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活動日誌6 ゆうじょう・のーちぇんじ! 3
「お疲れ様」
「「お疲れ様です!」」
「かよちん、お疲れニャ!」
「お疲れ様……どうだった?」
「うん……特に変わったところもなく普通だったよ?」
「そう?」
私達が普通に会話をしていると、扉が開いて花陽さんが入ってきた。
私達はそれぞれ挨拶をすると、最後に真姫さんが訊ねた。どうやら、アルパカの様子を聞いていたらしい。
自分が赤ちゃんに気づいたからなのか、けっこう気にしているみたいだった。
問題ないことを知るとホッとした表情を浮かべて答えていた。
まぁ、昨日も花陽さんに聞いていたから毎日聞いているんだろうけど、そんなに変化はないと思いますよ?
とは言え、律儀な性格の真姫さんらしい話なんだと思いながら彼女を見ていたのだった。
♪♪♪
花陽さんが椅子に座り、また少しの間――雑談を始めていたのだった。
私は不思議に思っていた。
今日、お姉ちゃん達は生徒会の仕事で来れないはず。ならば待っていても仕方ないのではないか?
確かに昨日のサプライズ歓迎会で正式に6人でスタートを切ることを宣言した。いや、ローカルアイドルの方が印象が強くて、書いていなかったんだけど?
スクールアイドルとしての μ's を、おしまいにすると言うことは――つまり、そう言う話だから。
だから初日は6人で活動したいのかも知れない。
だけど、お姉ちゃん達の予定は元々入っていたのだろう。なのにそれを理由で活動を再開しないのは変だ。
そして私達は、お姉ちゃん達とは別のスクールアイドルなんだ。だから別に私達が付き合うのもおかしな話だと思う。
もし、仮にお姉ちゃん達を待っている――6人で活動を開始する為の雑談なら、花陽さん達は私達に理由を話して先に練習に行かせるだろう。
でも、それをしないで私達は一緒に雑談をしている。
もしかして、またサプライズ? 私は周りを気にしながら、会話に参加していたのだった。
そんな時――扉をノックする音が部室内に響いた。
「……どうぞ?」
「……し、失礼します」
1番扉に近い花陽さんが歩いていき、扉を開けて誰かを部室へ手招いた。
すると、か細い緊張した声色で返事をする――高町さんが中へ入ってきたのだった。
私と亜里沙は驚きの表情で彼女を見ている。
そんな私達に申し訳なさそうな表情で一礼して、隣の席に座った。
「……き、今日からアイドル研究部に入る……た、高町涼風です。よろしくお願いしますっ!」
席に座ると彼女は花陽さん達と私達を見つめて挨拶をした。
えっ、だって、スクールアイドルにならないんじゃ?
そこまで考えて、また私の価値観で彼女を見ていたことに気づく。
そうだ――
別にスクールアイドルにならなくても入部できない訳じゃない。それは前に私が思ったことだった。
それに――
彼女がスクールアイドルを目指していないとも限らない。ただ、私達と一緒に目指さないだけなのかも知れない。
実際に亜里沙だって元々は μ's に入ろうとしていたんだから。
そもそも冷静に考えれば――
お姉ちゃん達が μ's を9人だけのものにしたから、私達は私達だけでスクールアイドルを目指したのだけど――6人になったのなら、後から加入しても問題ないのかも知れない。
もしくは、ソロで活動したいのかも知れない。
自分でメンバーを集めて活動したいと言う考えもある。
学年単位で複数のスクールアイドルを有しても特に問題はないだろうから。
だから私達の誘いを断っただけ――それだけの話だと思った。
だって私達に遠慮する必要なんてないんだもん――そんな風に結論を出した私は彼女に微笑みを浮かべた。
私の表情を見た彼女は、少しだけ安堵の表情に変えて私を見ていたのだった。
ところが――
「それじゃあ、今日から3人は同じユニットで活動するんだよね? 頑張ってね?」
「凛達もフォロー入れるから、安心するニャー!」
「まぁ、みんな付いているから自分達の出来る範囲で頑張って?」
花陽さん達は私と亜里沙――そして、高町さんに向かって同じユニットで頑張ってと言葉をかけた。
えっ! いや、私と亜里沙はともかく高町さんもって?
