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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第66話「合流」

 
前書き
暴走体(司)→偽物、暴走体(優輝)→オリ主君勢→偽物→暴走体(椿)
...なんて連戦っぷり...。しかも初戦以外万全の態勢じゃないという...。

優輝達とアリシアで司関連の思い出し方に違いがありますが、違和感を前々から強く感じていれば、思い出した事を自覚する設定です。
...でないと解決した際に学校の人達が驚きに包まれる...。
 

 






       =out side=





「―――と、いう事のようだ。」

 アースラにて、クロノは神夜達に事の顛末を話していた。
 アリシアも補足の説明をしておき、これで優輝と無意味に戦う事はなくなるはずだった。

「....なんだよそれ。全部あいつのせいじゃないか!」

「っ、何を言ってるんだ?」

 説明し終わった途端、神夜はそう言い切る。

「あいつがジュエルシードを持っていたからこうなったんだろ!?おまけに勝手に暴走させて...!あいつが緋雪を生き返らせたいなんて願望を持ってたからこんな事に...!」

「今はそれどころじゃないだろう!?事は想像以上に複雑かもしれないんだ!」

 クロノとアリシアは、記憶が改竄されているかもしれない事は説明していない。
 しかし、それが仇となり神夜の思い込みは加速する。

「あいつのせいで葵は殺されたんだろう!?椿といつも一緒にいる葵があの場にいないのは、そういう事だろ!?」

「お前...!」

 勝手な事を口走る神夜に、クロノが抑えようとして...。





     ―――パァアアン!!



「.....えっ?」

「っ....!」

「アリシア?」

 ...アリシアが目に涙を浮かべつつ思いっきり神夜の頬を引っ叩いた。

「ふざけないでっ!!ジュエルシードを持っていたから優輝のせい?だったら...!だったらその場で守られるだけでしかなかった私はどうなるって言うの!?」

「な、なにを...。」

 いつも自分の味方をしてくれるアリシアが、自分を否定しだした事に酷く動揺する神夜。
 そんな事などお構いなしに、アリシアは言葉を続ける。

「優輝達は、本当なら優輝の偽物ぐらい、どうって事なかった!優輝と椿と葵...三人だったら例え偽物でも普通に倒せた!...なのに、なのに倒せなかったのは、私がいたからだよ!私がいなかったら、偽物なんてもういなかった!」

「おい、アリシア...!」

 涙を流しつつ、自分を責めるアリシアに、クロノはどう止めればいいかわからなかった。

「全部優輝のせい?...ううん、違う。私のせいだよ!優輝を責める前に、私を責めたらどう!?優輝達がどれだけ辛い戦いをしたと思ってるの!?」

 魔力は使えず、リンカーコアは痛み、何もできないアリシアを守りながら自分よりも魔力が多い偽物と戦う。...例え、椿と葵が万全でもそれは途轍もなく厳しい戦いだった。

「何もできなくて、無力で、足手纏いな私を庇って優輝達は戦ってた!優輝に至っては、リンカーコアが吸われて魔法が使えなかったんだよ!?それなのに...それなのに優輝のせいだって決めつけるなぁ!!」

 自身に宿る無力感や悔しさ、怒りを吐き出すようにアリシアは叫んだ。
 思いの丈をぶつけてきたアリシアに、さしもの神夜達も黙り込む。

「....アリシアの言う通り、これは優輝のせいではない。....というより、誰のせいでもないのかもしれない。ただ、悪条件が重なっただけかのような...。」

「....間が悪かっただけ?」

「...まぁ、そんな感じだ。...今回の事件は、誰の責任でもない。いいな?」

 クロノの言葉に、奏がそう返し、それに続けるかのようにクロノは念を押す。

「っ...わかったよ...。」

「姉さん...。」

 それに渋々神夜は従い、フェイトは泣き崩れたアリシアを心配した。

「っ...ぐすっ...ぅぅ...。」

「(...アリシア自身、無力だったであろう自分を責めている状態だからな.....優輝なら、おそらくそんなの気にしないだろうに...。)」

 “だからそのためにも”と、クロノは思考を切り替える。

「とにかく、優輝達を見つけたら保護するように。...あの二人の事だ。無茶をしてでもまだ戦っているかもしれない。」

「...ユーノ君は...?」

 優輝達を連れて転移したユーノの事が気になり、なのははクロノに質問する。

「あいつの事だ。優輝達から話を聞いて協力してるだろう。心配する事はない。」

「そっか...。」

 クロノの返事に大丈夫だろうとなのはは納得する。

『クロノ君!海鳴市八束神社でジュエルシード反応が!』

「なにっ!?わかった!すぐ向かう!」

 突然、エイミィから通信が入り、クロノはすぐさま行動を起こす。

「(前回も優輝達はジュエルシードを倒していた。なら今回も...。)...よし、今回は僕も行こう。すぐに転送ポートへ向かうぞ!」

 もしかしたら優輝達もいるかもしれない。そう思ってクロノは転送ポートへ向かった。













       =優輝side=





「っ....!」

     ギィイン!ギギィイン!

