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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第63話「暴走体と勘違いと」

 
前書き
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
...と、テンプレな挨拶を済ませて、いつも通り本編へ行きます。
 

 






       =優輝side=







   ―――...葵がいなくなった。





 朝起きてみれば、葵の姿が家のどこにもなかった。

「見つかったか!?」

「いえ...見つからないわ...。」

 家の中を隈なく探し、尚且つ周辺も探してみたが、葵は見つからなかった。

「...一体、どこに....。」

「...いないだけじゃない。....霊力のパスが...。」

 そう、ただいないだけならどこかに行ってると思えるだろう。
 しかし、葵との間にあるはずの霊力的な繋がりが起きた時からなくなっていた。

「......まさか.....。」

「...そうは、思いたくないが....。」

 一晩の間に、葵の姿が消え、途轍もない嫌な予感に見舞われる。

〈....昨晩、ジュエルシードを探索するまでは健在でしたが...。〉

「それ以降は分からない...か。」

 一番最後に接触したシュラインに聞くも、大した情報は得られない。

「ともかく、霊力のパスが切れているという事は、何かしらの方法で遮断された状況下にいるか、それとも既に幽世に還ってしまったか...。」

「葵が殺されたって言うの?そんな事...!」

 “ない”とは言い切れない状況が、今である。
 僕の偽物ならば、寝ているとはいえ、僕らに気づかれる事なく葵を殺せるだろう。

「...でも、だとしたら、なぜ僕らは生きている?」

「っ...そうよね...葵だけを狙う必要なんてないんだし...。」

 葵が一人でいたから狙った?
 ...そうだとして、もし葵が殺されたなら、なぜ僕らは無事なんだ?
 偽物は僕ら三人ともを殺そうとしていた。寝ている僕らなら暗殺する事など容易に可能だろう。それなのに、今無事でいるのは....。