そんな驚きを覚えた私と亜里沙は彼女を見たのだが――
「ありがとうございます。頑張ります」
高町さんは嬉しそうに、答えていた。
「えっ? あの……花陽さん?」
「どうしたの? 雪穂ちゃん」
「私と亜里沙はともかく、高町さんは――」
「――あっ、あのね? 雪穂さん……」
とりあえず、誤解は解いておこうと花陽さんに声をかけたのだけど――
私が「高町さんは違います」と伝える前に、少し焦り気味な彼女自身に声をかけられた。
何がなんだかわからなくなっている私を見て――
「……それじゃあ、私達は少し席を外すから3人で話し合って?」
花陽さんが微笑みながら、そう言って席を立ち部室を出ようとする。
それに倣い、凛さんと真姫さんも立ち上がり、私達に笑顔で手を振ると部室を出て行くのだった。
まだ、この部室に馴染んでいない新入生3人だけの空間はどことなく落ち着かない感じがした。
そんな落ち着かない空間を変えようと、静まり返っていた空間の中――高町さんが緊張した面持ちで口を開くのだった。
♪♪♪
「……お昼休みはごめんなさい。突然でビックリしてしまって」
「それは良いよ? 私が悪かったんだし」
「あの時は、あんなこと言っちゃったんだけど……凄く嬉しかったの。誘ってくれたこと」
「そんなことは……」
「実はね……私もスクールアイドルになりたくて音ノ木坂学院に入学したの」
「そうなんだ?」
「それで、一昨日の入学式で貴方達を見て……すごく嬉しかったんだ? 私も μ's のファンだし、一緒にスクールアイドルが出来たらなって思ったの」
最初こそ申し訳なさそうに話していたけれど、自分の話になった途端、本当に嬉しそうな表情で話してくれた。
ところが、一変――
「だけど、凄く不安にもなっていたの。私は部外者だから……受け入れてもらえるんだろうかって……」
悲しい表情で言葉を続けた。
部外者――確かに私達はファンの人達からすれば身内だけど、お姉ちゃん達はそんな偏見は持たないだろう。
と言うよりも、私と亜里沙だって身内特権なんて願い下げだ。
そもそも μ's だって、最初はお姉ちゃん達3年生以外は部外者みたいなものだったのだから。彼女にそんなことを言える義理はないのだと思う。
だけど、やはり私と亜里沙が身内なのは事実なのだから彼女からすれば、そんな風に感じてしまうのだろう。
「そんなことを考えていたから不安だったんだけど……」
ここまで言った彼女は、ふと笑顔に変わり――
「今日の朝に話をして、やっぱり一緒にスクールアイドルをやりたいって思えたの」
そう繋げた。
私と亜里沙とのすれ違いの話――私と亜里沙だけじゃなくて、お互いの距離が近くなっていたんだと思えて私も嬉しくなっていた。
「それでも、やっぱり……どう声をかければ良いのか、わからなくって……」
どうやら、こんなところも私達――はいはい、嘘ついてゴメンナサイ。
亜里沙と同じだったようだ! ですね?
どーせ、私は全然考えていませんでしたよーだ!
「それに、不安もまだ拭いきれていなかったから、雪穂さん達が声をかけてくれた時には、まだ入部届を出していなかったの」
は?
「そんな時に先に手を差し伸べてくれたから、凄く嬉しかったんだけど……」
え?
「ごめんなさい。あの時、私はアイドル研究部の部員じゃなかったから……」
そんなことを彼女は申し訳なさそうに告げるのだった。
つまりは、こう言うことらしい。
彼女は今朝の私達との会話で一緒にスクールアイドルをやろうと思い直した。とは言え、どう声をかければ良いのかわからなかった。
そして、まだ受け入れてもらえるかと言う不安が残る。そんな板ばさみになりながら入部届を提出していなかった。
そんな時、私達から誘いを受ける。驚きながらも凄く嬉しかったから、承諾しようと思ったのだけど――自分はまだ入部届を提出していない身分。
部員でもないのに簡単に承諾できない。だから、ごめんなさい――そう言うことだったようだ。
だけど、私達が手を差し伸べたことにより――彼女自身、踏ん切りがついたのだと言う。
午後の休み時間を利用して、職員室に行き先生から入部届を受け取った。
そして担任の先生に提出して、花陽さんに提出を終えて、無事入部を果たしたのだった。
休み時間毎に姿が見えなかった理由はこんなところだったんだって。
そして、HRが終わってすぐに帰ったのは――練習着を買いに行ったのだと言う。
まぁ、今日は体育がないからジャージもなかったしね?
