ラブライブ! コネクション!!
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Bonus Track 1 普通じゃない μ's が 『ろこどる』 やってみた。
活動日誌5.5 Re : すたーと・だっしゅ! 2
「まぁ、長い付き合いですからね? 穂乃果が何で悩んでいたのかってことくらい、お見通しですよ?」
「穂乃果ちゃん……」
「海未ちゃん……ことりちゃん……」
声をかけてきた海未が優しい微笑みを浮かべながら言葉を繋げる。
隣にいたことりも声をかけながら、優しい微笑みを浮かべていた。
そんな2人に驚きの表情を返している穂乃果。
どうやら穂乃果が悩んでいた理由に関しては、全員が理解をしていたのだろう。そして苦しんでいたことも知っていた。
でも、全員で決めてしまった答えを簡単に覆すのは中々勇気がいる。
だから穂乃果に背中を押して欲しい。穂乃果に会って、きちんと答えを導き出したい。
そんな全員の総意から、穂乃果の家まで全員で訪ねた時に、穂乃果が悩んだ表情を浮かべながら家を出て行くのを見つけた。
当然心配になり――元より穂乃果に会いに来たのだからと、彼女の後を尾けていたのだと言う。
穂乃果は全員の顔を見回して、最後に絵里と希とにこ――卒業生の3人を見つめた。
穂乃果は彼女達の前に歩いていき――
「私は、やっぱり μ's を終わりにしたくない……こんな形で終わるのはイヤなの! もちろん絵里ちゃん達の都合だってあるだろうし……私達はスクールアイドルを続けるから、優先できる訳じゃないけど……それでも! まだ私達の……ううん、私の物語には絵里ちゃん達が必要なの! だから……私の我がままを聞いてください!」
そう告げると頭を下げた。
しかし穂乃果の耳には誰の言葉も聞こえてこない。
恐る恐る顔を上げて絵里達の顔を覗くのだが、絵里達3人は穂乃果が顔を上げたことを確認すると、とても難しそうな表情を浮かべて全員が無言で首を横に振るのだった。
「ぁ……そ、そうだよね? ……みんなにだって都合があるんだもんね……それに、みんなで決めた答えなんだし……今更、何とかなる訳……ないんだよね?」
3人が首を横に振る仕草を目の当たりにした穂乃果は、それまでの自分の熱が冷める感覚を覚えながら、自分の間違いに気づく。
自分でも理解していたこと。絵里達には絵里達の都合がある。
そして、あの時に全員で答えを出して納得して終わりにしたのだ。
だから断られたとしても何も言えない。
だけど、彼女は心の片隅に希望を抱いていた。自分が頼めば何とかなるんじゃないか? 自分が引っ張れば3人も賛同してくれる。そんな淡い希望を。
わかってはいたことだとは言え、実際に望みを拒否された現実。
淡い希望を打ち砕かれた現実を前に、彼女を絶望と悲愴が包み込んだ。
だけど自分は被害者ではない。苦しい決断は絵里達だって一緒なんだと感じていた。
それでも、抑え切れない悲しみを隠そうと必死に抵抗していた。だがもう我慢の限界に近づいていることを悟った穂乃果は、思わず俯いて瞳を固く閉じたのだった。
そんな真っ暗な視界の中――
「……ふーっ。……違うでしょ、穂乃果?」
「……えっ?」
優しげな絵里の声が聞こえてきた。
思わず顔を上げた穂乃果の前には、腰に手を当てて「やれやれ?」とでも言いたげな表情を浮かべる3人の姿があった。
「……いつから穂乃果は、そんな風に物分りが良くなったのかしらね?」
「そうやねぇ? さっきのは穂乃果ちゃんらしくないんとちゃう?」
「まったく! あんたがそんなだと、コッチが調子狂うじゃない……」
3人はそんなことを穂乃果に対して告げる。
何を言っているのか理解出来ていない穂乃果に対して、絵里は微笑みを浮かべながら――
