幽雅に舞え!
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カイナシティ上陸!対策と読み合い
「……君たちの功夫、見せてもらった。ジムバッジを受け取ると良い」
「ありがとうございます!」
ルビーと洞窟を出た後エメラルドと合流し、3人でジムに挑戦する。結果は3人とも余裕を持って勝つことが出来た。ルビーとサファイアに関しては先の戦いで進化とメガシンカを果たしたことが大きい。
「じゃ、この町に用はねえしさっさとカイナシティに行くとするか」
「……今度は何もないといいけど」
「……」
船の上で気持ち悪くなったことを思い出したのか胸を抑えるルビー。それを見てサファイアは少し考えた後、提案した。
「なあ、ぱっと行くのもいいけどここで少し飯食っていかないか?せっかくみんなでジム戦に勝ったんだしさ。それの祝勝会って感じで」
「はあ?そんなの別にカイナシティついてからでいいじゃねえか。こんなしけた町で飯食ってもつまんねーよ」
難色を示すエメラルドだが、その時彼のお腹が鳴る音がする。ばつが悪そうな顔をするでもなく、いつも通り偉そうに。
「……と言いたいところだが、さすがに腹減ったな。まあお前らがどうしてもっていうんならこの町で食ってやらんこともないぜ!」
「やれやれ、じゃあどうしてもと言わせてもらおうかな。ところでサファイア君。祝勝会というからには好きなものを食べていいんだろう?」
「勿論さ。せっかくのお祝いなのに好きじゃないもの食べてもつまらないしな」
ルビーはそれを聞くと機嫌がよくなったのか、あるいは自分に気を遣ったサファイアへの感謝の表れなのか。サファイアの片腕をぎゅっと抱き寄せて笑んだ。
「……なんかお前ら距離近くなってね?」
「ん。まあ……ちょっとな」
「そうだね、ちょっとね」
「否定しねえのがムカつく。人が必死に助け呼んでやったのに合流した時にはいちゃつきやがって」
「それはほんとに感謝してるよ。ありがとう」
エメラルドは自分のポケモンを回復させてからではあるが、ポケモンセンターの職員さんを連れてきてくれていた。尤もサファイアは無事ルビーを助けたため結果的には無用となってしまったが。
そんなわけで3人は恐らくこの町唯一のお食事処に入り、各々好きなものを注文した。サファイアはハンバーグとオレンジジュース、ルビーの前にはパフェとアイスココア、エメラルドの前には担々麺とコーラが並ぶ。
「それじゃあムロタウンのジム戦の勝利を祝って……乾杯!」
「ふふ、乾杯」
「おう」
3人でコップを合わせた後、それぞれのペースで食事を取り始める。特にルビーにとっては大好きな甘味を気兼ねなく食べられるとあって、嬉しそうにスプーンでアイスの部分を掬ったりしている。
(……船の上や洞窟では色々苦しかっただろうし、せめてこれで少しでもルビーの気持ちが楽になってくれればいいんだけど)
サファイアがこの祝勝会をやろうと言い出したのはそれが理由だ。とりあえずルビーの表情を見て安堵していると、担々麺をすすりつつエメラルドが話しかけてきた。
「そういやお前よ。カイナシティでポケモンコンテストに出るつもりはあんのか?知ってると思うがカイナシティはジムはねえ、その気がないなら軽く市場を冷やかしてさっさとキンセツシティに向かいたいんだけどよ」
「ポケモンコンテストか……」
サファイアの目指すのは人を惹き付けるポケモンバトルだ。そういう意味ではコンテストに通ずるものがある。シリアもテレビで何度か出ていたことがあることもあって、興味のないジャンルではなかった。
「……もしついた時丁度始まるタイミングなら参加するかもしれないけど、そうじゃなかったらやめておくよ。待たせるのも悪いしな」
「うし、じゃあカイナシティにも特別用はなし……と」
「随分早く進みたがるんだね。何かわけでもあるのかい?」
ルビーが聞くと、エメラルドの箸を持つ手がぴたりと止まった。彼にしては難しい顔をした後。顔をそむけて言う。
「……別に何でもいいだろ。ジムバッジ集めなんてさっさと終わらせてシリアをブッ飛ばしてやりてーだけさ」
「ふうん……ま、頑張ってくれたまえ」
「はっ、言われるまでもねえっつーの」
再び麺をすすり始めるエメラルド。彼は彼で何かわけがあるのだろうか。だが本人に話す気がなさそうな以上、ただの好奇心で聞くことは憚られた。