「っ、ぁ...!」

 素早く重い閃きをリヒトで上手く逸らす。
 ダメージがまだ残っており、霊力も回復しきっていない今では、それだけでもなかなかにきつい所がある。...まぁ、まだやりようはあるけど。

「っ!っと...!」

 しかし、暴走体の攻撃は矢だけではない。
 祟り...負のエネルギーが触手のようにうねり、襲ってくるのだ。
 魔力で再現されてるだけなので、霊力なら防ごうと思えば防げるだろう。
 ...尤も、割に合わない霊力の消費量だから避けるけど。

「っ....!」

「はぁっ!」

 弓の弦が引き絞られる音を聞き、そして放たれた矢と共に暴走体に接近する。

 ...椿の左手が負傷している今、椿はあまり連続で矢を放てない。
 だからこそ、一回一回のチャンスを無駄にはしない...!

「っ....!」

 触手が椿の矢を薙ぎ払う。その触手を僕は飛び越え、さらに接近する。
 懐から御札を取り出し、再び襲ってきた触手と矢に投げつける。

「弾けろ!」

 御札から霊力が迸り、僕に迫ってきていた攻撃は逸れる。
 そして間合いを詰め、リヒトを振るった瞬間...!

「っ!ぐっ...!」

 瘴気が庇うように割り込み、剣先が逸らされる。
 斬り返しで再び攻撃するも、今度は短刀で防がれた。

「やっぱり...!」

 深追いは禁物だ。今の僕らには強行突破できる余力は残っていない。
 すぐさまバク宙の要領で後ろに飛び退き、襲ってきた触手を回避する。
 さらに追撃で飛んできた矢を利用し、防いだ反動で椿の所まで飛び退く。

「決定打が足りない...!」

「霊力不足と...先の戦闘での傷ね...。」

 幸い、那美さんと久遠はユーノに守ってもらっているから庇う必要はない。
 椿を再現してると言っても、所詮は魔力だからな。ユーノなら防げるだろう。

「朱雀落は...?」

「....一射が限度よ。それ以降の戦闘にも支障を来すわ。」

 決定打になりうる椿の技は一回が限度。
 しかし、それも回避されれば終わりだし、放つまでが無防備だ。

「っ...!とにかく、突破口を見つけるしかないな...!」

「ええ...!そうね!」

 その場を飛び退き、飛んできた矢を躱す。
 理性がないおかげで回避は容易い方だが、それでもジリ貧だ。
 このままでは、先にスタミナが尽きる....!

「(どうすれば...!)」

 先も言った通り、突破口を見つけるしかないのか...。
 そう思った瞬間、閃光が走った。

     ピシャァアアアアン!!

「なっ...!?」

 瘴気に防がれたが、充分決定打になりうる強力な雷。
 そんな事ができるのは、僕らの中には.....っ、一人だけいた...!

「久遠...!?」

「...!私も、戦う...!」

 そこには、巫女服の姿をし、狐耳と五本の尻尾を生やした金髪の女性がいた。

「(....誰?)」

 ...って、久遠か。少女形態の面影があるし。所謂、本気モードって奴なんだろう。
 “カタストロフ”の時に使わなかったのは燃費が悪いからって所か。
 短期決戦を目指している今ならちょうどいいな...!

「(よし...!)久遠!突破口を開くために強力なの頼む!ユーノは変わらず守っていてくれよ!...椿、頼むぞ!」

「分かった...!」

「分かったわ!」

 僕らの動きは大して変わらない。そこへ久遠の援護が入っただけだからな。

「(術式に流し込めなくてもこれぐらいなら...!)Anfang(アンファング)!!」

 触手を躱し、矢を逸らして懐から魔力結晶を三つ取り出す。
 それを投げつけ、ほんの僅かに扱えた魔力を流し、爆発させる。

「久遠!」

「任せ、て...!」

     ドゴォオオオオン!!