「葵がまだ戦っているか、もしくは偽物を撤退させる程の傷を....?」

「...そうなるわね...。」

 元々、僕ら三人が瀕死だった時になぜ追撃されなかったっていう疑問もあるが...。
 とにかく、今の状況から割り出せるのはこの程度だろう。

「(...何か、違和感が....。)」

 しかし、どことなく、偽物に対して違和感があった。
 まるで、行動全ての詰めが甘いような...敢えて見逃しているような...。

「....ジュエルシード探索と並行して、葵の行方も探そう。原因が偽物なら、ジュエルシードを探すうえで何かわかるかもしれないしな。」

「...そうね。ジュエルシードも、放っておけない...。葵を信じましょう。」

 葵の安否は、僕も椿も心配だ。
 だけど、だからこそ葵を信じて、僕らは予定通りジュエルシードを探しに行く。

〈探しに行くのであれば、少し助言を。〉

「ん?」

 家から出た所で、シュラインから念話で助言を貰う。
 曰く、司さんにとって印象深いと思える場所について。
 昨夜、葵にも教えたらしい場所の事を教えてもらった。

「...僕とリヒトが出会った場所か...。」

 辿り着いたのは、かつて緋雪達が誘拐された倉庫。
 司さんにとっても、この時の事は結構印象深いだろうと、シュラインは言っていた。

「...椿、何か感じるか?」

「そうね.....。」

 椿が地面に手を着き、霊力を水面に波紋を起こすように行き渡らせる。
 霊力による探知だ。魔力と違ってどこか神秘的だ。

「....空間の歪み....微弱だけどあるわね。」

「リヒト、どうだ?」

〈椿様の言う通りです。こちらでも空間の綻び...結界を発見しました。〉

 どうやら、早速当たりのようだ。...多分、葵も見つけていただろうな。

「...いつ偽物がやってくるかわからない。気を付けろ...。」

「ええ...。」

〈...では、行きます...!〉

 シュラインが魔力を発して綻びに干渉し、“穴”を開ける。
 そこから僕らは結界の中へと入っていった。







「...っと、あまり外と変わらないな。」

「でも、やっぱり少し違うわね。」

 結界内は、まるでビデオを再生しているかのように少しノイズがあるだけで、外の倉庫となんら変わりない光景が広がっていた。

「...で、ジュエルシードは...。」

「......。」

 そんな光景の中心に、佇む人影が一人。

「....なるほど。僕の姿か...。」

「...偽物...とは違うようね。」

 こっちも偽物ではあるが、“負の感情”らしき邪気が感じられなかった。
 おまけに、偽物よりも身長が低い...つまり、当時の僕の姿だった。

〈...間違いありません。あれは理性がない...つまり、ジュエルシードの暴走体と全く同じです。〉

「そうなのか?」

 暴走体と実際に戦った事はないが、シュラインが言うのならそうなのだろう。
 ...って、こっちに気づいたか...。

〈...唯一違う所と言えば...。〉

「っ―――!!」

〈―――その強さ、と言った所でしょうか?〉

 一瞬で間合いを詰め、僕にリヒト(見た目だけ)で斬りかかってくる暴走体。
 それを僕らは咄嗟に躱す。

「それはそれで厄介だな...!」

「優輝!援護するわ!」

 偽物とまでは行かないが、暴走体は強い。
 すぐさま御札から剣を取り出し、椿は援護に回って臨戦態勢を取る。

「(これは...僕を再現している?偽物のようにコピーしたのではなく...。)」

 導王流を導王流で相殺し、椿の矢は創造魔法による剣で防がれる。
 そんな中、僕は暴走体を観察する。

「(...相変わらず、霊力はない。...多分、再現できなかったのだろう。)」

 霊力を込めた一閃で暴走体を弾き飛ばす。
 身体強化や防御に込めていた魔力を霊力で削いだから弾き飛ばせたのだ。

「(...力や魔力自体は僕より上...だけど、やはり霊力の有無が影響してるな。)」

 相手は魔力。対してこちらは霊力。
 霊力は魔力を打ち消すので相性が良く、僕らが押していた。

「やはり...理性がない分、対処がしやすいっ!!」

 自分の戦い方は自分が一番理解している。
 理性がないので、戦法が常に変化する事がなく、容易に誘導する事ができた。

 霊力で魔力を削いで弾き、そこへ椿の追撃が迫る。
 暴走体の強さは把握したため、こちらが常に押している。

「....我ながら、厄介だなぁ...。」

「押してはいるのに、中々倒せないわね...。」

 戦況はこちらが圧倒的有利だ。おまけに既に小さいダメージなら与えている。
 でも、それでも暴走体は耐え凌いでいる。...まるで僕みたいにしぶとく。

「そこまで再現しなくていいじゃないか...。」

「理性がない分、そこからの逆転が脅威ではないから助かるけどね。」

 時間はかかるが、確実に勝てる相手。
 仕方がないので、僕らは辛抱強く暴走体が力尽きるまで戦った。









       =out side=





「ジュエルシードの反応、発見しました!」

「っ...!」

 優輝が倉庫で戦っている一方、アースラでも動きがあった。
 結局、クロノ達はロストロギアであるジュエルシードの回収を優先した。
 その過程で、優輝(偽物)を捕縛しようと決めたのだ。

「これは...結界!?ジュエルシードが単体で結界を...!?」

「...周囲に被害が出ないだけ、儲け物だと思え。...油断はできないが。」

 かつての事件とは決定的に何かが違う。
 そう思いながらも、クロノはなのは達を現場に向かわせた。

「(ジュエルシードとの戦闘経験が多いなのは達なら多少の事は大丈夫だろう。...だが、問題となるのは...。)」

 クロノはそこで優輝の顔を思い浮かべる。
 本当に優輝なのかと疑ってはいるが、優輝と同じ能力なら厄介だと思っているからだ。

「(もし優輝が現れたならば、現場の面子ではきついかもしれない。....いつでも出れるようにしておかなくては。)」

 何事にも対処できるような心構えで、クロノはサーチャーによる映像を見つめた。









「はぁあっ!」

 剣と剣がぶつかり、相殺し、互いに受け流し合う。
 そんな剣戟を、優輝と暴走体は幾度となく繰り広げる。

「(....まだ、倒れないのね...。)」

 もちろん、剣だけでなく、創造魔法による攻撃も暴走体は行う。
 だが、その攻撃は椿によって全て撃ち落とされていた。
 さらに、二人掛かりという事もあって、圧倒的に優輝達の方が優勢だ。