「忘れたの? 私が μ's に入るって決めた時……貴方が私にしてくれたことを?」
「…………」
「あたしの時だって似たようなものだったじゃない……正直、あの時に今のあんたみたいな誘い方をされていたんだったら μ's になんて入っていなかったわよ?」
「……絵里ちゃん……にこちゃん……希ちゃん……」
そう告げる。無言で聞いていた穂乃果を見てにこが言葉を繋げると、絵里とにこと希は満面の笑みを穂乃果に見せた。
そんな3人の満面の笑みを見て次第に表情が柔らかくなる穂乃果。
穂乃果は数秒間3人と微笑みを交わしていたが、目尻に溜まった涙を人差し指で拭った。
そして真っ直ぐに3人に向き合って、それまでの表情を一変させて――
真っ直ぐな一片の曇りも無い瞳で3人を見つめると、スッと手を差し伸べて――
「絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃん……私達とアイドルをやってください!」
そう言い切ったのだった。
その言葉を聞いた絵里達は、3人とも納得の笑みを溢すと――
「ハラショー!」
「……カードのお告げ通りやね?」
「まったく、しょうがないわねぇ?」
「……えっ?」
そんなことを告げるのだった。
すると、まるで示し合わせたかのように、その場でピースサインを並べた。それに倣い、他の5人がピースを並べる。
「ほら、穂乃果……あんたがリーダーなんだから、早くしなさいよね?」
「あっ、う、うん……」
自然と並べられたピースサインを驚きの表情で見ていた穂乃果は、にこが声をかけてきて慌ててピースを並べるのだった。
彼女は全員の顔を見渡し、再びピースを並べられる喜びをかみ締めていた。
「……何か一言ないの? これじゃあ、始められないじゃない」
いつまで経っても合図がかからないことに疑問を持った真姫が彼女に声をかける。
「あっ、そ、そうだよね? ……それじゃあ、今日から再スタートする μ's の未来に向かって……1」
「2、3、4、5、6、7、8、9……」
「ミューズ……ミュージックスタート!」
真姫の言葉を受けて慌てて言葉を紡いだ彼女は、全員の顔を見回すと番号を言う。それに倣い、メンバーは番号を繋げる。
そして、最後の絵里が番号をかけ終えた直後、穂乃果はグッとピースを沈めながらユニット名を叫ぶ。穂乃果のかけ声に合わせ、メンバーもピースを沈めると――
最後に天高くピースを突き上げながら、声高らかに声を合わせるのだった。
いつも μ's がライブ前に必ずかけていた声かけ。この声かけを絵里達が率先して始めたことの意味を穂乃果は深く受け止めていた。
突き上げたピースの指の隙間から眩しいほどの光が降り注ぐ。
そんな眩しい光に目を細めながら天を仰いでいた穂乃果の脳裏に、あのお姉さんの声が響いてきた。
とは言え、たった一言だけ。それも彼女には何もしていないのに何故か――
「ありがとう」
そう聞こえたのだった。
その言葉の心意は謎である。だけど、それで良いのだと穂乃果は感じていた。
今目の前に広がる光景。みんなの笑顔と一緒に探し続けていけば良いのだろう。
きっと、みんなで叶えた物語の辿りついた最高の形で迎えたゴール。そこに答えが待っているんだと感じていたから。
新たな決意とみんなの笑顔に包まれた9人に虹のかかった天から、柔らかな、温かな、そして光輝く眩しいエールが降り注いでいたのであった。
♪♪♪
絵里達は確かに穂乃果に答えを導いてほしかった。新たな場所へと連れ出して欲しかった。だから穂乃果がお願いをしてきた時、首を縦に振るはずだった。
だけど彼女達は首を横に振った。
そして、それを見ていた海未達も同じ気持ちでいたから助け舟を出そうとはしなかった。
