なんだかあいつ……凄く焦ってた」
「それはわかるけどね……面倒だからバトルには参加しないけど、見守るだけ見守らせてもらうよ。大丈夫、自分の身は自分で守るから」
「ありがとう……さて、早くポケモンを回復させないとな」
いつもの調子のルビーと話して、頭が冷えていく。それが彼女なりのサファイアに対する協力なのだろう。それに感謝しつつ、サファイアはポケモンを回復させ、砂浜へと向かった――。
「はっ、逃げずにわざわざやられに来やがったか」
彼は開口一番、喧嘩腰で話しかけてくる。サファイアはそれには応じず、ルールを提案した。
「ルールはシングルバトルの3対3。それでいいか?」
「なんでもいいっつの。うるせーな。なんなら女と組んで戦ったっていいんだぜ?さっきみたいによ」
「いいや、それはしない。これは俺とお前のバトルだ」
「どこまでもうぜえやつだな……それじゃあ行くぜ、ワカシャモ!」
「頼んだ、フワンテ!あいつの全力、受け止めてやってくれ!」
少年二人の、お互いの意地と性分がぶつかり合ったバトルが始まる。ルビーは津波で倒れたパラソルを立て直し、その日陰に座った。隣には自分を守るためのサマヨールを従えて。
「男の子って、どうしてこうなんだろうね。ボクには理解不能だよ。ねえサマヨール?」
呼ばれた彼女も頷き、彼らのバトルを見守った。ワカシャモの火炎放射とフワンテの風起こしがぶつかり合う――
「はっ、そんな雑魚技で俺様の火炎放射が防げるかよ!」
確かに風起こしと火炎放射では威力の差は違い過ぎる。風が吹き散らされ、炎が突き抜けるが、その方向は多少ずれた。
「これで十分、小さくなるだ!」
フワンテがその体を縮めて業火を躱す。エメラルドが舌打ちした。
「やろっ……もう一発だ、ワカシャモ!」
「怪しい風!」
ワカシャモの口から放たれる業火を、不可思議な風が方向を逸らす。またしてもエメラルドの攻撃は外れた。
「だったらこれでどうだ、大文字!」
「もう一度怪しい風!」
ワカシャモがさらに炎を溜めて、溜めて、巨大な火炎輪を放つ。それは怪しい風にぶつかると文字通りの大文字焼きと化した。だが小さくなって自分も風に漂うフワンテには当たらない。
その後も何度か同じ技の応酬が続き、エメラルドがしびれを切らして怒鳴る。
「くそっ……おい、いきなり防戦一方じゃあねえか!そんなつまんねえバトルすんなら、もう降参しろっつーの!何がシリアのバトルだ!てめえのバトルはただの猿まねだ!」
「……そう思うのはまだ早いぜ。怪しい風のもう一つの効果はもうすでに発動した!フワンテ、風起こしだ!」
「だからそんな雑魚技が……何!?」
フワンテの風起こしがワカシャモに突っ込んでいく。それはさっきとはまるで威力が違っていた。小さな竜巻のようになって、ワカシャモの体をきりきり舞いに吹き飛ばす。ワカシャモは思いっきり目を回し、地面に倒れた。戦闘不能だ。
「怪しい風はただの攻撃技じゃない。確率は低いけど、発動した時フワンテの全能力をアップさせる!俺はそれで風起こしの威力をあげたのさ!」
「つまんねえ御託並べてんじゃねえぞ……戻れ、ワカシャモ」
エメラルドは次に何を出すかを考える。相手は飛行タイプ持ち、しかも能力が大幅にアップしている。草タイプのジュプトルは出したくない。
「だったら、こいつしかねえよな……出てこい、ラグラージ!」
「やっぱりラグラージで来たか……」
「もちろんそれだけじゃあねえぜ?ラグラージ、メガシンカの力で大海を巻き上げ大地を抉れ!ビッグウェーブを巻き起こせ!」
ラグラージの体が青く澄んだ光に包まれ、その光の衣を解き放つ。より大きくたくましくなったメガラグラージの登場だ。
(あいつの波乗りは小さくなるじゃ躱せない……なら、先手必勝だ!)