「ここのパフェ、なかなか美味しいね。サファイア君も少し食べないかい?」
「えっ、いいのか?」
思わず聞き返すとルビーはおもむろにチョコアイスを乗せたスプーンをサファイアに差し出してきた。当然のように自分がさっきまで使っていたのと同じスプーンである。
「なっ……恥ずかしいだろ、やめてくれよ」
「いいじゃないか。大体最初に一緒に食事を取ったとき、自分の使っていた箸ごとボクによこしたのは君だよ?」
言われてみればその通りだがじゃあはいいただきますといえるほどサファイアは大人でもなくまた幼くもなかった。
「……そうだけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい」
「やれやれ、じゃあまたの機会にしておこうかな」
「お前な……」
「だから俺様の目の前でいちゃついてんじゃねえ!飯がまずくなる!」
「別にそんなんじゃ……」
「無きにしも非ずだね」
エメラルドの突っ込みもさらりと流しつつサファイアをからかうルビー。そんなこんなで、主にルビーが楽しい祝勝会は終わりを告げた。
そのあと3人は船に乗り込み、カイナシティへ向かう――その道中にはムロタウンへ向かうときの波乱が嘘のように何事もなく、カイナシティの砂浜に到着する。
「ん……なんだこりゃ、誰もいねえ?」
人の姿の見えない砂浜を見て、エメラルドが訝しげに呟く。彼の記憶では、ここはいつでも活気にあふれている砂浜で、それこそ嵐でも起きない限り遊ぶ子供の声やポケモンバトルをする船乗りの声が聞こえたものだが、今聞こえるのは波の音だけだ。
「ボクもここは人の集まる場所と聞いていたんだけど……何かあったのかな?」
エメラルド、ルビー、サファイアの順で船から降り歩を進める。すると海の家から一人の二十代くらいの男が出てくるのが見えた。青いウェーブのかかった綺麗な長髪を靡かせて、格好は海パンにアロハシャツ、そしてサングラスをかけていてサーファーかナンパ師の類にサファイアには見えた。エメラルドが話しかける。
「おいそこのおっさん。全然人の姿が見えねえんだけど、ここで最近何かあったのか?」
「んまっ!だ~れがおっさんよぉ、せめてお兄さんと呼びなさい!」
「うわっ、オカマかよあんた……」
話しかけられた男はオネエ風の口調でエメラルドに怒る。ルビーとエメラルドが若干引いたのでサファイアが代わりに聞く。
「すみません、失礼な奴で……俺たち、ここは人気の多い場所って聞いてたんで誰もいないのに驚いたんですけど、何か知りませんか?」
「あら、カワイイ坊やもいるじゃな~い。そうね、坊やだけにはこっそり教えてあげてもいいわ。ちょっとこっちに来てくれない?」
「……どうせ俺だけに教えても俺は二人にも教えますよ。だから、普通に教えてくれませんか」
別にオカマに近づくのが嫌とかそういう意味ではなくサファイアはなんとなくこの男を怪しいと思っていた。まるで待ち構えていたかのように海の家から出てきたからだ。
それを向こうも感じ取ったのだろう。口の端を釣り上げて上に向かって声を上げた。
「なかなか勘がいいじゃない……ルファく~ん!」
「ッ、ルビー!」
声がかかると同時に海の家の上から一人と一匹の影が下りてくる。ルビーを咄嗟にこちらに引き寄せ、エメラルドも砂浜を蹴って横に避けた。その空間を、剣と牙が一閃する。
「……ったく、気の抜ける呼び方すんなっての。避けられたじゃねえか」
降りてきたのはグラエナと、全身黒一色の薄手な服を着た青年だった。彼は振りかざした剣を鞘にしまう。
「おいてめえら……もしかしてあの博士の仲間か!?」
「ご明察よぉ、ワタシがポセイで、こっちがルファ。よろしくね♪」
「だったら容赦はしねえ!出てこい、俺様に仕える御三家達……」
「遅えよ!」
モンスターボールを取り出し、空に放り投げようとするエメラルドをルファが近づいて拳で殴る。散らばったボールの内二つをグラエナが口でキャッチし、出てくる前に封じた。エメラルドも殴られながらも一個は自分でキャッチしてヌマクローを出す。
「てめえ……ヒーローの口上中に攻撃してくるなんざ悪役の風上にもおけねえ!いいぜ、てめえらごとき、ヌマクロー一体で倒してやらあ!」
「はっ、口だけじゃないことを期待するぜ……いくぞグラエナ!」
「バウッ!」
エメラルドとルファのポケモンがぶつかり合う。その間。サファイアはポセイと名乗った男とにらみ合っていた。