 瘴気で防がせ、守りに入った所に爆音のような雷が落とされる。
 ...って、これ並の砲撃魔法なんて目じゃない威力だぞ!?

「椿!」

 ともかく、これで瘴気の守りに穴が開いた。これで後は...!

「“朱雀落・封魔之呪”!」

 朱い炎を纏った矢が暴走体を貫き、封印が施される。
 ...戦闘、終了だ。

「終わった...!」

「な、何とかなったわね...。っ...!」

 封印され、沈黙したジュエルシードを確認して、椿はその場に崩れ落ちる。
 霊脈のおかげで辛うじて使えた左手がまた使えなくなったのだ。

「...ユーノ、念のため魔法での封印を頼む。そっちの方がいいしな...。」

「分かった。...治療は必要かい?」

「霊脈の方がいいさ。ユーノの魔力も勿体ない。」

 結界が崩れていくのを見ながら、ジュエルシードをユーノに任せる。
 ...後で倉庫での時のジュエルシードも任せるか。

「今のは....。」

「...今僕らが対面している事件の代物です。...久遠、さっきは助かった。」

「くぅ。」

 那美さんがジュエルシードについて聞こうとしてきたので、僕が答える。
 ちなみに久遠は既に子狐の姿に戻っていた。

「まさか...それで二人はそんなにボロボロに...?」

「...一際厄介なのがいましてね...。」

〈マスター、魔力反応です。これは....。〉

 那美さんに説明してしまおうとした時、リヒトの言う通り誰かが飛んでくる。

「あれは....クロノか?」

「っ、本当!?」

 霊力で視力を強化し、見てみると、それはクロノだった。
 そんな僕の言葉にユーノも反応する。

「...安心するのはまだ早いぞ。誤解が解けてない可能性がある。」

「あ....。」

 警戒を解かずに、クロノ達を待つ。
 那美さんは今回巻き込まれただけだから、守る必要はないだろう。保護されるし。

「っ....!」

「待て!」

 僕らが警戒しているのを見て、織崎が真っ先に構えようとする。
 それをクロノが抑えた。

「....本物の優輝で間違いないな?」

「...その質問をするって事は...。」

「目を覚ましたアリシアから話は聞いた。」

 その言葉を聞き、僕らは警戒を解く。

「なるほど。...その割には約二名が臨戦態勢なんだが。」

「っ...神夜!帝!」

 織崎と王牙は相変わらず僕を睨みつけている。
 ...どうせ、僕の偽物だから僕が原因とでも考えてるんだろ。

「...葵はどこだ。」

「.....そっちでも、行方は分かってないんだな。」

 織崎が絞り出すように聞いてきたので、クロノにそう確認するように言う。

「そう答えるという事は...。」

「僕らは生きてると信じたい。」

 ふと気づいた事があり、そこから考えても僕は葵が生きていると信じている。

「ふざけるな!お前のせいで...お前のせいで葵は...!」

「そうだ!てめぇのせいで葵は殺されたんだ!」

 二人は怒りを露わにして僕を睨みつけてくる。
 なのは達も魅了のせいでそれに便乗して少し睨んでくる。

「君達は...!アリシアが言った事を蔑ろにする気か!!優輝に全ての責任を負わせようとするな!!」

「でも...!優輝君がジュエルシードを封印せずに持っていたから...!」

 クロノの叱責になのはが言い返す。
 ...ジュエルシードの封印はちゃんとしていた。しかし、僕の“負の感情”から偽物が現れてしまったのは事実だ。だから、あまり言い返せない。

「そもそも、僕らの記憶が改竄されていなければこんな事にはなっていない!」

「クロノ...?今、なんて言った...?」

 記憶が改竄...?まさか、司さんの記憶が...。

「...アリシアから聞いただけだ。...その様子だと...。」

「...覚えている。...それにしても、アリシアがか...。一体、いつの間に...。」

 シュラインが何かした訳でも、僕が何かした訳でもない。
 ...というか、僕らがそんな事する暇なんてなかったはずだ。

〈...おそらく、貴方の力でしょう。あの意志を宿らせた眩い輝きの(つるぎ)...あの輝きがアリシア様を正しき状態へと....。〉

「...なるほど...な。」

 勝利へ導きし王の剣(エクスカリバー・ケーニヒ)...あの技は僕の...導王としての力と確固たる意志を込めて放つ技だ。
 瞬間的な出力であれば、アリシアを正気に戻して記憶改竄も治す可能性はある。
 なにせ、“導く”ための聖剣だからな。

