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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第6章  『八神はやて』
  第47話 魔法少女リリカルはやて

 
前書き
・新章突入
・もしもはやてが闇の書に出会わなかったら……というIFの話 

 
 ベルカ自治区の聖王教会本部。
 その内部にある執務室にて、若いながらも高い地位についている教会騎士と、新進気鋭の若き管理局員が会話をしていた。


「提督就任おめでとう」
「ありがとうな。子供のころからの夢がようやっと叶ったわ」


 教会騎士の少女が、管理局員の少女に、労いの言葉をかける。
 地位は、教会騎士の方が高かったが、二人とも気にせず親しげに話していた。


「17才での就任は、最年少記録だと聞いたわよ?」
「そうやね。クロノの記録を塗り替えてやって爽快な気分や」


 ――若き美少女管理局員、提督就任の最年少記録を更新 


 管理局の中では、いま話題になっている。
 その少女は、管理外世界の出身でありながら、膨大な魔力をもっていた。
 幼少時に、たまたまロストロギア事件に巻き込まれ、現地で魔法と関り、その後、ミッドチルダに移住。
 時空管理局の提督を目指して、すぐに士官学校に入学。
卒業後は、エリート魔道師として名を馳せている。


「クロノくんとは、まだ仲直りしていないの?」
「あたりまえや。お養父さ――おじさんのことを悪く言うのは許せへん」
「『お養父さん』でいいのよ? 相変わらずのファザコンっぷりね」
「ふん。ファザコンで何が悪い」
「あらら。開き直ったわね」


 提督という地位がある。
 その名の通り、「船」の指揮官であり、一佐以上の階級が任に就くことが多い。
 ここでいう「船」とは、次元航行船を指す。
 数多ある次元世界を行き来できる能力をもつ宇宙船。といえば、いいだろうか。


「でも、なんで貴女は、クロノくんと仲が悪いのかしら。おじさまとクロノくんのお父さんは、上司と部下だったんでしょ?」


 教会騎士の少女は、長年の疑問を投げかける。
 話している相手は、明るく人付き合いがよい。
 敵を作るような性格をしていない。
 クロノも、真面目で少々融通の利かないところはあるものの、悪い評判は聞かない。


「ああ、それはな。『闇の書最後の事件』は知っているやろ?」
「ええ、もちろん。ものすごく話題になっていたし。解決したのは、おじさまだっわよね」
「アルカンシェルで闇の書を葬ったのがお養父さん。で、クロノのお父さんは、アルカンシェルで闇の書ごと殉職したんや……」


 思わぬ答えに一瞬絶句する。
 闇の書事件を解決した英雄の娘と、わが身を犠牲にした提督の息子。
 たしかに、そりが合わないとしても、仕方ないのかもしれない。


「なるほどね。因縁があるわけか」
「そらな。クロノのお父さんのことは、悪いことしたと思うし、同情もする。けれども、お養父さんの判断は、決して間違いやない。まったく。過去のことをぐちぐち女々しい奴やで。リンディさんを見習ってほしいわ」


 憮然とした表情をする少女を見て、話題を変えたほうがいい、と思案する。
 やや悪くなった空気を振り払うように、騎士は、愚痴を遮り、話かけた。


「……それにしても。貴女をみていると、管理外世界出身者とは、とても思えないわね」
「わたしもそう思う。なぜか、地球出身者は、高ランク魔道師が多いみたいや」


 ――――第97管理外世界「地球」 


 教会騎士と話をしている少女は、「地球」の出身だった。
 彼女の養父も、「地球」の出身者であり、偶然出会ったという。
 愚痴とも惚気ともつかぬ言葉を続ける目の前の少女を見ながら、教会騎士の少女――カリム・グラシアという名前である――は嘆息する。
 場の空気はよくなったものの、家族の自慢話を延々と聞かされるのは、勘弁してほしい。


「――――って、カリム、聴いている?」
「はいはい、聞いていますよ。その話はもう終わりかしら」
「うーん。まだ言い足りないけれど……」


 もう一度、ため息をつきながら、あきれたように声をかける。


「本当にファザコンよね、貴女。でも、おじさまは、どうして貴女を魔法と関わらせたのかしら? 管理外世界で、魔法と無縁の暮らしをした方が、安全だと私は思うのだけれど」
「ああ、それはな。ジュエルシードっていうロストロギアのせいや」