「フワンテ、風起こし!」
小さな竜巻がラグラージの体に命中する。だがラグラージはその巨躯を浮かさず、地面から山のように動かなかった。メガシンカによって防御力も増大しているのだ
「てめえの考えごときわかってんだよ、ラグラージ、岩雪崩だ!」
「まずいっ!」
あえてフワンテの攻撃した直後を狙ってラグラージが空中から岩雪崩を降らせる。メガシンカした最終進化系の力はすさまじく、雪崩に飲み込まれたフワンテは戦闘不能になった。
「威力はさすがだな……戻れ、フワンテ」
今度はサファイアが出すポケモンを決める番だ。サファイアの考えではヤミラミかジュペッタの二択。そして、あの攻撃力に対抗するには――
「出てこい、ヤミラミ。そしてメガシンカだ!その輝く鉱石で、俺の仲間を守れ!メガヤミラミ!」
ヤミラミの体が紫色の光に包まれ、メガシンカを遂げる。胸の宝石を大楯にした。サファイアの手持ちの中で最も守りに優れたポケモンだ。
「だがその盾は無敵じゃあねえぜ!ラグラージ、地震だ!」
地響きを起こし、大地を隆起させて下からメガヤミラミを襲う。大きく硬い宝石も、下からの攻撃を防ぐことは出来ない。動きの鈍いヤミラミでは、避けられないかと思われたが――サファイアはそれを読んでいた。
「ヤミラミ、だまし討ちだ!」
メガヤミラミにその大楯を敢えて、捨てさせる。盾を捨てて本来の速度に戻ったヤミラミが、その爪でラグラージの皮膚を裂いた。
「ちっ……だが盾のないヤミラミなんて敵じゃねえ!ラグラージ、泥爆弾だ!」
「さらにシャドークロー!」
泥爆弾が放たれる前に闇の爪がラグラージの体を引き裂く。連続でのひっかきを受けて、ラグラージが顔を歪めるが動かない。そして泥爆弾は放たれ、爆音を響かせてヤミラミの体を吹き飛ばし、砂浜を何度もその小さな体が泥だらけになって見えなくなるくらい転がる。ヤミラミも戦闘不能だ。
「どうだ!これが俺様の本気だ!てめえごとき雑魚トレーナーが敵う相手じゃねえんだよ、この圧倒的な攻撃力で俺は新しいチャンピオンになる!」
「……どうしてそこまで攻撃に拘るんだ?」
「うるせえ!てめえの知ったことじゃねえだろ!」
「……なら、勝ってから聞くさ!」
「あり得ねえよ、このまま3タテしてやらあ!」
最後の一体を決める。サファイアの中で、誰を出すかは最初から決まっていた。
「出てこい、俺の……そしてエメラルドの仲間!ダンバル!」
その選択にはルビーが少し驚き、エメラルドに至っては露骨に顔をしかめた。自分が役立たずだと捨てたポケモンだからだ。それをこの場で出すということは、彼にとっては侮辱にも等しい。
「ここでダンバルだとぉ!?てめえまで俺を舐めてやがんのか!」
「舐めてなんかいないさ、俺はこいつと一緒にお前に勝つ!」
「……やれるもんならやってみな!一撃で沈めてやれ、泥爆弾だ!」
「躱して突進!」
ダンバルが、ラグラージの巨大な泥爆弾をまず横に水平移動してから、全速力でラグラージに突っ込む。突進を受けたラグラージは――やはり山のように、動かない。
「はっ、やっぱりそんな雑魚ポケモンじゃ俺様のラグラージには傷一つつけられねえってこった。決めろ、ラグラージ。マッドショットだ」
「……それはどうかな?」
「何?」
ラグラージはマッドショットを放たない。いや――放てないのだ。不動の体がゆっくりと……しかし確実に傾いて、倒れる。
「嘘だろ……ダンバルごときに、メガシンカしたラグラージが……」
「……ダンバルだけの力じゃないさ。エメラルドのラグラージはフワンテの風起こしやヤミラミのシャドークローで確実にダメージを受けてたんだよ。メガシンカを過信しすぎだぜ」
エメラルドが歯噛みし、仇でも見るような眼でサファイアを見る。ラグラージを戻し、ジュプトルを繰り出した。エメラルドは再び激昂する。
「それがどうした……それがどうしたってんだ!まだ俺様にはジュプトルがいる。突進しか出来ねえダンバルごとき、こいつで片づけてやるぜ!」
「焦るなよ、お楽しみはこれからさ」
「ああ!?」
怒り声を上げるエメラルド。それに対してサファイアは指揮棒を振るう指揮者のように滑らかにダンバルを指さした。
「お前の強いラグラージを倒したこと――それにお前や俺と旅して得た経験値は、ダンバル自身の強い成長にもなったんだ。――今進化せよ!硬く鋭き鉄爪よ、誇り高き英知よ。新たな力となって仲間を支えろ!メタング!」
ダンバルの体が白い光に包まれ、その姿を変えていく。丸い鉄球のついたアームのような体が、確かな胴を持った二本の鉄腕を持つ体と進化した。
「ダンバルが……進化した?」
「さあ、お前が雑魚って呼んだポケモンの力、味わってもらうぜ!メタング、念力だ!」
「くっ……」
メタングの頭が輝き、ジュプトルの体を触れずに投げ飛ばす。ジュプトルもすぐさま体勢を立て直し、メタングへと挑みかかった。
「リーフブレードだ、ジュプトル!」
「メタング、メタルクロー!」
低い姿勢から上を切り裂くように振るわれる草薙の剣を、鉄の爪が受け止める。お互いにつばぜり合いの様相を呈するが、もともと体が硬く、また念力も使えるメタングが圧倒的に有利だった。
「俺様が、こんな奴に……雑魚と見下したポケモンに、負ける……?」
念力がもう一度ジュプトルを吹き飛ばす。ジュプトルはよろめきながらも起き上がったがもう一発耐えられるかというところだろう。打開策は、思いつかない。
「いやだ……いやだ!俺は悪党どもに、シリアの真似なんかしてるやつに負けちゃダメなんだ!俺はシリアとは別の方法でチャンピオンになる!そして――企業家としてじゃねえ、トレーナーとして、ホウエンを守るヒーローとして親父たちの役に立つんだ!
