SAO~円卓の騎士達~
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第五十六話 BoB本選開始
~和人 side~
昼食を食べてから数時間後。
俺は前日のようにバイクに跨って自宅を出て、御茶ノ水の総合病院がへ向かった。
バイクを停めると入院病棟三階に足を向けた。
その途中でシンタローと拓真と一緒になった。
指定された病室のドアをスライドさせると、病室内には安岐さんが待っていた。
文庫本に眼を落していた安岐さんは、読んでいたページを閉じて微笑んだ。
安岐「いらっしゃい。 今日もよろしく!」
和人「よ、よろしく。」
拓真「今日もよろしくお願いします。」
俺達は会釈してから、病室に足を踏み入れた。
安岐さんはニコッと笑い、
安岐「さ、電極貼るから脱ごうか。」
和人、拓真、シンタロー「「「はい」」」
安岐「今日はすんなり脱ぐのね。」
安岐さんは『ちぇー』と言っていたが。
ベットに横になると、電極を上半身にペタペタと貼られた。
和人「それじゃあ、今日も4~5時間位潜りっぱなしだと思うので、」
安岐「三人の体はじっくり、じゃなくて、しっかり見てるから、安心して行ってらっしゃい。」
和人「安岐さん!!」
俺たちが言うと、安岐さんは舌をぺろっと出し、笑みを浮かべた。
それからアミュスフィアを頭に被せ、電源を入れると、スタンバイ完了を告げる電子音が響いた。
「「「リンク・スタート」」」
俺達が叫ぶと、遮断されていく五感の彼方で安岐さんの声が聞こえた。
安岐「行ってらっしゃい、《英雄キリト君》、《孔明の再来、シンタロー君》、《双子の兄、龍騎士サクマ君》」
・・・・・・・なぬ。
と思う間もなく、俺達の意識は現実世界を離れ、銃の世界に誘われていった。
~side out~
~キリト side~
俺が降り立ったのはGGO世界の首都《SBCグロッケン》の北端、総督府タワーに近い路傍ろぼうの一角だった。
黄昏色の空をバックに、賑やかなホロネオンの群が流れていく。
その殆どは、現実世界に実在する企業の広告だ。
それらの中でも一際目立つのは、間もなく開催される《第三回バレッド・オブ・バレッツ》大会の告知であった。
俺は息を吐きながら顔の向きを戻すと、無意識の動作で肩に掛かる髪を背中に払った。
それに気付き己の仕草にげんなりするが、アバターになれたという事で無理矢理納得する。
シンタロー「よう。」
サクマ「さっきぶり。」
キリト「あぁ。 さっきぶり。」
エネ「あら、偶然ね。」
コノハ「やあ、皆。」
すると周りから、『おい、あいつら』、『あぁ、バーサーカー二人に煉獄の狙撃主だ。』、と言う声が聞こえてくる。
こう言われる理由は昨日の予選トナーメントで、対戦相手の銃から放たれる銃弾を光剣で斬りまくり、特攻して勝負を決めたことが周知にされているからだろう。
サクマ「随分と、有名になっちまったな。」
キリト「あぁ。 もっとも、シンタローは前回大会からだろ。」
俺達は、総督府を目指して足を進めた。
道中を歩いている時、首にサンドカラーの長いマフラーを巻き、水色の髪をした少女を見つけた。
彼女の背後まで移動し、名前を呼んだ。
キリト「よ、シノン。」
マフラーの尻尾がぴたりと止まり、水色に髪が僅かに逆立つ様は、まさしく猫のようだ。
右足を軸にして少女は振り向き、
シノン「キリトとサクマ、それとシンタローか。 今日の本戦よろしくね。」
キリト「よろしく。」
サクマ「こちらこそ。」
総督府ホールの一階端末で本戦エントリーの手続きを済ませた後、総督府地下一階に設けられた酒場で時間を潰すことにした。
天井に設けられた幾つもの大型パネルモニタが、眩い原色の映像を流している。
俺たちは窓際のブース席に座り、アイスコーヒーを注文した。
金属テーブルの中央にガチャリと穴が空き、奥からコーヒーが注がれたグラスが出現した。
コーヒーを一口飲み、俺が口を開いた。
キリト「本戦のバトルロイヤルって、同じマップに三十人がランダムに配置されて、出くわしたら戦って、最後の一人が優勝って事でいいんだよな?」
サクマ「シノン、レクチャー頼めるか?」
シノンは呆れたように、
シノン「貴方たち、運営が参加者に送ってきたメールを読んでいないの?」
キリト「まぁ、読んだは読んだんだけど、」
正確には、一度ざっと読み流しただけだが。
ゲーム内で再度しっかり読みこんでおこうと思っていたが、その前に熟練者ベテランのシノンに直接レクチャーして貰った方が早い、などとは断じて思っていないぞ。
シノンはグラスをテーブルに置き、一息吐いてから、本戦のルール説明を開始してくれた。
シノン「本戦はさっきキリトが言った通りよ。 参加者三十名による同一マップでの遭遇戦。 開始位置はランダムで、どのプレイヤーとも最低千メートル離れているから、いきなり目の前に敵が立っている事はないわ。 本戦のマップは直径十キロの円形。 山、森、砂漠、川ありの複合ステージだから、装備やスターテスタイプでの一方的な有利不利は無し。」