 ――――願いを叶える蒼き宝石『ジュエルシード』


 と、呼ばれるロストロギア。
 しかし、願いを歪めて叶える26個のジュエルシードは、たったひとつで、次元世界を崩壊させかねない。
 その危険物が、偶然、地球に撒き散らされた。
 そのジュエルシード収集にて、現地協力者となったのが、類まれなる魔法の才能をもつ『二人』の少女だった。


 わずか8歳。
 魔法初心者ながらも、めきめきと頭角をあらわす二人。彼女たちは、ひと月と経たないうちに、管理局の武装隊を越える実力を持つに至る。
 事件の解決にも、大いに貢献した。
 その片割れである、ファザコン少女は、その実かなりの大物なのだ。


「たしか、そのロストロギア事件って、9歳の誕生日前……8歳のときに遭遇したのよね?事件の解決後、ミッドチルダに移住。その後、9歳で士官学校に入学。
卒業後、そのまま執務官試験に、最年少で合格。順調に出世を重ねていき、最短記録で提督に就任――ってどこの完璧超人よ」

「もちろん、わたしのことやで。すごいやろ」

「はいはい。実際すごいからね。管理外世界出身とは、とても思えないわよ。確か、同じ世界出身の貴女のお友達も、色々と武勇伝を聞くわ。S+ランク砲撃魔道師で、通称『管理局の白い魔王』だって」

「なのはちゃんやね。その呼び方は、何度聞いても面白いな。ぴったりすぎや。まあ。本人に言うとOHANASHIされるから、カリムも気いつけてや」


 ――――高町なのは


 ジュエルシードを追い、現地に赴いたユーノ・スクライアからデバイスを受け取った少女。
 もうひとりの現地協力者である。
 同じ町に住んでおり、同じ学校に通う友達だったという。
 管理外世界とは、魔法文明がない世界である。
 当然、彼女も、魔法を知らずに過ごしていた。
 

 しかし、高町なのはは、管理外世界出身だとは思えないほど、魔法の天才だった。
 それまで、魔法とは無縁の生活を送っていたとは信じられない。と、共に闘ったユーノは証言している。
 なのはは、現在、管理局員となり、戦技教導隊に所属するエースオブエースとして有名である。
 もっとも、『管理局の白い魔王』として、畏怖されている、というのが正しいかもしれないが。


「わかったわ。『歩くロストロギア』さん?」
「わたしは、全然構わへんよ。かっこいいから、気に入っているねん」


――――歩くロストロギア


 今こうして会話している若き管理局員がもつ物騒な通称である。
 膨大な魔力量を使った力押しによって、犯罪組織をことごとく潰してきた管理局の最終兵器。
 通常なら十数人必要な儀式魔法、広域せん滅魔法を一人で行使。
 立ちはだかる者を全て薙ぎ払う様は、火力信者たちの憧れだ。


 その背景には、史実との差異があった。
 彼女は、リンフォース・ツヴァイやヴォルケンリッターに魔力供給をしていない。
 その結果、総魔力量は、大幅に上昇している。


 実は、史実における「高町なのは重症事件」も彼女が未然に防いでいた。
 当時、少女は、高町なのはと一緒に作戦行動をしていた。
 任務も終わり、ステルス搭載型のガジェットが、なのはを背後から貫く――はずだった。


 だがしかし。
 近くで広域せん滅魔法を景気よく連射していた『歩くロストロギア』によって、ガジェットは、ステルスを纏ったままぶちのめされていた。
 総合SSSランク魔道師の名は、伊達ではない。


「貴女と高町さんと言えば、ハラオウンさんも有名よね」


 ――――フェイト・T・ハラオウンとその使い魔アルフ


 ジュエルシードを巡って、管理世界出身の少女とその使い魔と戦った。
 その少女、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、当時フェイト・テスタロッサという名前の少女だった。
 しかし、彼女もまた、魔法の天才だったのである。
 時空管理局が現地に到着するまでの時間、フェイトとなのはたちは、幾度も戦った。


 しかし、フェイトにとって不幸なことに。
 将来提督になる少女と暮らす保護者は、たまたま引退した時空管理局員だった。
 なのはたちは、彼とその使い魔たちの指導のもと力をつける。
 ジュエルシードも、保護者たちが確保してしまった。