「これでっ!」

「っ、今よ!」

 剣を上に受け流し、すれ違いざまに暴走体の膝を斬りつけ、機動力を奪う。
 さらに、追撃で椿の矢が足に刺さり、暴走体はほとんど動けなくなった。

「っ....封印!!」

 すかさず優輝は五枚の御札を投げ、それで五行の陣を組み、霊力で封印する。

「....これいいのか?」

〈...はい。暴走する気配はありません。霊力での封印でも問題ないかと。〉

「よし、それならいいか...。」

 今、結界内に魔法による封印をできる者はいない。
 優輝はリンカーコアを損傷しているし、椿は魔法を使えない。
 リヒトとシャルも単体で封印魔法は使えず、唯一使えた葵は今はいない。
 だから霊力による封印にしたのだ。

「まさか、そんな事に戦闘中に気づくとはね...。」

「あはは...焦ったよ。」

 そう、二人は戦闘している最中に、封印魔法が誰も使えない事に気づいた。
 さすがにそれだけで戦闘に支障を来す程動揺はしなかったが。

〈...!結界が崩れます。〉

「脱出する必要は?」

〈ありません。自動的に元の世界に戻されます。〉

 なら特に動く必要はないと、二人は体を休める。

「...暴走体とはいえ、やっぱりしぶとかった...。」

「そうね...。霊力と言うか...気力を削がれた気分だわ。」

 そんな会話をしながら、崩れていく結界を眺める。
 そして、結界が崩れ去ると....。





「っ....!!」

「っと...!...って、なんだ、皆か。」

 結界から出た途端、自身に向けられる敵意・警戒心に驚く優輝。
 すぐに魔導師組の皆だと気づいた優輝は、身構えようとした体を抑える。

「(連絡が取れなかったし、そっちから来るのはラッキーだったな。)」

 そう思って近づこうとして...すぐにそこから飛び退く。

「...おいおい。一体なんの真似だ?」

「しらばっくれるな...!お前の好きにはさせない....!!」

 攻撃してきた相手...神夜はそう言って、さらに追撃を放ってくる。

「なんの話だ...っ、くっ...!」

 アロンダイトによる一閃を逸らし、フェイトの背後からの攻撃をしゃがんで躱し、そこへ襲い来るなのはのシューターを地面を滑るようにして避ける。
 さらにそこへ奏の連撃が入り、その間合いから離れると、帝からの王の財宝による絨毯爆撃が降り注ぎ、一旦落ち着く暇もない。

