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=戦闘訓練編= ネライセレクト
「水落石、どう来ると思うよ?」
「正面突破あるかもな。入試でちらっと見たんだけど、アイツ動きパねぇぞ」
核ミサイルの前で水落石と峰田を待ち構える切島の質問に、瀬呂は真面目な顔で答える。峰田もそうなのだが、水落石の『個性』を把握していない二人の間には結構な緊張感が漂っていた。戦う前はあんなふざけた態度だった水落石だが、少なくとも瀬呂の見立てでは楽して勝てる相手ではない
「マジで?確かに十手とか持ってるけど全然イメージ沸かねーな」
「確かに見た目はフツーだけど、あいつ滅茶苦茶アグレッシブに動くんだよ。ロボットとの戦いでもロボットの動きを利用して別のロボット倒したりさ。なんていうの?柔よく剛を制すじゃないけど周囲のモノを利用して動くのが巧いんだよなぁ」
「つまり強化系の『個性』か!」
「うーん、正直強化系にしてはそこまでド派手な動きはしてなかったから微妙だな」
「努力系かよ?余計に苦戦の予感だぜ」
そして数分後――そこには。
「フハハハハハ!どうだ俺達の完璧なコンビネーション!!」
「ざっけんなコンニャロー!!こっ、こんな卑怯な手ぇ使うとかそれでもヒーローかよッ!?」
「そんな事よりこれ、ちょっ、動けねえんだけど!?あっつ、おっも、むっさ!?」
「くくく……良い様だなヴィランが!俺も動けんがな!!という訳で峰田もぎもぎ取ってくれ!!」
もぎもぎと連結した十手によって床とくっつけられた切島と、全身にもぎもぎを装備した水落石に抱き着かれて完全拘束された瀬呂、そして意気揚々と核ミサイルをタッチする勝ち誇りすぎで腹立つ顔の峰田の姿があった。
『……これはひどい』
ヒーローチームの勝利宣告より前にオールマイトが呟いたのは、その光景を見ていた全員が思ったことだった。
時を遡り――開戦当初。
核兵器の部屋の場所を特定した水落石は隣の部屋から外の僅かなでっぱりを伝って内部を観察。二人が部屋の中で迎撃準備をしているのを確認した水落石は、かねてより峰田と共に計画していた作戦を実行した。
まず、水落石が十手を持って真正面から切島に喧嘩を売る。
「来いや切島ぁ!!一騎打ちだ!!」
「来たかよ、水落石!!受けて立つぜぇ!!」
そしてさり気なく瀬呂との間に切島を挟むように立ち回り、十手の切っ先にくっつけたもぎもぎを切島にぶつける。すると驚異の粘着力でもぎもぎと十手が固定される。
「効かねえぜこんな……ってアレ?なんだこれ取れねえ!!」
「かかったなアホが!それは峰田の超粘着物質よ!!そして実は十手の柄の下にもくっついてたりして。そしてその粘着物質が現在進行形で床にくっついてたりして!!」
「うおおおおお!?ゆ、床にくっついて取れねえ!?」
「今やお前はリードで縛られた犬状態よ!!おおっと、床を壊して強引に動こうなどと思うなよ!?手元が狂えばお前の手までくっつくからな!!ちなみに十手は超合金製のスゴいのなので折ろうとしても無駄無駄無駄ァ!!」
狡いさすが水落石狡い。最も防御力が高く近接戦闘で勝ち目の見いだせない切島を倒す為に自分の十手と相方の個性を惜しげもなく使用した激セコ作戦は見事に成功した。……まぁ、これは十手の先端に付着したまんまる物質に対する警戒が薄かった切島の自己責任でもあるが。
しかし、こうなると黙っていられないのが瀬呂である。
「こ、こんな間抜けな方法で負けられるか!後は俺が食い止める!」
だがしかし、瀬呂はここで致命的なミスを犯していた。それは自ら罠の為に周囲に張ったテープトラップである。実は瀬呂のテープは横のスナップでがっちり相手を拘束できるのが強みだったのだが、テープが邪魔でテープ発射後の横の動きを大幅に制限されてしまったのだ。
加えて、ここで後方待機していた峰田が部屋に突入してきた。
「ピザーラお届けだオラぁぁぁぁ!!」
「ふはははは俺は右から峰田は左からの接敵だ!!さぁ目的が分散された今、瀬呂はどちらを狙う!?どっちを狙っても核ミサイルはピンチだぜ!!」
「んなもん……っていうかお前右からと言いつつ左から接敵してるし!!」
当然態と面倒な嘘をついて混乱を誘っているだけである。相手にしてはいけない。