 そのせいで、フェイトとその使い魔――アルフという名前の狼――は、苦戦していた。
 きっと、一つも集めることは、できなかっただろう――本来なら。


「貴女と、高町さん、ハラオウンさんの三人組は、いまやスターですものね。管理外世界で偶然出会って交友を深める英雄たち――って、どこの物語よ」
「お?それ、昨日発売された雑誌の見出しやね。読んでいてくれて、嬉しいわ。でも、ちょっと違う。正しくは『美少女の英雄たち』や」

「はいはい……まあ、間違ってはいないけれど、内面がねえ。一番、美少女の称号が似合うのは、ハラオウンさんじゃないかしら?」
「あーそれは言えとるなあ。フェイトちゃんは、まさに美少女! って感じや。最近は、大人な美女になりつつあるし。あと、けしからん身体しとる」


 ――――フェイト・T・ハラオウンは純粋で素直な性格である
 

 保護者である元時空管理局員は、事件の真相を見抜いていた。
 現地で活動する少女――フェイトは、母親に言われて集めているに過ぎない。
 黒幕は、母親だろう、と。


 そう考えた彼は、一計を案じた。
 特殊な封印を施したジュエルシードのうち一つを、わざとフェイトに取らせたのだ。
 その封印は、彼の探査魔法にのみ反応する微弱な魔力を発しており、次元を隔てようと、居場所を感知できた。


 だが、博打の要素もある。
 たった一つでも、ジュエルシードは次元震を起こせるのだ。
 フェイトが全てを集める方針にみえたので、すぐさま行動を起こすとは考えづらかった。
 が。万一に備えて、使い魔の一人に、常時の監視と転移魔法の準備をさせていた。


 結果として、心配は杞憂に終わる。
 黒幕の居場所を突きとめるまでに、さほど時間はかからなかった。


「そのハラオウンさんや高町さんは、提督就任を祝って貰ったと聞いたけど。でも、おじさまは、提督就任に対して賛成しているの?危ない仕事はさせたくなさそうだったけれど」

「それが最大の問題やねん。お養父さんは、過保護やからね」

「貴女のことを溺愛しているものね。思春期の少女としては、うっとうしく感じないのかしら」
「いや、まったく思わんよ。わたしのことを心配してくれる親心や。素直に嬉しいわ。プレシア・テスタロッサのことを考えると、フェイトちゃんの前では、あまり大っぴらには惚気られへんけどね」


 ――――プレシア・テストロッサ事件。通称PT事件。 


 フェイトの母親、プレシア・テスタロッサが、事件の主犯者だった。
 時空管理局から応援がくると、すぐさま彼は、位置情報を提供。敵の本拠地、「時の庭園」で、プレシアと決戦になった。


 プレシアは、慌ててジュエルシードを起動させようとする。
 しかし、転移による奇襲を受けたことで、失敗した。
 その結果、彼女は、史実のように、アルハザードに旅立つことはできず。駆けつけた局員によって、『身柄を拘束』された。
 ジュエルシードも『すべて』集めることが、できた。


 ――――史実では9個のジュエルシードとともに彼女は虚数空間に落ちたにも関わらず。


「お養父さんも、なんとか説得して見せる。それに、養姉さんたちは、わたしのこと後押ししてくれているしな」
「おじさまと二人のお義姉さん、か。義理とは思えないほど、本当に家族仲がいいわね」
「自慢の家族や」


 一瞬の迷いもなく断言する親友をみて、カリムは苦笑してしまう。
 家族を心から愛していることが分かるからだ。
 まあ。少々度が過ぎている気がしないでもないが。


 17才にもなって『将来の結婚相手はお養父さん』と公言するのは、さすがにどうかと思う。
 養父のグレアム氏は、さぞかし大変だろう。
 家族の自慢話が延々と続きそうになるのを、遮って本題をきりだす。


「――預言が変わった?」
「そうよ。前にいった預言を覚えているかしら」
「ええーっと……」


 『天が夜空で満ちるとき
  地は雲で覆われ
  人中に担い手立たん』


「――って感じの予言だったような。でも、結局意味は分からないままだったんやろ?」
「ええ、そうよ。けれどもね。預言の内容が変化したのよ」


 眉根を寄せる少女に向かって、カリムは相談を始める。
 このファザコン少女。
 実は頭もよく、ベルカ式魔法にも精通している才媛なのだ。
 預言の内容が変わった。
 それ自体は問題ないのだが、その内容が余りにも物騒だった。
 話を聞いた少女も、眉根を寄せている。