「お前たちはなんであの博士に協力しているんだ!みんなからメガストーンを奪って、そんなことして何も思わないのか?」
サファイアはエメラルドとは少し違う。あの博士とは話しても無駄だと分かったが、目の前の人はもしかしたら話せばわかってくれるかもしれない。そんな思いを胸に対話を試みる。
「ん~可愛いわぁ。正義感に燃える熱い坊やの主張……お兄さんの胸にも響くけど。生憎もっとあの子には敵わないのようねえ。ま、お兄さんがあの博士に協力してるのはぁ、可愛い子に頼まれたからだっていうことでよろしく。ちなみにルファ君は……ていうか、家のメンバーはそれぞれ違う理由で協力し合ってるから、その手の説得は無駄だと思うわよん」
「そんな理由で……どうしても、メガストーンを奪う気なんだな」
「そうそう、だからさっさと始めましょ?ワタシはルファ君ほどせっかちじゃないけど、可愛い坊やに焦らされるのも辛いわあ。カモ~ン、シザリガー!サメハダー!」
ポセイはモンスターボールを持っていない。どこからポケモンを出すのかと思えば――それは、海の方からやってきた。頭に傷のついた星をつけた、巨大なハサミを持つポケモンと、十字の痣を持つ鮫のようなポケモンがアクアジェットでサファイアとルビーに突っ込んでくる。
「ダンバル、突進!」
すかさずダンバルを繰り出してシザリガーに突撃させる。ぶつかり合った両者はいったん止まったが――すぐにダンバルがふっとばされ、そのまま突っ込んできた。
「キュウコン、火炎放射!」
ルビーがキュウコンを繰り出し、その9つの尾から業火を噴出させる。さすがにこれを突破するのは難しいと判断したのだろう、シザリガーが止まり、サメハダ―はUターンで海に戻る。そしてポセイが指示を出した。
「シザリガー、バブル光線よっ!」
シザリガーの二つのハサミが開きそこから無数の泡が噴き出る。それは業火とぶつかり合い、はじける泡が炎の勢いを殺した。
「ダンバルが一発で戦闘不能に……」
「ただものじゃなさそうだね。恐らくここに人気がないのも、彼のシザリガーとサメハダ―が海を荒らしまわったせいだろう」
ご明察、とポセイが口笛を吹いた。自分たちを狙うだけでなくこの砂浜の人達皆に迷惑をかける行為を平然と行う彼にサファイアの怒りが強くなる。
「お前っ……!」
「――――」
モンスターボールの中からジュペッタがサファイアに声をかける。それは自分の相棒からの、落ち着いてというサイン。
「……わかった。ここは頼むぜ、ジュペッタ!」
「ボク達もやるよ、キュウコン」
「コォン!」
ジュペッタとキュウコン。二人の相棒といえるポケモンを見て、ポセイは笑う。
「あらん、ほんとに噂通りタイプ相性を気にせずにくるのねえ……私自慢の水・悪ポケモンにゴーストと炎タイプで挑んでくるなんて。大けがしても知らないわよ?」
「心配いらないさ。俺たちは……」
「君には、負けないよ」
「へえ、それじゃあ……本気でいっちゃうわよ!シザリガー、クラブハンマー!」
シザリガーがハサミを閉じて、巨大な槌のごとく振るう。だがそれはルビーやサファイアにしてみれば単調な一撃。
「「影分身!」」
二匹がクラブハンマーを振り下ろす影さえ利用して自分の分身を作り出す。だがポセイとシザリガーもそれを読んでいたかのように冷静に対処する。
「もう一度バブル光線よ!」
二つのハサミが開き、がむしゃらにそれを振り回しながら無数の泡を放つ。それは広範囲に広がり、ジュペッタ達の分身をかき消した。
「ふふ、影分身からのトリッキーな戦術が得意なのはリサーチ済みよん。それは封じさせてもらうわ」
「こいつ……俺たちの戦術を知ってる?」
「そりゃそうよ~。あのヘイガニとドククラゲは私の物なんだから。あんたたちの戦術はお見通しよん」
「そういうことか……だったらルビー、鬼火を頼む。ジュペッタはあれ頼んだ!」
「了解したよ。キュウコン、鬼火」
「コォン!」
キュウコンがやはりその尾から9つの揺らめく鬼火を放つ。不規則に揺れる鬼火を防ぎきるのは難しくバブル光線で打ち消そうとするも、一つの鬼火がシザリガーに当たる。
(ふふーん。鬼火で状態異常にして祟り目で一気に攻撃力を上げるタクティクス……技を言わなければばれないと思ったかしら?だけどその程度は読み読みよ。なぜなら私のシザリガーには火傷を無効にするチーゴの実を持たせてある……祟り目を決めに来たところを、噛み砕くで迎え撃ってあげるわ!)