「(喋る暇がない!念話も今はできないし...くそっ!)」

 連携攻撃を魔力を使わずに捌く優輝。
 霊力による身体強化をしているが、それでは喋る余裕はなかった。

「はぁああっ!!」

「っ、ぐっ...!」

 アルフの拳を受け流しきれずに、受け止める形となってしまう。
 さらに、そこへユーノのバインドが入り、身動きが取れなくなる。

「これで...終わり...!」

「っ....!」

 そして、トドメとして奏のハンドソニックが迫り.....横からの矢に弾かれる。

「...私を忘れては困るわ。」

「...助かったよ。」

「その気になれば脱出できたでしょう?」

 椿によって助けられた優輝は、霊力を込めてバインドを破壊する。

「椿...!?なんで...!?」

「なんではこっちが言いたいわ。」

 あまりにも敵意がある。そう思って椿は臨戦態勢になる。
 優輝も、既に臨戦態勢になっていた。

「...こんな事してる場合ではないはずなんだがな...。」

「何...?」

 司や葵の事で急ぎたい優輝の言葉に、神夜が反応する。
 ただし、“自分を相手にしてていいのか?”という意味合いとして。

「....クロノ?クロノ!?」

「どうしたのユーノ君!?」

 念話しようとしていたのであろうユーノから、驚いた声が上がる。
 近くにいたなのはが、何があったのかと尋ねる。

「.....アースラとの通信が、切断された...!」

「なっ...!?」

 通信ができなくなった事に、神夜は驚く。

「(あの偽物...!アースラにまで手を...!それにこの反応...もしかして...。)」

 優輝は、状況を冷静に判断して、なぜ襲われているのかを推測する。

「(...あいつ、仲間割れさせる気か...!)」

「てめぇ....!!」

 偽物の意図に気づく優輝だが、途端に帝の王の財宝によって回避を強いられる。

「っ...!くっ...!」

 雨あられのように降り注ぐ武器群を、隙間を縫うように動いて躱す優輝。
 所々当たりそうになるのは、霊力を込めた拳で逸らして凌いだ。

「(去年の翠屋前の時と同じだな...。だけど、今は霊力も使える。連携を取らない王牙の行動のおかげで、他の奴の攻撃も今はない。...なら、まずは...!)」

 御札から剣を二振り取り出し、武器群を逸らしつつ接近する。

「(挑発して誘導、相討ちを狙う!)」

 比較的重い武器は避け、軽い武器だけを逸らすように弾いて行く。
 そのまま帝に一撃を入れれる。そう思える距離まで行った所で....。

「っ....!」

「はぁっ!」

     ギィイイン!

 武器群の合間を縫うように飛んできた魔力弾に進行を止められ、さらに追撃してきたフェイトの一閃を受け止める羽目になった。
 今の優輝は空を飛べないため、空中で受けた優輝はそのまま吹き飛ばされる。

「はぁああっ!!」

「っ、くっ....!」

「させないわ!」

     ギャリィイッ...!!

 追撃として神夜による一閃が迫り、優輝がダメージを覚悟にまともに防ごうとする。
 そこへ、椿が割って入り、短刀で受け止めて無理矢理逸らす。

「どうして...どうしてそいつの味方をする!」

「どうしてって...むしろそっちが攻撃してくるのが疑問に思えるわ。」

 互いに体勢を立て直し、警戒しつつも言葉を交わす。

「そいつはアリシアを...お前を殺そうとしたんだぞ!?」

「....?」

 神夜の言葉に、椿は少し首を傾げる。
 当然だ。神夜の言葉のような状況に陥った事などないのだから。

「....もしかして...。」

「...そうか、そういう事だな...!」

 思い当たる節があり、椿はそれを口にしようとする。
 しかし、それを遮るように神夜が喋り出す。

「よくも...椿を洗脳したな....!」

「「.....は?」」

 まるで見当違い。そんな言葉に椿と優輝はついそんな声を漏らしてしまう。

「許せねぇ...!」

「ちょっと、何を...!」

「てめぇえええええ!!」

 椿の言葉を無視し、神夜は優輝へと接近する。

「椿ちゃん!絶対に...絶対に正気に戻すから!今は....!」

「話を聞きなさい!!」

 優輝を援護しようとする椿の前に、なのはとフェイト、アルフが立ち塞がる。
 ...たったあれだけの神夜の言葉を、信じ切っているのだ。

「(....もしかして.....。)」

 ...その中で、たった一人、ユーノだけが感付く。何か違うと。

「ちっ....!」

「はぁあああっ!!」

「っ....!」

 帝による武器の雨あられの中で、神夜と奏からの攻撃を必死に凌ぐ優輝。
 霊力しか使えない優輝にとって、今出来る事は限られている。
 本来なら対処できる状況も、今では凌げるか分からないレベルだった。

「っ...リヒト..!」

Jawohl(ヤヴォール)Kanone Form(カノーネフォルム).〉

 御札から出した剣で凌ぎつつ、リヒトを銃の形に変化させる。

「(非殺傷ではないけど...この距離と武器群ならちょうどいい!!)」

「させっ....!?」

 剣からリヒトに持ち替えた所で、神夜がそれを阻止しようとする。
 銃ならば攻撃は防げない。そう思って繰り出された神夜の攻撃は、器用にグリップをアロンダイトの側面を叩く事によって逸らされる。