しかし、瀬呂は考えた。体力測定で反復横飛びのみハンパなく早かった峰田の方が、戦いに慣れている感じのする水落石よりは捕まえられる確率が高そうだ。それに水落石があれだけわざとらしく自分の存在をアピールしているのは恐らく自らが囮となる為だろう。
それに、水落石のいる場所は念入りにテープトラップを張っているので簡単にこちらには来れない位置にある。
「という訳で峰田覚悟――」
「かかったなアホが!この程度のトラップで俺の動きを止められるか!!」
「どわぁぁぁ!?水落石がものっそいヌルヌルした動きでトラップを躱して接敵してきたぁぁぁッ!?」
これは自分の個性を全力で使って「テープに引っかかる未来」を徹底的に排除、最適化したことによって可能になった超ヌルヌルダッシュである。そんなしょうもないことに個性を使うなと思うかもしれないが、本人なりに必死なのだ。
あとは大体予想通り、急接近した水落石に反応が遅れた瀬呂は水落石のだいしゅきホールドを喰らった上に後から来た峰田によって絶対に拘束が解けないようにもぎもぎされ、これでヴィラン組は完全に動きを封殺された。
= =
「ひどい戦いでしたわね……しかも水落石さんの作戦が悉く嵌っているのが余計に……」
「うむ。あの粘着物質、服を着ていれば破れること覚悟で引きはがすことも出来ただろうが、上半身を露出した切島くんでは無理だ。しかも十手が長すぎてつっかえになり、床と十手を接着する部分に手も足も届いていなかったな」
「切島が封殺されるまで峰田を戦闘に参加させなかったのも、二人同時に逆方向に移動したのも理に適ってやがる。恐らくあの時点で瀬呂がどっちを狙おうが負けは確定してたろうな」
「それにしても、瀬呂くんを完全に封殺ために抱き着いてもぎもぎを付けるなんて水落石くんも念入りよね」
上から順に八百万、飯田、轟、蛙吹である。4人全員が微妙にげんなりしているというか、むしろ勝った峰田以外全員がげんなりした顔をしている。オールマイトはなんとかいつもの顔だが、流石に奇策全開の水落石にどう評価をつけるか悩んでいるようだったが、すぐに答えを出した。
「峰田少年の個性をフルに活用し、奇策頼みと思わせながらも確かな勝算を以って行動している……確かに見た目は緊張感が欠けるようにも見えるが、事前の偵察も含めて結果はベストに近い。ヒーローとしての態度に難があるがトリッキーだな、水落石少年!頑張ったと思うぞ!!」
素晴らしい高評価と言えなくもない。しかし俺的には嬉しくない。
「もう二度と作戦立案したくねぇ。何が楽しゅうて野郎にだいしゅきホールドなんぞせねばならんかったんだ」
「何でってお前、テープで拘束判定狙うと揉み合いになって失敗のリスクが高まるって自分で言ってただろ」
「そう、言い出しっぺは何を隠そう俺さ!!だから余計に嫌なんだよ!!」
「抱き着かれた側より抱き着いた側の方がダメージ大きいのかよ……」
ホールドされた末に負けた瀬呂の飽きれた目線が突き刺さる。
「まさに『格好悪くても勝てればいい』を体現したね、ミスター水落石……」
「そっと肩に手を置くな。余計に心が痛くなる」
「大丈夫?おっぱい揉む?」
「冗談でもやめてくれ、葉隠。自分が惨めになる」
= (水落石の)削岩と葉隠への好感度が下がった!(一時的) =
さて、ガッツリカット行きます。
ぶっちゃけUSJ編までの間に原作と違った部分はなかったと思う。周囲に奇策士として認識されたりデクくんに個性について根掘り葉掘り聞かれたので「葉掘りって部分はどういう事だああ~~~っ!?葉っぱが掘れるかっつーのよーーーーーッ!」と軽くボケをかましたりしてた。
なお、その間に付母神ちゃんが「クラスの皆と友達でいたいから」と言いながらかっちゃんや轟などとっつき辛いメンバーに果敢に挑んではおそろいのキーホルダーをあげたりと大天使なことをしたりしていた。余りに健気すぎてかっちゃんさえ妥協する(というか多分彼の苦手なタイプだ)天使っぷりである。俺にも一個さくらんぼのキーホルダーくれた。ロボ可愛い。
さて、明日実戦である。それも訓練でなくてガッチガチな奴。
既に明日の夢は見た。俺が目立った動きをしなければほぼ原作と変らない展開が待っている。
ここで問題だ。
俺は今後何もすべきでないだろうか?