ポセイは二人の戦術を事前にミッツ達から聞き出し、また船の上で一度襲うことで観察して戦術を練っていた。水タイプ使いである彼が的確に水・悪のポケモンを連れてきたのもそのためだ。彼らのポケモンが進化していたのは誤算だったが、大勢に影響はない。まだこちらのレベルの方が上だという確信がある。
だが、戦術を知っていることをサファイアたちに言ってしまったのは驕り。それは隙となり、彼らに付け入るスキを生む。鬼火が命中したシザリガーの体がチーゴの実によって回復――しない。
「な……!?」
「……俺が鬼火に合わせて祟り目を打つと思ったんだろ?今まではそうしてきたからな」
サファイアとジュペッタが笑う。シザリガーに近づいたジュペッタは祟り目による闇のエネルギーの放出ではなく――相手が鬼火への対策をしていると踏んでシザリガーに『はたき落とす』を使っていた。チーゴのみが叩き落とされ地面につぶれ、その効果を発揮できなくなる。ポセイの対策を、サファイアの読みが勝ったのだ。
「な……鬼火読みチーゴの実読みはたきおとすですって……やってくれるじゃないこの子……」
「さあ、これであんたのシザリガーの攻撃力はダウンした!まだやるか?」
「……当然よ!シザリガー、噛み砕く!」
「ジュペッタ、シャドークロー!」
シザリガーのハサミとジュペッタの闇の爪がぶつかり合う。レベルの差も相性の差もあったが、攻撃力を下げられていることが功を奏し、互角にぶつかり合った。さらに。
「キュウコン、炎の渦」
ルビーのサポートが入り、シザリガーを炎の渦が包み込んでさらに火傷のダメージを加速させる。
「よし、このままいけば……」
「させないわ。サメハダ―、ロケット頭突き発射よ!」
海中から思いっきり速度をあげ、十字の弾丸と化したサメハダ―がキュウコンに突っ込んでくる。炎の渦を放っているキュウコンには避ける暇がない。思い切り吹き飛ばされ砂浜を転がり、美しい毛並が砂と海水の混じった泥で汚れた。起き上がろうとするが、彼女の体は倒れてしまう。
「キュウコン!ゆっくり休んで……」
「ふふん、そう簡単にはやられないわよ?」
「許さない……いくよ、クチート」
自分のポケモンを倒されたことに珍しく少しだが怒りを見せるルビー。とはいえサファイアのように冷静さを失うことなく。メガストーンを光らせる。クチートの角が二つになり、ツインテールの少女のような姿になった。
「そんなポケモンを捕まえてたのね……ならワタシも奥の手を出すしかないわ!」
彼が知っているのはムロタウンに着くまでの情報なのでクチートに関するデータはポセイの中にはない。彼のサングラスにつけたメガストーンとサメハダ―のサメハダナイトが深い海のように青黒く光り輝く。
「行くわよサメハダ―!その荒々しくも美しき海の力身にまとい、全ての敵を噛み砕きなさい!」
光に包まれ、現れたのはより十字の傷が深くなり、一回り躰も大きくなった姿。もはや砂浜の上であることすらお構いなしにアクアジェットで駆け回る。そして隙をつくつもりなのだろう。クチートでは追いつけない速度に対し、ルビーはシザリガーを見据える。
「だったらまずシザリガーから倒す……クチート、じゃれつく」
「そうはいかないわ、鉄壁!」
じゃれつくとは名ばかりの特性『ちからもち』による暴力を硬くなった殻で受け止める。火傷も相まってダメージは小さくないが、倒れるまではいかない。
「今よサメハダ―、噛み砕く!」
「こっちも噛み砕く!」
「シャドークローで援護だ、ジュペッタ!」
メガシンカしたサメハダ―の牙とクチートの二つの角、そしてジュペッタの闇の爪がぶつかり合う。二対一、いや三対一の状況でなお――サメハダ―は二体を噛み砕くことは出来なかったが勢いで押し勝った。二体の身体が砂浜を転がり、立ちあがる。