それは穂乃果の瞳の奥に潜む、迷いや不安や恐れ。そんな感情の入り混じった曇りきった瞳と、紡がれた言葉と、頭を下げてまでお願いをする態度。
すべてに対して首を縦に振ることを許せなかったからなのだった。
彼女達は決して意地悪で首を横に振った訳でも、アイドルになることを辞めようと考えたからでもない。
ただ純粋に、今の穂乃果のお願いを承諾することが彼女達には出来なかったのだ。
きっと今の彼女のお願いを承諾したとしても、すぐに同じ危機が訪れると理解していたから。だから頑なに拒否の態度を取ったのである。
何故なら、彼女達は全員が穂乃果の瞳に――
あの純粋に、ひたむきに、自分の進むべき道だけを見据えて。それだけの為に自分のすることは正しいと、間違っていないと、我がままだろうと押し通す瞳に惹かれていたのだから。
それを思い出して欲しくて、敢えて無言で首を横に振った。思い出して欲しかったから、立ち上がって欲しかったから。だから何も言わずに彼女のことを見ていたのだった。
だけど彼女には伝わらない。それどころか俯いてしまう。
涙を零そうとしている、本当に諦めようとしている。だから絵里達は助け舟を出したのだった。
誰かが挫けそうになったら、誰かが倒れそうになったら。全員で励ましあう、全員で支えあう。それが自分達 μ's なのだと全員が感じていたこと。
それにそんな結末は全員が望んでいないから。だから手を差し伸べたのだろう。
自分達が差し伸べられた、あの時の暖かな手のお返しに――。
♪♪♪
「……なるほどねぇ」
「……こんな話になったんだけど……」
全員がアイドルを続けることに了承して、全員で今後のことを話し合った。
と言うよりも、穂乃果の頭にはローカルアイドルをやると言う野望があったらしい。
とは言え、いつもの突発的な思いつき。そしてその場で考えた野望だったのだが。
彼女がそれを全員に提案すると、自然と全員から賛同してもらえたのだった。
そして公平を期す為に、少なくとも花陽達の卒業までは続ける。
もちろんその後も続ける可能性はあるのだけど、ひとまずの区切りとして花陽達の卒業までは続ける。つまり全員が同じスタートを切り、同じゴールを迎える。
そんな公平さを穂乃果は望んでいたのだろう。
そこに、さきほど見せたような彼女の姿はなかった。
純粋に、ひたむきに、自分の進むべき道だけを見据えて、それだけの為に自分のすることは正しいと、間違っていないと、我がままだろうと押し通す瞳に、全員は満面の笑みを浮かべて賛同するのだった。
こんな経緯を穂乃果は雪穂に対して話した。
話が終わると、雪穂は難しい顔をしながら瞳を閉じて答える。
その難しい顔があの時の絵里達に重なって恐る恐る聞き返す穂乃果。もちろん穂乃果達のファンは雪穂だけではない。
だけど彼女達にとって雪穂は、彼女達の1番身近な理解者の1人だと思っている。そんな身近な理解者が不満に感じている活動を、自分達が楽しんで行えるとは思えない。それはメンバー全員が感じていた。
だから全員は固唾を飲んで雪穂の次の言葉を待ったのだが――
「それが、お姉ちゃん達の望んだことなら……私が何かを言える訳ないじゃん! 頑張って!」
「応援しています!」
パッと花が咲いたような笑顔を浮かべながら、雪穂は対面する μ's に向かいエールを送った。隣で聞いていた亜里沙も笑顔でエールを送る。
そんな2人のエールを受けて、安堵と喜びの入り混じった表情を浮かべる穂乃果達。
すると――
「2人とも、ありがとう……それじゃあ、聞いてください!」
「……は?」
「私達、ローカルアイドル μ's の最初の1曲!」
「……えーーーーーーーーーーーーー!」
優しげな微笑みを2人に浮かべて声をかけた穂乃果は、突然満面の笑みに表情を変えるとそんなことを言い出した。