「ジュエルシード...!?」

「あ...。」

「やっぱりお前...!」

 シュラインがジュエルシードに人格を宿しているのを、当然皆は知らない。
 よって、より警戒させる羽目になった。

「...待て。今、ジュエルシードに人格がなかったか?」

「...クロノがいてくれて助かったよ。...その通りだよ。ちょっとした事情から人格をジュエルシードに移している。...害はないよ。」

「ユーノから見てどうだ?」

「同意見だよ。初見は驚いたけど、害はない。人格を宿している事によって、暴走しないようになっているみたいだ。...代わりにジュエルシードとしての力も単体では使えないけど。」

 クロノとユーノが仲介してくれたおかげで、不毛な争いに発展しずに済む。

「それとそちらの女性は...あの時の....。」

「...また、巻き込まれたんだよ。あ、クロノ。こっちの封印を頼む。霊術で封じているが、やっぱり魔法は魔法で封じた方がいい。」

「っと。...沈黙してるが、魔力を感じないのが不気味だな。僕には霊力がわからないから仕方ない事だが。」

 疲れ切っている僕らよりもクロノの方が効率がいいので、投げ渡しておく。

「アリシアも交えて事情を聞きたい。ついてきてくれ。」

「分かった。...こっちとしても、休みたいんだ。偽物が妨害しに来る前に連れて行ってくれ。」

 ようやく休息が取れると、肩の荷が下りて僕はその場に座り込む。

「...神咲さんも一度連れて行くべきか...。」

「...すみません。久遠はともかく、私は何も助けになれなさそうなので...遠慮しておきます。」

 クロノの呟きに那美さんがそう返事する。
 ...多分、今なら偽物に狙われる心配もないからその方がむしろいいかもな...。

「そうか...。」

「久遠も実戦経験があまりないから連れて行かない方がいいぞ。」

 僕からもそう言い、那美さんは連れて行かない事に決定する。
 久遠の場合は那美さんの念のための護衛でいておく方がいいしな。

「では、この事は口外しないように...。」

「はい。...頑張ってください。」

 那美さんに見送られ、僕らはクロノによってアースラへと転移した。









「....ふぅ....。」

 久しぶりにアースラ...つまり安全な場所に来れて、思わず力が抜けてしまう。

「...随分、疲れているな...。」

「当たり前さ...。シュラインに導かれてジュエルシードを封印したと思ったら、リンカーコアを吸われて死にかけるわ、翌日の夜に葵はいなくなるわ、今日に至ってはジュエルシード、偽物、ジュエルシードの連戦だぞ...。」

「それは....。」

 クロノが絶句する。まぁ、当然だよな...こんな連戦だし。
 しかも、前提として初戦のジュエルシード以外魔法がほぼ使えないのだからな。

「リヒトとシャルも偽物に細工されて通信が使えなかったしな...。」

「...道具がなければメンテもできない...か。」

「ああ。」

 魔力的な細工だからな。どうしようもなかった。

「優輝!!」

「っ!?ぐほっ!?」

 その時、いきなりアリシアが突っ込んできた。

「良かった...!無事だった....!」

「...一応、それはこっちのセリフなんだがな...。」

 それと地味に無事ではないんだよなぁ...。リンカーコアとか、葵とか...。

「....悪い、アリシア。...まだ、終わってない。」

「っ....そうだね...まだ、司と葵が...。」

 ハッとしたようにアリシアは僕から離れる。

「...とりあえず、移動しようか。そこで事情は聞こう。」

「分かった。...できれば治療もしたいんだがな...。」

「医療班を手配しておく。傷だけならそれで充分だろう。」

 それならいいだろう。霊力もあるからそれをリンカーコアを治すのに使おう。







「....なるほど...な...。」

 僕らの話を聞き終わり、クロノはそう呟く。
 ちなみに、話したのはプリエールでの本当の事とジュエルシードについてだ。
 本来はどういう結末だったのかだとか、ジュエルシードが僕らを再現してるとかな。

「司...優輝...椿....ジュエルシードが再現する姿って、何か基準があるの?」

「基準...シュライン、わかるか?」

 アリシアからの質問に、僕はまずシュラインの意見を聞いてみる。

〈....分かりません...。マスターと関わりのある人物であるならば、マスター自身を再現する事はありませんし...。〉

「そっか...。」

 聞いただけではあれなので、僕自身でも考えてみる。
 偽物を除いて...いや、除かなくても変わらないが、再現された姿は僕と司さんと椿...場所はそれぞれ緋雪達が誘拐された倉庫、司さんとシュラインが出会った校庭、“カタストロフ”に襲われた神社だ。
 ザッと考えて思いついた共通点は、そのどの場面にも司さんがいた事だ。
 そして再現された人物もその場にいた。....つまり...。

