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SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
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第五十七話 死銃の力

~シンタロー side~

俺は転送された場所を確認する。

シンタロー「ここは、、砂漠エリアか。 離れた方が良いな。 最初のサテライトまでは待たないとな。」

そう呟きつつ、取り合えず一番近い、廃墟エリアに向かう。

と、その時、俺の第六感が何かに反応して、その場から後ろに跳ぶ、数秒後、その場所に弾が着弾した。

シンタロー「方向は右、角度から考えて、、あそこか。」

俺が検討をつけたのは砂漠エリアにポツンと建っている廃墟。
ここからだと千五百メートルはある。

シンタロー「中々腕の良いスナイパーみたいだけど、まだまだだな。」

俺は背中に背負っていた《ダネルNTW-14.5》を持ち、構える。

シンタロー「・・・逃げたか。」

そのまま俺は都市エリアへと向かった。

~side out~

それから三十分後、キリト達五人によって四人が倒され、他にも脱落者が七人出た。
残り十九人。

~サクマ side~

サクマ「ようやくサテライトか。 hopeは、っと。 森林エリアか。」

俺はそれだけ確認すると、森林エリアに向かった。

ところが、森林エリアについてもhopeを見付けられない。

サクマ「どうなってるんだ? 待ち伏せしてるような気配は無いし。」

と、その時森林の奥から銃撃音が聞こえてきた。
どうやら誰かが戦っているらしい。

サクマ「・・・行ってみるか。」

そのまま音に近付いていくと、エネとシンタローに合流した。

サクマ「お前ら、何で?」
エネ「今戦っている片方がペイルライダーなの。」
シンタロー「それに近くにステルベンがいる。 お前は?」
サクマ「近くにhopeがいるはずなんだ。」
エネ「これは、何かありそうね。 二人が橋に移動するわ。」
シンタロー「橋か。 不味いな。 スナイパーからすれば格好の獲物だ。 それに挟み撃ちにされたら逃げられない。」

俺達は急いで戦闘中の二人を追った。

~side out~

~キリト side~

キリト「待て」
シノン「っ・・!?」

シノンはFN・ファイブセブンを構える俺に、左腰のホルスターからMP7を抜き斉射しようとするが、俺は静かに囁いた。

キリト「待つんだ。 提案がある。」
シノン「何、命乞いをしろってッ。 この状況で提案も妥協もあり得ない!! どちらが死ぬ、それだけよ!!」

シノンはごく小さな声で、しかし燃え上がる殺気を込めて言い返した。

キリト「撃つ気なら、何時でも撃てた!」

シノンは思わず口を噤む。
この距離からなら背後から銃撃するなり、光剣で斬るなり出来たのだ。
だが、俺はそうしなかった。
押し黙ってしまったシノンに、俺は囁いた

キリト「今派手に撃ち合って、銃撃を向こうに聴かれたくないんだ。」

俺の視線の先では、今まさに一つの遭遇戦が始まろうとしていた。

シノン「どういう意味、」
キリト「あの橋で起きる戦闘を最後まで観たい。 それまで手を出さないでくれ。」

この近くにはステルベン、hope、グレイがいて、今戦っている片方がペイルライダーだ。
偶然にしては可笑しすぎる。

シノン「観て、それからどうするの? 改めて撃ち合うなんて、間抜けたこと言わないでね。」
キリト「状況にもよるが、俺は此処から離れる。 君を攻撃しない。」
シノン「私が背中から狙撃するかもよ?」
キリト「それは勘弁願いたいけどな。 もう始まる!」

俺は再び橋の方を見ると、左手のファイブセブンを下ろしホルスターに収めた。
これを見てシノンは呆れ、肩の力を抜いていた。

シノン「仕切り直せば、今度はちゃんと戦ってくれる?」
キリト「ああ。」

頷く俺を確認したシノンは、MP7を下ろした。
まぁ、シノンは警戒してトリガーから指を離さなかったが。
俺は力を抜き、シノンの左隣に腹這いになった。
俺はベルトのポーチから小さな双眼鏡を取り出し、眼に当てる。
シノンは俺の態度に呆れを通り越したのか、MP7を左腰のホルスターに戻した。
シノンはへカートを構え、スコープを覗き込んだ。
俺の視線の先には長橋の、こちら側のたもとに伏射姿勢を取ったダインの姿が映った。
ダインは、SG550を小揺るぎもさせず構え続けた。
流石というべきか、BoB本戦に出て来た事はある。
集中力が切れない限り、ペイルライダーもおいそれと近づくことが出来ないだろう。