キリト「ちょっと、ちょっと待て。 十キロもか!?」
浮遊城アインクラッドの第一層と同じサイズだ。
つまり、一万人が入ることが出来るあのフロアに、三十人が千メートルも距離を開けて配置されるということだ。
キリト「ちゃんと、遭遇出来るのか? ヘタをすると、大会時間終了まで誰とも出来わさない可能性もあるぞ。」
シンタロー「アホか。 銃で撃い合うゲームだ、それくらいの広さは必要なんだ。 スナイパーライフルの最大射程は一キロ以上はあるし、アサルトライフルでだって五百メートルくらいまで狙える。 狭いマップに三十人も押し込めたら、開始直後から撃ち合いになって、あっという間に半分以上が死んじまう。 お前らは、銃弾を光剣でぶった斬りそうだけどな。 でも、キリトが言った通り、遭遇しなきゃ何も始まらない。 それを逆手に取って、最後の一人になるまで隠れていようって考える奴も出てくるだろう。 だから参加者には、《サテライト・スキャン端末》っていうアイテムが自動配布される。」
サクマ「何だそれは?」
エネ「十五分に一回、上空を監視衛星が通過する設定よ。 その時全員の端末に、全プレイヤーの存在位置が表示されるのよ。 マップに表示されている輝点に触れれば、名前まで表示されるおまけ付き。」
サクマがシノンに聞いた。
サクマ「つまりは一箇所に隠れられる時間は、十五分が限界ってことか?」
シノン「そういうことね。」
キリト「そんなルールがあるなら、スナイパーは不利じゃないか? 茂みに隠れてじーとして、只管ひたすらライフルを構えているんだろ?」
俺がそう言うと、シノンは鼻を鳴らした。
シノン「そうでもないわよ。 一発撃って一人殺して一キロ移動するのに、十五分もあれば十分すぎるわ。 今度こそあんたの眉間に、へカートの弾丸を撃ち込んであげるわ。」
サクマ「さ、さいですか。」
最後に、俺が今までの情報を纏める。
キリト「つまり、試合が始まったら兎に角とにかく動きながら敵を見つけて倒して、最後の一人まで頑張る。 十五分ごとに全プレイヤーの現在位置が手元のマップ端末に表示されて、誰が生き残っているか判るってことか?」
シノン「その理解で間違っていないわ。」
シノンは左手首に装着した、ミリタリーウォッチを見て時刻を確認した。
俺達もその動作に釣られて確認をする。
本戦スタートまで、残り一時間を切った所だった。
シノンは笑みを浮かべた。
シノン「もうレクチャーは十分ね。」
俺達は頷いた。
シンタロー「じゃあ、待機ドームに移動するか。 装備の点検やウォーミングアップの時間がなくなる。」
キリト、サクマ「「ああ。」」
そう言ってから、俺たちは席を立ち上がった。
酒場の隅にあるエレベータまで移動し、シノンは下向きのボタンを押した。
金網がスライドし、鉄骨の箱が現れる。
それに乗り、俺が一番下のボタンを押す。
シノンが言った。
シノン「あなた達全員、最後まで生き残るのよ。 特にサクマとシンタロー。 あなた達二人とはもう一度勝負したいから、私以外の奴らに撃たれたら許さないからね。」
シンタロー「お前含め、誰にも撃たれる気は無いから安心しろ。」
サクマ「同じく。」
三人が睨み合っていると、エレベータが乱暴に停止した。
「ナイスタイミング、エレベーター!」と思いながら俺達は、硝煙の臭いがする控え室に踏み込んだ。
控え室に入った後シノンと別れ、控え室の一番端に腰を下ろし、今後の事を話し合う。
サクマ「シンタロー、この前話した事と死銃について、何かわかったか?」
シンタロー「恐らく、死銃はこいつだ。 『Sterben』、読みはステルベン、ドイツ語で日本でも医学用語として使われている。 意味は『死』だ。」
キリト「じゃあ、他の二人のプレイヤーは?」
シンタロー「分からん。 だが、死銃が本選出場初なのを考えると、他の二人も初出場者だと考えられる。 で、初出場者で、聞かない名前なのが、『ペイルライダー』、『銃士X』、『hope』、『グレイ』、の四人だな。」
キリト「確率にして、二分の一か。」
シンタロー「取り合えずここにいる五人で、この五人をそれぞれマークしよう。 で、違うと分かったら即、近くにいるメンバーと合流。」
エネ「そうね。 それで行きましょう。 私はペイルライダーを追うわ。」
コノハ「じゃあ、僕は銃士Xを、」
サクマ「俺が、hopeだな。」
キリト「俺はグレイ。」
シンタロー「相手もお望みみたいだし、ステルベンだな。」
それぞれ役目を決めると、俺達は席から立ち上がる。
残り時間は後十秒。
キリト「じゃ、武運を祈る。」
サクマ「あぁ。 武運を。」
エネ、コノハ、シンタロー「「「武運を。」」」
俺達の体を青い光が包み、本戦フィールドに転送した。
さぁ、戦闘開始だ。
~side out~
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