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人の為に

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第十章

「よくやったよ」
「そんな奴が信用されるか」
 職員はライスに問い返した。
「そうなるか」
「信用?」
「御前は他人から信用されたことがないだろ」
「だからっていうのかい?」
「そうさ、誰からも信用されないからな」
 そうした人間だからというのだ。
「悪事も告発されたんだよ」
「これまで騙したりしてきた相手から」
「そういう奴が証拠を持っていてな」
「迂闊だったね、それは」
「殺しておいた方がよかったっていうんだな」
「そうさ、そうしたこともしてきたけれどね」
 そしてその殺人罪でも有罪になっている、彼は重罪人として扱われている。
「見逃しがあったんだね」
「そういう人達に証拠を掴まれてだよ、あとな」
「あと?」
「信用していない奴には裏切られた時の手は打つものだよ、人間は」
「それでなんだね」
「御前の証拠は掴まれていた、そして悪人はな」
 ライスの様な、というのだ。
「神様が見逃さないんだよ」
「神様?」
「どうせ御前は信じていないだろうがな」
 ライスが無神論者であることも見抜いている言葉だった。
「御前みたいな奴は神様が見逃さないんだよ」
「自分のことしか考えない悪人は」
「そうさ、人も神様もな」
 どちらの存在もというのだ。
「そして逆にあの人はな」
「人も神様もだね」
「放っておかないんだよ」
「成程ね」
「わかったらさっさと部屋に戻れ」
 害虫を払う様にだ、職員はライスに言った。
「わかったな」
「やれやれだね」
「一生出られないから覚悟しやがれ」
 その罪の深さ故にだ、職員はライスを罵倒する様にして言った。そして。
 ライスは肩を竦めさせて自分の部屋に足を向けた。だがこの時に職員にこうしたことを言ったのだった。
「彼の生き方が正しいんだね」
「コーネル=マックポッターさんか」
「そう、彼の生き方がね」
「そんなの当たり前だろ」
 当然だとだ、職員はライスに返した。
「そうそう出来ないが人の為に生きること自体がな」
「いいっていうんだね」
「理想の生き方だろ、だからあの人は幸せにもなれてるんだよ」
「自分の為だけじゃなくて」
「人の為に生きることがな」
「そうなんだね、だから僕はここにいて彼は光の中にいる」
 ライスは自分の牢獄に向けかけた足を止めてこうも言った。
「そういうことだね」
「その通りだよ、わかったらさっさと戻れ」
「そうさせてもらうよ」
 こう言い残して実際に自分の牢獄に戻った、彼は一人であり周りの憎悪と敵意の視線に見送られた。コーネルとは全く正反対に。その時コーネルは自分を慕ってくれている家族、友人達と共に休日の楽しくパーティーを開いていたが彼はそうなっていた。


人の為に   完


                    2016・3・23 
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