シノン「・・・あんたがそうまでして見たがっている戦闘、このままじゃ起きないかもよ。 それにダインも、何時までもああして寝転がってないだろうし。 もしあいつが立って移動しようとしたら、私その前にあんたを撃つからね。」
キリト「ああ、そうなったら、いや、待った。」

向こうの岸から、ゆらりと一人のプレイヤーが姿を現したのだ。
痩せた長身を、青白い柄の迷彩スーツに包んでいる。
黒いシールド付きのヘルメットを被っているので顔は見えない。
武装は、片手に携えている軽量な《アーマライト・AR17》のショットガンだけだ。
間違えなく、あのプレイヤーがダインを追っていたペイルライダーだろう。
伏せるダインの両肩に緊張が走る。
張り詰めた気配が、遠く離れた俺たちの所まで伝わってきた。
対照的にペイルライダーは、ダインの構えるSG550に怖れることなく橋に近づいてくる。
シノンが呟いた。

シノン「・・・あいつ、強い。」

ペイルライダーは無防備のまま、滑るように橋に足を踏み込ませた。
ダインもそれを見て、戸惑いを隠せない。
その一秒後。
アサルトライフルが火を噴いた。
ペイルライダーは発射された弾丸を、橋を支えるワイヤーロープを飛びつき回避した。
ダインは照準を合わせようとするが、伏射姿勢からの上空の射撃は狙いにくい。
ペイルライダーはワイヤーロープへ飛びつき、ロングジャンプを繰り返し、ダインの近くに着地する。

シノン「STR型なのに装備重量を落として、三次元機動力をブーストしているんだわ。 しかも、軽業スキルがかなり高い。」

シノンの呟きと同時にダインが膝立ちになり、トリガーを引いた。
しかし、この攻撃はペイルライダーに読まれていた。
ペイルライダーはコンパクトな前転をし、放たれた銃弾を回避した。

ダイン「なろっ、」

ダインは空になったマガジンを素早く交換しようとするが、先にペイルライダーが右手に携えているアーマライトの火が吐いた。

ダインは二十メートルから、ショットガンの銃弾を受け大きく後ろに仰け反る。
しかし、ダインは手を止める事無くマガジンの換装を終えて、再度頬付けしようとする。
だが、二度目の轟音が響いた。
距離を詰めていたペイルライダーの一撃は、再びダインの上体を大きく仰け反らせた。
再度距離を詰め、AR17をリロードし、三度目の散弾の嵐がダインのHPを0にした。
ダインのアバターは完全に動きを止め崩れ落ち、身体の上に【Dead】の文字が浮かび出上がった。

キリト「あの青い奴強いな。」

シノンはへカートの安全装置を解除し、短く囁いた。

シノン「あいつ、撃つわよ。」
キリト「ああ、解った。」

シノンがトリガーを絞ろうとした瞬間、それは起こった。
ペイルライダーの青い迷彩服の右肩に、小さな着弾エフェクトが閃き、同時に痩身が弾かれ左に倒れ込んだのだ。
ペイルライダーが狙撃されたのだ。
川の対岸、深い森の奥に眼を向けた。
この方向から狙撃が行われたので、俺は反射的に全集中力を聴覚に向けた。
ライフルの発砲音の方向を捉える為だ。
だが、聞こえてくる音は川のせせらぎと、風鳴りだけであった。

シノン「聞き逃した?」

呟いたシノンに俺が小さく応じた。

キリト「いや、間違えなく何も聞こえなかった。 どういうことだ?」
シノン「考えられるのは、作動音が小さな光学ライフルか、あるいは、実弾銃ならサプレッサ付きだけど。」
キリト「さ、サプ?」
シノン「減音器のことよ。 銃の先っぽに付けて発射音を抑える装置。」
キリト「あ、ああ。 サイレンサーのことか。」
シノン「そうとも言うけど。 ともかく、それを付けたライフルなら相当発射音が抑えられるわ。 命中率や射程にマイナス補正がかかるし、消耗品のくせに馬鹿高いけどね。」
キリト「な、なるほど。」