「現状の説明は以上です。貴女に調査を依頼します」


 頼れる親友に向けて、カリムは、言い放つ。
 時空管理局の少将カリム・グラシアとして命令を下した。


「ハッ。ハヤテ・Y・グレアム一佐、委細了解しました!」


 かつて、八神はやてと呼ばれた少女は、ハヤテ・ヤガミ・グレアムと名を変えて暮らしていた。
 史実よりも昇進スピードが早い裏には、親ばかなどこぞの英雄の暗躍があった――らしい。


 闇の書――本当の名を夜天の書――が、現れず。
 呪いで足が麻痺することもなかった少女。
 事故で両親を亡くしたが、新しい家族を得た彼女は、本来の歴史と異なる人生を送ることになった


 どちらが幸せだったのだろうか。
 答えを知る者はどこにもいない。けれども、



「早く帰って、グレアム養父さんと、ロッテ義姉さん、アリア義姉さんに夕飯を作らないと……わたししか料理できないもんなあ」


 ――――笑顔で夕飯の献立を立てる姿は、決して嘘ではないだろう。





「早いものだ。あんなに小さな子供だったあの子が、提督になるとはな。私を尊敬していることは、嬉しいが。危険なことはして欲しくはないものだ。いや、親の勝手な都合を押しつけてはいかんな」


 八神はやての両親は、彼女が4歳のときに、事故で亡くなった。
 親戚もおらず、児童養護施設に送られそうになった彼女を、たまたま現場に居合わせたイギリス人が引き取りを申し出た。


「偶然の出会いとはいえ、私も突拍子もない行動をしたものだ。けれども、あのときの出会いがあるからこそ、いまの私がいる。あの子のお陰で、私は人生に生きる道を見出したのだから……」


 苦笑しながら、昔を思い出す。
 彼は、休養のために、保養地として名高い海鳴市に来ていた。
 たまたま交通事故の現場に居合わせた彼は、4歳だった少女を酷く気にかけていた。
 理由は彼にも分からない。
 けれども、何故かその少女が気に掛って仕方がなかったのだ。


 彼女に引き取り手がおらず、児童養護施設に送られると聞いた時、彼――ギル・グレアムは、後見人として名乗り出たのである。
 彼は、もともとイギリスの名家出身であり、たまたま縁があって管理局員になったという経歴を持つ。
 身元がしっかりしていることもあり、後見人として、養育することになった。
 養子縁組をするかどうかは、彼女の意思に任せる、として。
 その少女の名は――八神はやてといった。

「もし、運命というものがあるのなら。私とあの子の出会いも、運命だったのかもしれない。
 あの子は、私の希望そのものだから。ただただ偽物の英雄として朽ちていくだけだった私に、希望を与えてくれた」


 ミッドチルダの屋敷で、ギル・グレアムは、昔を思い出していた。
 八神はやてを引き取ったのは、偶然に過ぎない。
 なぜ彼女を引き取ろうと思ったのかは、自分でもよくわからない。
 けれども、どうしようもない衝動に突き動かされたのだ。


 人一人の人生を背負うのだ。
 衝動的に決めたこととはいえ、全力で成長を見守ろうと決めていた。
 部下を手にかけ。望まぬ英雄に祭り上げられ。管理局を辞した。
 地球で、使い魔たちと余生を過ごそうと思っていた矢先のことだ。


 仕事一筋で、結婚もせず、使い魔の二人が、娘代わりだった。
 管理局を辞め、地球に戻ったものの、何をすればいいのか分からない。
 とりあえず、使い魔たちの薦めに従い、世界各地を巡る旅をしていた。
 その最中に、はやてと出会い――残りの人生を、この娘のために、使おうと決心した。


 その結果が――親ばかの誕生だった。


「はいはい。お父様は、はやてのことになると本当に饒舌になるんだから。その話は、もう100回くらい聞いたわよ」
「アリアの言うとおりよ……。娘自慢も大概にして欲しいわね」