「...ジュエルシードのある場所で司さんが経験した出来事...その時その場にいた人物が再現されている...?」

「.....可能性としては、あり得るな...。」

 確証なんてない。ただ条件に当てはまっただけだ。

「飽くまで候補として考えておくとするわ。...それと、目先の問題である優輝君の偽物の事と葵さんの事だけど...。」

 リンディさんがそう言って、話が偽物と葵の事に移る。

「二人の話だと、偽物が葵を洗脳して敵に回っているとの事だが...。」

「洗脳魔法だなんて、本来犯罪として扱われてるんだけど...まぁ、偽物ならしょうがないわね。」

 ...ん?僕に視線が...。
 ..あ、そうか。犯罪になる魔法を偽物が使うって事は、本物である僕も使えると思われてるのか。...実際、使おうと思えば使えるけどさ。
 一応、弁解させてもらおうか。

「元から僕が扱ってた訳じゃない。...洗脳魔法は所謂思考などを弄る魔法だ。...魔法の理論を詳しく知っていれば、ゼロから創り出す事だってできてしまう。」

〈付け加えて言えば、私やシャルラッハロートには洗脳魔法の類は登録されていません。〉

 織崎と王牙がうるさくする前にそう言っておく。
 あ、それともう一つ...。

「...付け加えれば、偽物の所の葵は本当に洗脳された葵なのか?とも思っている。」

「それは...葵が自分の意志で偽物と共にいると?」

 クロノの問いに僕は首を振って否定する。

「...霊力については皆知っているな?誰もが持っている、生命エネルギーのようなものだ。...当然、元々式姫だった葵も霊力はある。」

 そして、魔力ではほぼ探知できないという点もあるが...今はいいか。

「僕や椿なら常人の霊力はともかく、葵程ならば戦闘中であろうとも霊力を感じ取れるはず。だけど、あの時は...。」

「感じられなかった...と?」

 クロノの言葉に僕は頷く。椿を見てみれば、“そういえば”と言った顔をしていた。

「飽くまで可能性だけどね。洗脳前の戦闘によって霊力が枯渇していて感じ取れなかったって可能性もあるし、確証もない。」

「...優輝と椿個人としては、どう思ってる?」

 戦闘の時を思い出し、考えてみる。

「...偽物、かな。僕のように、葵を模した偽物かもしれない。」

「同意見よ。....それに、霊力が枯渇しているほどの戦闘を行ったのなら、もっとボロボロになっているはずよ。」

 さらに言えば偽物の言っている事が本当かどうかもわからないからね。
 ジュエルシードを核とした僕の偽物なら、同じジュエルシードを利用して葵をコピーする事もできるだろうし...。
 ...そうであるならば、そこにはジュエルシードが二つある事になるけど。

「....?ユーノ君、さっきからずっと思案顔だけど...どうしたの?」

 ふと、なのはがユーノの顔を見てそういう。
 ...そういえば、ずっと何か考えているな。

「...あ、いや...クロノ達が来る前に優輝が言ってた事を考えてて...。」

「それって.....。」

「...偽物についてだよ。」

 クロノが来る前...正確には暴走体と戦う前に言ってた事...。
 確か、僕の偽物にしては詰めが甘すぎるって事だっけな。

「優輝から聞いた偽物の行動を照らし合わせて、やっぱり優輝の偽物としてはあまりにも詰めが甘い。...偽物が優輝を殺す気でいるのなら、それこそもう本物の優輝はいないよ。」

「我ながら同意見。正直、予想以上に見逃してくれたから生き延びれたものだ。魔力が大量にあるのなら、創造魔法で散々やらかしにかかってくるからな。」

 葵の(暫定)偽物もいるのなら、創造魔法と併用して足止めしつつ、トワイライトスパークで一掃してくるからな。...あれは逸らせないし防げない。

「....それはただ単に、優輝を殺すつもりがないんじゃ...。」

「そうだろうね。...だけど、それだと言ってた事と違うから、ますます目的がわからなくなる。」

 偽物の目的は緋雪を生き返らせる事。その過程で僕らは邪魔だから殺すと言っていた。
 ...もし、僕らを殺すつもりがないのなら、とことん邪魔される事ぐらい承知のはずだ。
 ...だとすれば、僕の偽物にしては行動がちぐはぐだ。