俺は再びペイルライダーを見た。
だが、ペイルライダーは起き上がる気配すら見せない。
もし一撃で死亡したなら、身体の上に【Dead】の文字が浮かび上がるはずだ。
生きているのに、何で其処から逃げようとしない?
シノンが囁いた。

シノン「そういえば、キリト。 あんたいったい何処から現れたのよ? 衛星スキャンの時には、この山の周囲には居なかったでしょ。」
キリト「あ、ああ、そのことか。 俺は川を泳いでいたからな。」
シノン「ど、どうやって?」

俺は肩を竦めて答えた。

キリト「装備は一旦全部外したよ。 スターテス窓から解除した武装はアイテム欄に戻るから、手で運ぶ必要が無くなるのは、《ザ・シード》規格のVRMMOの共通ルールだからな。」
シノン「・・・そのアバターでアンダーウェア姿を披露したら、外の中継を見ているギャラリーは大喜びだったでしょうね。」
キリト「外部中継ってのは、原則的に戦闘以外は映さないんだろ。」

シノンは『フン』と鼻を鳴らした。

シノン「ともかく、川を潜っていれば《サテライト・スキャン》に補足されないってことね。 覚えとくわ。 でも、あんたはペイルライダーを追って来たんでしょ。 あいつは強いと思うけど、大した奴ではなかったみたいよ。 一発大きいのを喰らっただけでビビって立てなくなるようじゃ、とてもこの先、」

『勝ち残れない』、と続けようとシノンの言葉を、双眼鏡を両目に付けた俺が遮った。

キリト「いや、違うようだぞ。
よく見ろ、あいつのアバターに、妙なライトエフェクトが、」

シノンはスコープの倍率を上げる。

シノン「あれは、、、電磁スタン弾よ。」
キリト「な、何だそれ?」
シノン「名前通り、命中したあと暫く高電圧を生み出して、対象を麻痺させる特殊弾よ。 でも大口径のライフルでないと装填出来ないし、そもそも一発の値段がとんでもなく高いから、対人戦で使う人なんかいない。 パーティでもMob狩り専用の弾なのよ。」

ペイルライダーの拘束するスパークも薄れ始めてきていた。
その時、橋を支える鉄柱の陰から黒いシルエットが姿を現した。
ボロマントが歩を進め、これまで体に隠れていた主武装が露わになった。
それは《サイレント・アサシン》。
正式名は、《アキュラシー・インターナショナル・L115A3》。
この銃は対物ライフルではなく、人間を狙撃する為に作られた銃なのだ。
撃たれた者は射手の姿を見ることなく、死に逝く間際にも銃声を聞くことない。
与えられた通り名が――≪沈黙の暗殺者≫。
それに加え、一時期は世界最高狙撃距離記録を出していたスナイパーライフルでもある。

奴はペイルライダーに向かって近づいていく。
それから、奴はハンドガンを取り出した。
だがハンドガンでは、ペイルライダーのHPを一撃で吹き飛ばす事は不可能だ。
奴はフードに額を当ててから、胸に動かし、さらに左肩、右肩へ持っていこうとする。
いわゆる、十字を切る行為だ。
あれは、ステルベン、死銃だ。

キリト「シノン、撃て。」
シノン「え? どっちを?」
キリト「あのボロマントだ。
頼む早く撃ってくれ、早く!」

シノンはヘカートのトリガーに人差し指を移動させ、トリガーを絞った。
次いで轟音。
命中してボロマントのアバターが、吹き飛ぶと思った。
しかし。
ボロマントは上体を大きく後ろに傾け、ヘカートの弾丸を回避したのだ。