「“カートリッジ・リボルバー”、フォイア!」

「なっ...!?ぐぅっ!?」

 帝に向けて放たれたカートリッジの弾丸は、見事に命中して大ダメージを与えた。
 非殺傷ではないが、一部の武器が掠って威力が落ちたため、致命傷にはならなかった。

「まず...一人!」

「ちっ...!」

「っ...!」

 銃を撃った体勢から、即座に二刀流に持ち替え、霊力による身体強化で神夜と奏の挟撃を受け止める。

「(ここから僕一人で二人を倒すのは至難の業か...!)」

 今の優輝には決定打と呼べる威力を持つ攻撃がほとんどない。
 あるとすれば、先程の銃か、霊術による攻撃のみだ。

「(...生憎、霊力は身体強化に大幅に割いているしな...。)」

 そして、銃による攻撃を二人は警戒している。
 早々決着を着かせてくれるとは思えないと、優輝は確信した。





 ...一方、椿の方では...。

「てりゃぁああっ!!」

「っ!」

 アルフの魔力を纏った拳を、対抗して霊力を纏った手でいなす。

「シッ!」

「甘いわ!」

 さらに背後から振るわれたフェイトのバルディッシュを、短刀で受け止める。

「っ....!」

「...!無駄よ!」

 フェイトがすぐの飛び退き、何をしてくるか予想した椿は、包囲するように迫ってきていたなのはの魔力弾に対し、御札と矢を放つ。
 前方には矢、後方には御札を飛ばし、全ての魔力弾を撃ち落とす。

「今だ!」

「それは悪手よ!」

 相殺の煙幕に紛れ、再びアルフが殴りかかってくる。
 それを椿は後方に受け流し、そのまま勢いを利用して地面に叩きつける。

「ぐぁっ!?」

「まず、一人...っ!?」

 そのまま霊力を流し込み、気絶させようとして...四肢がバインドされる。

「捕まえた....!フェイトちゃん!」

「この程度...!」

「させ...ないよ....!」

 椿は逃れようとするが、アルフがボロボロでありながらも止めにかかる。

「(っ....あまり、したくはなかったのだけど...!)」

 フェイトの刃が迫り、椿はできれば使いたくなかった手を使う事にする。
 まずは霊力を短刀を持つ手に込め、その手に仕掛けられているバインドを破壊する。
 そのままフェイトの刃を受け止めて、他のバインドも同じ要領で破壊する。

「ふっ!」

「がふっ...!?」

 即座にアルフに霊力を打ち込み、気絶させる。

「アルフ!」

「吹き飛びなさい!」

「っ....!」

 アルフがやられた事に動揺したフェイトに対し、椿は霊力を込めた掌底を放つ。
 しかし、それは間一髪の所で回避される。

「しまっ....!?」

「少しそれで遊んでなさい。」

 だが、椿はそれを予想しており、追撃に御札を大量に投げつけていた。
 当たれば炸裂する御札を、フェイトは必死に躱す。
 その間に、椿は飛来した魔力弾を躱し、そのままなのはへと駆ける。

「っ....!」

「無駄よ!」

   ―――“戦技・強突”

 魔力弾を突破され、接近された椿に対してなのはは咄嗟に防御魔法を使う。
 しかし、それは霊力を込められた強力な短刀の突きで破壊される。

「っ...どうして...!」

「洗脳だなんて、ただの勘違いよ。」

 倉庫の壁に押し付け、デバイスは片手で抑え、短刀を突きつける。
 抵抗ができないようにする事で、人質としても使え、フェイトの行動を制限させた。

「っ...それは、気づいてないだけだよ...!神夜君が、間違った事を言う訳...!」

「人間、誰しも間違う事はあるわ。...鵜呑みにしないでちょうだい。」

 瞬間、猛烈な殺気が椿から発せられる。

「....ぅ...ぁ....っ.......!?」

 まだ子供で、至近距離から強力な殺気を浴びた事のないなのはは、それによって恐慌状態に陥り、戦意を喪失してしまう。

「....刺激が強すぎるわね。これで自重しましょう。」

「なのは....っ!」

 その殺気は、フェイトにまで届いており、振り返った椿に恐怖してしまう。

     ジャララララ...!