 その後、3時間に渡って延々と娘自慢を聞かされ使い魔たち。
 その憔悴した姿を見つけたはやてが、慌てて病院に運ぼうとしたのは余談である。





 これは、ハヤテ・Y・グレアムが、まだ八神はやてだった頃の話。


 9歳の誕生日に、彼女は、別の世界で、5歳くらいから9歳まで暮らす夢を見た。
 その夢の中では、両親が生きており、彼女は幸せに暮らしていた。
 けれども、ちょうど9歳の誕生日を控えた夜に、謎の化け物に両親が殺された。
 両親に庇われ、一度は助かったが、次の瞬間には、化け物と目が合ってしまう。
 そのとき、青白い光が部屋の中を満たし――目が覚めた。


 起きたときは酷く取り乱し、訳も分からず泣き喚いてしまったことを覚えている。


 それは、夢の中で、今は亡き両親と幸せに暮らしていたからだろうか。

 それとも、目の前で、両親が殺される瞬間を見てしまったからだろうか。


 泣きじゃくる彼女にさえ、理由は分からない。


 ただただ、感情に任せて泣き叫んだ。
 驚いた養父――ギル・グレアムは、一晩中、側に居て黙って背中を撫でてくれた。
 不器用な彼は、どうしていいかわからず、彼女が泣き止むまでずっと側にいることを選んだ。


 けれども。
 下手な慰めよりも、家族の温もりを肌で感じて、それが嬉しくてますます泣いた。
 それは――とても恥ずかしいけれども、とても大切な家族との思い出。





 幼少のころより、引き取られてから、わたしは、実の娘のように育てられていた。
 しかし。学校に入り、身の回りのことを理解できるようになって、自身が本当の娘ではないことを知った。
 自分の名前が、「八神はやて」で、グレアム姓を名乗ってない理由を知ってしまったのだ。
 実は、本当の家族ではない、と知ったときの衝撃は、いまでも覚えている。
 いままで当然だと思っていた日常が、突然崩れたように感じた。


 わたしの苦悩を知っているのか、いないのか。
 養父や、義姉的存在の二人は、接し方を変えることなく日々を過ごすようにしていた。
 後で聞いた話では、彼らも苦悩していたようだ。


 けれども、無理やり言い含めるよりも、ゆっくりと一緒に過ごす時間を通じて、お互いの理解を深めていけばいい、と彼らは考えた。
 グレアム姓を名乗るかどうかについても、わたしの意思を尊重したい一心からに過ぎなかったのだから。


 事実、いままで通りの生活が続くことで、わたしの強張った心は、徐々に氷解して行った。
 そして、9歳の誕生日の日。不思議な夢を見て、泣きじゃくった日。
 すすり泣くわたしの背を撫でてくれる手の温かさ。
 猫の状態になって(二人の義姉は、養父の使い魔で本当の姿は猫である)身を寄せてくれた義姉たち。


 このとき、やっと、ここは自分が居てもいい場所なんだ、と理解できた。
 ああ。この人たちは、わたしの家族なんだ、と理屈ではなく、心で理解した。
 こうして、養父に、グレアム姓を名乗ることを伝え、ハヤテ・Y・グレアムは誕生したのである。


(その日を境に、わたしたちは、本当の家族になった)


 昔のことを思い出しながらも、慣れた手つきで料理を作り続ける。
 今日は、提督就任のお祝いを家族ですることになっている。
 お祝いだから外で食べよう、と言われたが、わたしの希望で、自宅で、家族だけのお祝いをすることになった。


 お祝いされる本人が料理を作るのは、おかしい。などと、カリムには言われた。
 だが、自分の作った料理を食べて、笑顔でおいしい、と言ってもらえた瞬間が、何よりもわたしの喜びだった。
 だからこそ、腕によりをかけて仕上げて見せた――ただ、少々作りすぎたかもしれない。
 きっと驚くだろうなあ、と思いながら家族を呼ぶ。


「夕飯が出来たで。ほな、食器を準備してや」 
 

 
後書き
・八神はやて(リリカルなのは世界)
時空管理局の若きエース。
魔力ランクSSSの魔導士ランクSSSのチートさん。
ついたあだ名があるくロストロギア。
将来の夢はお義父さんと結婚すること。
ヤンデレ。

・ジュエルシード
正史では9個のジュエルシードが虚数空間にプレシア諸共落っこちた。
正史のジュエルシードが落ちた先は・・・。 
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