そんなことを話してくれた彼女を、私と亜里沙は呆然と見つめていた。
またまた、すれ違いの結果だったんだね?
彼女が話を終えたから、私と亜里沙も今日の悩み事を打ち明けた。
私達の話が終わると、誰からともなく吹き出し笑いをしていた。
さっきまでの落ち着かない雰囲気は、いつの間にか――とても暖かな馴染んだ空間へと変わっていたのだった。
「今、戻ったよ? ……はい、これ」
「……はいニャー!」
「今日は私達からの奢りよ? 遠慮なく飲んでちょうだい」
「「「ありがとうございます!」」」
「まぁ、涼風ちゃんの歓迎会は日を改めてってことでね?」
「ありがとうございます」
暖かな空間になり、会話が途切れると――
花陽さん達が戻ってきて、私達にジュースを差し出した。
――たぶん、表で様子を伺っていたのだろう。
だって、昨日のジュースより少し温くなっていたから。
でも、この暖かな空間によるものだと思っておくことにして、お礼を言って飲み始めたのだった。なんてね。
♪♪♪
私が感じていること、考えていること。
それは私にしかわからないことなんだと思う。
そして、亜里沙には亜里沙の――高町さんには高町さんの感じていることや考えていることが存在する。
私は超能力者じゃないんだから、他人の思考なんてわかるはずはないんだ。
今回の件――昨日の話もそうだけど、自分だけで考えていても始まらないんだと気づいた。
そう――
自分だけで考えているから、私達はシュンとなっていたんだと思う。
最初から話をして、話を聞いていれば、こんなことにはならなかったんだろう。
好きなものは同じだし、素敵と思えるものだって同じだろう。
だから、私達は友達なんだと思っている。
そして、友情に時間なんて関係ない。
友情に大切なのは相手だけ――
お互いが友達だと思えば、それだけで友情が生まれるんだ。
もちろん衝突することはあるだろう。
でも、それで良いんだと思っている。
私と亜里沙だって、何度も喧嘩をしてきた。
お姉ちゃん達だって、衝突はあったのだろう。
でも――
それで友情が変わったりなどしなかった。
ますます仲が良くなったのかも知れない。
変に気遣いをして、すれ違うよりはマシだとも思うから。
お互いがお互いに本気でぶつかる――
それがあってこその目指すべき場所なんだとも思うから。
今、この時点から私達は3人で進んでいく。
私と亜里沙と高町さん。ううん――
「……これから、よろしくね? ……涼風?」
彼女に笑いながら、涼風と名前で呼んで手を差し伸べた。
そんな私に微笑みながら涼風は――
「よろしく、雪穂……亜里沙」
「よろしくね? 涼風ちゃん」
手を差し伸べると握手を交わす。
そして、亜里沙とも握手を交わしたのだった。
そんな私達3人のことを懐かしむように花陽さん達が眺めていた。
花陽さんと凛さんは元々の友達だったそうだけど、真姫さんは μ's に入ってから仲が良くなったらしい。ちょうど私達の関係に似ている。
だけど1年経った3人の雰囲気は昔からの友達のように思える。
つまり、時間の長さではなく濃さなんだと改めて感じていた。
私達も来年の今頃には、花陽さん達のような雰囲気が出ていると良いな?
そんなことを考えながら、涼風と亜里沙を眺めていたのだった。
後書き
Comments 涼風
私、入ったばかりなんですけど星空さんから――
「早い段階で部に慣れるには活動報告を読むのが良いニャ!」
と言われたので、読んでみました。
まずは、誘ってくれてありがとう。
やはり雪穂は高坂さんの妹なんだな? って感じていました。
たぶん、手を差し伸べてくれなかったら入っていなかったかも知れません。
本当にありがとう。
私から2点だけ教えておくと――
ランキングの話。学院に通っている私の中学の同級生から聞いたんだけど――
確かに亜里沙と私は同率らしいんだけど、実はダントツトップは雪穂なんだって?
ただ、本人に言わなかっただけだと思いますよ?
それと2人の行動は、何をやっても絵になるから普通に見ていただけですからね?
改めて、これからよろしくお願いします。
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