「っ....ユーノ?」

「.........。」

 それ以上は行動させまいと、チェーンバインドが椿の腕に巻き付く。
 霊力でさえすぐには破壊できないそれを、椿は放置してユーノを見る。

「...そういえば、貴方はさっきから全然動いてなかったわね。」

「........。」

 そう問いかけるが、ユーノは浮かない顔のままだ。
 まるで、ずっと何かを考えているかのように...。

「....ぁ...っ....!」

 何かを口にしようとして、また閉じる。
 殺気の影響もあるが、確信が持てずに口にできないようだ。

「........。」

「.....っ...。」

 それでも、ユーノの瞳は真っすぐ椿を捉えている。
 真実を見定めるために。

「....どの道、彼女らには話が通じないわ。」

「っ....なら....!!」

 何かを察し、椿はそう口にする。
 その瞬間、ユーノは行動を起こした。





「はぁあああっ!!」

「せぁっ!」

「っ....!」

 速い連撃と、重い連撃を御札から出した棍で器用に捌く優輝。
 先ほどから防戦一方で、同時攻撃を捌きやすい棍ですら防ぐのに必死だった。

「(強力な霊術を放つ暇がない!このままだと...!)」

 霊術も身体強化以外には満足に使えず、ジリ貧になっていく。

「導王流...“薙流閃(ていりゅうせん)”!」

 上手く受け流し、棍を薙ぎ払う事で一度間合いを離すように弾く。
 ...その瞬間、腕にチェーンバインドが巻き付き、引っ張られる。

「ユーノかっ!?」

「優輝っ!」

 すぐさまバインドを破壊しようとする優輝に、椿の声がかかる。
 見れば、そこには同じようにバインドが巻き付けられた椿が。

「何を...っ!(あれは...転移魔法!)」

 すぐにユーノが何をするつもりなのか理解する。

「ユーノっ!?」

「転移っ!!」

 神夜がユーノのしている事に気づき、それと同時にユーノ達は転移した。









「っ....!」

 転移によって跳んだ先は、人気のない林の中。

「.........。」

「...やっぱり、戦う気はないんだな。」

 転移した途端、ユーノはバインドを解いて無抵抗の意を示す。

「...確かめたい事があるんだ。」

「ああ。僕らも確かめたい事がある。」

 ユーノは目の前の優輝が本当にアリシアを襲ったのかを。
 優輝はなぜ攻撃してきたのかを互いに確かめる。

「...一昨日の夜、僕らと会ったかい?」

「...会ってないな。...なるほど、そういう事か。」

 ユーノの一つだけの問い。それだけで優輝は合点が行った。

「一つだけ聞いていいか?...アリシアは無事か?」

「え?...うん。まだ目を覚ましてないと思うけど...。」

「...なら、いい。」

 アリシアが無事だった事に、安堵する優輝。

「ユーノ達が会った僕は、ジュエルシードを核とした偽物だ。....それも、僕らと一戦を交えた後の...な。」

「っ...!?....それってつまり...。」

「...僕らは負けたよ。命からがら逃げた...いや、見逃されたんだ。」

 完全にではないが、ユーノは優輝達の強さを理解している。
 だからこそ、偽物程度に負けた事に驚いた。

「...さっきの戦い、魔力を使ってなかっただろ?...偽物にリンカーコアを吸われたんだ。だからコピーされ、僕らは負けた。....幸い、守ろうとしてたアリシアはユーノ達が保護してくれたみたいだが。」

「...色々、事情が混み合っているみたいだね。」

「ああ。...ある程度、詳しく説明するか。」

 そういって、優輝は椿も交えてユーノに事情を説明した。













 
 

 
後書き
薙流閃…導王流の中でも数少ない多対一の技。受け流した勢いを利用して周囲を薙ぎ払い、敵を弾き飛ばす。威力はそこまで高くない。

矛盾だらけな考えを持つオリ主(笑)...それが織崎神夜です。
むしろ踏み台よりタチ悪いです。
ちなみに、ユーノが転移で跳んだ場所はアニメ第1話のなのは達がユーノを発見した場所です。 
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