「...どの道、偽物はどうにかしないといけない。...この際、目的はいいだろう。」

「そうだな...。今は、いかにして偽物を倒し、ジュエルシードを回収するかだな」

 気になるが、倒してしまえばいかな目的であろうともそれで終わる。
 動機とかは今は重要じゃない。

「...改めて説明するが、今回の事件は地球だけの規模のように見えて、途轍もない規模で起きている。...一番の影響は僕らの記憶そのものだ。」

「記憶を何らかの方法で取り戻した優輝君、椿ちゃん、アリシアちゃんの話によると、“聖奈司”という人物とそれに関する一切の記憶が改竄されて抹消されているみたい。」

 クロノとエイミィさんが全員にしっかり聞こえるように改めて説明する。

「数人、数十人どころか、数多の次元世界から自身の存在を消す...そんなのは当然、人の身では不可能だ。そこで使用されたのが....。」

「今回の要である、ジュエルシード...。それも、本来の力でね。」

「ジュエルシードの総数は25個。そしてその真の力は天巫女による“祈祷顕現(プレイヤー・メニフェステイション)”の力によって解放される。....その規模は、椿曰く“神に等しい所業”との事だ。」

 誰かが唾を呑み込む音が聞こえた。...まぁ、改めて聞いても凄まじいからな。

「件の彼女のデバイスである、シュライン・メイデンの話によれば、彼女は“自分なんていなければいい”などといった、“負の感情”があり、それがジュエルシードに伝達し、今の状況になっている。」

「...自身の存在を消す。...まさに“いなくなった”って訳だよ。」

「僕らにできる事は一つだけ。今地球に散らばっているジュエルシードを回収し、彼女を助けに向かうんだ!」

 そうクロノは力強く言い、一呼吸おいて言葉を続ける。

「...その過程で、優輝の偽物が現れている。“敵に回れば厄介”を体現したかのように、とても危険だ。奴の対処をどうするか決めるべきなんだが...。」

 そこで視線が僕と椿に集まる。
 僕らの事情を話していた時に、“策がある”って言ってたからな。

「...手はあるんだな?」

「ええ。とびっきりのね。」

「僕の偽物は僕自身で片を付ける。」

 僕らが強く言うと、クロノは納得したように一度目を伏せ、リンディさんに視線を送る。

「...これより、皆さんにはジュエルシードを発見次第回収しに向かってもらいます。一つ一つが誰かの姿を再現し、非常に強力なものとなっているので、向かう際は複数人で行ってもらいます。また、優輝さんの偽物が現れた際は必ず連絡が取れるなら取ってください。決して単独で倒そうとしないように。」

 リンディさんはスラスラと指示を出していく。

「ジュエルシードは結界を展開しており、非常に発見が困難です。さらにそこへ偽物の襲撃の可能性もあるので、結界外で誰かを待機させる必要があります。」

「我々アースラクルーもジュエルシード発見に全力を尽くす。...久しぶりに困難な戦いになるだろうけど、頑張ってくれ。」

「回収の際のグループは連携、戦力を考慮した組み合わせでお願いするわ。...どちらかが欠けているだけで、優輝さんの偽物はその隙をついてくるわ。」

 僕じゃなくても、戦いが巧い人は普通そうすると思うが...。
 ...ともかく、これで全体的な方針は決まった。後は...。

「優輝は今すぐ医務室に向かってくれ。霊力で戦えるとはいえ、リンカーコアが使えない今、できるだけ治しておきたい。」

「分かった。椿と...後ユーノ、ついてきてくれるか?」

 クロノの指示通り、医務室へ向かうため席を立つ。
 そこで椿とユーノに呼びかける。

「分かったわ。」

「椿は分かるけど...なんで僕も?」

「やりたい事があってな。見てもらうならユーノが一番適任なんだ。」

 ロストロギアに詳しいユーノだからこそだしな。

「...何をするわからないけど、僕にできるのなら。」

「助かる。...じゃ、行こうか。」

 そうして僕らは医務室へと向かっていった。









 
 

 
後書き
久遠の雷…なんか本気ならリインフォースと渡り合えると聞いた事があるので、なのはのハイペリオンスマッシャー以上の威力はある設定です。強い(確信)

朱雀落・封魔之呪…以前あった一閃の朱雀落版。封印の術式を載せてある。

何気に祟り椿再登場。ただし本気久遠にあっさりやられる。
何とか管理局と合流しました。ようやく優輝も回復できます。 
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