これには雪穂や亜里沙だけでなく、穂乃果以外のメンバーですら驚きの声を上げる。
「ちょ、ちょっと、穂乃果! 何なのですか? 最初の1曲って」
「私、何も聞いてないよぉ」
「あっ、いや……」
「……最初の1曲って、私が知らない間に決まっちゃっていたの? どうしよう、私知らないよ……誰か助けてー!」
「そうニャ! 凛だって知らないニャー!」
「……私も知らないんだけど? ほとんどのメンバーが知らないなんて、意味わかんない!」
「あっ、あのね?」
「ふーっ、そう言うことは事前に連絡しておいてもらわないと困るじゃない?」
「……カードのお告げもアテにならん時があるんやなぁ」
「まったく、みんなアイドルって言うのは、何時如何なる時でも臨機応変に対応するものよ?」
「……い、いやね?」
「それじゃあ、何? にこちゃんは知っているって言うの? 作曲している私でも知らないのに?」
「ふんっ! 知っている訳ないじゃない! ……と言うより、作曲関係ないじゃないの!」
「……あーのぉー」
「ど、ど、ど、どうしよう」
「か、かよちん落ち着くニャ!」
「もしもーし?」
「い、衣装、何も考えてないよぉ」
「作詞だって考えていませんよ?」
「あのですねー? ……?」
「……とりあえず、合宿よっ!」
「そうやねぇ、それが1番やね? だけど、その前に……」
「…………」
順々に繰り広げられる会話に、本当のことを言うタイミングを逃して中々真実を言えないでいた穂乃果。
ところが、段々と会話の流れがおかしなところへ進んでいることに気づいた彼女は疑問の表情でメンバーを見つめていた。
すると、最後に言葉を繋いだ希が穂乃果を眺めながら、優しく――
「するべきことが、あるんとちゃう?」
そう伝えるのだった。
その言葉に穂乃果はメンバー全員の顔を見つめる。全員が同じように優しい微笑みを浮かべながら穂乃果を見つめていた。
穂乃果は、そんなメンバーに苦笑いを浮かべると――
「……ごめんなさい。特に決めていませんでした!」
そう謝罪をしながら頭を下げた。全員、穂乃果のことなどお見通しなのだった。
「それじゃあ、気を取り直して……」
「コレが、本当の私達……ローカルアイドル μ's の最初の1曲になります」
「えっ!?」
頭を下げていた彼女の耳に、絵里と海未の声が聞こえてきた。
驚いて顔を上げた彼女に、海未は微笑みを浮かべると、雪穂と亜里沙の方へ向き直り――
「とは言え、スクールアイドル μ's の曲なのですが」
「えっ? ……私、聞いてないよ?」
そう付け加えた。自分が最初にしてしまったことではあるものの、実際に聞いていなかった彼女は海未に聞き返していた。
すると、海未は優しく微笑んで――
「何を言っているのですか? 私達の始まりの曲と言えばアノ曲しかないでしょ?」
「……? あー! うん、わかった!」
そう伝えるのだった。
自分達の始まりの曲。その言葉に思い当たる曲が浮かんだ彼女は、すぐに笑顔を浮かべて納得するのだった。
そんな彼女はメンバーと一緒に再び雪穂と亜里沙の前に整列をする。
そして――
「では、聞いてください! 私達……ローカルアイドル μ's の最初の1曲! ――!!」
声高らかにアノ曲のタイトルを宣言したのだった。
アカペラヴァージョンで紡がれるメロディと彼女達の歌声と彼女達の新しい光り輝く場所へと走り出していくと言う表情。
そして、彼女達の1番身近な理解者の2人の優しく微笑んで見守る表情。
そんな暖かな希望に満ち溢れた空間に包まれながら――
彼女達の新しいスタートダッシュが今、始まったのであった。
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