頼む、力を!もっと力を出してくれ、ジュプトル――!!」
ふらついていたジュプトルが、その声に答えるかのように体を輝かせる――そう、ダンバルがメタングになったのと同じ光。
「まさか……進化か!」
光が消え、その体を大きくしたジュプトル、いやジュカインの姿が現れる。とはいえ、体力の消耗は避けられていない。
「……ここで決める!メタング、念力だ!」
「ジュカイン、リーフブレード!!」
メタングの念力がジュカインを確かに捉え、その体を投げ飛ばそうとする。だがジュカインはそれを堪えて、一歩一歩踏み出してメタングに近づいた。自分に応えようとするポケモンを見て、エメラルドの心が動かされる。
「頑張れ、ジュカイン!もうちょいだ!いっけええええええ!!」
戦術も何もない、完全にまっすぐなごり押し。それでも声援を受けたジュカインが一気に踏み出し、メタングの鋼の体を特性『葉緑素』で強化されたリーフブレードが引き裂いた――
「……俺の負けだ、エメラルド」
サファイアが敗北を認め、メタングをボールに戻す。エメラルドはしばし放心していた。ふらふらになりながらも寄ってきたジュカインに気付いて、我に返る。
「……へっ、当然だろ」
憎まれ口を叩くのは、変わらない。それでもその声の調子は、いつもの傲慢で不遜な彼に戻っていた。
「良かったら、なんであんなに焦ってたのか教えてくれないか?」
「けっ、そんなに知りたきゃ教えてやるよ……俺はな、知っての通り金持ちの息子だ。だがそれは何もいいことばっかりじゃねえ。自由に金を使える代わり、将来のためにやらなきゃいけねえことがある。俺の本当の意味で自由な時間は、そんなにねえ」
一から十まで説明する気はないのだろう。大分端折った説明だが、なんとかついていく。
「俺がトレーナーとして大成するにはただ強いってだけじゃダメなんだ。親父みたいな企業家並の金を稼げるトレーナーにならなきゃいけねえのさ。その為に、チャンピオンの地位がいる」
チャンピオンになるのは、目的ではなく手段。しかも彼はシリアについてある秘密を知っている。だからこそ、彼と同じではいけないのだ。
「……シリアの真似なんかしてるやつに負けちゃダメだって言ってたよな。あれは?」
「……」
それについて聞かれて、エメラルドは黙った。自分の知る事実をサファイアたちに話すかどうか考える。結論は。
「さあな、本人に会うか何かして聞けよ。その方がお前も納得できるだろ」
「……わかった」
エメラルドは愛用のマッハ自転車をバッグから取り出し、展開する。そしてマッハ自転車に跨った。
「じゃあな。俺はもう行くぜ。むしゃくしゃは収まったが、やっぱりてめえらと旅するのは御免だ」
「ッ……わかったよ」
負けたサファイアにそれを止める権利はない。だが、何もせず見送る気はなかった。
「ただ……こいつを連れていってくれ。元はお前のポケモンだ」
「こいつは……メタング」
受け取ったエメラルドが不思議そうな顔をする。何故俺に、目線で訴えた。
「元はお前のポケモンだし、メタングが雑魚なんかじゃないってのはお前もよくわかっただろ。そいつはもっともっと強くなれる。だから、連れていってくれ」
「ちっ……しょうがねえな。俺様の足引っ張るんじゃねえぞ」
その舌打ちは、なんだかバトルする前よりもとても軽くサファイアには聞こえた。もう彼がダンバル――メタングを蔑むことはないだろう。
「それじゃあ……じゃあな」
「ああ、お前の事情は少しだけわかったけど……あんまり、急ぎ過ぎるなよ。ポケモンのことも、お前自身のこともさ」
「はっ、そんなことてめえの心配することじゃねえっつーの」
エメラルドが自転車を漕ぎ出し、カイナシティを走っていく。ほどなくして彼の姿は見えなくなった。
「……いやあ、大した熱血っぷりだったね」
「……それ、褒めてるのか?」
「あんまり。ボク好みの舞台ではないかな。だけどたまにはこういうのも、悪くないだろう。お疲れ様」
「……ありがとう」
ルビーがサファイアに手を差し出し、サファイアがそれを握る。そして二人は改めて、カイナシティへ向かうのだった。
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