「こいつ……なんて力だ」
「おほっ、驚いたかしら?降参するなら今の内よ?」
「いいや、そうはいかない。ジュペッタ、ナイトヘッド!」
「影分身なしのナイトヘッドなんて恐れるに足らないわ。サメハダ―、もう一度噛み砕くよ!」
巨大化したジュペッタの影にサメハダ―がその顎で突っ込んでくる。だがポセイはサファイアとジュペッタのあの技を知らない。
「いくぞジュペッタ――虚栄巨影!!」
洞窟で身に着けた新たな『必殺技』。巨大化した爪がサメハダ―を切り裂こうとするが、そのサメハダ―の速度はジュペッタを上回り、その影を噛み砕いた。ジュペッタの巨大な影が、倒れる。サメハダ―すら飲み込んで。
「おほっ、やっぱり小手先だけの技じゃダメね!あんたのエースは倒したわ」
「……それはどうかな?」
「?」
自分の『必殺技』を破られ、相棒を倒されてなお、サファイアの笑みは消えない。なぜなら今は――強い絆で結ばれた仲間が、もう一人いるから。
ジュペッタの影に隠れたのはサメハダ―だけではない。ルビーとクチートの姿をも隠し、ポセイの目から二人の動きを見失わせる――。
「クチート、じゃれつく!」
「グギャアアアアアアアア!!」
サメハダーは極めて高い攻撃力を持つが、守備力は低い……下手に海から出たこともあだとなり、クチートのじゃれつく一発で砂浜の上に倒れた。
「そ、そんなっ!!シザリガー……シェルブレード!」
「無駄だよ、噛み砕く!」
ポセイが反撃するが、攻撃力の半減したシザリガーと攻撃力が倍加したクチートでは勝負にならない。巨大な二角が、今度こそシザリガーの殻を砕いて瀕死にする。――サファイアとルビーの勝利だ。
「ル、ルファく~ん?お願い、助けてぇ!」
自分のポケモンを倒されたポセイが仲間のルファに懇願する。エメラルドと、バトル中に進化したであろうラグラージと戦っている――彼と彼のグラエナには泥こそついているものの傷を負っているようには見えない――はやれやれとため息をついた。
「何やってんだよ……しょうがねえ、引き上げるぞ。ここで無理して集めたメガストーン取られちゃ俺たちまで『オシオキ』されちまうからな。フライゴン!」
ルファは手持ちのフライゴンを出し、ポセイが慌ててその背に乗る。
「じゃあ、今日のところは見逃してやるよ。……ったく、我ながら安い台詞だぜ」
ルファが軽く手を振ってその場から離脱しようとする。だがそれを、エメラルドは見逃そうとしなかった。怒り心頭で、ラグラージのメガストーンを光らせる。
「ルファ……てめえだけは逃がさねえ!ラグラージ、メガシンカの力で大海を巻き上げ大地を抉れ!ビッグウェーブを巻き起こせ!!」
メガシンカし、よりその体を大きく、たくましくしたラグラージが指示されるままに大波を起こす。いや、それはもはや津波といって差し支えなかった。そう、サファイアとルビーをも巻き込むほどに。
「なっ……ばっかやろ。逃げるぞフライゴン!」
「この砂浜ごと消す気か、エメラルド!?」
「うるせえ……うるせえうるせえうるせえ!うぜーんだよ、てめえら!」
もはや我を見失うほど怒っているらしく、話は通じなさそうだ。サファイアが慌ててヤミラミを出し、メガシンカさせる。口上など述べている余裕があるはずもない。
「ヤミラミ、俺たちを守ってくれ!」
メガシンカしたヤミラミが、緑色のオーラでサファイア、ルビーを包む。そしてその防御ごと、津波が彼らを飲み込んだ――。
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