それとも行動を起こすべきか?
(考えを纏めるか……)
まず、今回の件についての不確定要素について。
ヴィラン襲撃があるのは確実だが、現在のヴィラン連合は戦力が碌に揃っていない筈だ。俺の未来視でも重要人物である黒霧と死柄木、そして対オールマイトを想定した脳無以外に増えたっぽい顔ぶれはなかった。
ザコヴィランの中にキレ者が増えている可能性は否定できないが、学園の枠が広がったのと同レベルの戦力上昇があるとは考え難い。
訓練で分かったが、砥爪は個性の使用に不慣れな代わりにそれ以外のスペックが軒並み高い。しかもその個性もぶっ放しで敵を吹き飛ばす分に関しては凄まじい威力と攻撃範囲だ。極めれば轟に並ぶ可能性を秘めている。
削岩は頭脳に少々の不安はあるものの、喧嘩慣れしているのか意外に立ち回りが安定しており、単純な戦闘能力なら上から数えた方が早い位置にいる。
ロボ子ちゃんこと付母神は……ポテンシャルは高いようだが、とにかく戦い慣れていないのか現場でテンパって色々とビックリドッキリ攻撃を乱発していたので何とも言えない。まぁ、友達を傷つけられたら覚醒するタイプなので大丈夫だろう。
(となると別の面子のフォローは基本的に必要なし。一番無難な策としては13号と黒霧の戦闘現場に取り残される居残り組になることか)
ここまでは消極的な策。ここからはより未来を見据えた戦略的な策。
(デクくん死亡を回避するために拾える条件はないか……?)
第一条件、オールマイトの負担をどうにか減らしてリミットを伸ばす。
これは実行がほぼ不可能な上に、恐らくあまり意味がない。細かい運命を変えても大本の運命がデカすぎるのだ。取りあえず彼に余計な負担がかからないよう「余計なことはしない」というのが重要と思われる。
第二条件、死柄忌・黒霧捕縛によるヴィラン連合の戦力ダウンもしくは消滅。
これまた不可能+恐らく意味なしだ。触った部分を問答無用で崩す上に単純に実力が格上な死柄忌はもちろん、黒霧も原作だと不意さえ突かれなければかなり厄介だ。脳無の存在とオールマイトのタイムリミットを加味すれば……後は推して図るべし。
更に、仮にこの二人のどちらかを捕まえてもバックに控えるオール・フォー・ワンがそれを黙って見過ごすとは思えない。最悪の場合、なりふり構わず乱入してきてこちらがお陀仏だ。
第三条件、デクくんの骨折による爆弾抱えの回避。
度重なる個性の酷使で「次に同じように折れたら動かなくなるよ」と衝撃の事実を叩きつけられるであろうデクくんをフォローしてなんとか負傷を減らそうという策。これは出来なくはなさそうだ。しかし、余計な手助けをしてデクくんの成長にどういう影響が出るのかが未知数なので、あまり積極的にやりたくはないと言うのが本音だ。
(となると、最後に残るのは……相澤先生の個性弱体化の回避だな)
原作通りなら、相澤先生は脳無の攻撃のダメージからか個性が少しばかり弱体化してしまう。これが今後どのように響くか不明だが、あまりいい方向には働かないだろうという想像はつく。絶対条件ではないが、出来るならば狙っていきたいところだ。
(方向性決まり。俺は黒霧の転送に巻き込まれずに現場に残され、ついでに相澤先生を心配して乱闘現場をずっと見てる。そして可能なら俺の道具を渡して原作より頑張ってもらう。さて、そうなると問題は………ヴィラン連合が現れたときに事情知っているの怪しまれないように迫真の演技をすることだな!!)
思いつく問題がこれ一つしかなかった辺り、俺の作戦立案能力は全然大したことないのだと思う。
所詮は素人考えだし、独りよがりだし、計画性もないし、みんなに個性でウソついてるし。それでも――それでも、やっぱり俺はデクくんのファンなんだよ。
だから、さ。
翌日になって、時間になって、連中が現れて――。
「全員一塊になって動くな!!あれは……敵だ!!!!」
例え相手が途方もない悪意で、それに立ち向かう俺がちっぽけな存在だったとしても……出来ることは、やるさ。
正義でなくとも、勇者でなくとも、俺は俺にしか出来ない事の為に戦ってやる。
後書き
もう更新されないと思ったか?かかったなアホが!
などと言いつつ、原作でとうとう未来の見える個性が登場してしまいました。
サーの能力の詳細がわからない以上迂闊に続きが書けない今日この頃。
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