シノン「あ、あいつ、最初から気付いていた。 私が此処に隠れていることに、」
キリト「まさか!
奴は一度もこっちを見ていなかったはずだ!」

シノンは小刻みに首を振る。

シノン「あの避け方は、弾道予測線が見えていなければ絶対に不可能。 つまり、何処かの時点で私の姿を目視して、それがシステムに認識されたってこと。」

ステルベンはハンドガンをペイルライダーに向けると、親指でハンマーをコッキング。 左手にグリップ添え、半身の状態でトリガーを引いた。
小さな閃光と、乾いた銃声の音が聞こえた。
ペイルライダーはスタンから回復し、全身をバネのように起こし、ARショットガンをボロマントの胸に突き付けた。
だが、ペイルライダーは苦しみだし、ARショットガンを地面に落とした。
ゆっくりと傾き、地面に横倒しになった。
胸の中央を掴むような仕草を見せた、その直後、ペイルライダーはノイズを思わせる不規則な光に包まれ、消滅した。
最後に残った光が、【DISCONNECTION】という文字を作り、溶けるように消えた。

シノン「あいつ、他のプレイヤーをサーバーから落とせるの?」

シノンの呟きに俺が答えた。

キリト「いや、違う。 そうじゃない。 そんな生温い力じゃない。」
シノン「ぬるい? どこがよ、大問題でしょ。 チートもいいところだわ。 運営は何してるの」
キリト「そうじゃない。 あいつは、サーバーを落としたんじゃない。 殺したんだ。 たった今、ペイルライダーは、ペイルライダーを操っていた人間は、現実世界で死んだんだ!!」
シノン「な、」
キリト「あいつは、《死銃》、《デス・ガン》だ。」
シノン「デス、ガン。 それって変な噂の? 前に大会で優勝した《ゼクシード》と《薄塩たらこ》を撃って、撃たれた二人がそれっきりログインしてないっていう。」
キリト「ああ、そうだ。 現実世界で二人は死んでいた。 あいつが何らかの方法で、本当にプレイヤーを殺せるのは確かだ。 俺達は死銃と接触を図るため、この世界に来たんだ。」
シノン「でも、私には信じられない。 ゲームの中で撃たれただけで、本当に死ぬなんてこと。 その話が真実なら、あのボロマントは自分の意志で人を殺せるんでしょ? 有り得ない、信じたくない、そんな人がGGOに、VRMMOに居るはずがない。 私は認めたくない。 PKじゃなく、本当に人殺しをするVRMMOプレイヤーが居るなんて、」
キリト「いや、居るんだよ。 あのボロマント、《死銃》は、俺の居たVRMMOで沢山の人を殺した。 相手が死ぬと解っていて剣を振り下ろしたんだ。」

この言葉で、俺がSAO帰還者という事が知られてしまったのは確実だ。
シノンがこの言葉を受け取り、大会イベント中、安全な場所に隠れてくれれば、
シノンは小さく息を吐き、答えた。

シノン「正直、あんたの話をすぐに信じられないけど。 でも、全部が嘘や作り話だとは思わない。」
キリト「ありがとう、それだけで充分だ。」

俺が頷いたと同時に、三回目のサテライト・スキャンが行われた。
俺は急いでマップを表示させ、光点を数えた。
まだ生き残っているプレイヤーが十五人。
死亡したプレイヤーが十一人。
合計二十六人。

キリト「数が合わないぞ」

BoB本戦に参加している人数は三十人居たはず、回線切断で消えたペイルライダーの他に、もう三つ光点が足りない。ステルベン、hope、グレイだ。
そいつは遠ざかっているか、それとも近づいているか解らない。
後者の場合は、奇襲という可能性も捨てきれない。

シノン「それで、あんたはこれから如何するの?」
キリト「ああ、死銃を追う。 これ以上誰かを、あの拳銃で撃たせるわけにはいかない。」
シノン「私も一緒に行くわ。 それに、《死銃》が何処に行ったか判らないんだから、一緒に居ようが居まいが、危険度は同じでしょ。」

確かに、シノンの言う通りなんだが、
俺は一瞬迷ってから肩の力を抜き、

キリト「ああ、解った。 俺と行動しよう。 死銃を追うと同時に、他の皆と合流する。 川の向こうにシンタローとエネ、サクマが居た。」
シノン「了解。」

俺とシノンは、走り出した。

~side out~ 
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